歴史探偵高丸の「青葉お散歩ノオト」第1回「鴨志田」編
ある時は地域新聞の編集長、またある時は紙芝居のおじさん、しこうしてその実態は、地域の歴史を掘り起こす「歴史探偵・高丸」。17年間青葉区を、そして横浜をくまなく歩き回って発掘した青葉区の魅力を、新しい切り口で紹介する心機一転!赤手空拳!風まかせ心まかせの街のレポート。名付けて「歴史探偵・高丸のお散歩ノオト」のはじまり、はじまり~!
(写真・文=宮澤高広)

皿の真ん中を走る道路は、名古屋かと思うほど広い!

「皿みたいだな。それも深めの……」

初めて鴨志田の街を訪れた時の感想である。皿の底は、鴨志田中央の交差点。そこ(底)から東へ坂を上り、環状四号線と鶴見川を越えれば鉄町(くろがねちょう)。西は、ゆるやかではあるがやはり坂。日本体育大学と横浜美術大学のキャンパス前を抜けていけば、皿の縁からこぼれたところに「こどもの国」がある。南側は、やや傾斜のきつい坂。皿の縁は「たちばな台」と「桜台」の街。そして北、まっすぐな坂道の先には、緑を彩る「寺家ふるさと村」がある。

 

皿の底に立ってどちらへ向かうか思案を巡らす。歴史探偵としてなら東の道の峠に残る「南慶院」は外せない。鎌倉円覚寺の末寺で、北条氏の三つ鱗の家紋が鎌倉時代創建をうかがわせる古刹。大正15年(1926)に日本撞球(ビリヤード)協会を設立し、日本にビリヤードを普及させた功労者、鴨志田出身の森政吉氏の顕彰碑や、女性のための月待信仰の歴史遺産「二十三夜塔」を拝むことができる。

鎌倉円覚寺と所縁ある南慶院

いやいや、信心よりごはん!西に向かって大学キャンパスの学食レポートなんてどうだろう。とくに、若きアスリートたちの胃袋を支える日体大の学食は味もボリュームも満点!一般の人も利用できるので、ぜひ消化し……いや、紹介したい。が、来年は還暦、ラーメン丼てんこ盛りの朝食を食べていた昔とは違うのだ。

 

南側は住宅街。やはり、歩くならやはり北しかない。通称「寺家ふるさと村通り」。坂の途中には魅力的なお店がずらりと並ぶ。

スタートするにあたって、鴨志田の人気者に挨拶しないわけにはいかない。テレビにも何度かとり上げられたガソリンスタンド「金子石油店」のアイドル、豚の金子まさる君だ。

豚なのに戌年。平成18年(2006)生まれで御年13歳になる。豚の寿命は犬と変わらないそうなので、すでに後期高齢者。アイドルだった10年前とは違い、最近はいつ来てもドテーっと寝てばかりいる。この日も、「おーい、生きてるかぁ?」と声をかけたがピクリともしない。しかたないよね、人間だって動きたくなくなるこの暑さだもの。ゆっくり休んでたっぷり長生きしてもらいたいものだ。

豚なのに戌年。13歳のまさる君。「眠らない豚は、ただの豚だ!ブヒブヒ」

金子石油店を出ると、「乗馬ズボンあります」と書かれた幟(のぼり)が目に飛び込んできた。乗馬ズボンが売れるほど乗馬人口は多いのか? 売っているのは作業着を販売する「ごとぎ屋」さん。中に入って尋ねてみた。

 

「植木屋さんや造園業の人たちが着る作業用のズボンのことですよ」と店長さん。う、カミさんの実家が植木屋なのに知らなかった……。

 

こちらの商品は、ごとぎ屋さんオリジナル。太もも周りが広がっていて、くるぶしの辺りがキュッと窄(すぼ)まったデザイン。素材も動きやすく丈夫ということで、じっさい乗馬をされる女性にも人気なのだそうだ。つい最近、夏用の半ズボンが入荷したとのこと。バイクで移動することが多い自分。食指が動いたが、「勝手にモノを購入すべからず」という家訓を思い出し、「カミさん連れてまた来ます」と断りながら店を出た。

ストレッチ素材や半ズボンもある「乗馬ズボン」。カジュアルウェアとしてどうでしょう?

