手芸作家として羽ばたく鈴木理歌さん~子育てで広がる手作りの世界~
【2018年ライター養成講座修了レポート】愛らしく、リアルな造形の羊毛フェルトの動物や、多彩なグラデーションと、繊細で丁寧な刺繍を得意とする鈴木理歌さん。お母さんが子どもに心をこめて手を動かす、そんな手作り感を大切にした、温かい作風が魅力です。裁縫が苦手で人見知りだった彼女が、今は羊毛フェルト・刺繍作家として軽やかに活躍の場を広げています。

全国規模の写真現像店グループ「パレットプラザ」で、干支にちなんだ理歌さんの羊毛フェルトの作品が2016年から3年連続で、パレットプラザオリジナル年賀状立体フォト部門で採用されました

 

大きなバナナを抱えてちょこんと座るお猿さん、おなかのハートが愛らしいニワトリの親子、毛並みがリアルな凛々しい柴犬……。思わず手にのせてみたくなるような可愛らしい干支にちなんだ動物たち、実は羊毛フェルトでつくられています。写真プリントで有名なパレットプラザで販売される年賀状に、3年連続で羊毛フェルトの作品が採用されているのは、pocopoco(ポコポコ)の名で手芸作家として活動している鈴木理歌さんです。

 

理歌さんと私は、書道サークルの仲間です。理歌さんの書道の作品は、国立新美術館で毎年開催される全書芸展で、入賞作品として展示されるほどの腕前です。高校生のお嬢さんと小学生の息子さんのお母さんであり、会社で働く主婦でもあります。好奇心旺盛で、何事も真摯に打ち込む理歌さんは、読書ボランティア、ダンスグループKSG25のメンバーなど色々な顔を持っていますが、今回は羊毛フェルト・刺繍作家pocopocoとしての顔をご紹介します。

 

今回の取材に伺った際に、年賀状に採用された申、酉、戌の実際の作品を見せてもらいました。どの動物たちも、表情やポージングの愛らしさと、羊毛フェルトがもつ温かみと柔らかな色合わせで、ほのぼのと優しい雰囲気をまとっています。触るとニワトリのくちばしでさえしっかりとした堅さがあります。手のひらにのせると、見た目よりも重さを感じるので、非常に密度が高いことがわかります。360度あらゆる角度から写真を撮っても絵になるよう、細部までリアルに作り込まれています。

 

申、酉、戌の実物の作品。作り始めから完成までの時間は1体につき約5時間だそうです

 

どの角度から撮影しても、絵になります。柴犬のしっぽの、先端がくるりと丸まっている特徴や質感が、リアルに表現されています

首に巻いている緑の唐草模様の小さなスカーフは、緑の布を切って縫い、布用のホワイトペンで模様を手描きしたもの。イメージを表現するため、小物にもこだわりを持って手作りしています

 

理歌さんの刺繍は、羊毛フェルトと同様に動植物はリアルさを追求したデザインですが、どこか温かみが感じられます。そして色合わせのセンスの良さと、繊細で丁寧な手仕事が魅力です。どの作品も、見えない裏側まできれいに糸処理がされています。ビーズは取れないように、1粒ずつきっちりとすき間なく縫いつけられ、ブローチは革の裏地をつけて、丈夫に作られています。購入してくれたお客様に長く使ってもらえるようにと、愛情を持って真摯に丁寧に、作品に向き合っている姿勢がうかがえます。

 

理歌さんのお気に入りの作品たち。愛着があって手放せず、非売品なのだとか

 

今は100円ショップでも、それなりの品質の物が買える時代です。理歌さんが作品を作るときは、自分の作品のどこに価値があるのか、他との差別化を常に考えているそうです。工夫やこだわりを聞いてみました。

「羊毛フェルトの動物たちの顔はちょっととぼけた感じに。刺繍なら機械での刺繍に見えないように、通常より太い4本取りの糸であえて手作りの風合いを出すようにしています。私の手作りの原点は、子どものために作ることだったから、どんな作品にもそのあたたかみがでることを大事にしています」と理歌さん。

