昭和49年に日本住宅公団によって分譲されたすすき野団地で、おしゃれな団地リノベーションを企画したのは、私もメンバーの一人として参加している、団地再生事業協同組合です。団地育ち・団地好きの建築家・デザイナー・クリエイター・医師・法律家など、普段はそれぞれの分野で活躍する専門家たちが「団地を未来につなぎたい」という思いで結成した協同組合です。団地の部屋をおしゃれにリノベーションして若い世代を呼び込んだり、国土交通省の支援を受けて、団地を売ったり買ったりしやすい仕組みをつくるなど、様々な形で団地の活性化に取り組んでいます。代表理事の金丸典弘さんに、団地リノベーションの魅力についてお話を伺いました。
森ノオト読者の皆さんは、「団地」と聞いてどんなイメージを持ちますか?
「団地というと建物の古さを気にしてネガティブに捉える人も多いですが、団地はとても優れた建築物なんですよ」と金丸さんは話し始めました。
「ちょっと専門的な話になりますが、例えば、すすき野団地の建物は鉄筋コンクリートの壁構造で建てられています。鉄筋コンクリート構造の住宅の法定耐用年数は、47年となっていますが、これらは税法上の定めで、建物の物理的寿命ではありません。建物の物理的な寿命については専門家でも見解が異なりますが、きちんとメンテナンスを行えば120年前後と言われています。メンテナンスをしっかりと行い、100年持たせようと頑張っている団地もあります」。
ちなみに、日本は世界でも有数の住宅寿命が短い国です。国土交通省のデータによると、建物が建てられてから壊されるまでの平均年数は、日本32.1年、アメリカ66.6年、イギリスは80.6年となっています。低寿命の原因として、日本では地震などの災害が多いことや、日本人は新しい建物を好む傾向があり、メンテナンスをすればまた使える建物を壊して建て直すことが多いことが挙げられます。
「耐震性についてもよく聞かれるのでお話しすると、団地の多くは壁構造といって、壁全体の”面”で建物を支える構造なんです。昭和56年の耐震基準が変わる前に建てられた建物でも、この構造で建てられたものは耐震性が高く、無理な増築をした建物でない限り過去の大地震でも大きな被害を受けたものは少ないと報告されています」(参考:「マンション耐震化マニュアル」平成 26 年 7 月再改訂 国土交通省)。
それを裏付けるかのように、すすき野団地ではいくつかの棟で横浜市の耐震予備診断を受けましたが、本診断は不要という結果になったそう。(※横浜市による予備診断事業は、平成27年度にて事業を終了しています)
躯体の頑丈さ、それに加えて、敷地の広さ、棟の間隔が広い、南向きで日当たりがよいこと……建築物として魅力的な団地ですが、その割に良さがあまり知られていないので、一般的には築年数や専有面積が同程度のマンションより3割程度安く買うことができます。ということは、浮いた分の金額を内装や設備に使い、自分だけのこだわりの部屋を作ることができるということでもあります。
すすき野団地では、エレベーターがないこともあり、4階5階に空室が目立ちがちです。そこをおしゃれにリノベーションして、これまで住まいの選択肢として団地を検討したことがなかったような若い人たちが、「団地っていいね、住んでみたい」と思うような新しい住まい方を提案していきたいと語ります。
住民たちの取り組み
すすき野団地では、住民側からも団地再生の取り組みが始まっています。2017年からすすき野団地の管理組合の理事長として活躍する小柴健一さんに、お話を伺いました。
「すすき野団地では現在、さまざまなプロジェクトが始まっています。ソフト面では、住民が団地について思っていることを気軽に意見が言える場として、意見と食べ物を月に一度持ち寄って行う“持ち寄り車座集会”や、この先5年、10年後の未来を見据えた団地の未来を考える“すすき野未来会議”を開催しています」。 気軽に話せる場から、新しいアイデアが次々と浮かび、それを少しずつ実現させていく。実現すると楽しいから、もっと意見を言う。そういう好循環が生まれる場にしていきたいと、小柴さんは言います。
ハード面では、「散歩したくなる団地」に変えていこうと取り組みが始まっています。団地の中の木が重なり合っているところは、今の景観を損なわないように間引くなど、植栽の維持費を減らして、その分四季の花を植えたりして、管理費の使い道を変更しています。2019年度は、東急電鉄が主催する事業「みど*リンクアクション」に選ばれ、「みどり」をきっかけとしたコミュニティづくりを積極的に行っていく予定とのこと。楽しみですね。
ちなみに、小柴さんは5年前の2014年にお子さんが独立し、ご夫婦二人の生活になったことを機にすすき野団地に引っ越してきました。すすき野団地を選んだのは、次のような理由からだと言います。
「住環境の良さ、資産価値としても団地は魅力的でした。エレベーターはありませんが、北側の部屋も十分に採光があり、窓を開ければ、家じゅうに風が通り抜ける住宅はそうそうにありません。また、1戸はわずか49㎡ほどの住宅ですが、共有部を含めると80㎡ほど土地を所有することになり、横浜市の一角にそれだけの資産をわずかな金額で持てることも賃貸にない魅力でした。借りるよりも安いんですから」
団地リノベーションした部屋に住むための費用
ところで、団地のリノベーションした部屋を手にするのにかかる資金はどのくらいなのか、すすき野団地で販売中の物件「団地Classic」を具体例にみてみましょう。
<物件価格1350万円、ローン固定金利35年1.3%の場合>
返済額月約4万円、修繕積立金、管理費と合わせて、毎月約6万円の出費という計算です。
リノベーション前の住戸だと、階数・部屋の状況により差がありますが2018年の1年間に売買された実績では500~1000万円程度で取引されています。
これからは「団地×リノベーション」が新しい。賃貸よりも安く、自分だけのこだわりのお部屋を作ってみるという選択肢を、私は提案したいと思っています。
【団地再生事業協同組合】
HP:http://danchi-saisei.jp/
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【すすき野団地管理組合】
HP: https://susukinodanchi.com/
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【団地Classic すすき野団地】
http://danchirooms.wixsite.com/danchiclassic
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