30周年を迎えた元気の秘密|元住吉ブレーメン商店街
東急東横線元住吉駅のブレーメン商店街は、今年で設立30周年を迎えました。テレビや経済誌でも取り上げられるほど、活気あふれる元気な商店街です。今回は理事長の伊藤博さんと、専務理事の谷口邦明さんに、ブレーメン商店街の元気の秘密を伺ってきました。

川崎市の東急東横線元住吉駅西口から約550mの通りがブレーメン商店街です。私たちの毎日の生活に必要なものが、ブレーメン商店街には全て揃っています。2代目、3代目が頼もしく構える商店や、個性的で美味しいパン屋や飲食店が立ち並ぶ一方で、大手のナショナルチェーン店の進出も目覚ましいものがあります。私はブレーメン商店街発行のフリーペーパー「Breath(ブレス)」の2010年の創刊時から、ボランティアライターをしていています。当時小学1年生だった息子も今春高校生になり、商店街とのお付き合いも10年になるのだと思うと、時の流れを感じます。今秋にはブレーメン商店街の30周年記念誌が発行される予定です。

 

躍進は、ネーミングから始まった

1989年、国の中小企業庁による商店街モール化事業により、元住吉西口商店街(現・ブレーメン商店街)は、「中世ヨーロッパのロマンと語らい」というコンセプトをたてることになりました。ヨーロッパの雰囲気を出そうと、商店街の名前も変えることにしました。「アンデルセン」「グリム」「ブレーメン」の3案の候補から、「ブレーメンの音楽隊」の物語なら子どもも知っているし、年老いた動物たちが協力する話なので、お年寄りにも優しい商店街にしようと「ブレーメン商店街」と名づけられました。

 

「やっぱりネーミングが大事なんだよね。ブレーメンって名前にしたから、ドイツとの国際交流も始められたし、ドイツをテーマにして、フライマルクトやクリスマスにグリューワインのふるまいなどのイベントもできるし、本格ドイツワインやドイツの製法で作ったビールを販売したり、いろいろ展開できるからね」と話すのは専務理事の谷口邦明さん。氷と燃料販売の谷口商会の店主です。西口商店街時代から続いていたお義父様の店を、今は谷口さんが受け継ぎ、商店街を支える中心メンバーとして活躍しています。

 

「勝手にブレーメンという名前を使ってはいけないと思ってね。日本貿易振興機構(ジェトロ)経由で翌年にドイツのブレーメン市ロイドパサージュ商店街と友好を結んで、それから交流が始まったんです。ドイツが環境に優しい国だから、うちの商店街でも各店舗が何か1つ環境によい取り組みをする1店1エコ運動をしたり、マイバッグ運動をしたり。ドイツを訪問してまちづくりを学んで、景観形成地区指定を受けたりね。全国に先駆けて商店街として環境問題に取り組めたのは、ドイツに影響を受けたところが大きいですね」と話してくれたのは理事長の伊藤博さん。伊藤さんはドイツのロイドパサージュ商店街の会長をはじめ、ブレーメン市長や大使館の公使の方々が訪日の際には、ホストとして今も国際交流に尽力されています。柔軟なアイディアと突出した交渉力と行動力でブレーメン商店街をけん引しています。

理事長の伊藤博さん(左)と専務理事の谷口邦明さん(右)コミュニティセンター3Fの会議室にて。商店街の真ん中にあるコミュニティセンターには、車いす用トイレや授乳室、キッズスペースや木製ベンチが設けられている

 

ブレーメン音楽祭は、ブレーメン商店街に名前を変更後初のイベント。200名20団体の楽隊が商店街を練り歩く大規模パレード。伊藤さんはさまざまな学校が出演する音楽祭や演奏会を聴きに行き、上位成績校に1校1校足を運んで出演依頼をした。この音楽祭の成功がブレーメン商店街の人々の自信となり、自負となった。10回続いた音楽祭は、その後商店街のあちこちにステージを設置するフライマルクトへと変わる

 

 

ナショナルチェーン店も加入するポイントシステム「ブレカ」

「スタンプを押して全部溜まれば、500円割引のポイントカードとかってよくあるでしょ。あれは、なかなかたまらずお客様も使い勝手悪いという声があって」と伊藤さん。確かに、私もいろいろなお店で買い物をするので、スタンプはなかなか溜まらないです。