 

デザインは、動植物のあらゆる角度の写真を集めて観察したり、刺繍図案や本を参考にしたりしています。好きな色糸の中から色合わせを考えるのは、楽しい作業

 

刺繍作品を作るのに、1点につき4~5時間かかるのだとか。小鳥の刺繍は、1羽に10色の糸を使ってグラデーションをつけています。作品作りにかかる時間とお客様の消費感覚を考えると、価格つけは悩みどころ。世田谷のものづくり学校で、minne主催の作家向けの勉強会にも参加し、販売知識や考え方などを学んだそう

理歌さんが手作りを本格的に始めたのは、息子さんが幼稚園のときでした。当時、理歌さんは裁縫が苦手で、入園グッズは、実家のお母様に作ってもらっていました。ところが、息子さんの幼稚園では、親が学芸会の衣装づくりをすると聞いて、一気に血の気が引いたそうです。でも、父母仲間にはパタンナーや大学で裁縫を教えていた講師など、頼もしい服飾の専門家たちがいて、ミシンを持っていなかった理歌さんが相談すると、自宅に呼んで教えてくれるほど、心強いメンバーだったのだそうです。

 

その後、手作りが好きなお母さんたちで手芸部を立ち上げ、理歌さんもメンバーになります。幼稚園の先生からの依頼で、端切れのままごとセットや、お誕生日会に飾る大きなタペストリーを作ったり、得意分野のあるお母さんが先生となって様々な作品に挑戦したり……。みんなで情報交換をしながら、技術を高めあいました。凝り性の理歌さんは、時には睡眠時間を削って作品づくりにのめり込んだそうです。

 

日本刺繍の図案。理歌さんの母方の御祖父母さまは、生業として、着物の半襟や帯に日本刺繍を施していたそうです。また理歌さんのお母様は子ども服のデザイナーとして活躍。理歌さんが手芸に目覚めたのも、物作りのDNAが代々受け継がれているからかもしれないですね

 

今では理歌さんの手芸は、服飾の専門家が集まる手芸部の中でも、一目置かれる腕前です。手芸部の仲間や作家仲間、理歌さんの作品の魅力を知った幼稚園のお母さんたちから、よく出店に誘われるのだそうです。幼稚園のバザーへの共同出店や、住宅展示場開催のマルシェへの出店、フラワーアレンジメントとのコラボレーションのお誘いや、依頼があればワークショップを開くことも。星型のビーズ刺繍のブローチは、幼稚園のお母さんたちに、羊毛フェルトのオクトパス(置くと合格)は受験生のお母さんたちに人気です。

 

羊毛フェルトのオクトパス(置くと合格)です。近所のお子さんにプレゼントしたところ、見事受験に合格したそうです!

 

日々、限られた時間を上手に使い、仕事に家事に子育てに作家活動に取り組んでいる理歌さん。現在作家としては、無理なくマイペースで活動しています。

 

以前は人見知りで自分の作品に自信がなかったという理歌さんですが、勇気を出して出店に挑戦してみたら、ほかの作家さんたちとの出会いがありました。「手作りが好き」を共通項に、初対面でも話が弾み、新しい友だちの輪が広がったのだそうです。作家としての刺激をお互いに受けながら、良いところを学び合い、向上していける関係です。作家仲間から刺激を受け、軽やかに友だちの輪も活躍の場もどんどん広がっている理歌さん。子育てがひと段落したとき、羊毛フェルト・刺繍作家pocopocoとして、本格的な活動が始まる日がやって来ることでしょう。私も理歌さんの作品のファンとして、その日を心待ちにしています。

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この記事を書いた人
中島裕子ライター卒業生
川崎市中原区在住。高3男子の母。現在は、地元のタウン誌やfacebookで記事を書く。美味しいものや手作りが好き。今の関心テーマは、食と教育。趣味は書道。今年の目標もダイエットの成功と断捨離。森ノオトでは、ライターとして経験を積み、イベントに参加して世界を広げたいと思っている。
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