北海道小麦と横浜の野菜 “地産”と“地消”をつなぐ 「アトリエ・デコパン」
【2018年ライター養成講座修了レポート】東急田園都市線江田駅から車で5分少々の大通り沿いに、真っ白な壁と深いブルーの木の扉が目をひくおしゃれなパン屋さんが2016年にできました。「北海道小麦と横浜野菜」の文字が印象的な「アトリエ・デコパン」。一歩入ると、心踊るほどたくさんの種類のパンが並びます。一体どんなお店なんでしょう?

 

「アトリエ・デコパン」で売られているのは、たった二人で作っているとは思えないほどのたくさんの種類のパンたち。食べてみると、予想外にやさしい味にまず驚きます。食パンはきめ細かくふんわりとやわらか。サンドイッチやスイーツ系のパンは、とても新鮮で具材それぞれの味がはっきりしています。

パンづくりの素人の私でも「おいしく食べてもらえる時間を考えてつくっているんだろうな」と、わかるようです。しかも、どれも手頃な値段! 近くに住んでいる私は、行く度にあれこもれもとたくさんトレーに載せてしまいます。

 

2016年秋オープンのデコパン。存在感ある木の扉がトレードマーク

 

デコパンのパンのラインナップは50~60種類にもなるという。ランチタイムから午後には売り切れるものも少なくない

 

我が家の子どもとランチに購入したパンたち。野菜がこれでもかと入ったサンドイッチにトルティーヤ、あんパンは舌ざわりのいい粒あんがみっちり

 

 

デコパンを営んでいるのは、中川禎史(ただふみ)さんと玲子(れいこ)さん。お二人とも、いくつものパン屋さんに勤めてきた経歴を持つベテランパン職人のご夫婦です。

 

「パンや焼き菓子はすべて北海道産小麦でつくり、材料となる農産物はできる限り地産地消になるよう地域のものを使っています」と話してくれたのは、ご主人の禎史さんです。「たとえば、カレーパンのカレーに使う野菜もできるだけ横浜産。あんぱんのあんは、北海道の十勝地方にある森田農場(上川郡清水町)さんの小豆を仕入れて自分たちで炊いて使っています。材料も誰がどこでつくっているかがはっきりわかる、ということですね」。そして、お店に出すものは具材からすべて手づくりしていることを、実直そうな口調で語ってくれました。

 

中川禎史さんと玲子さんご夫妻

 

北海道産小麦のパンと言えば、今でこそよく耳にするようになりましたが、20年以上前、禎史さんがまだ東京の製菓製パン学校に通っていた頃は一般的ではなかったそう。だけど、ご両親が北海道出身で幼い頃から北海道に縁があったという禎史さんは、在学中から「自分で店を持つなら北海道産小麦で」と考えていたそうです。

「旅行で十勝などをまわった時に、風にそよぐ広い小麦畑を見て、ここの小麦を使いたいなと思ったんです」とその時の気持ちを振り返ります。

 

小麦を仕入れている十勝の小麦生産者「アグリシステム」の見学・交流ツアーに参加した時の写真が店内に飾られている

 

 

北海道産小麦の良さとは何でしょう?

「例えば食パンにしたら、ほんのりとした香りにやわらかい食感、しっとりとやさしい舌ざわりのパンにできます。よく言えば個性的なんですが、悪く言うと安定しないんですね。季節やその日の湿度によって生地がべたついたり発酵が進んだりと今までのセオリーが通用しないところがありましたが、やっと最近特性がつかめてきました」と、禎史さん。デコパンのやさしい味は試行錯誤があって初めて生まれたのですね。

 

すべてのパンに自家製の天然酵母を使用。その酵母も、北海道小麦の全粒粉からつくり、日々かけ継いでいるそう

 

禎史さんが「北海道産小麦らしい味わい」という「角食」は、2種類の北海道産小麦をブレンドしてつくられている

 

地域の生産者と農産物の良さを パンを通して伝えたい

 

小麦以外の材料を地産地消にこだわろうと思った発端をうかがってみたところ、それは奥様の玲子さんの農業体験にあったそうです。

 

