かきもちと一言で言っても
「かきもち」と言えば、乾燥したおもちを揚げた、ゴツゴツした形のものを私はイメージします。でも違うものを想像している人もいるかもしれませんね。辞書で調べてみたら、このように書かれていました。
かきもち(かき餅)
①正月の鏡もちを砕いて小さくしたもの。刃物で切ることを忌しんで手で欠くことから言った。
②もちを薄く切って干したもの。
引用:岩波国語辞典(第三版)
そうそう、思い出しました。母も青海苔や胡麻の入ったなまこ状のおもちを薄く切って干しており、それも「かきもち」と呼んでいました。
今回、作ったのは①の方です。どちらも素朴な、日本の田園風景を思い出させる食べ物ですね。
かきもちの仲間たち
「かきもち」を調べていたら、芋づる式に色々な「かきもち」の仲間、親戚(?)のような食べ物を見つけてしまったので、簡単にまとめてみたいと思います。
「かきもち」はまずお餅を干してから揚げるのですが、それをもっと細かく、さいの目に切って煎ったり揚げたりしたものを「あられもち」というのだそうです。固いもちを細かく切るのはさぞかし手間のかかることでしょうね。
また、もち米を蒸して乾燥させ糒(ほしい)にして炒ったものは「もち米あられ」や「玉あられ」と呼ばれています。雛あられのもとになったものです。
また雪国で作られる「干し餅」というのは、薄く切った餅にあえて水分を含ませてから凍らせては干すという作り方で、「氷餅(こおりもち)」、「凍み餅(しみもち)」とも呼ばれています。そのまま食べたり、揚げて食べたりするそうですよ。実物を見たことがないのですが、旅行に行ったらぜひ探してみようと思います。
また、「氷餅(こおりもち)」というのは和菓子の材料にもあります。これはもち米を水引きして、その米汁を煮てから凍らせて乾燥。そして、細かく砕いたもので、小さなおもちのようなお菓子にまぶさっていたりするはらはらっとしたものと言えばイメージがわくでしょうか。
そして、今年に入って、たまたまお土産で長野県諏訪市の「初霜」という干菓子をいただきました。こちらもやはりもち米を水引きし、蒸し煮して型詰、そして凍結。さらに和紙に包んで凍結乾燥を繰り返しながら干して仕上げたものだそうです。気の遠くなる作業です。お味は、本当に霜を食べているような繊細な食感でした。
「かきもち」という言葉から広がりすぎましたね。「乾燥させたもち」というキーワードで探してみましたが、ここに載せたものは、ほんの一部なのでしょうね。
かきもちの思い出
素朴な「かきもち」に話を戻します。私が子どもの頃、母は冬になるとよく「かきもち」を揚げてくれました。
毎年、年末になると農家である母の実家ではもちつきが行われました。兄妹たちでおこなうもちつきは、母にとっても楽しいイベントだったのでしょうね。母はその日ははりきって、朝早くに家を出て母の実家に出向き、夕方遅くになると、大きなのしもちや、鏡もちを親戚の車に積んでもらって帰ってくるのでした。
そして、家に着くともう一仕事あるのです。翌日になると固くなってしまうおもちは、ついたその日のうちに食べやすい大きさに切っておかなければなりません。夕食をすませた後、夜遅くまで、母は大きなのしもちを食べやすい大きさに切り分け、それをダンボールに入れていくという作業を繰り返しました。「これは大きいから、お兄ちゃん用だね」、「小さいのはお代わり用かな」などと言いながら、大きさ別に分けるのが私の仕事。家族でおしゃべりしながら夜更かしできる楽しい時間でした。
さて、母の「かきもち」はというと、のしもちを四角く切った残り、端の部分から作りました。細長く切られたものを2、3センチの大きさに切り、それを数日間、干します。そして、それを油で揚げ、醤油をさっとかけたのが、私の家の「かきもち」です。父も大好きだったようで、1月、2月の日曜日の三時のおやつには毎週のように「かきもち」が登場していました。
おもちと日本の昔話
さて、なつかしい気持ちでおもちの話を書いていたら、最近気に入っている本、『日本のむかしばなし』(瀬田貞二・文、瀬川康男・梶山俊夫・絵、のら書房)の中の「ねずみのすもう」というお話とつながりました。
日本の昔話にはおもちがよく登場しますが、「ねずみのすもう」は登場してくるおじいさん、おばあさんが、家に住みついているやせねずみのために、自分たちもめったに食べられないおもちを用意してやるお話です。
貧乏な二人の家のねずみはこちこちにやせたやせねずみ。すもうをとると、村の長者の家のころころに太ったこえねずみに、いつも投げ飛ばされています。それをかわいそうに思った二人はやせねずみのためにおもちをついてあげることにします。おもちは、力がつくとされていますものね。やせねずみはこのおもちを食べて、見事、こえねずみを投げ飛ばすことができるのです。
そして、負けたこえねずみも自分も力のつくおもちが食べたいと言い出すのですが、それを聞いたおじいさんとおばあさんは、二匹分のおもちと、そして赤いふんどしまで用意してあげています。
なんともほのぼのとした温かいお話で、ねずみたちの会話もかわいらしいので、ぜひお子さんと一緒に読んで、楽しんでほしいと思います。
そして、ねずみたちのように、力をつけたい人はおもちを食べましょう。「かきもち」ならパワー倍増ですよ。でも、おいしいからといって、くれぐれも食べ過ぎには気をつけてくださいね。力がつくだけではなくお腹にもきっと何か余分なものがつきますから……。
かきもちの作り方
では、温かい気持ちになったところで、作り方をご紹介します。
作業は簡単ですが、干し時間は天候やおもちの大きさにもよりますが、私は1、2週間程度を目安にしています。カビが生えないように夜は室内に取り込んでおくと安心です。
【かきもち】
<材料>
切りもち、揚げ油
好みで、塩、醤油、きな粉、きび砂糖など
<作り方>
- 油がはねることがあるので、気をつけてください。
※揚げ時間は大きさにもよります。
- 切りもちを四つぐらいに切り、ザルに広げて乾燥させる。7日間程度でよい。長く干していてもカビが生えないようなら大丈夫。ただし、乾燥しすぎると割れやすくなる。徐々にひびが入ってくる。
- 鍋に油を入れ温め、低めの温度からもちを入れ、160度程度の温度でじっくり揚げる。途中で、何度かもちがはじけて大きくなってくる。はじける時にはねるので注意する。油の温度は低すぎても高すぎても芯が残りやすい。
- 最後に180度に熱してカラッとさせ、油を切ってひきあげる。醤油や塩など、好みのものをかけていただく。きな粉と砂糖を袋に入れて、そこにかきもちを入れてまぶしてもよい。また、味噌汁などに入れてもおいしい。
もとの大きさの3〜4倍になっていれば芯は残っていない。
どんな形に弾けるのかも個性的で楽しい。
この半分の大きさにしてもよい。
ちょっとおまけです。
あまりに楽しい形になったので、お話が作れそうですよ。
かきもち劇場のはじまり、はじまり〜!
私の思い込みかな? わかりますか?
不思議と、色々な形に見えて来ます。続きはお子さんと一緒に考えて見てくださいね。
みなさんの「かきもち」が、どんな形に膨れるのかはお楽しみに……。
参考文献
『事典 和菓子の世界』中山圭子・著、岩波書店
『岩波国語辞典 第三版』岩波書店
『日本のむかしばなし』瀬田貞二・文、瀬川康男・梶山俊夫・絵、のら書房
『米ぢから八十八話 全国おいしい食べもの探訪』向笠千恵子・著、家の光協会
生活マガジン
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