公園の「ファンクラブ」で「愛護会」が元気に! 保木公園のモデルプロジェクト
青葉区の最北端、美しが丘西地区は、花桃の丘のある豊かな緑地帯を抱く閑静な住宅街です。この地区で一番大きな公園、保木公園で、「花と緑の活動に参加する仲間を増やす」ためのプロジェクトが行われています。想像以上の出会いとつながりが生まれた半年間をレポートします。(トップ写真提供:保木公園愛護会 )

対話”と“観察”を重ねていく 

 

港北区・緑区を再編して青葉区が誕生したのは、今から約26年前(2021年3月現在)。青葉区は比較的新しいまちです。 

東急田園都市線の開通とともに開発が進み、この50年ほどで宅地化が急激に進んで、住民が増え、今や30万人を超える人々が暮らしています。美しが丘西地区は、中でも新しい開発エリアです。およそ1万人の人々が住み、開発当初に移り住んだ第一世代から、第二世代に、まちの運営のあれこれを、受け継いでいく時を迎えています。 

 

区内でもっとも新しい、美しが丘西小学校は、「ないものは自分たちでつくろう」という住民たちの声と協力があって、建てられたものです。保木薬師堂や八雲神社など古い文化を残し、伝える活動も住民発で行われています。清水朋子さんを始め、森ノオトのライターや卒業生も何人か住んでいるこの地区には素敵なカフェやパン屋さんなどが点在し、30代から40代の若い世代でも、地域に思いを寄せる人たちがいます。 

 

そんな活力あるこのまちで、公園をモデルとして、花と緑の活動を活性化するプロジェクトが始まりました。保木公園愛護会やおやじの会をはじめとした地域の様々なによるプロジェクトを青葉区と森ノオトが進める、フラワーダイアログあおば〜花と緑の風土づくり〜という事業の一環でお手伝いさせていただきました。2020年の8月から12月までの毎月1回、全5回の会議に加えて、2021年の2月にフォローアップの会議を設けて、地域の人たちが主体となって、次年度の計画を立てることができました。 

 

8月1日、第1回目の会議では、公園愛護会のメンバーを中心に、自治会長や美しが丘西小の校長先生、おやじの会や子ども会の役員さんなどに、プロジェクトの概要を説明し、協力いただけることとなった

 

保木公園の愛護会は、一度、活動がなくなりかけましたが2017年にリスタート。新しい愛護会会長のに、新たなメンバーが集まり、2019年にはペットをテーマにしたイベントを行うなど、公園に人を集めて楽しい活動をやっていこうと意気込んでいました。しかし、コロナ禍にあってイベント企画思うようにできません。毎月第2日曜の朝8時から定例の清掃を行なっていましたが、そうした日常的な活動に参加できる人は限られていました。個人的に毎日のようにゴミ拾いをしているメンバーや、できるときに花壇の世話をするメンバーがいるという状態でした。 

 

保木公園は、調整池や多目的広場と一体化して大人の足で一周歩いてまわるのに10かかるような広い公園なので、到底手が足りません。会議に参加したメンバーの中からは、新型コロナウイルスによる自粛期間に、公園のゴミがさらに増えたという声が上がりました。また、公園内に水場はあるのに、実は水やりのできる仕様になっておらず、自宅からわざわざ水を運んでいるメンバーがいることも分かりました。 

 

9月の会議では、園芸・造園のアドバイザーの小島理恵さんとともに、公園の環境や植栽を見て回り、そこで得た情報を元に、公園内を大きく5つのエリアに分けていく作業をしました

 

2回目の会議で、プロと一緒に実際に現場を見たことで、未来の公園のイメージに対する解像度がぐんとあがりました。花壇づくりや植栽計画等、花と緑の活動をする以前に、ハード面の課題がたくさんあることに気づかされましたが、可能性や伸び代もたくさん。現場の課題を、私たちも共に身をもって知ることができたのも大きな収穫です。ゾーニング作業をする中で、最終的に、大人散歩して楽しめる公園を目指したらいいのではないか、という方向性がおぼろげに見えてきました。 

