大きな空の下の、ちいさな なかまたち。 ~ユイの考えた遊びが、すてきだから~
青葉区のゆたかな自然の中で、季節の移り変わりを心とからだいっぱいに感じて育ち合う「NPO法人青空保育ぺんぺんぐさ」。安心できる場で一人ひとりの意思と個性を輝かせて遊びこむことで、だれでも子どもは自ら育ちゆく「力」を発揮します。夏のできごとから、子どもたちのそんな素敵な力をお伝えできたら嬉しいです。

文=NPO法人青空保育ぺんぺんぐさ保育士・土井三恵子 / 写真=NPO法人青空保育ぺんぺんぐさ
※このシリーズでは、「子どもを育てる」現場の専門家の声を、リレー形式でお送りしています。
その日ユイちゃんは、3回泣きました。

今年の暑い暑い夏。それでも、せせらぎのある公園で、水辺と木陰を通り抜ける風がさわやかな午前中、子どもたちがめいめいセミとりや、水あそびや、おうちごっこに精をだしている時のことでした。

真夏の水辺で

セミとり

おうちごっこ

「わあああ~~ん!」大きな声が響いて、いつものように大人がやって来るまで泣き続けていました。

「どうしたの?」と、私。「わあああ~~ん」

「いやなことあったの?」と聞かれると、首がたてにうごき、

「何がいやだったの?」と聞かれると、沈黙。

「……わすれちゃったの?」という私の言葉に、小さくうなずいた、ユイちゃん。

 

 

ユイちゃんは年少さんの中で、一番遅い生まれの女の子。あちこちの遊びが気になって眺めていることが多かったり、水にぬれるのが苦手だったり、どろんこ遊びも途中で飽きてしまって、「おべんと食べたい」とか「絵本よみたい」と言ってくることも多かったユイちゃん。

ゆっくり言葉が増えてきて、今もちょっと舌ったらずの甘えんぼことば。だから「ユイはダメ」「ユイは赤ちゃんだから」と言われることも、しばしばでした。

 

 

大切なものを取られそうになった時も、焼芋に手が届かない時も、泣いて自己主張することの多いユイちゃん。絵本の座る場所がない時も、歩いていて草履が脱げてしまった時も、ダメって言われた時も、転んだ時も、どうしてもどうしても涙と大きな声が出ちゃう。そして、大人が声をかけてくれるまでボリュームマックスの粘りづよさなのです。

 

遊びを眺める

 

喜怒哀楽の、喜も怒も哀も楽も、どれも大切な感情だって知っていましたか?

 

大人は目の前で泣かれたりケンカされると、どうしても止めたくなってしまいがちですが、感情を出すのをあんまり我慢させたら、ほかの感性もフタが閉じてしまうんだそうです。「子どもは群れで育つ」と言うけれど、群れることが叶いにくい今、心の動く経験が少なくて感性にフタをしがち。だから、泣くことで心が開くことも多く、お母さん以外の大人に抱きしめてもらって信頼関係も築けて、ぐんと遊べるようになっていきます。

 

そうしてしっかり自己主張して、感性の根っこをゆたかに耕して、そしてはじめて「ちょっとガマンしようか」とか「ことばで表現しようよ」というステージに上がるのですね。

 

 

さて、先ほどのトラブルは、だれかの口添えで、リョウくんがユイちゃんを叩いたのだとわかりました。朝にユイちゃんに叩かれたのをずっと怒っていたリョウくんが、とつぜん仕返しをしたんだそうです。泣いていたユイちゃんは、朝にリョウくんを叩いたことなど、もちろん忘れていました。

 

ユイちゃんがその日泣いた2回目は、年中のコッちゃんとのトラブル。体験で遊びに来た親子に霧吹きを貸してあげようと2人で向かい、ユイちゃんがずっと握りしめていたので、コッちゃんが霧吹きを取り上げて渡してしまったんだそうです。

 

もちろんなかなか泣き止まなくて、私はためしに言ってみました。「ユイちゃんは、お姉さんになってきたから、泣くのやめて何がいやだったか言えると思うよ」と。そうしたら泣くのをぐっとやめて、考え込みました。やっぱり泣いた理由は忘れてしまったのだけど、そんなユイちゃんの姿は初めて見たような気がしました。

 

トラブルの3回目は年少さんのアヤコと。今にも泣きそうな顔でアヤコを睨みつけていました。先ほど仲直りしたコッちゃんと、心配して駆けつけたアイちゃんと私と4人で、畑ごっこをしていた時。朝から「みえこさ~ん、畑ごっこしよう」と言い続けて、ずっと私の用事が終わるのを待ち続けていたユイちゃん。待ちくたびれて、ひとりしゃがみ込んだ末にやっと始まった畑ごっこに、ちょっとソリの合わないアヤコが加わったのでした。

 

だって普段アヤコの方が「ユイはダメ」ってよく言うから、今日はユイちゃんが「ダメ」って言いたかったみたいです。

 

