リユース×地産地消が地域活性化の切り札の一つに? 「#横浜リユースびんプロジェクト」
飲用後、繰り返し洗って使用する「リユースびん」の普及を目指した取り組みが、横浜市内で始動しています。リユースびんの中身は主に神奈川県産の飲料を充填して、横浜駅や関内駅周辺の居酒屋で飲み、市内の“びん商”が回収する、というシステムです。おいしくて環境にも良いこの取り組みには、さまざまな人の思いが込められていました。2018年2月16日に、横浜リユースびんプロジェクトの中間報告会を兼ねたシンポジウムが横浜市開港記念会館で開催された際のレポートです。【文=鈴木ゆりり(森ノオトインターン)】

環境省がまとめた2015年度の資料(『一般廃棄物の排出及び処理状況等』)によると、2015年の日本国内のごみ総排出量(一般廃棄物:家庭等から排出される廃棄物のこと)は、約4398万トンで、東京ドーム118杯分に相当します。また、一人一日当たりだと、939gのごみを排出しているという結果となりました[1]

このうち、分別収集されて再資源化されたごみの量は合計で900万トン、リサイクル率は20.4%となっています。リサイクル率は1989年度と比較して4倍以上となりましたが、2014年度よりも若干減少するなど、物の再資源化に対する人の意識は一進一退の状態です。

 

有限の資源を、どう工夫して使用するかを考える必要があります。不用品を再生して使用するリサイクルと同時に、繰り返し使用するリユースの取り組みも提唱されており、廃棄物を少しでも減らそうと、それぞれの分野でできることから始めている団体もあります。「横浜リユースびんプロジェクト」は、飲料などに使われる容器をリユースすることで、循環型社会を推進しようとしている取り組みです。横浜市資源リサイクル事業協同組合や飲料メーカー、販売店及び飲食店、NPO、行政、デザイナーと多様なメンバーで構成されています。

 

2018年2月16日、「平成29年度地域循環圏・エコタウン低炭素化促進事業『市民シンポジウム』」として、同プロジェクトの中間報告会が「横浜からはじまる地域循環型低炭素社会への挑戦!~地産地消×リユースびんで新たなムーブメントを起こせるか~」というタイトルのもと、横浜市開港記念会館で行われました。

(主催:横浜市資源リサイクル事業協同組合、協力:リユースびん推進と地産地消で織りなす地域循環経済と環境文化の活性モデル協議会)

 

このプロジェクトは、繰り返し洗浄して使用できるリターナブルびん(リユースびん)の特性に注目し、普及していこうという取り組みです。しかも、中身は地域で採れる食材を使用したもの。リユースびんは何度も繰り返し使用できるため、回収率、(輸送)距離、回転率などの条件がそろうことで使い捨て容器に比べて環境負荷が少ないとされています。これまで、一升びん、ビールびん、牛乳びんなどに使用されてきましたが、近年は利用率が低下し、2000年の275万トンと比較すると、2015年は89万トンという低い普及率になっています[2]

一般に、リユースびんはワンウェイ(一度きりの使用で捨てられる)缶やペットボトルよりも廃棄物量やCO2排出量が少ないのもポイントの一つです。リユースびん(20回使用)におけるCO2排出量は、スチール缶(3ピース)の約7分の一、PETボトルの約3分の一というデータもあります[3]

 

横浜リユースびんプロジェクトが誕生した背景には、一人の小学生の絵日記がありました。横浜市内の資源回収業者による横浜市資源リサイクル事業協同組合が企画運営する「環境絵日記コンテスト」は、2000年からスタートし、2017年で18回目となります。2014年度の応募のなかに、「ひとつのびんに色んなものが入って循環すると環境に優しい!」と描かれたものがあり、これを受けて組合検討を重ね、さまざまな事業者に声をかけて横浜リユースびんプロジェクトにつながったそうです。

 

実際に使われているリユースびん。アマンダリーナの「みかんのしずく」「あおみかんのしずく」

 

