(写真:齋藤由美子)
あたたかな陽射しと、舞い飛ぶ花粉が目にしみる2020年2月の中頃、バレーナで様々な企画をやっていきたいと意気込む、代表の新田智裕さんを訪ねました。
新田さんと私との最初の出会いは、かもしだ小さなマーケットです。(現在は、いいかも市に名称変更)。当時(2019年3月)、新田さんは、前職の、青葉さわい病院のリハビリテーション科に勤務されていました。マーケットで体力測定をしてくれていた鴨志田のツクイとのつながりで、マーケットを一度見学したいと、青葉さわい病院のスタッフさん達が来てくださったのでした。そこでの新田さんの運動指導が的確で、楽しい!効果がある!と、スタッフからも参加者からも人気と信頼を一気に得て、爽やかな第一印象をもたらして帰っていかれたことを覚えています。
その後、新田さんはたびたび時間をぬってマーケットに立ち寄ってくれるようになりました。今度自分たちで「運動」と「食」をテーマにした新しい場を作るのだという話は聞いていて、開設までのプロセスの一端を、SNSを通じて眺めていました。
オープンしてからは、ヨガやピラティスの講座や、親子撮影会、発酵と畑をテーマにした講座に、失語症カフェ……と様々な企画が行われ、早3カ月。私は一度見学がてら、カフェでコーヒーを飲み、今回が2回目の訪問です。路面に面した広々とした空間は、病院やクリニックとは違い、カフェつきのおしゃれなヨガスタジオがオープンしたのかな?という雰囲気。インタビュー中も、外から中の様子を伺う人がちらほら。また、既に常連となり、親しげに挨拶をして入ってくる方も見受けられました。
バレーナでは、ランチ付きデイサービスの仕事を終えて、一般の方を迎えるのは13時からです。ドアを開けると、紺色のポロシャツを着たスタッフが迎えてくれます。今のところ、理学療法士がカフェのホールスタッフも兼ねていて、この日、コーヒーを持ってきてくれたのは、副代表の山下侑哉さん。山下さんは、新田さんと同じ横浜リハビリテーション学校の7つ後輩で、学校の先生を通じて古くから付き合いがあり、今は同志としてバレーナを支えています。
「バレーナ誕生に至る最初のきっかけは、約8年前です。現在、カフェのスタッフでもある管理栄養士の田中弥生さんのリハビリを僕が担当したんです。田中さんは日本栄養士会の常任理事で、書籍も出されている。知る人ぞ知る有名な方なんですよ。それで、治療の過程で色々話をするうちに、自分自身が栄養のこと、食への興味を小さい頃から持っていたことに気づかされて。それで、一緒に何かできないかと考え始めました」と新田さんは振りかえります。
それから、具体的に起業を考え始めたのは3年前。日本栄養士会では、2018年から、栄養・ケアステーションの認定制度が始まり、その動きが、今、全国に広がっていることも要因の一つです。栄養・ケアステーションは、専任の管理栄養士が一名以上従事していて、食に関する様々な課題に対応する地域密着型の拠点のことです。バレーナもその波にのって認定を受け、今後は、地域の栄養・ケアステーションとして、配食サービスを検討するなど、準備を着々と進めているそうです。
自宅でも菜園をつくり、食べ物を育てるところから興味があるという新田さんに対し、「料理を一度もしたことがなかった!」という山下さん。どうりでコーヒーを運ぶ姿に、どこか初々しい、ぎこちなさがあったわけだと私は密かに納得しましたが、山下さんは「知らない世界だから面白い」と、意欲に溢れています。今では、ランチやカフェメニューの食材を調達するため、新田さんと二人で、早朝から北部市場に買い出しに行く体験もしたそうです。今後、管理栄養士と共にメニュー開発を進めていき、いずれ、自宅や病院からちょっと抜け出して、お酒をちょっと楽しめる、送迎つきのBARなんかも計画中というので楽しみですね。
とはいえ、二人の本業は、「理学療法士」。「運動」メニュー担当です。バレーナでは、デイサービスで高齢者の自立を支援するのが、大きな目的ではありますが、午後からの個別の施術や相談は高齢者に限りません。アスリートからの依頼も多く、「年齢、性別、国籍にもこだわりませんか?」と聞くと「もちろん!」と山下さん。