畑ごっこ

 

でも甘えんぼでおみそのユイちゃんのまわりに、今日はこんなにたくさん友だちが集まるなんて、今までなかったことでした。そのことの方が私は大切な気がして、

「あのね、ユイの考えた遊びが素敵だったから、みんなやりたくなったんじゃない?」

と、伝えてみました。

じ~~~っと睨みながら2分近く黙って考えていた、ユイちゃん。「アヤコ、いいよ」とポツリ。

 

その後、おしゃべりを弾ませながら、私ふくめて5人で地面を耕して、草を抜いて「ネギ」や「バジル」や「枝豆」のつもりで植えかえて、小石でぐるりと囲って、なんだか立派な菜園が出来てきました。男の子もポツポツと加わってきて、最後は10人近く、入れ替わり立ち替わり。

 

春はダンゴムシも触れなかったのに、この夏おたまじゃくしも、カエルも、セミも、手をふるわせながらも、つかめるようなった、ユイちゃん。水路や川で遊ぶ友だちを見て、少しずつ挑戦するようになったユイちゃん。根っこが成熟してきたからこそ今日の変化があるんだなと、私は胸をいっぱいにしていたそのそばで、ユイちゃんはごきげんにつぶやいていました。

 

「ユイの考えた遊びが素敵だから、みんな来たんだよね~」

私はほんの軽い気持ちで言っただけなのに、ユイちゃんの心には妙に響いたみたい。何度も何度もくり返し確認していて、そのたびニッコリ笑うユイちゃん。あどけない笑顔が、私は内心おかしくて、微笑ましくて、とても印象的でした。

 

うれしくて……

 

*     *     *

 

そしてこの夏、暑くて暑くてしかたがなくて、例年になくプールで遊ぶことも多かった年。今まで水しぶきがちょっとかかっただけで大音響の泣き声を響かせていたユイちゃんは、水が苦手とだれもが信じて疑わなかったのに、不意なタイミングでなんと水に顔を付けられることが発覚しました。

 

「え~~~っ、すごいっ!! ねえ、足も伸ばしてみて~腕も伸ばしてみて~」と驚かれて、なんと水深20センチの水に手も足も伸ばして顔をつけて、今にも泳げそう。それを年少さん7人の前で披露して、触発された元気な男の子たちが次々「顔つけ」に挑戦しました。中には生まれて初めてできた子もいたのですが、それがなんと年少さんの中でピカイチに元気なコウスケ。「やんちゃ」が「甘えんぼ」に触発されるなんて……この組み合わせに、思わず笑ってしまいました。

 

おみそもいて、甘えんぼもいて、怒りんぼもいて、やんちゃな子もいて、得意なこともあって、苦手なこともあって。子どもは一人ひとりデコボコだから、おもしろい。子どもは子ども同士で育ち合っています。

 

元気な男の子たち

 

Information

【土と水と草と虫とあそぼう会】

◎秋の恵みを楽しむ季節から、だんだん凛とした透明感を増す冬の季節へ。季節の移り変わりに、子どもも大人もきっと楽しい発見がいっぱい。晴れて風を避けられる場所ならびっくりするほどポカポカです。冬を暖かくあそぶコツもお伝えしますよ。

◎青空保育ぺんぺんぐさは、9月にNPO法人になりました。これからも「いろんな大人が見守ってくれる安心感」と「手づくり保育のあたたかさ」を大切にしていきます。

 

日時:12/20(木)1/17(木)2/21(木)3/14(木)9:45~13:00 以降毎月第3木曜

場所:桜台公園またはしらとり台第一公園 青葉台駅より徒歩10分と5分

参加費:400円+100円保険代

申し込み:前日朝11時まで

Mail:aoba.penpengusa@gmail.com

電話:090-9147-3027(内藤)

 

※のびのび自由に遊ぶ、外遊び体験会とおしゃべり会。生後8ヵ月ごろから、どなたでもどうぞ。

※天候が悪く寒い日は、屋内もある場所でたき火体験や、畑あそび等に変更します。

※変更の場合がありますので、HPでご確認ください。

 

 

NPO法人青空保育ぺんぺんぐさ

 http://jisyuhoikupenpengusa.blogspot.jp/

 

NPO法人森のようちえん全国ネットワーク連盟会員

 http://www.morinoyouchien.org/

 

Profile

土井三恵子

NPO法人青空保育ぺんぺんぐさ保育士。10年の田舎暮らしと2人の出産を経て、療育センター・里山保育を行う保育園勤務、そして横浜市青葉区のお母さんと青空保育を立ち上げ、7年目。現在保育者4人と親子20組でにぎやかにすごし、野山で土や水や草や虫と子どもたちとたわむれ、日々小さな発見に胸を躍らせる(ザリガニを見つけると急に真剣になって子どもと張り合ってしまう面も……)。保育士、幼稚園教諭免許、小学校教員免許、中学・高等学校理科教員免許。

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