小さな庭でよい。すごくなくても、まずひらく!
荏子田太陽公園では、公園愛護会と共に、バラの愛好家が地域内外から100名以上集まる非営利の市民団体JOR(Joy Of Roses バラの会、以下JOR)の方々が、おやじの会や、はまロードサポーター明月会といった地縁組織とも手を携えて、見事なバラの公園をつくってきました。毎年5月には恒例のローズフェスタが開催され、多くの人の目と心に潤いを与えています
上記の団体全てに属し、現在、荏子田太陽公園の愛護会会長を務める増田健一さんには、昨年のフラワーダイアログあおばのキックオフイベントのステージに登壇いただきました。それが縁で、同じく登壇者だった齋藤世二さんに請われ、今年、あおば花と緑のサポーターの方々向けにバラの育て方の講習会を行い、秋からバラの花壇づくりの手伝いをすることになったと聞いたのは、嬉しい便りでした。増田さんは青葉区内で、花と緑のまちづくりを語るときに欠かせない人物として存在感を増しています。
増田さんをバラの虜にしたのは、バラの伝道師といっても過言ではない、JORを立ち上げた赤澤増男さんです。赤澤さんたちJORのメンバーは、荏子田太陽公園を「荏子田太陽ローズガーデン」と名付けて、JORのオープンガーデンとして広く皆さんに公開している、という気持ちでいるのだそうです。JORには、自宅の庭でもバラを育てていて、雑誌に掲載されるような素敵な庭づくりをされている方々が実はたくさん所属しています。
赤澤さんらが、自宅の庭を開いてみようと最初に考えたのは、JOR結成から2年目にあたる2002年のことでした。その取り組みが読売新聞に取り上げられたことで、なんと600人の人が赤澤さんの自宅に訪れたと聞いて驚きました。「今から振り返れば、よく公開したなと恥ずかしくなるような庭でした。でもそれが、オープンガーデンへの参加のハードルを下げたと思います」と赤澤さんは当時を懐かしむように微笑みます。
まずは、個人の活動として3人で始めたオープンガーデンでしたが、2004年からJORのイベントとして、JORの会員だけが見て回れるように公開範囲を限定して行うようになりました。その後、次第に参加者が増え、運営面でも程よい25名前後が毎年エントリーする形に落ち着いているそうです。JORのオープンガーデン初代事務局を務めた岸野美代子さんによると、「とっても小さな庭も多いんですよ」とのこと。中には広くて素晴らしい庭もあるけれど、立派な庭じゃなくてもいい。むしろ、立派じゃないから、人に見てもらって、よりよくしていく、そんな風に楽しく学びあえる仲間がいること、そういう風土を話し合いながら作っていくことが、活動を長く続ける秘訣のようです。
「誰もが楽しい」のために。試行錯誤のルールづくり
JORには、特命で2名のオープンガーデン事務局の方がいます。長年事務局を担当していた岸野さんから昨年バトンタッチされた牧野美智子さんが、開催までの流れを説明してくれました。
会員同士での情報発信と情報共有はとても大事だと、赤澤さんはJOR結成当初から考えていたのだそうです。毎週水曜と日曜の荏子田太陽公園での活動に参加する人とは顔を合わせて話ができますが、中には遠方にお住まいの方もいます。参加できない人を排除しないで、「新しい人も古い人もみんな『平等』を実現したい」という想いがそこには込められています。
会長、副会長、総務、企画、広報、会計、顧問など10名ほどのコアメンバーと、特命のオープンガーデン事務局メンバーは、JOR Familyとして、年に4回会合を開き、こまごまとした会の運営の役割を分担しているそうです。JORの会員は、定年退職後、あるいは子育てを終えて自分の時間ができたという、30代・40代が主流の森ノオトのメンバーからすると、ひと回り、ふた回り年配の方々ですが、コミュニケーションにFacebookとメーリングリストをしっかり活用しているのが特徴です。FaceBookでは一般に公開されているページと、メンバーだけのページを使い分けて、連絡を取り合うこともしています。
とはいえ、運営は試行錯誤の連続で、いつも頭を悩ませていることも伺えました。「一度やめたメーリングリストを復活させたのは、Facebookでは情報を受け取れない人がいたから」と聞いて、森ノオト編集部や事務局の運営と重ねて、わかるわかる! と、うなずいてしまいました。
