情報の海のガイド・ローカルメディアの羅針盤(コンパス)を作りたい
誰もが発信できる時代が到来し便利になった一方で、真偽が定かでない情報も流れ、何を頼りに情報を探したらよいのか戸惑うことも増えてきました。多様な発信であふれかえる「情報の海」を渡るためのガイドとして「ローカルメディアの行動指針」を一緒に作る仲間を募集します。

私・船本由佳が森ノオトで担当している「かながわローカルメディアミーティング」は、記者やカメラマン、編集者など、すでに情報発信を始めている人が切磋琢磨できる「社外ゼミ」あるいは「自主研修会」をイメージして、月に一回、学びと対話の場を設けている取り組みです。

以前私自身がマスコミにいた時に、他社の記者から学ぶことの多さや様々な視点で物事を捉えることの大切さを感じていたことから、メディア関係者が互いの現場で感じる課題を共有し、緩やかな横のつながりを作る必要性を感じ、発案・企画しました。

記念すべき1回目のゲストはノンフィクション作家でミステリー作家の山崎洋子さん。「横浜の光も闇も全て知った上で愛したい」という言葉が印象に残る。知られざる過去、埋もれた事実に光をあてるように執筆活動を続けている

 

2017年6月にスタートし、月に1回、計7回の開催を重ねています。

これまでに「自分だけが知り得た情報(特ダネ)について」「SNS時代の情報の掴み方」ローカルメディア版SDGs」「障がい情報の発信現場から学ぶ、活動の中のダイバーシティ」など、各分野で活躍する方をゲストに招き、ゲスト講師が提供する課題(テーマ)について参加者全員で話し合うというスタイルで学びを深めて来ました。参加された方は、大手メディア経験者からこれから地域で情報を発信する人など多岐に及び、交流会や遠足企画などを含めるとのべ180人の方に参加いただいています。

 

毎回、参加者からの意見をアンケートで収集し、今の情報発信の現場の課題やニーズがわかって来ました。

 

11月は開発に揺れる横浜市栄区の瀬上沢エリアに遠足と称して出かけた。現場を目で見ることはとても重要である。しかしながら、活動の歴史や足跡など、現場だけでは見えないこともあるだろう。一面で切り取る危うさをも感じさせてくれた体験だった

 

 

 

<情報は、昔は川、今は海>

私は、1998年に関西の大学を卒業し、同年岡山県内のケーブルテレビ局に就職。2002年にNHK広島放送局のキャスターになり、大阪放送局、横浜放送局と移動しながら、2012年に出産するまでNHKのキャスターを11年間勤めました。広島にいた頃は被爆者の取材をしました。大阪にいた頃は芸能人を含む多くの方にインタビューし、横浜ではジャズのラジオ番組を担当していました。

 

放送局に就職した頃の22歳の船本由佳。地域情報を取材し、カメラの撮影や原稿の執筆、映像の編集も全て、先輩の背中を見ながら実地で学んだ

 

 

私が放送局に就職した頃、情報は川のようなものでした。マスコミなどに所属し訓練を受けた限られた人たちがその川に情報を流すことができました。それぞれの秩序のもとにいくつかの川がありましたが、川の数は限られていて、人々は、情報を取るためにはどこかの川に行かなくてはなりませんでした。

それが今や、インターネットの発達で新しいニュースメディアや個人の書き手が次々に現れるようになりました。Twitterや各種SNSなども一般化し、誰もが気軽な気持ちで情報発信ができる「泉」のようなものが持てる時代になりました。今、泉は無限に増え続けています。また泉から流れる水(情報)は多様で、かつてのように誰かが手をかけ、一定のルールを持ったものばかりではありません。濁った水や色がついた水なども見られるようになりました。新しい泉の激増で、いつしかどこも水で溢れ、かつての川は見えにくくなくなり、見渡す限りの「情報の海」になってしまいました。

私たちは、今、精査された情報とそうでない曖昧な情報が混在する海にいます。

 

2回目のゲスト講師、横浜コミュニティデザイン・ラボの宮島真希子さんは、自分と似た価値観の世界に閉ざされるインターネットの傾向を指摘し、「多様な意見をサーチするため」にツイッターを活用していると話した。極論を持つ人を含め、あえて様々な人達をフォローしているという

