(text&photo:原田則絵)
横浜市緑区のほぼ真ん中に位置する新治市民の森は、横浜市にある市民の森の中でも随一の広さを誇る、深く豊かな森。ここを主な拠点に活動しているのが、青空自主保育「森っ子」です。
ところで、自主保育という保育の形態は、読者のみなさんには身近でしょうか。
森っ子のブログの一節では、自主保育について、こんな風に表現されています。
“自主保育とは、お母さん達皆が子育てを持ち寄り協力する保育。”
森っ子では、保護者同士が交代で当番をして子どもを預かり合いながら、自分の子も他のおうちの子も、大きな家族のように一緒にゆっくりその育ちを見守ります。現在は主に就園前の子が対象。活動日は、火・水・金の週3日です。不定期ですが、普段活動に参加できないお父さんも一緒に森歩きできるよう、土曜日開催の「土森」の日も。
立ち上げメンバーの一人で森っ子OBの辻記子さんが、森っ子の立ち上げの頃のお話を聞かせてくださいました。
ちなみに、記子さんのお母様は、鎌倉で1985年から続く青空自主保育「なかよし会」の創設者である相川明子さん。相川さんは二週に一度、森っ子に保育者として招かれており、子どもたちにも「森っ子ばぁちゃん」と親しまれています。
森っ子が実際に立ち上げられたのは2010年9月。
「その年の春頃、鎌倉で『なかよし会』に参加していたお母さんが、引越し先の近くの新治で自主保育をしたいと考えている、というのを母から耳にして」(記子さん)
当時、記子さんは都内にお住まいで、第1子であるお子さんが生まれたばかりでした。そんな折に、その話を聞いた記子さんは、早速お母様の相川さんからそのお母さんと引き合わせてもらうことにしたそうです。当時住んでいた環境では、子どもを遊ばせられるのが街中にある限られたスペースの公園くらいで、物足りなさや「これでいいのかな」というモヤモヤした思いを持っていたからです。大きな空の下で、のびのび子育てをする。それは、とても魅力的に感じられました。
また、記子さんのご主人は、都内でレストランを営んでおり、偶然にもそこで使われる野菜は新治で育てられたもの。ご主人の知人の知り合いの方が新治で自然農法での畑をされていて、そこでつくられる野菜に魅了されたご主人は、畑のお手伝いをしながら収穫した野菜をレストランで出す、というように、都内と新治とを往復していたそうです。
ふたつの「新治」は「ひょっとしたら近い場所かもね」とご主人と話していた記子さん。その後、実際に記子さんとそのお母さんが初めて待ち合わせをするのですが、一緒に森へ行きびっくり。ふたつの「新治」は、近いどころか、まさかのほぼ同じ場所だったのです。
その頃、ちょうど記子さんのご主人も、畑に近いところへの移住を考えていました。そこにきての、この思いもかけぬ偶然。「子育てには自然が多い環境の方が良いだろう」というご夫婦の思いも後押しとなり、記子さんご一家は思い切って引っ越しすることを決意します。
記子さんが都内から引っ越してきたのが2010年9月。早速、友だちのお母さんに声をかけあい、森に親子が集いました。そうして森っ子の活動がはじまっていきました。
はじめの頃は、すべてが手探りで、まずは週1回集まることから始めました。ところが、森っ子を立ち上げて半年後には東日本大震災が発生。一時は開催を続けるかどうかも相当に悩んだそうです。実際にガイガーカウンターを手に放射線量を測定して歩き、外で遊ばせるべきか、お母さん同士でもたくさんの話し合いが持たれました。その中で、迷いながらも続けていこうという結論に至ります。
また、記子さんは、子どもと森で活動することや近隣の施設を使うことに地域の理解をうまく得られていないのではないかと思ったこともあったそうです。
新治市民の森やにいはる里山交流センターは、里山の自然をたのしむために市民に開かれた憩いの場です。そこは、里山の環境を丁寧に守り育てる様々な方々の手で支えられています。森には立ち入ってはいけない場所があるし、大切に守りたい貴重な歴史的建造物もあります。
初めの頃は、森の管理についての知識が乏しくて失敗をしてしまったり、施設での子どもたちのふるまいに注意を受けてしまったこともありました。それでもこの場所への愛着から、至らなかったことはきちんと受け止め反省をし、森っ子の中で一定のルールが共有されました。その上で地域の方に対しても、森っ子の活動や思いについて少しでも知ってもらえるよう、地道に誠実な姿勢で向き合うことを続けてきました。