幾度もの話し合いを経て具体化したのは、まず「リユースびん」と刻印されたオリジナルびんを製作すること。これまでリユースびんは「R」のマークがついたものが普及していましたが、環境に対する関心が高い人でないと、その意味を理解できない。だから、一目で見てわかるものにしようと、カタカナ+ひらがなの「ダサカワ」デザインを採用しました。そして、中身の飲料の開発から充填・販売・回収・収集・洗びん・再利用までを市内の各事業者でループさせる仕組みを構築するという内容です。びんの中身は、主に神奈川県内産の素材でつくられた飲料を入れます。それを横浜市内で消費し、リユースびんと地産地消を組み合わせて、市民に対して環境に対する意識を向上させるねらいが、根底にありました。

 

この市民シンポジウムでは、森ノオト理事長の北原まどかがコーディネーターを務め、パネリストには江口洋人さん(横浜市資源循環局政策調整部3R推進課長)、菅野貴司さん(愛嬌酒場えにし株式会社取締役)、奥井奈都美さん(アマンダリ―ナ代表)、川端由美さん(環境ジャーナリスト)、寺西浩さん(横浜市資源リサイクル事業協同組合びん委員会委員長)の5人が登壇しました。

 

シンポジウムの前半は、寺西さんと栗原清剛さん(横浜市資源リサイクル事業協同組合副理事長)が、横浜リユースびんプロジェクトに至るまでの経緯と内容、これから目指していきたいことなどを話しました。

 

シンポジウムでマイクを握っているのが寺西さん、その右にいるのが栗原さん

 

プロジェクトが立ち上がった背景には、リユースびんの使用量の減少という問題がありました。全国のリユースびんの使用量は1999年には約310万トンだったのが、2009年には約133万トンと、6割減っています。利便性を追求する時代の変化に伴い、ペットボトルの台頭といった飲料容器の改革、ライフスタイルの変容など社会の大きな流れが背景にあることが紹介されました。一方で、「人びとの意識が『環境負荷軽減』へと向かっている傾向がある」と感じた寺西さんたちは、リユースびんと環境負荷の問題を関連付けて、普及へと踏み出します。

 

本格始動したのは、2014年。先ほど紹介した通り、ある小学生の環境絵日記が契機となりました。そこから、びんの開発、中身の検討、市場創出調査など、少しずつプロジェクトが進展する中、人びとの「リユースびんを取り入れた新しいライフスタイルの構築」を模索し、横浜独自のシステムを考えてきました。

 

2017年には、横浜市の「平成29年度 低炭素型廃棄物処理支援事業」の助成を受け、リユースびんの普及をその一環として位置づけ、「地域循環圏・エコタウン低炭素促進事業」として取り組みます。それに伴い、新たに設置した協議会では横浜の地産地消というキーワードを具体化していきました。

 

びんの製造、デザイン、中身の飲料、販売拠点、空きびんの受け取り、洗びんに至るまで、さまざまな人を巻き込みながら徐々にムーブメントが拡大していき、試験販売を開始してから2018年2月末までに821本が販売済みとなり、631本が2回転目に入ったと紹介されました。現在横浜・関内エリアの飲食店22店舗でリユースびんの飲料を取り扱っており、リユースびんの趣旨に賛同する人びとのネットワークができ始めています。

 

栗原さんは「『もったいない』思いと『おいしい』気持ちを活用し、事業者・生産者・消費者をつなぐ新しい地域循環産業を“リサイクルデザイン”という視点から築いていけたら」と話しました。

 

シンポジウムの後半は、登壇者によるパネルディスカッション。江口さんによる横浜市の「ヨコハマ3R夢プラン」の紹介では、リサイクルにはエネルギーが必要なので、ものを使いまわして使用するリユースの方が、リサイクルよりも優先順位が高いことが説明されました。ほかに、IoTやAIなどを用いた最先端技術の取組事例の紹介も。たとえばヨコハマ3R夢プランのキャラクターが登場する「イーオのごみ分別案内」では、AIによる会話形式でごみ分別の案内を行ってくれるそうです。テクノロジー×環境問題、なかなか興味深い展開です。

 