玲子さんは、もともとデコパンのある都筑区からほど近い新横浜エリア出身で、今のお二人のお住まいも都筑区内にあります。3年前、地元での農業を周知し支援するために都筑区が主催する「農業ボランティア      」に参加した玲子さん。地元でがんばっていいものをつくる生産者の方々と出会ったことをきっかけに、市が行っている地産地消を学び普及するための講座「はまふぅどコンシェルジュ」も修了。横浜の地産地消の農産物、畜産物の良さを、パンを通して伝えたいと、りんとした眼差しで話してくれます。

 

森ノオトでもおなじみのキッチンカー「コマデリ」の小池一美さんも、実は玲子さんより先輩のはまふぅどコンシェルジュ。二人でそぼろ肉まんをコラボしてつくったこともあるとか。小池さんは玲子さんのことを「“ストイック”の一言に尽きる」と語ります。そして、思い出すとたまらないといった表情で「デコパンの食パンは、すごいですよね。トーストすると外はばりっとして、中がとろける。あれはもう……!」と、語るのでした。

 

素敵なお店のデザインも実は玲子さんが監修。幼少期住んでいたトルコのデザインをロゴに用い、トルコのタイルやシャンデリアを取り入れた

禎史さん・玲子さんご夫妻が野菜類を仕入れに行くのは、地元農家の直売所や横浜市営地下鉄ブルーラインの仲町台駅近くにある「JA横浜 メルカートきた」にある農産物直売所など。そこで「今日は誰々さんの野菜にしよう」「旬のものはないかな」と物色を楽しむのだとか。

仲町台やデコパンのある荏田南を含む港北ニュータウンはモダンな住宅地というイメージがありますが、仲町台エリアから少し南に入ると風景が一変し、連なる丘陵地帯に畑が延々と広がっているのです。その様子を「まるでミニ美瑛*のような風景だと思って。ここの野菜を使わない手はないね、と話したんです」と禎史さん。

*北海道美瑛(びえい)町:連なる丘に畑の広がる風景が有名

 

実は都筑区は横浜市内でも農家戸数1位、農地面積2位の農業が盛んな場所柄。区域の多くを占める港北ニュータウンは、昭和40年代初頭の計画時から農地の保全と農業振興を柱の一つに定めており、地区内には広大な農地が保全されているのです。

 

「重労働だと思われている農業ですが、今は機械も開発されて女性でもできますよ。農業は新時代! 農業女子会なんていう方々もいて、すごく元気ありますよ」と、玲子さんはいきいきとした様子で地域の農業事情を教えてくれました。

 

仲町台近くの農地からの眺め。見渡す限り畑が広がっており、遠くに新横浜のビル街や日産スタジアムがのぞめる

「私たちのパンのすぐ後ろには、生産者の皆さんがいるんです。出発点に生産者がいて、パンを通してお客様につなげていきたい。良い野菜、そして良い生産者がいることを消費者に伝える架け橋になっていきたいですね」と熱のこもった口調で玲子さんが言い切ると「そう、それを次の世代にもつなげていければ」と禎史さんが頷きました。

 

素材と生産者、そして消費者にも真摯に向き合うお二人が生み出したデコパンは、私が今周りに一番自慢したい地元のお店です。先入観なしに、ぜひ一度、あのやさしく新鮮な味のパンを食べてみてください!

 

 

Information

atelier Decopan(アトリエ・デコパン)

http://atelier-decopan.com

〒224-0007 横浜市都筑区荏田南3-2-13

(『荏田高校入口』交差点すぐ)

TEL 045-482-9150

営業時間

平日9:00〜18:00(金曜日のみ17:00まで)

土日祝7:00〜17:00

定休日 火・水曜日

駐車場2台(ビル裏側)

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この記事を書いた人
松園智美ライター
まちづくりの専門誌、自然派住宅雑誌編集部を経てフリーの編集・ライターに。その後結婚、出産し、3児の母。港北ニュータウンの団地に住む。レイアウトデザインも手がける。新潟県長岡市出身、1年の楽しみは親子で行くスキー。
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