 

「商店街でポイント事業を始めるときに、1ポイント1円で、商店街の加盟店ならどこでも使えるポイントカードにしたんです。お客様に1ポイントを使ってもらうと、お店側は1.1円回収できる仕組みです。つまりお客様が使ったポイントに対して、10%お店側が回収できるんです。お客様が店でポイントを使って買い物をすればするほど、このシステムの導入で、お客様は利便性が、店側は売り上げがあがりました。だからナショナルチェーン店も、いち商店街のポイント事業に参加するんです。それだけ魅力があるシステムってことですね」と伊藤さん。ブレカのポイント事業は、商店街の事業外収入の大きな柱となっています。

ブレカはICカード。75歳以上の高齢者は健康ポイントとして、コミュニティセンターで1日1ポイントを発行してもらえるので、毎日の散歩がてら平均して1日約60人がやってくるそう。また運転免許証の自主返納者には1000ポイントをプレゼントするなど、高齢者の見守り、健康増進にもブレカが役立っている

 

理事長のブレーンであり手足である事務局

伊藤さんは、ブレーメン商店街の発展は、事務局があってこそ、と話します。

「役員たちは店主だから、事務局の仕事も担当となると負担がかかりすぎるんです。本当に優秀で機能している事務局のある商店街は少ないと思います。商店街の加盟店である会員のための仕組みを考えるのが、うちの事務局のメインの仕事です」

 

ほかに国や市に対する補助金の調査や申請、会議のレジュメの作成、会員への連絡、お客様の問い合わせへの対応なども事務局の仕事。事務局長の平本保さんは、商店街の会計ソフトを自作するほどパソコンに強く、ブレカのポイントの仕組みも平本さんが考えたのだそう。

伊藤理事長と事務局長平本保さん(右)ロイドパサージュのブレーメン像を挟んで。10周年の友好の証として寄贈されたシンプルなこの像を元に、シンボルマークを作成。マグカップやエコバッグなど、さまざまな商店街オリジナルグッズに使用されている

よそ者の強み

「ブレーメン商店街の特徴としては、代々この地に住んでいる地元の人がいない、ということ。戦後にいくつか店ができて、人が集まって賑わいができて、商店街になったんです。よそ者が多い街は、昔からの慣習やしがらみから比較的自由なので、新しいまちづくり、という共通の目標に向かって一致団結して、今までにない意見や試みも、柔軟性を持って受け入れたり実行できるんです。これがよそ者の強みで、よそ者が来て、初めて地域は良くなる、と思っています」と伊藤さん。

 

実際、商店街青年部の現在の青年部長は大阪府出身で、“よそ者”なのだそう。バンザイライフというバンドを組んで、ブレーメンビアの歌をつくったり、商店街と交流のある福島県の会津ソースカツ丼の歌を作ったりして、YouTubeにアップするなど、商店街の盛り上げ役として貢献しています。「ブレーメン商店街にはいろいろな得意分野を持つ人たちが集まってくれるので、人材は豊富です」と伊藤さんは誇らしげでした。

青年部が大活躍のドイツ?からやってきた戦隊ヒーロー「ブレーメントリオン」。キッズデーやハロウィーンなど子ども向けのイベントで大人気

 

 

ブレーメン商店街のこれから

 

「商店街という存在は、このままでは10年後には無くなると思っています。アマゾンで買い物する時代ですから、物販は儲かりません」と言い切る伊藤さん。森ノオト読者の皆さんのお買い物事情はどうでしょうか?私も米や水などの重い食材や日用品は宅配サービスを使ったり、大手の通販サイトで雑誌や衣類を購入したりと、ネットショッピングは生活の一部となっています。

 

商店街の存続で言えば悲観的な未来が予測できますが、ブレーメン商店街では、前向きな要素もあるようです。

 

「武蔵小杉のタワーマンションの住民も散歩に来るなど、新しいマンション住まいの若いお客様も増えています。治安が良く、例えば買い物の場だけではなく、ブレーメン像や豚飼いの像であったり、シャッターアートだったり、商店街の面白味を感じられる街並みづくりを心がけています」と伊藤さん。

店が閉まっていても、楽しめる街並みにしようと、写真が趣味の伊藤さんが、ドイツで撮ってきた写真のなかから、店主たちが好きなものを選んだそう

 

でも大型ショッピングモールなどの便利さと比べた魅力はどう考えていますか?

