「桃山商事」代表清田隆之さんがやってくる! ~6/26アートフォーラムあざみ野で子育てトークイベント~
「恋愛とジェンダー」をテーマにコラムやラジオなどで発信している恋バナ収集ユニット「桃山商事」の清田隆之さん。双子を子育て中でもある清田さんを講師に招いた「よかれと思ってやったのに~リモート時代の俺たちの子育て~」というトークイベントが、男女共同参画週間中の6月26日(土)にアートフォーラムあざみ野にて開催されます。講師の清田さんに、育児を通じたジェンダーにまつわるあれこれをお聞きしました。

「よかれと思ってやったのに…」。夫婦間のコミュニケーションでそんな気持ちになったことがある人は多いのではないでしょうか?私自身、日常のささいなことから本質的な問題まで、しょっちゅうそんな風に思っています。向き合ったほうがいいとわかっていても、夫の言葉や行動が意味不明すぎて何から手をつけたらいいのかわからない。私も毎日忙しいし、なんとなく放置して過ごしてきてしまったので、気が付いたときには後戻りできないぐらいすれ違っていた、というのが最近の私達。今回の講演会のタイトル「よかれと思ってやったのに」にハッとして、思い切ってインタビューを申し込みました。

お忙しい中、快くインタビューをお受けいただきました。緊張の面持ちな私です(上の小さい画面左から2人目が私)

「たまたま」はじまった、桃山商事

恋バナ収集ユニット「桃山商事」は清田さんが大学生のときに、たまたま始まりました。入学した学部は男性が少ない環境で、お昼休みや授業の合間の話題は恋愛の話がほとんど。そのうち、「男子の意見も聞かせてよ。」と相談されるようになり、中高男子校で女性との接点が少なかった清田さんは、自分の友人とともにその相談に乗るようになっていきました。そのうちに、恋の愚痴や失恋の話を聞いてくれる男性たちがいるらしいと口コミで広がり、色んな人から相談の依頼が来るようになりました。

 

―現在の活動についてお聞かせください。

 

清田:恋バナが1つ軸ですが、話に来るのが異性愛者の女性がほとんどで、彼氏とか夫とかアプリや合コンで知り合った人とか、恋バナに出てくる男性たちのエピソードを聞くにつれ、だんだんそこに共通点が見えてきて、さらには「自分も似たようなことをしたことがあるぞ……」という気持ちにもなってきました。特に2017年の「#MeToo」ムーブメント以降はジェンダー問題への関心が高まり、自分たちの恋バナ収集活動と男性性の問題を考えることが接近してきたように感じます。今は恋バナの話を書くこともあるし、いろんな結婚の問題とか男性性を中心にジェンダーと社会問題と接続するようなところで執筆活動している感じでしょうか。

 
 

根本的な生活能力の不足。男女間の偏り、後ろめたさ。

桃山商事の活動や執筆活動を忙しくする一方で、現在子育てに奮闘中の清田さん。ご自身の子育てやパートナーシップについてお話を伺いました。

 

―2019年11月に生まれた双子のお子さんの子育中ということですが、苦労していることや大切にしていることをお聞かせください。

 

清田:家事育児の分担については、散々桃山商事の活動を通して女性たちの愚痴を聞いていたので、意識はもちろんすごく最初からしていたのですが、特に子育てが始まってから、家事能力の不足をすごく感じるようになりました。ありとあらゆる生活の部分を回していかないと育児ってそもそも成り立たないと思うんですが、それにまつわる経験値やスキルが足りておらず、妻との差を痛感しまして…。それでもやっぱり親になると、親って両親ともに命の責任者になってしまうから、それに必要な諸々の能力がないと責任をちゃんと果たしていけない。20代・30代、仕事とか趣味とか好きなことばっかやって、生活をおろそかにしてきたツケが育児が始まって一気にのしかかってきた。それをもう修行しながら同時並行で育児している、そういう実感があります。

 

清田さんと双子のお子さんの日常。(写真提供:清田隆之)

―パートナーとのお家での分担はどんな感じなんですか?

 

清田:両方とも在宅で仕事しているので、そんなに明確に分担をしているわけではないですが…。日々のことはもちろん分担はあるけど、なんていうんですかね。いきなり母子手帳、って渡されるのはお母さん。母親の方が、外から子育ての責任者としてみなされる役割をなんとなく任されてしまっていて。なんていうかそういう部分をリードしてくれているのは彼女だったりするので、自分としては負担の偏りを感じていて、後ろめたい気持ちがありつつやっているというのが正直なところです。

 

―後ろめたいって思うんですね…。

 