隣のビル(パインドエル金子)は、その前の歩道で「カモカモマーケット」や「カモジケ豆まき」など鴨志田のイベントが行われてきた鴨志田の中心の中心だ。ビルの1階には、リユース食器でお馴染みの「Waveよこはま」、子育てママの憩いの場、和食ランチの美味しい「ウチルカ」が入っている。一番奥には、珍しいレコード屋さん。自分が鴨志田に来た時には必ず立ち寄る「中古レコードのタチバナ」さんだ。

6月23日(日)、カモカモマーケットが7年半の歴史に幕を下ろしました。最後ということで、お昼前なのに売り切れ続出の大盛況。ウチルカで行われた「ありがとうパーティー」にも、これまでに関わった皆さんが駆けつけ、涙と笑顔に包まれながらファイナルを迎えたのでした

昭和36年(1961)、横浜六角橋に創業した老舗で、平成24年(2012)に鴨志田へ移転した。何度も立ち寄っているが買ったためしがない。レコードプレイヤーをとうの昔に処分してしまったので、買っても聴けないのだ。それでも通うのは懐かしいレコードたちに会いたいから。ジャケットを眺めていると青春時代がメロディとともによみがえってくる。大好きだった映画音楽、柄にもなくクラシックも聴いていた。フォークソングにニューミュージック、MとかSとかのアイドル歌謡……まで、う~ん!至福のひととき!お店にとっては迷惑な客に違いない。そのお詫びというわけではないが、こちらでお店のご紹介。レコード針も売っているので、使わなくなったプレイヤーのある方は、レコードと一緒にぜひ!

扉を開け階段を上がれば…青春時代にタイムスリップ!昭和36年創業、もうすぐ還暦。ひとつ年上の私は感激!

鴨志田第四公園入口の信号の先、「グラッサ」という雑貨屋さんに久しぶり立ち寄った。店の周りは、色とりどりの草花。店内は、染物、織物、陶器やガラスの食器に、サイザルバックという麻の籠など、多種多様な商品で彩られ、相変わらず華やかだ。

 

「あらっ!」と、お店に負けないくらいの明るい笑顔で出迎えてくださったのは店主の工藤容子さん。顔を見るなり「神のゆりかご!覚えてるわよ」とひと言。

 

話は6年前にさかのぼる。私が地域新聞編集長時代にお店紹介の取材でカメラマンとして伺ったとき、とある話題で共鳴し、時間も取材も忘れて語り合った。

「graca(グラッサ)は、ポルトガル語で『感謝、魅力的、楽しい』ほかにも『神の恵み』という意味があるんです」の言葉にすかさず反応した。

 

「神の恵み、いいですね!陶器もガラスも麻のバッグも、ここにあるすべての商品は、まさに自然の恵み。やはり鴨志田はアイヌだ」

「アイヌ???」とまどう工藤さんを尻目にアイヌについて語り始める私。

「アイヌ民族に伝わる『ユーカラ』」という神話に、カムイモシリ(神の世界)からアイヌモシリ(人間の世界)へ、カンナカムイ(竜神・雷神)がシンタ(この意味は?ゆりかご?)に乗って降りてくる、という一説が残されてます。鴨は神……アイヌ語のカムイ。志田をシンタと読むとアイヌ語で鴨志田はカムイシンタ。シンタはアイヌ語でゆりかごという意味になるので、カムイシンタは『神のゆりかご』になるんです」

 