理学療法士は、立つ、座る、歩くなどの日常の基本的な動作がスムーズにできるように、サポートするのが仕事です。痛みや不調が、神経から来るのか、筋肉の問題か、骨格の問題か、など、相手の身体に実際に触れて、その人にあった運動のメニューを提案し、その人が自分で動けるように指導したり、サポートします。
「病院でのリハビリは、患者さんにとっては、よそ行きの時間なんですよね」という新田さん。バレーナのカフェやイベントは、もう少し暮らしに近くて、気軽に立ちよれます。そこに国家資格を持ったプロの理学療法士と、管理栄養士や栄養士がいる。つまり、ケアする人が、患者さんに寄っていくわけですね。バレーナでは「予防」に力を入れたいのだと新田さんは言います。
「例えば、介護保険制度で、要介護1、とか2と言われる方々は、介護度の高い人に比べると、運動能力の回復の見込みが高い。バレーナでは、自分で動ける力を持っている方の運動と栄養のサポートをして、それ以上症状を進行させないことを目指しています。医療の現場では、病院を出た後のリハビリのケアができないことも、問題になっています」(新田さん)
厚生労働省は、回復期のリハビリテーションを受けられる期限を90日から180日、リハビリを受けられる期間を発症から最大5ヶ月から6ヶ月と定めています。それ以降は、在宅での治療への転換を迫られたりと、患者さんも家族も、負担が大きくなってしまいます
医療や介護を巡る制度には様々な課題があります。最初は勤めていた青葉さわい病院を地域にひらいて、いろんなことをやっていければと考えていたと言う新田さん。青葉さわい病院は、休診日に病院を開放して健康フェスタというイベントを開くなど、地域とつながりをもつことに積極的に取り組んでいます。しかし、病院のように大きな組織ではできないことも、新田さんが独立して新たな場を設けることで協力し合いながらできることもあるのでは、と外に出る決意をしました。
「2019年の11月末で、専門学校卒業後にすぐ勤めて、12年間働いた病院を退職したのですが、僕らの動きを、さわい病院の院長やスタッフも応援してくれるので、ほんとうにありがたいです」(新田さん)
多くの仲間や、味方に恵まれているのは、人徳でしょうか。今後も、福祉の連携の輪が、地域の中で幾重にも折り重なって、厚くなっていくと良いなと感じました。
青葉区内には、介護つきの有料老人ホームや特別養護老人ホームが多数あります。男性の長寿率は全国一位を誇ります(2000年度)。それはしかし、一説には、施設で暮らす高齢者が多いためではないかという声も聞かれます。ただ長生きするのではなく最後まで質の高い暮らしを送ること。バレーナが掲げるのは「永活き」ができる社会です。病院という枠組みを超えて、新たな領域で泳ぎ始めたばかりのバレーナは、超高齢社会の閉塞感に、風穴をあけてくれそうです。
運営はまだ手探りで、模索中だというお二人ですが、新田さん、山下さんの若さと明るさ、そして熟練管理栄養士とのタッグで、地域住民の福祉と健康のハブとなっていって欲しい! 私も、いち地域住民として、また、ちょっと歳の離れた夫の、いずれきたる介護体制構築のためにも、応援していきたいと思います。
スタジオ&カフェBALENA
住所:横浜市青葉区元石川町3711-1
電話:045-479-9807
メール:nittajapan.balena@gmail.com
カフェ営業時間:火曜日~土曜日(祝日営業)13:30~18:00(現在はカフェ営業は行っていません)
※デイサービスの時間:9:20-12:20(火曜日~土曜日)
火・水・木は夕方のデイサービスも始まりました。15:20-18:20
リハビリと栄養ケアステーションの時間:12:30-15:00 (火・水・木) 12:30-18:00(金・土)
(宴会予約・イベント開催時は夜も営業しています。詳細はお問い合わせください。)
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