私がのりカップを知ったのは、6年前に観たテレビ番組でした。海苔製なので、おかずをカップごと食べられる。また、栄養も摂れてごみが出ないエコな商品として紹介されていました。当時、私は中学生になった息子の毎日の弁当作りが始まったばかりでした。食べ終わった弁当箱を息子が出さず、1日置いた発酵臭のする弁当箱を翌朝洗うことが悩みの種でした。弁当箱が空っぽなら、この憂鬱から解放されるかも、という点でも魅力を感じたのを覚えています。
そこから時を経て、ようやく今回、製造販売元の有限会社アネストの代表取締役宮田雅章さんと、統括マネージャーの市橋美和さんにお話を伺いました。森ノオトと同じ青葉区ということで、快く取材に応じていただけました。
日本中が驚いた「食べられるおかずカップ」
有限会社アネストは、弁当容器やおかずカップなどの食品包装容器や、日用雑貨品、包装材料、梱包資材を製造、販売している会社です。2003年に脱サラした宮田さんが起業しました。のりカップを作るきっかけとなったのは、2006年の包装資材の展示会です。休憩中の宮田さんに、宮城県の海苔屋さんから「大手居酒屋チェーン店が海苔で作ったカップを欲しがっています。板状の海苔でカップができませんか」という依頼がありました。当時、海苔を触ったこともない宮田さんでしたが、創業3年目で、新しいことにチャレンジしてみようと、前向きな気持ちで引き受けました。
それから1年後の完成までは、試行錯誤の毎日でした。一番の思い出は、海苔の選定です。「海苔屋さんから水分量の異なる海苔のサンプルが送られてくるんだけど、半乾きの海苔は、本当に生臭かったね。サンプルの海苔を熱でプレスして成型するのもなかなかうまくいかなくて。海苔の強度も色々変えて試しました」。11月から12月初めに取れる海苔は、初摘みといって、贈答用に使われる柔らかさで、高級な海苔になります。初摘みの新芽を海に戻して育てたものが、二番摘み。二番摘みの芽を戻して育て、三番摘み。この作業を繰り返し、3月に取れる五番摘みの海苔が、こしがあり、一番固い海苔となります。こうした、強度の異なる海苔のサンプルも色々送ってもらい、成形を試しました。「結果、スーパーで売っている焼き海苔が、カップの成型に一番良かったの。あんなに色々時間かけて試したのにね」
最適な海苔がわかっても、次は焼き海苔をプレスするときに割れてしまう、という問題に直面します。「原料は焼き海苔のみ。熱で成型するので、海苔が割れてしまうことにも苦労しました。他にも、熱をかけると海苔同士がくっついてしまうという課題もありました。そこで、海苔と海苔の間に薄紙を挟むことで、割れとくっつき防止ができたんです。1年かけて、ようやく製品化できました」と、宮田さんは開発当時を振り返ります。
宮城県の海苔屋さんとタイアップしたのりカップが完成し、海苔屋さんが居酒屋大手チェーンに持っていくと、即採用になりました。商品化できて、本当に嬉しかった、と宮田さんと市橋さんは口をそろえます。そこから、怒涛のメディア取材を受けます。大手ファミリーレストランのお子様ランチにも採用され、東急ハンズや生協など、販売網も広がりました。のりカップは、2012年にはかながわ産業Navi大賞など、数々の賞を受賞します。当時は30万枚売り上げる大ヒット商品として一世を風靡。今でも月に6,000~1万パック製造しています。
「人づくり・ものづくり」の担い手として社会に貢献する企業に
2011年まで、のりカップは、製造はアネストが行い、パッケージは宮城県の海苔会社さんの関連会社が行うという体制で作られていました。3月に、製造した1年分ののりカップを宮城県の志津川工場に送り、そこでパッケージをして、4月に出荷という流れで製造していました。2011年3月、のりカップを工場に送った後、11日に、東日本大震災が起こりました。宮田さんが志津川工場に駆け付けたときには、海岸線にあった工場は跡形もなく、のりのパッケージが散乱していたそうです。