青葉区の地名の語源を探っていた時に、三浦半島の鴨居という地名がアイヌ語のカムイではないか、という記述を見つけて考えついた歴史探偵オリジナルの仮説である。

 

「神のゆりかご!まぁ、なんて素敵!」それまで変人を見るようだった眼が、夢見る少女の眼差しに変わった。スピリチュアルで不思議な世界が大好きだという工藤さん、その後、アイヌの話から縄文時代、そして壮大な宇宙へと話が広がり、最後は「神のゆりかご・鴨志田町」というキャッチフレーズを広げようという結論に至った。6年経ったが、そのキャッチフレーズは二人の間で止まったままだ。

楽しくて魅力的な神の恵みの工芸品が並ぶグラッサ。自然な出会いに感謝!(graca!)

鴨志田町の北、鴨志田中学校のすぐ横の集合墓地内に鎌倉時代(寛元2年、1244年)に造られた板碑(供養塔)がある。県内で確認されている最古の板碑で、鎌倉時代に鴨志田の地を領していた鴨志田一族のものだと言われている

 

鎌倉幕府のトップ、将軍・源頼朝が亡くなると鴨志田一族は雲散霧消……この地から姿を消した。武士の鏡として人々に愛され、頼朝亡き後に執権北条氏から疎まれ謀略の果てに殺された武将・畠山重忠と近しかったことから、難を逃れるため鎧兜を捨てて鴨志田の地を去ったという。

秩父産の緑泥片岩(りょくでいへんがん)で造られた板碑は、武士にとってのステイタスだったのだ

板碑の場所から鶴見川の河岸段丘に沿って南に向かう。かつて「腰巻」と呼ばれ、昭和の頃まで持ち馬を競わせる競馬場だったという崖状の場所は、アジサイが咲き誇る小道になっていた。小道の先には甲神社がある。鴨志田一族が鎧兜を脱ぎ、埋めて隠したといわれる場所だ。

 

鴨という字はとりへんに甲。人の邪心に驚き、慌てて逃げる水鳥は命の次に大切なモノを打ち捨てて飛び立っていった。拝殿に手を合わせ、ふるさとを離れざるを得なかった鴨志田一族の無念を思う。

神社境内から腰巻一帯は城跡だったというが、まわりの田園風景からは戦国の荒々しさなど微塵も感じられない。

東京のベッドタウン青葉区のさらにベッドタウン鴨志田の夜は本当に静かだ。個性的で魅力いっぱいのお店、街のレジェンド、未来を夢見る若者たち、地域ケアプラザに通うお年寄りも元気いっぱい!そして、豊かな自然と古代から続く歴史……彩り豊かに盛りつけられた昼間のお皿は、夜の帳が下りるとともに「神のゆりかご」へと姿を変え、住む人を安らぎへと誘うのであった。

腰巻と呼ばれた段丘の中腹は長閑なアジサイの小径。この辺りで競馬が行われていたなんて想像できない

鴨志田編 おしまい

 

鴨志田町の人たちの福祉・保健の拠点。そして、学びと娯楽の場。
8月28日(水)、その鴨志田地域ケアプラザで、子どものための歴史講座を開催予定。参加費:小学生100円、大人500円。対象は、小学校3年生以上。もちろん、お父さん、お母さん、おじいちゃん、おばあちゃんも参加OKです!
『悠夕みのりサロン・夏休み特別講座~ふるさとの歴史を知ろう~』
申込は前日8月27日(火)まで。鴨志田地域ケアプラザに連絡してください。
電話:045-961-6911

Information

歴史探偵・高丸(宮澤高広)

地域新聞の名物編集長として長年、「地名推理ファイル」など青葉区や地域の歴史を紐解く連載を続けてきた。歴史講座つきのまち歩きツアー「わがまち探訪」は常に満員御礼、中高年のアイドルである。「あおば紙芝居一座」では物語をつくり、語り部として子どもたちに地域の歴史を伝えている。

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