 

 

情報が川だけを流れていた頃、水(情報)を集めるのには苦労がありました。

情報を川に流す人たちには、自分たちの情報に矜持があります。

「この情報は本当に流す価値があるのか」。複数人で繰り返し問いながら、取捨選択し、ギリギリと煮詰めて言葉を選び、心を込めて伝えていました。少なくとも私がこれまでに体験した現場はどこもそうした意気込みで情報を流していました。

 

私が報道の現場で叩き込まれたことは次の二つです。
伝え聞きではなく、一次情報を大切にし、そして、必ず二者以上から裏をとること。

情報は喜ばれるものだけでなく、人を傷つける可能性をもつ「剣より強いペン」を握っていると自覚すること。

私は、大小様々な取材を通して、自分が介在することによりその情報が世にでるという責任、喜びを知りました。
また、情報を取得し川に流していくその裏には、多大な労力があります。最初に情報をキャッチした人、わかりやすく編集する人、川の流れ自体を作った人だっています。

より効果的に伝えるためには、プロのクリエイティブ力が欠かせません。時間や文字数、面積など制限がある中で何を残し、何をそぎ落とすのか。言葉を選び、デザインや写真で見せていく力など、各プロフェッショナルの表現スキルは、血を滲むのような努力を重ねて得られたものです。

そうして作られた「情報」には人を動かす力があります。心を打つ情報というものが存在します。
私も15年のマスコミ人生で先輩や各現場でそれを学んで来たように感じます。

情報の川のそばにいる人たちの矜持と健全な精神が相乗効果を呼び、多くの良い情報が世の中に届く、そんな時代が確かにあったと信じています。

 

10月は障がいのある女性のためのフリーペーパー「Co-Co Life女子部」の編集長元山文菜さんが登壇した。障がい当事者からのニーズをキャッチし、編集のプロの力を得て、唯一無二の情報を伝えることに成功している

そんな風に、苦労をして集めて編集してきた情報には当然コストがかかっています。しかし、玉石混交の現在の情報の海には、無料で手に入る(ように見える)情報もあふれています。たくさんの情報がインターネット検索で見つかるため、情報は無料で手に入れられて当然だと考える読者・受け取り手もいるでしょう。また、中には悪質なキュレーションメディアのような、取材の労を取らず、他人の情報を並べて転載することで成り立つものもあります。メディアと受け取り手の関係や情報の対価の形が変わりつつあります。

 

発信者側の努力はもちろん必要でしょう。この事態に危機感を持ち、情報リテラシーを守りながら、正しいと思える情報を発信し、玉石混交の海の中でも受け手に選んでもらえるよう取り組んでいる発信者が多いと思います。しかし、もはや発信者側の努力だけでは足りないくらい海は深く複雑です。

 

情報の受け手側も変化が必要な時です。多様で難解な情報の海の中から、最適な情報を選び取り探し出すスキルが必要となってきています。

何が自分にとって必要な情報なのか。何が正しいのか。
この情報の広い海の中、あなたは探し出せていますか?

 

<情報の海を行くための羅針盤(コンパス)を作りたい>

この半年間、森ノオトではローカルメディアミーティングや「発信力UP講座」などの情報発信支援事業で、多くの「情報発信を始めたばかりで悩んでいます」という方にお会いしました。地域の情報発信は、プロによる研修や先輩から教わることもなく始めるケースが多く、ホームページやSNSなどの情報発信ツールは持っていて、伝えたいことがあっても、どのようにしたらターゲットに届くのかがわからない中で活動をしている方も少なくありませんでした。

「人を傷つける表現ってなんだろう」「間違った情報を伝えないためにどこにどう確認をするのか」「取材先からクレームが来たらどうするか」「情報の出典先を明らかにさえしたら、パクリにはならないのか」「情報を一面で切り取ることの意義と危険性」……。