「オープンガーデンをやってみたいけれど、ご近所のことを考えると一歩踏み出せない。皆さんはどうやっているのか?」という会場からの質問には、普段からのちょっとしたご近所づきあいが大切だという回答がありました。例えば、近隣の人と顔を合わせた時に庭の花を切ってあげるとか、聞かれたことに誠実に答える、JORの会員ではなくても庭に入って楽しんでもらうといった、顔の見えるやりとりの積み重ねを各自でしているそうです。
面白かったのは、バラは無農薬で育つという岸野さん、牧野さんらと、美しいバラのためには農薬は必要という赤澤さん、増田さんとの果てのないやりとりです。主義主張が違っても穏やかに、好きなことを言い合える仲の良さが微笑ましかったです。
バラの栽培に農薬を使うかどうかは個人の価値観がわかれるところですが、様々な種類のバラが混在している荏子田太陽公園のバラの管理には農薬を使うそうです。周囲には住宅街が広がり、幼稚園もあるため、作業する時には「農薬散布中」という旗を立てて知らせ、手作業でちょっとずつ散布する方法をとっているのだと知りました。
移ろう季節とともに。庭も人も変化する
プログラムの後半では、実際にオープンガーデンに参加した方のお庭の写真を見ながら、オープンガーデンを擬似体験しました。
写真でめぐる様々な庭の中で、好みは別にして、私の印象に残ったのは、80代で参加しているという女性の方の庭でした。バラ栽培歴20年。60代から始めてなお意欲にあふれる方のお庭です。身体の機能がだんだんと衰えていく中で、庭作りを生きがいとして、「公開」していることにガーデニングの可能性を感じました。一方、鴨志田町に、近年JORに入会して早速オープンガーデンに参加した方がいるそうですが、その方は3年ほどの短い歳月で、たくさんのバラに彩られた庭を作られていて驚きました。人の数だけ庭がある、当たり前なのですが、そのことがとても面白いと感じました。
ファッションのように庭にも流行があって、最近は割とオーガニックな「自然風」の庭がブームなのだとか。岸野さんの自宅の庭も最初はバラばかりだったのが、ある時、バラのシーズンが終わってしまうと途端に寂しくなるという「バラロス症候群」みたいなものになったのをきっかけに、考え方が変わったそうです。「今ではバラだけでなく、樹木や宿根草などを増やして、緑が多く、季節の移ろいを楽しめる庭になってきました」と、ご自身と庭がともに変化してきたことを振り返ります。
目指す庭をつくるためには、家族とのバトルもあります。最初、樹木にあまり興味のなかった岸野さんは、夫の「木を植えれば」という声が聞こえなかったし、草花にあまり興味のなかった夫が、今では、さも自分で育てたように人に自慢したりしている姿に笑ってしまうそうです。メンバー同士で、「このお宅の庭もだいぶ変わったね」とその変化を共に記憶する仲間がいる様子にも、豊かさをしみじみ感じさせられました。個人の楽しみとして日常的に庭に、土に、触れている人々は、自然をよく観察しているし、いい歳の重ね方をしているのだなあと思います。
区をあげて、あるいは市の政策として、オープンガーデンを開催している自治体はありますが、JORのように、あくまでも個人が主体となりながら、且つ組織的にオープンガーデンを行なっている例は珍しいと思います。小さな庭が横につながることで、点が線になり、面になって、人が手を加えることで緑の環境が豊かになっていることが実感できました。元の自然や生態系とは違うけれども、開発によって失われた緑を、自らの手で回復していこう、そんな気持ちを持ってガーデニングする人がこれからもっと増えていったら、個人の楽しみで終わらない豊かさが得られるのではないでしょうか。
庭がない人はベランダで、あるいは公園や街路に学校、そして区役所にも! 花と緑の手入れができる場はたくさんあります。それぞれが自分にとって身近なフィールドを利用して、「花端会議」のある暮らしをすることは十分に可能です。
森ノオトでは、今後も引き続き、フラワーダイアログあおばの事業を通じて、まちの花や緑に関わって、人生を楽しんでいる素敵な人が地域にたくさんいることを伝えていきます。次回は、藤が丘公園を会場にして、樹木や草花についてプロの造園家に学び、愛護会の方々とともに公園の花緑に実際に手を入れてみる、体験型のプログラムを9月に予定しています。10月19日には、青葉公会堂を会場に、ゲストを招いてのトークショー+「α」な特別企画がありますので、花と緑のまちづくりをともに進める仲間、としてご参加いただけたら何よりです。
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