そんなことを少しずつ乗り越えながら、巡る季節の中で開催回数は週に2回、3回と増え、参加する親子もお母さんたちの口コミで増えてゆきました。
恵まれた自然や地域環境のもと、毎週顔を合わせてお互いの子どもを見合ううちに、子ども同士も、子どもと親も、親同士も、そして地域の方とも、それぞれの距離がどんどん縮まっていき、森は親子の大事な居場所になっていきます。
立ち上げから8年が経過した今、気がつけば森っ子のまわりには豊かなコミュニティが醸成されていました。新治の森の近くに畑を持つ方、田んぼを持つ方など、森と人がつないでくれたご縁で、今では子どもたちに農作物の収穫をさせてもらったり、野外調理の場所を提供していただいたり。そのお礼にと、森歩きの当番でないお母さんたちは、子どもたちが森で遊んでいる間に畑の収穫や、草取り、種まきなどのお手伝いなどをするそうです。
そのお手伝いも、子育ての日常とは離れた無心の土いじりで良い気分転換になる上に、無農薬の有機農法で作られた安心安全な農作物を子どもたちと一緒に収穫させてもらい、みんなで美味しくいただくという、親としてはとてもありがたい食育の機会。なんとも有機的ですてきなつながりです。
近隣の施設である、にいはる里山交流センターでも毎年2月頃に「手づくりしょうゆ しぼり作業」の見学会を行なっています。子どもたちも仕込みに参加し、一年間毎週天地返しと呼ばれるお世話をして育てるお醤油で、今では森っ子専用の樽も。絞りの見学は誰でも参加できる、地域に開かれたイベントです。
森っ子の活動の中では、本当に様々な地域の方との関わり合いがあります。
地域の中でさまざまな人と関わり合いながら、お母さんやお父さんが自分や家族が暮らしていく場所をしっかり作っていく背中を、子どもたちは間近で見ています。そのコミュニティにあたたかく見守られていることを肌で感じながら。そんな原体験は、この時代を生きる子どもたちにとってかけがえのないギフトではないでしょうか。
森っ子のことを話している時のお母さんたちの表情も、皆それぞれにいきいきしていて、なんだかこちらまで嬉しくなりました。
引っ越してきて頼れる人もおらず、育児も八方塞がりになっていた時に森っ子と出会い、視界が開けてきた時のよろこび、安堵感。自分の子のことを他のお母さんがたくさん知っていて、我が子の知らなかった一面をたくさん教えてくれること。型にはまらず、親子なりの方法をゆっくり見つけていけばいいんだと思えたこと。森っ子の時だけでなく、普段から預け合いができる関係ができたこと、それが森っ子を卒会した後もずっと続いて今も子育ての支えになっていること。
そのひとつひとつの思いもまた、森っ子を通じて見つけた大事な宝物だと、皆さんの話を聞きながら感じました。
そして今年3月に森っ子を卒会予定の4歳児のお母さんである北村真美奈さんは、新たな取り組みを始めています。主に年少さんまでのグループである森っ子。新たに年中・年長さんの自主保育グループを立ち上げようと準備を始めているのです。広がる好奇心に合わせ、より柔軟に、より深く、よりダイナミックに。この新治の森の環境のあたたかさと豊かさの中で子育てを経験したからこそ心に羅針盤を得たお母さんの、新たなはじまりの一歩です。
「自主保育が盛んな鎌倉には、就園前の年齢の子たちが卒会した後も、幼稚園に行く年齢の子どもを対象とした自主保育グループがあるんです」
「森っ子でたくさんお世話になったこの新治には愛着がある。地域にそういう選択肢があるといいなと思って」。まっさらな地図を携えて、真美奈さんはそんな未来を見つめています。
森が、地域が、またひとつ豊かになっていく予感です。
ご興味のある方、ぜひ一度、森にお出かけください。
★年中・年長者児の青空自主保育「風の子」がスタートしました!
http://midorimorikko.blog15.fc2.com/blog-category-26.html
★青空自主保育「森っ子」 ブログ
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随時見学を行なっています。
お名前・お子さんの年齢・メールアドレス・電話番号をご記入の上、
morikko55@gmail.comまでお問い合わせください。
★青空自主保育「森っ子」Facebook
https://m.facebook.com/midorimorikko/
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