(この記事は、消費者力アップ県民提案事業の委託事業の一環でお届けしています)
かまぼこ屋さんと再生可能エネルギー? これを読みながら、キョトンとしている方が今たくさんいるのではないだろうかと想像しています。かまぼこを買うときに、環境やエネルギーのことを思い浮かべる人は、ほとんどいないでしょう。しかし、そんな表向きのイメージにとらわれず、これからの経営はこっちの道だと、 3.11以降、いち早く再エネと経営を結びつけ、舵を切った人物が鈴木悌介さんなのです。
「エネルギーから経済を考える経営者ネットワーク会議(略してエネ経)」を2013年に立ち上げ、世話人として、全国の経営者たちの意識改革に努めてきた鈴木さん。活動する中で、ご自身もエネルギーに対する知見を深め、2015年の8月には本社ビルをZEB(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル:略してゼブ)化しました。
ZEBとは、創エネと省エネと蓄エネにより、年間の一次エネルギーの消費量が正味でゼロになる建物のことです。一次エネルギーというのは、電気や光、熱に変えられる前の、自然界に存在するもののことで、石炭、石油、天然ガス、ウラン、それから、水力、風力、太陽、地熱、薪や木炭などのこと。鈴廣の本社ビルは、エネルギーの消費量を、同じ規模の建物と比べて54%も削減しているため、ZEBの認証を得ました。
空調には、地下水を利用しています。例えば水の30度はぬるいが気温30度は暑いというように、水の温度は空気の温度とは感じ方が違います。井戸水の温度は年間通じて17度くらいで安定しており、地下水を利用した冷暖房設備によって、夏の涼しさと冬の暖かさがつくられているのです。
この新社屋には、もちろん太陽光パネルもついていて、一部は蓄電池にためて残りは社内で使われています。しかし電気だけに頼らず、それ以外の工夫の積み重ねによって、総合的にエネルギーを無駄にせず、かつ、快適なオフィスが実現しました。実際にその空間に入って過ごしてみると、働く人の体にも優しいということが、肌で実感できます。こうした環境で働いていると、従業員もだんだん健康になっていきそうです。
「世の中には色々な考えの人がいるから、新しい現実を作っていくしかない」と、自分に出来ることをどんどんこなしていく鈴木さんの姿は粋でカッコよく、2017年夏の小田原巡りをアテンドしてくれたエネ経事務局長の小山田大和さんや、湘南電力の原正樹さんなど、後進の仲間たちに強い影響を与えています。保守的な土地だという小田原にあって、悌介さんに自由な振る舞いが可能なのは、アメリカ留学の経験により外から地域を眺める目を養ったことと、老舗企業の経営という難しい課題に、社長である兄の鈴木博晶さんと共に向き合ってきた経験とが影響しているようです。
人が口にする食べ物を扱ってきたことも、環境への想いが深い所以です。山あっての海、美味しい水と空気、元気な魚、生き物の豊かな環境を守ることは、自社の製品の品質に直接関わってきます。企業が生き残るため、本来事業のためにやることが周囲の環境をよくすることにつながるならば、一石二鳥です。かまぼこをつくる過程でも無駄がないように、魚の廃棄部分を肥料化するといった取り組みも積極的にされています。
小田原市風祭の本社周辺は、鈴廣の工場と、土産物屋などが並び、鈴廣ワールドが展開されているわけですが、敷地内にある「えれんなごっそ」という直営レストランも、太陽や水、大地のエネルギーを利用した、環境に配慮した建物になっていて、ゆったりと食事を楽しむことができます。鈴木さんはご自宅も ZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス:ゼッチと読む)化しているところだそうです。
私は、普段かまぼこを食べる習慣があまりなかったのですが、取材を終えた後に、お土産屋さんに寄って、製法や、素材の違い、組み合わせる材料の違いによって様々なかまぼこがあることを知りました。近所のスーパーでもかまぼこのコーナーをときどき通るようになり、いくつかあるメーカーの中で鈴廣のものが並んでいると、お!どうも!などと心の中で声がけしています。火を通さなくても食べられるので、家事の手間とエネルギーが省けて楽をさせてもらっています。かまぼこ板はちょっとした皿になったり、エコストーブの燃料になるのでゴミも少ないのが嬉しいです。
商品には、環境やエネルギーのことは一言も書かれていませんが、かまぼこから小田原の自然が以前より身近に感じるようになった私です。
……夜話(やわ)とは、
(1)夜間にする談話。また、それを書き記した書物。
(2)気軽に聞ける話、また、そのような内容の本。
(3)禅宗で、夜に修行場の訓話をすること。
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