パネルディスカッション。左から、北原まどか、江口洋人さん、菅野貴司さん、奥井奈都美さん、川端由美さん、寺西浩さん

 

菅野さんは、横浜リユースプロジェクトの商品を取り扱う店舗運営者の一人として、今回登壇しました。菅野さんが大切にしているのは、「お客様に、その背景から関わった人たちの思いまで、ていねいに説明することが自分にできること」と話しました。続いて、びんの中身の「あおみかんのしずく」の考案者である奥井さんは、摘果みかんの「もったいない」を「おいしい」へと変えようとしている方。「このプロジェクトに参加できてうれしい。一人ひとりが意識を持って小さなことから行動することが、変化への一歩」と話します。

 

川端さんは、東京という外側から横浜を見て、さらには海外と横浜を比較した視点から話をしました。川端さんがよく取材に訪れるドイツでは、州ごとに自治がされているとのこと。ドイツの北と南では食べるもの、飲むものにも違いがあるそうで、ビールに関して言えば北は透明、南はにごったビールがよく飲まれるそうです。「それぞれの地域で採れたものを消費するのが当たり前。地産地消の文化が根付いている」と、川端さん自身の体験から語っていました。

 

「あの“あおみかんのしずく”を飲みたい!と思わせ、横浜リユースびんを横浜の一種のブランドとして確立させることが、横浜を訪れる価値になる」と話し、横浜に住む人びとが、自らの住む町に愛着を抱くことが広く発信されていくことが、地域のブランド力が高まる契機になると説明しました。川端さんはさらに、「このプロジェクトを横浜市民が自分たちで考え、創り出したことに意味があるでは」と話しました。

 

今後広くリユースびんを普及させていくためには、「伝え方」が重要ですが、消費者に対してどのように伝えるかということに対して、「びんやパッケージがかわいいから、とデザイン性もポイントなのではないか。それから、イベントでハッシュタグをつけてSNSで発信するようなムーブメントも必要。このシンポジウムを契機に、SNSで”#横浜リユースびんプロジェクト”とハッシュタグをつけるのも、一つの盛り上げ方では」と、北原が横浜リユースびんプロジェクトの発信力を高めていくための秘策を語りました。

 

寺西さんは、「プロジェクトを推進させて、より良い横浜を発信していきたい。リユースびんを、それぞれの思いをのせた『バトン』としてつないでいけたら」と締めくくりました。

 

「今日のシンポジウムはびんを商う我々の大きな力になった。環境に優しい、おいしいを融合させたプロジェクトを推進させて、より良い横浜を発信していきたい。それぞれの思いをバトンとしてつないでいけたら」と寺西さん(写真右端)

 

「びんを普及させたい」「『もったいない』を何とかしたい」「人に何か良いことを伝えたい」「横浜をもっと良い町に」など、いろんな立場のさまざまな人の「思い」がびんに込められて、そのびんが横浜でぐるぐると回り、「思い」も循環していくのが「横浜リユースびんプロジェクト」だと感じました。

 

軽くて便利なペットボトルに比べると、びんはどうしても利便性に欠ける部分があります。また、確実に回収して循環させることは意外と難しく、消費者がびんを捨てないなどきちんとルールを守ることも求められてきます。プロジェクトが徐々に大きくなるにつれて、課題も見つかります。

 

森ノオトの北原は「今日のシンポジウムの盛り上がりから、リユースびんの未来は明るいと感じた」と感想を述べました。今回のシンポジウムは、大きくなるにつれ、課題が立ちはだかっていると感じていたプロジェクト運営メンバーの背中を押す機会にもなったようです。小学生のアイデアから始まったこのプロジェクト。これからも、子どもがわくわくしながら夢を描くように想像力を膨らませて広がり、環境にも地域にもいい取り組みとしてますます浸透していくのではないかと期待しています。

 

=====

<外部リンク>

[1] http://www.env.go.jp/press/103839.html

[2] http://www.meti.go.jp/policy/recycle/main/data/pamphlet/pdf/handbook2017.pdf

[3] http://binnet.org/r_bin/eco.html

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