 

最初の会議で聞いてびっくりした水道の問題も、みなで一緒に確認しました。その後、愛護会から土木事務所に連絡をしたら、すぐに蛇口の交換をしてもらえたという報告が! 会議では、水を確保するために、井戸を掘ったら?とか、雨水タンクを取り付けたらいいのでは?というアイデアも出ていましたが、無事、ホースをつけられる蛇口になり、水周りの悩みが一つ改善し、大いに励みになりました。 

公園をつくる人とつかう人との意識の違いを改めて感じたゾーニング作業。公園をつかう人が、公園をつくることに一歩踏み出した時間でもある

 

これを機に、愛護会と土木事務所との情報共有が密になり、12月には、土木事務所の支援で、公園内に堆肥置き場ができなど、住民だけではできない作業も進みました。 

 

公共空間の手入れに関して、行政と区民との役割分担は、一律の線引きができないため、何ができるか、どこまでやっていいか?など、対話を重ね、行ったり来たりしながら探っていく必要を感じました。その手間を、ただ面倒なだけでなく、「楽しいこと」として受け入れられるかどうかが、ボランタリーな地域活動を続けていく時のコツかもしれません 

 

“参加しやすさ”をデザインする 

 

人手不足という課題を解決するために、「保木公園ファンクラブ」をつくろうという提案が出されました。話し合いの中で、愛護会活動に関する細かなやり取りはこれまで通りfacebookグループで、定例活動への参加の呼びかけなどの情報共有はファンクラブのLINEグループでやり取りすることが決まりました。 

 

地域での呼びかけから定例の清掃活動に参加するようになり活動に参加した人がLINEグループに参加するというように、少しずつメンバーが増え、グループでの情報交換が徐々に盛んになっていきました。愛護会というネーミングに、責任の重さ、活動参加ハードルを感じる人、「ファンクラブ」であれば、ゆるやかにつながることができます。 

 

連絡手段としてLINE普段から活用している、地域のお母さんたちのネットワークを通じてそもそも愛護会を全く知らなかった!」という親子の参加が増えていきました。 

 

オンライン上での情報交換に加え、オフラインでは愛護会の倉庫に定例の活動情報が掲載され、必要なときには自治会の協力で掲示板に情報を張り出すこともできることが決まり「できる人ができるときにできることをする」土台が整ってきと言えるでしょう 

 

水やりの負担を軽くするための工夫はさらに進化。ファンクラブメンバーなら誰でも気がついたときに水やりできるよう、堆肥置き場にジョーロが置かれるように。防犯のため、覆いのネットに錠をつけるアイデアを採用!

 

堆肥づくりに夢中な子どもたち。清掃で集めた落ち葉を「踏み踏み♪」して、発酵を促します。小さな堆肥置き場の枠の中には、70リットルの袋30個分もの落ち葉が入っています

 

公園で剪定した桜の枝で染物をする試みも実験的に行われた。「コロナがおさまったら、公園の中で染物体験をワイワイやりたい!」と、発案者である栢森(かやもり)早苗さんは目を輝かせます(写真提供:栢森さん)

 

落ち葉や剪定枝など、公園の資源を活用して、地域の誰もが参加できる仕組みがつくれとを、保木公園に関わるみなさんが教えてくれました。LINEグループの活用と、子どもたちを巻き込ん公園の資源を循環させる取り組みは、他の地域でもモデルとして応用可能です。 

 

失敗しても笑いあえるような関係を 

初めてトライした堆肥づくりの作業や、水やり当番も、なんでも遊びに変えてしまう子どもたちの参加のおかげで、活動の負担感が減りました。「できるだろうか?」という大人の不安や心配が、「自分たちでできるかもしれない!」という希望や、やる気に変わっていくプロセスを目の当たりにしました。この成功体験は、関わった誰を外してもなしえなかったと改めて思います。中でもキーパーソンとなったのが、栢森聡さん、早苗さん夫妻と、白井敦子さんです。 

 