元々2005年から、宮田さんは、横浜市内の数カ所の福祉作業所に製品のパッケージや箱詰めの仕事を依頼していました。企業の目的として、業績を社会や福祉活動に還元し、ともに成果に応じた分配をしようという考えがあったからです。しかし、のりカップに関しては、志津川工場で担っていた量を納期に間に合うようパッケージするには、今までの形態では難しかったため、株式会社アンビシャスを設立し、2016年3月に、就労継続支援A型事業所のクラーク川和を開所しました。就労継続支援A型事業とは、知的障害などのある方が事業所と雇用契約を結び、最低賃金以上の報酬を得て経済的にも自立して働くことのできる制度のことです(関連記事:ファール ニエンテ)。
「ボールペンやタオルの箱詰めだと、利用者さんにとって、自分が作業した商品とわかりにくいんです。でも、のりカップは、自分たちの行くスーパーや東急ハンズに売っているから、モチベーションがあがるんです。皆さんとても優秀で、パッケージが早い市原さんよりも手早い。また、管理者がしっかり管理してくれるので、今までクレームが1つもないんですよ」と宮田さん。「従業員の皆さんが、『のりカップ、売っていました』と報告してくれるんです。何年経っても、自分たちの商品が店に並んでいるのを見るのは嬉しいことです。社会の一員である、ということが実感できますから。私も、のりカップが店に並んでいると、今でも気分があがります」と市原さん。
従業員の方々の気持ちが込もった、のりカップの活用アイディアをお二人に教えていただきました。「海苔はパリパリ派」の人は、おかずをのりカップに入れてすぐに食べることがおすすめ。従業員のお子さんは、のりカップに納豆を入れると喜んで食べてくれるそうです。また、アーモンドフィッシュと溶けるチーズを入れて、レンジで30秒温めると、簡単おつまみに。また、パッケージ裏に記載のかき揚げレシピもおすすめとのこと。宮田さんは、「海苔はしっとり派」。のりカップに一口大に丸めたおにぎりやちらし寿司を入れるのがお気に入りです。海苔とごはんが一体化してから食べるのがおいしいそうです。「パリパリ派の人は、丸く握ったおにぎりにのりカップをかぶせて帽子にしては?」と市原さん。
パリパリ派の私。しっとり海苔のおいしさに目覚める
私は、海苔はパリパリ派なので、アボカドとクリームチーズをのりカップに載せて、すぐに食べてみました。別の日には、パッケージのレシピのマッシュポテトを載せて食べてみました。でも、のりカップの海苔は、お店で食べるラーメンに使われるような厚みがあり溶けない海苔なので、食感は固めで、私には少し噛みきりづらく感じました。
息子のお弁当には小さかったので、私のお弁当にのりカップを使ってみました。食べるときには、のりカップはしんなりして、おかずと一体感があったので、すぐに食べるよりもおいしかったです。箸だと滑りやすいミニトマトも、のりカップと一緒だとつまみやすかったのは発見。ミートボールのタレは海苔には浸みますが、弁当箱には染み出ていないことに驚きました。炒め物はこぼすことなく食べやすかったです。適度に水分を含んだ海苔は、嚙み切りにくさは全くありませんでした。のりカップは、しっとりした海苔を食べることを前提に、合う食材を入れるとおいしく食べられると感じました。お子さんがのりカップのお弁当を完食したというお母さん方の喜びの声をアネストのホームページでたくさん目にしました。私自身も、食べ終わった後の何もない空っぽのお弁当箱に爽快感を覚えました。
まとめ
添加物無しで、国産の上質な焼き海苔のみで作られたのりカップ。製品そのものがごみにならないので、環境に優しくエコであることはもちろんですが、障がいを持つ方の自立支援にもつながっていることがわかりました。持続可能な地球環境の保護や社会づくりを考えたとき、SDGsの精神に則って頑張っている地元企業の商品を選んで買いものをする、という選択も、私たちができる SDGs の活動だと、改めて感じました。
のりカップは、オンラインショップの「アネストショップ」や東急ハンズで販売中です。また、宮田さんの地元・横須賀市を中心としたスーパー「エイビイ」では、横須賀市走水産の海苔を使ったのりカップが不定期で販売されているとのこと。地産地消ののりカップも、ぜひ食べてみたいです。
生活マガジン
「森ノオト」
月額500円の寄付で、
あなたのローカルライフが豊かになる
森のなかま募集中!