(photo,text:中西るりこ)
私の学生時代からの友人である岡本真衣さん。東京都世田谷区にある自宅で草木染めによる作品を手がけています。
この記事のトップ写真で、以前岡本さんが絹糸を桜染めした時の写真があまりに美しかったので、「いつか体験したい」と伝えていたところ「今ちょうど桜の枝をいただいたよ」と連絡をくれました。
自然体験系のイベントなどで耳にすることがある「草木染め」。その工程は「染液を作る」→「煮染めする」→「媒染(ばいせん)」→「もう一度染液に戻し煮染めする」→「水洗いして干す」、と至ってシンプルです。
ここで「媒染」という言葉が気になりませんか? 媒染とはそのままでは水に流れてしまう色素を布や糸に定着させる工程です。使用する媒染剤は何種類かあるそうで、それによってかなり色味が変わってくるのだとか。私は今回、3種類試すことにしました。
そして染めるものは真綿と色の違いを確認するための絹の布。あの絹糸の光沢を見たい!と伝えたところ「絹糸はなかなか使う機会がないだろうから、真綿を染めて編み物に使うのはどう?」と提案してもらい真綿も染めることになりました。
1、染液を作る
まず、桜から染液を作ります。今回使ったのはたった15cmほどの枝を1本。桜以外の不純物が入らないようによく洗い、皮をむいたり割いたりして良く色が出るようにしました。
鍋(鉄以外)に先程の枝と水を入れ(枝に含まれる色素量、細かくした程度にもよりますが今回は1リットルに対して枝は10g程度)、フタをして20分くらい中火で煮ます。
沸騰してからぐつぐつと大きな音をたてはじめるのでかなり不安になりましたが、ぐっと我慢してそのまま20分待ちます。この枝から出たとは思えないほど、鮮やかな赤味のある染液ができました。この液をガーゼなどで濾したら染液は完成です。
この染液で使った枝、実は一度使ったら終わりという訳ではなく、もう一度新たな水で煮出すと染まる色味がかわってくるそう。その色の違いも見てみるために、今回は同じ枝で3回染液を煮出しました。
2、煮染めする
次に染めたい布を染めムラが出ないように前もってお湯で煮、洗ってよく絞ります(木綿で濃く染めたい場合、豆汁につけるという処理が必要になってくる時もあるそうですが、桜の場合、十分染まる上に豆汁処理すると少し色がくすむそうなので、しなくても大丈夫だそう)。
染液を沸騰させ、布をそのまま鍋へ。色ムラにならないよう時々布を動かしながら20分程煮染めし、その後冷めるまで2時間ほど置いて染液を染み込ませました。
3.媒染する
先ほど説明した媒染。人肌程度にあたたかいお湯にそれぞれ媒染液を入れてまぜます。布を入れて20分程度つけ置き、程なく3種類それぞれ面白いくらいに色が変わりました。
より桜色らしさを求めて、真綿は2回目に煮出した染液で煮染めし、椿灰で媒染することにしました。染めムラがでないよう何度か動かし、再び染液に戻して20分程度また煮染めします。このひと手間で色がよりしっかりと入るそう。
4、仕上げ
最後に流水でよく洗い、まんべんなく日にあてて干します。日に弱い色もあるので直射日光でなく日陰で干すこともあるそうですが、千年経っても色が残るものもある草木染め、一概にはいえませんが、一つひとつの工程を丁寧に行った場合、年を重ねた色になることはあても、激しく褪色してしまうことはあまりないそうです。
同じ桜の枝とは思えない色の種類の豊富さに驚いていると、
「桜色に染めたい、と思っても生きているものは個性があるからそう単純ではなくて、思ったようにいかなくて。でも逆に正解がないからこそ、その時々の色をそれぞれ楽しめるよ」と語ってくれた岡本さん。その話を聞いたとき、ふと我が子のことが頭をよぎり、はっとさせられました。
岡本さんはこうした染色だけではなく、その後糸を紡ぎ、機を織り、布を作る工程まで行っているそう。
今回「やってみたい!」という気持ちだけで体験させてもらった桜染め。
自然の持つ色の美しさと、環境や時間や手段を変えることでまた無限に広がっていく色の不思議さにとても驚かされました。そして思いがけず、ありのままの自然の色を受け止め、その個性の違いをも楽しむ草木染めの奥深さと懐の深さを感じることもできました。
桜染めは少しの材料で手軽に始めらます。花が咲き終えた後の枝でも染めることができるので、花を楽しんだ後でも大丈夫。みなさんもぜひ一度試してはいかがでしょうか。
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