保木公園愛護会、花壇エリアを担当している栢森ご夫妻は、園芸については初心者ながら、公園の花壇づくり試行錯誤されていました。自宅から水を運んで水やりをしていたのも、栢森さんです。プロジェクトの会議は、小島理恵さんがいて、毎回、様々なアドバイスや提案がされましたが、地元で相談できる人がいないことに不安を抱えていました。そんな矢先に、彗星の如く現れたのが、保木公園のすぐ近くに住み、園芸療法士として活動している白井さんでした 

 

12月の会議を終えて、皆さんと記念撮影。後列の真ん中にいるのが、栢森聡さんと白井敦子さん。前列右端が栢森早苗さん

 

植物のことが好きで、保木公園だけでなく近隣の公園の生態系にも詳しい白井さんが、12月の会議に参加してくれたことから、活動にぐんと勢いがつきました。白井さんは、美しが丘西地区にある障がい福祉サービス事業所「桃の実」で園芸に関わるサポートをしていて、同じく「桃の実」でアルバイトをしていた愛護会のメンバーからファンクラブのことを聞いたのです。球根の植え付けや堆肥づくりのコツを土木事務所の方から聞いて、みんなを指導してくれた白井さんは、栢森さんからも師匠と呼ばれ、2月にはファンクラブから、愛護会メンバーになりました。LINEグループでも、現場でも、花や緑の活動の先生的な役割を担ってくれています。 

 

この幸運は、他の地域ではなかなかないかもしれません。保木でのプロジェクトの展開に、正直、こんなにうまく進んでいいの?!と心配になるほどでした。でも、花が好き、自然が大好き、そんな人は区内にたくさんいるはずです。その人たちが地域活動に踏み出し、横のつながりが青葉区内に少しずつ広がっていったら、地域を横断し花と緑のコミュニティが生まれる可能性もあります。 

 

「地域の美化、花と緑の活動の活性化」という時、大事なことは、庭園のように手入れされた場所が増えることではなく、活動そのものを慈しみ、失敗しても笑いあえるような関係性が、地域で育まれることだと思っています。成功体験は人に自信を与えますが、どんな物事にも負の側面があることを忘れないように。思わぬところで、誰かの負担が知らぬ間に大きくなってしまわないように、ちょっと離れたところから、見守るあたたかな目の必要性を、プロジェクトを通じて感じました。 

 

今回、人と人の新しい関係性をつくっていくにあたり、私が気をつけていたことは、生の自分のままで、そこにいるようにするということでした。近隣住民ではありますが、美しが丘西地区の人々にとっては外部から来た人である私は、地域の皆さんの信頼を得る必要がありました。だからこそ、表面的な結果や成果に惑わされないように、この活動は本当に必要?本当に楽しい?と常に問いかけていました。 

 

こうして皆さんにご協力をお願いできたのは、「そこに住む人たちできっと何でもできる!」「青葉区の住民はすごい!」という根拠はないけれど絶対の信頼があったからだと思います。計画や進め方に誤解が生じた時には、会議以外の場個別に話をしたり、定例の掃除に参加して作業しながら話をして、関わる人や状況を整理しました。また、そうしたうまくいかないことも、なるべく隠さないように共通の場でやりとりするように心がけました。そうした試みは、区役所と森ノオトとの関係性をもポジティブなものに変えていったように思います。 

 

プロジェクトで得られた人や場所とのつながりは、事業が終わっても続きます。次のステップに踏み出した保木公園愛護会とファンクラブの活動を隣人として、程よい距離感から眺めていけたらと思っています。 

 

 

 

 

 

Information

保木公園愛護会 毎月第2日曜8:00-9:00定例活動日 

愛護会の倉庫に活動情報や連絡先等掲載されています。 

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この記事を書いた人
梅原昭子コミュニティデザイン事業部マネージャー/ライター
引き算の編集が好きです。できないこと、やりたくないことが多過ぎて消去法で生きています。徒歩半径2キロ圏内くらいでほぼ満ち足りる暮らしへの憧れと、地球上の面白い所どこでもぶらりと行ける軽さとに憧れます。人間よりも植物や動物など異種から好かれる方が格上と思っている節があります。
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