春は入学式や入社式があり、新しい生活が始まったばかりの人たちが街にあふれています。わが家でも長女が高校に、長男が中学に入学しました。新しい環境に飛び込んでいく彼らは当然、日々「初めて」のことを体験しているわけですが、そんな子どもたちの姿を見るのは私にとっても「初めて」のことだなあと、親としての毎日を噛みしめる今日この頃です。
「初めて」の形は様々です。うれしい「初めて」もあれば、その逆に、うれしくない「初めて」のこともあります。どんな「初めて」に出会っても乗り越えていける、自分を信じる「大丈夫」の心を持ってほしいなと思います。
味方が近くにいるだけでも「大丈夫」
4月になると大泣きしながら幼稚園の送迎バスに乗せられていく子どもを見かけます。「がんばれ!すぐに楽しくなるよ」と心の中で声をかけますが、なだめているママも辛いですよね。
私の息子も、園バスに乗る時に、大泣きしたタイプです。「子どもが幼稚園に行ったらやっと一人の時間が持てる。コーヒーでも淹れてゆっくりしよう」なんて考えていましたが、あまりに激しい泣きっぷりを見て、そんな気持ちも失せました。帰ってきてもいじけ顔の息子のために、私が考えた作戦。それは「見守りママ」と名付けたフエルト人形を作り、息子のリュックに縫い付けることでした。そして、「これはママだからね。いつも〇〇くんのことを見守っているよ。さみしくなったらこのお人形をギュってするんだよ。」と伝えました。その効果か、翌日、息子は大泣きせず、(半べそはかいていましたが)園バスに乗ることができました。その後も「見守りママ」の仕事は一年ほど続きました。
さて、この絵本にも心強い助っ人が出てきます。『ラチとらいおん』(マレーク・ベロニカ/ぶん、え とくながやすとも/やく 福音館書店) 弱虫のラチにらいおんが勇気をくれました
せかいじゅうでいちばんよわむしのラチは、怖いものだらけで逃げ出してばかりです。ラチは強い「らいおん」がいてくれたら何も怖くないのになあと思っていました。そんなラチのところへ小さな赤い「らいおん」がやってきます。「らいおん」は小さいのに力持ち。ラチのことも押し倒してしまいます。「らいおん」はラチが強くなれるように毎日一緒にたいそうをしてくれます。そのうちに、ラチはらいおんがいると思うだけで、勇気が出て、今までできなかったことが次々とできるようになります。そして、強くなったラチはのっぽのいじめっ子に立ち向かいますが……。
子どもは絶対の味方が近くにいるだけで「自分は大丈夫だ」と自信がつくのかもしれません。ことあるごとに「ママは〇〇ちゃんの味方だよ」と伝えてあげたいですね。
「大丈夫」はこんなところからも生まれる
心の中の「大丈夫」を育つのは優しい言葉とは限りません。意外なタイミングで心に「大丈夫」が根付くこともあります。
これは9年前、小学校に入学したばかりの娘のクラスに入って読み聞かせをした絵本です。娘は消極的なタイプ。なんとか、勇気を出してお友達の中に入っていってほしいなと思って選びました。新1年生に「不安なのはみんな一緒。大丈夫だからね。」という気持ちを届けたくて読みました。
なかなかみんなと話すことのできないリナは、「おさんぽえんそく」に行った時、野原で不思議なお店を見つけます。それはのねずみやカエルのお店。お金の代わりに言葉遊びで商品が買えます。初めはもじもじしていたリナですが、小さな動物たちのペースに乗せられて、言葉遊びをしていくうちに縮こまっていた心もだんだんと緩んでいきます。そのうち大きな声で歌も歌えるようになって……。
勇気が出ないとき、落ち込んでいるとき、周囲が温かい言葉をかけてくれても「言われなくてもわかっているよ……」と言葉だけが自分の前を素通りしてしまうことがあります。そんなとき、自分のことなんかお構いなしに進んでいる世界に触れることで、心の中に変化が生まれ次の一歩を踏み出せるきっかけになることも。
緊張や不安で押し潰れそうな子どもたちに読んであげたい絵本です。
困ったことがあっても「大丈夫」
初めての電車通学のわが家の娘。ようやく慣れてきたかなと思っていた3日目の朝、降りる駅を電車が通過してしまったと連絡が入りました。各駅停車の電車しか停まらない駅で降りなくてはならないのに準急列車に乗ってしまったそうなのですが、そのことを伝えていなかった私のミスでした。
まだ新しい学校で緊張している中、悪いことをしたなと反省する気持ちと、何事も経験だよね、よかったわねと、なぜか満足する気持ちが心の中で同居するような出来事でした。
さて、こちらのお母さんは子どもたちに気をつける点をしっかりと伝えたのに、想像以上のことが起こってしまいました。
皆さんもご存知のグリム童話です。
ある日、お母さんやぎは食べ物を探しに行くために、こやぎたちにお留守番を頼みます。お母さんはこやぎたちにおおかみの恐ろしさを伝えます。そしておおかみの声はしわがれていること、足は真っ黒だからそこで見分けて、決してドアを開けないようにと念を押して出かけます。
こやぎたちはお母さんの言いつけをきちんと守り、おおかみを追い返しますが、悪者おおかみの方が一枚上手でした。おおかみは声をきれいにし、黒い足を粉で白く染めてきたのです。そうとは知らないこやぎたちはドアを開けてしまいます……。
お母さん、もっと細かく注意点を教えてあげればよかったのに。なんて考えてしまいましたが、このおおかみの悪智慧はお母さんの想像を超えていました。親が全てを守ってやれるわけではないのですね。
こやぎたちはついにおおかみに食べられてしまいますが、一番弱い存在のすえっこのこやぎだけはおおかみに見つからず助かりました。その後、帰ってきたお母さんとすえっこのこやぎで兄弟たちを助け出し、みんなで協力しておおかみを退治します。めでたしめでたし。
小さなすえっこが活躍するこのお話は、絵本を読んだ子どもたちに「困ったことがあっても大丈夫。小さくたって大丈夫。きっと解決できるよ」と勇気を与えることでしょう。そして、私たち母親には子育てのヒントが……。
「そのやぎが こやぎたちをたちを かわいがることといったら、どのおかあさんにもまけないくらいでした」と書かれています。これは、
「子どもは、愛情たっぷりに育てていれば大丈夫。そうすれば、賢く育ち、困難を乗り越える力が身につくよ」というメッセージなのかなと感じました。
最後にはお母さんとこやぎたちみんなが協力して悪者をやっつけるというのもスッキリ、気分爽快なお話です。ちょっとしょぼくれている心にも元気を分けてくれそうです。
こういうお話を知っているだけでも心が少しずつ強くなれるかもしれません。昔話っていいなあと思います。
「大丈夫」が育つには個人差があるように思います。すぐに環境になじめない子は不安でぐずったり、わがままになることもあるかもしれません。そんなときは、ぎゅっと抱っこしてあげて、絵本をどうぞ。気分を変われば話も通じやすいですよね。
身近な家族がしっかりと自分を受け止めてくれることがわかれば子どもの心の中にしっかりと「大丈夫」が育ってくるように思います。
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