寺子屋と聞くと、江戸時代に、お寺で子どもたちが読み書きそろばんを習う、そんなイメージが浮かんだ人が多いのではないでしょうか? てらこみーるは、現代の寺子屋+「だれでも食堂」です。近年、「こども食堂」が注目を集めていますが、だれでも食堂は対象を子どもに限定せず、地域のだれもが安心・安全な食事を真ん中に交流を生み出し、楽しく働ける場として、近年増加の一途をたどる「コミュニティレストラン」の一つと言えます(「地域食堂」という言い方もあり、団体がそれぞれの思いを持って呼称を決めています)。川崎市では公立小中学校の放課後の教室を利用した「地域の寺子屋」事業があって、“寺子屋”は聞きなじみがあるのですが、コミュニティレストランのだれでも食堂と両方をやっているところは珍しいと感じ、私は前々から興味を持っていました。
そこで昨年の6月に、学習ボランティアとして初めててらこみーるを訪れました。スタッフさんたちの明るく和やかな雰囲気と、小さな子どもたちが泣いてもすねても、その場にいる誰もが笑顔で、よしよし、と見守るのんびりと包容力のある空間に、私の緊張もすっかりほぐれました。子どもたちとバルーンアート作りを楽しみ、お迎えに来たお母さんたちと野菜たっぷりの絶品ランチプレートに舌鼓を打ち、くつろいでしまいました。初めてなのになぜか居心地が良く、もっと多くの方にてらこみーるを知ってもらいたいなぁ、と思い、今回てらこみーるの誕生までの背景を取材してきました。
てらこみーるは川崎市のJR南武線・武蔵新城駅から徒歩2分にあるコミュニティカフェ「メサ・グランデ」にて、毎月第3日曜日に開催されています。
午前10時半から11時45分までは寺子屋として、子どもたちは持参した宿題やワークなどをします。就学前の子どもが取り組める塗り絵や迷路などのプリントや学習プリントも用意されています。今春からは、算数・数学検定など、希望者には資格取得を目指した勉強にも取り組んでいます。てらこみーるで勉強をする子どもたちに、将来役立つものを残したい。また、大人も子どもと一緒に勉強することで、子どもたちの勉強への意欲を向上し、維持できるのではないか、という考えからの新たな試みです。
テーブルの上を片づけて、12時頃からはだれでも食堂になります。子どもは無料、大人は500円で、飲み物とスープ付き。野菜を無駄なく美味しく食べられる工夫がされたワンプレートランチを食べられます。店内のキッチンで、朝からボランティアスタッフの皆さんが作ってくれた出来立てのランチは絶品です。お迎えにきた親御さんや一般のお客様、スタッフも含めみんなででいただきます。
「地域をつなぐ社会貢献がしたい」
副代表の宮澤明子さんの普段の顔は、ヨガの先生です。2016年11月頃、当時マタニティヨガの生徒として通っていた立ち上げメンバーからだれでも食堂をしないかと誘われ興味を抱きます。以前から「地域とつながりを持った社会貢献がしたい」と考えていた宮澤さんはそれからすぐに、他の2名の立ち上げメンバーとともにいくつかのこども食堂の見学兼ボランティアに参加しました。翌月には、そのうちの一つであった「メサ・グランデ」主催の地域食堂「めさみーる+」で、運営主体であるNPO法人ぐらす・かわさきの田代美香さんから食堂の開催場所として「メサ・グランデ」の提供と寺子屋の同時開催を提案されました。偶然にもいつか寺子屋をやりたいと考えていた他の立ち上げメンバーの希望とも合致し、話はトントン拍子に進み、それから2カ月もたたない2017年2月には、他にはあまり見ない寺子屋+だれでも食堂という形のてらこみーるが誕生しました。
子どもも大人も同じものを食べる喜び
みーる(=meal/食事)は、キッチンリーダーのカメさんこと野菜ソムリエの中島梨佳さんが担当です。調布にある野菜ソムリエ認定レストランで働いていたカメさんは、野菜の扱い方を熟知し、切り方で味や食感を変えて無駄なく使います。今回のかぶも、葉は刻んで春巻きの具に。かぶの皮と葉は浅漬けにして、捨てずに使い切りました。食育の一環として、旬の野菜を使い季節感を出したり、収穫時の野菜の形がわかるような切り方や調理をしたり。ときには食べる前にメニューに使った野菜の説明をすることもあるそうです。
カメさんが大人も子どもも同じメニューにこだわっている理由は、大人と同じものを食べている、という子どもたちの嬉しい気持ちを大事にしたいからです。だからといって、子どもだけではなく、大人も満足してくれる味にしたいので、子ども用には、野菜を小さく刻んだりスパイスは少し控えめにするなど、食べやすいように心配りをしています。子どもが食べやすい工夫は、子育て中のスタッフさんたちの意見を大いに参考にしています。「家では食べられない野菜が、てらこみーるでは食べられた!という声がとても嬉しいんです」とカメさん。普通の飲食店とは違い、食べる人と作り手の距離がとても近いので、カメさんがテーブルに行くと、自然に会話が始まるのが印象的でした。お母さんがたに聞かれてランチのレシピを教えることも。カメさんは子どもがランチを残したら、その子のお母さんに理由を聞くようにしています。例えば、見た目が苦手な野菜と似ていたから手をつけなかった、などの声は、次回の調理に活かせるよう、今回のレシピの余白にしっかり記録します。
てらこみーるでは、年に数回は季節を意識した食のワークショップを開催し、子どもたちが自分でつくったご飯やお菓子を食べる機会をつくっています。「こどもたちは、自分でつくるとよく食べるんです」(カメさん)
てらこみーるはみんなの居場所
てらこみーるは、2017年度から今年度まで継続して川崎市地域子ども・子育て活動支援助成モデル事業として認定されています。運営スタッフはみんな、日中は別の仕事をしているため、限られた人員や予算でやりくりをしながら、現在は月に1度の開催をしています。
私がてらこみーるに来るたび感じる居心地の良さは、誰にも気兼ねせず、素のままの自分でいられるから。美味しいご飯でおなかも心も満たされて、ゆるゆると気持ちがほぐれていくのを感じられるから。そして楽しい雰囲気を、場のみんなで共有できるから。確かに利用する子どもたちは、貧困に苦しんでいるようには見えません。でも、家庭や学校以外で、安心して自分らしくいられる居場所として、てらこみーるにやってくるんだと感じました。それは「てらこみーるに来てくれたあなたのために」という真心が、じんわり心に沁みてくるから。スタッフの「どこであろうともこのメンバーなら、その場がてらこみーるになる」という言葉に象徴されているように思います。
第3日曜日に、1人でいるのは淋しいな、美味しいごはんが食べたいな、と思ったら、気軽に行けるみんなの居場所、それがてらこみーるです。今いる場所でしんどい思いをしている子どもや大人たちが、ほっと一息つけて明日も頑張ろうと思えるように。地域に根差し誰もが行けて、学びや食で多世代とつながれる、てらこみーるのような居場所は、現代社会に必要な存在だと思いました。そして、本当に支援を必要とする人たちに、てらこみーるの存在を知らせること、そして私たち一人ひとりが地域であたたかな眼差しを持って子どもたちを見守る存在となり、その輪を広げていけたらいいな、と感じました。
てらこみーるFacebookページ:https://www.facebook.com/teracomeal/
生活マガジン
「森ノオト」
月額500円の寄付で、
あなたのローカルライフが豊かになる
森のなかま募集中!