これまで、マスコミの間で長年研鑽されてきた情報発信の際の留意点、基準はありますが、誰もが「メディア」になれる今、本当に必要な技術や良識が共有されていないのではないか? と感じます。つまり、メディアの常識が揺らいでいるのではないか、と。

あなたが情報を発信したりメディアを運営する立場だとしたら、「あなたのメディアに編集方針はありますか?」「それは、明文化されていますか?」と問われて、はっきりと答えることのできる何かを持っていますか。

私は、この情報の海をコツコツと浄化し、情報の海を泳ぎきるために必要な「ローカルメディアの行動指針」を作ることを提案します。

これから地域で情報発信を始める人がよりどころにでき、大手メディアも賛同してくれるような、みんなが使える「情報の海の羅針盤=メディアコンパス」です。

それは平易な言葉で表現されていて、誰もが参考にしやすい文章がいいでしょう。
また、一目でわかる「コンパスマーク」を制作し、行動指針に則った情報発信をしていること、その方針に賛同していることを示す印があるとわかりやすいかもしれません。

環境ジャーナリストの木村麻紀さんの回では、SDGsの17の目標の中から関心のあるテーマを地域情報に引きつけて語り合った。SDGs のようなパッと目を引くアイコンの存在はメディアコンパス策定に必要な要素の一つだろう

 

 

私はこの働きかけをきっかけに、みなさんに意識して欲しいのです。情報発信基準の存在を。
メディアに関わる人や情報発信スキルを持つ人たちは、自分たちが放つ情報という「水」の信頼性を取り戻すために。情報発信ビギナーや読者の立場の人には、情報を選び取り伝える時の信条としてもらうために。この情報の海の羅針盤「かながわメディアコンパス」にどんな要素を盛り込むのが良いのか。今年一年かけて、このコンパスを多くの仲間と繋がり作っていきたいと考えます。

 

このプロジェクトの目指すところは、広い意味での市民力アップ。

このコンパスの策定が、神奈川の市民の社会貢献活動自体を情報の力で底上げすることにつながるように。ゆくゆくは神奈川モデルとしてさらに発信できたらよいと考えています。

 

 

かながわローカルメディアミーティングは、次回は2月14日(水)に、様々な既存メディアの編集指針などを集めて比較して考える情報交換会「私の行動指針を考えよう(仮)」を開催します。

 

メディア関係者の皆さん(新聞社・タウン誌・webメディア・紙媒体・テレビ・ラジオ……)、地域情報の発信を始めたい方、情報発信に課題を抱えるNPOや団体関係者、地域とつながりたいクリエイターの方、ご参加をお待ちしています!

Information

<ローカルメディアミーティング情報交換会「私の行動指針を考えよう(仮)」>

2018年2月14日(水)10:00〜13:00

・様々なメディアの編集方針を持ち寄り、比較検討する

・ローカルメディアの行動指針策定に向けた今後の計画を話し合う

 

会場:mass×mass関内フューチャーセンター(神奈川県横浜市中区北仲通3–33)

http://massmass.jp

参加費:2,000円

申し込みフォーム

https://goo.gl/forms/1xWDQnHs3NDIqsdn1

もしくは参加される方はメール受付 event@morinooto.jp まで

12:00からはランチ情報交換会です。お弁当をお持ちください。会場のまちなか社食でも買うことができます。

 

主催:特定非営利活動法人森ノオト

TEL:045–532–6941

Email:event@morinooto.jp

 

共催:関内イノベーションイニシアティブ株式会社(mass×mass関内フューチャーセンター)

※本事業は、神奈川県の「かながわボランタリー活動推進基金21」の平成29年度ボランタリー活動補助金を得て、特定非営利活動法人森ノオトが運営しています。

 

※提供された個人情報は、今回の事業実施のみに利用し、その他の目的で個人情報を利用することはありません。

 

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この記事を書いた人
船本由佳ライター
大阪出身の元TVアナウンサー。横浜市中区のコミュニティスペース「ライフデザインラボ」所長。2011年、同い年の夫と「私」をひらくをテーマに公開結婚式「OPEN WEDDING!!」で結婚後、自宅併設の空き地をひらく「みんなの空き地プロジェクト」開始。司会者・ワークショップデザイナー。
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