「毎日お客様に足を運んでもらえるようなお店、例えば高齢者や共働き世帯に向けた、気軽に買えるお惣菜屋さんのようなお店を誘致したいと思っています。商店街にはオーナー会員制度があります。商店街のお店をたたんだ会員は、そのままオーナー会員になってもらいます。商店街との関わりを続けて持ってほしいことと、テナントとして残ってもらいたいのです。そうすることで、テナント誘致の際、商店街の方向性や不足しているお店を伝えることができるんです。しかしオーナーさんたちが家賃を高く設定すると、個人商店が出店できません。だから大手のナショナルチェーン店が多くなっているのが現状で、そういう店は会社の経営方針ですぐ撤退してしまう。私たち商店街は、オーナー会員制度によって、地元のお客様に喜ばれ、長く愛されるお店を誘致したいと考えているんです」と谷口さん。

「今は調剤薬局など業種の偏りがあるので、バラエティーに富んだ商店街になるように、職種で誘致してほしいと、商店街からオーナー会員さんにお願いをしているところです」と伊藤さん。

駅前のマップと車止め

副理事長を24年、理事長を12年務めている伊藤さん。ブレーメン商店街の元気の秘訣を、「さしすせそ」で表現してくれました。「さ」は財政。「し」は事務局。「す」はスタッフ。「せ」は先見性。「そ」は組織。「さしすせそ」が揃うブレーメン商店街は、地元のお客様を大切に、全国に先駆けた新しい試みを柔軟に実行してブレーメン商店街としてのブランドを確立しています。

 

ポチッと画面をタップしたら明日にはモノが届く便利な世の中です。

でも、ブレーメン商店街でのお買い物は、八百屋さんが子どもにみかんのおまけをあげていたり、魚屋さんで特売の魚の調理の仕方やレシピを教えてもらったり、店先にいた年配のお客様に「こっちのほうが新鮮よ」と野菜を選んでもらったりと、自然に人とのふれあいが生まれます。店員さんと常連のお客様との掛け合いはまるで漫才のようで、周囲に笑いが生まれます。いつも多くの人出で賑わうブレーメン商店街は、昔ながらの人の温かさと、誰もやったことのないことをやってみる新しさが同居する、とても面白い商店街です。

 

進化しようと常に攻めの姿勢なので、このままでも40周年、50周年と続いていくように私は感じています。インバウンド対策として、フリーWi-Fiの設置や外国人観光客向けの商店街体験ツアーなどの実施が決まっているので、外国人観光客にも楽しめる商店街として国際的にも知られるようになると、ブレーメン商店街の未来は盤石になるでしょう。日本を代表する商店街と言われる日を楽しみに、エコバッグを持ってブレーメン商店街のお買い物にいそしみます。

国内では2006年から福島県との交流を開始。東日本大震災の3カ月後、東日本応援祭りを開催。放射線の風評被害で苦しむ福島県をはじめとする東北地方の農産物を、買って食べて復興を応援する企画。ブレスでも特集を組んだ。第3弾まで開催した後は、通常通り商店街のイベントで福島物産展を開催し、復興支援を続けている

 

表紙(左):元住吉駅前にあるブレーメンの音楽隊の像は、ドイツの像のレプリカ。北海道中札内「農村休暇村フェーリエンドルフ」のオーナーから譲り受けた。中央の円は本場ドイツの像。下の円はコミュニティセンターの像。
表紙(右):ドイツの小学生が描いた絵をエコバックにして、コミュニティセンターで販売している。エコバッグブックという本の表紙に選ばれた。環境にやさしい商店街として、地球温暖化防止活動環境大臣表彰など、様々な表彰を受けている

 

Information

ブレーメン商店街ホームページ

http://www.bremen-st.com/

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この記事を書いた人
中島裕子ライター卒業生
川崎市中原区在住。高3男子の母。現在は、地元のタウン誌やfacebookで記事を書く。美味しいものや手作りが好き。今の関心テーマは、食と教育。趣味は書道。今年の目標もダイエットの成功と断捨離。森ノオトでは、ライターとして経験を積み、イベントに参加して世界を広げたいと思っている。
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