清田:何をもって50:50、対等なのかは可視化したり定量化したりは難しいかもですけど、自分の実感としては、どう考えたって向こうのほうが何か重いものを背負わされているように思ってしまう。出産に関してはほんとびっくりするぐらい自分の体には何の変化もなかったですし、体調は何も変わらなければ、仕事も普通にできてしまっていた。出産後も双子たちが母乳をなかなかで飲んでくれなくて、彼女は悩んでましたけど、一方の僕は「ミルクでいいんじゃない?」と簡単に思えてしまう部分があった。もちろんミルクで元気に育ってくれているし、なんの問題もないとは思っていますが、彼女の悩みの背景にはジェンダーの呪縛があったかもしれないと思うと、想像以上の重圧があったのかもなって…。

 
 

フェアネスとキャパシティと子どもと、永遠の課題

―わが家でも家庭内でのジェンダー問題、しょっちゅうでてくるんですが、それに気づいたときにどんなふうに向き合っていらっしゃるのですか?

 

清田:難しいですね…気づかされたときというのは男性として優遇されてる側にいるよなぁ、と実感することのほうが多いので。「やば、これ俺がやったほうがフェアだよね、でもなんとなく向こうが多めに担当してくれてる…フェアにするために自分がやるべきだけど…」って、頭では思ったりするんですけど、仕事全然進んでなかったり、締め切りが迫っていたり…それで「ごめんなさい!」と仕事を優先してしまう瞬間も正直ある。納得のいく落としどころを見つけて、それをシステムとかルーティンとかに落とし込んでどんどん改善していければベストだとは思うんですけど…常にキャパシティーとの戦いというか。例えば、引っ越しから1年近く放置されたままの段ボールとか全然あって、早く整理したいねって話してはいるんですが…双子育児のバタバタに加え、二人とも在宅ワーカーなので空いた時間は家の整頓よりも仕事が優先されがちになる。物理的な時間や体力のみならず、過ぎた締め切りをずっと抱えている状態だったりで、頭のキャパシティもパンパンで「まだ今はちょっと無理」みたいな棚上げしつつ…。必要最低限、とにかく生存に必要な子育てのこととか、優先順位の高いことっていうんですかね、そこでもう手一杯です。子育ても体の成長に加え、心と頭の成長を促す時期に差しかかってきました。丁寧にコミュニケーションをとれる余裕を確保しないと…という思いから今は仕事をセーブして半育休みたいな状態へシフトしているところですが、フェアネスとキャパシティーの問題と子どもどれだけ深く関われるだろうか、永遠の課題で、正解まだ見えないという感じです。

 

ー男性だと、そもそもそういう問題に気づけない人が多いと思うんですが、どうしたらいいのでしょうか?

 

清田:こういう話になると僕自身が気づいた男、超越したぜ、みたいになっちゃうのがあれなんですけど…。そもそも男は気づいただけでえらい、っていう大変低いハードルの設定になっているっていうことの問題もあるし。どういうスタンスをとったらいいのかっていうのは正直いつも迷います。別に全然完璧に自分ができてるって思えないですし。どうしたらいいんですかね。女の人の話を聞いて、あぁ、そういうことで悩んでる、とか、そういう問題があるんだ、とか知れば知るほどそのバランスの悪さとか男性である自分が立ってる土壌のいびつさとかに気づかされます。例えば日中のデパートの屋上の遊び場みたいなところに行ってみれば、9割位は女の人で。議員の数とか、重役の数とか、ありとあらゆるものを見れば偏りがあることは当然簡単に気づく。それに紐付いて、家庭をまわしたり家事育児を成立させるために、必要な仕事ってありますよね。それを誰がどれだけやってるのかっていうの可視化して見れば、明らかなバランスの偏りがあることはどう考えても明白だと思うんです。だから気づくこと自体は難しいことではない。問題はそのいびつさをどう受け止めるか。

 

―気づくのは簡単だけど、それをどう受け止めていくかっていう問題ですね。

 

清田:それらを突きつけられたとき、男性からすごいアクロバティックなロジックが出てくることがあると思うんですよ。「女の人は家のことをやるのが好き」とか「嫁は完璧主義だから家事に手を出すと逆に怒られる」とか「そういうのは能力がある人がやったほうが効率的」とか…。そういう謎の屁理屈を持ち出して都合の悪い状況から逃げようとしたり。アンバランスだなとか、もっと自分がやらなくちゃとか、有利な状態を手放さなくちゃいけないときとか、そういう状況に必ず直面しますよね。確かにそれには心理的に抵抗あると思うんです。そこで、それは元々おかしなバランスだったんだから当然やんなきゃだよなぁ、って思うか、今のバランスを維持するために、無理筋な屁理屈で現実を塗り固めてしまうか。ほんとにそこが分かれ道だなって思うんです。そういった問題を扱ったのが拙著『よかれと思ってやったのに 男たちの「失敗学」入門』(晶文社、2019)でした。アクロバティックな屁理屈こそ、女の人たちが抱いている「こいつ話が通じないな」っていう絶望の発生源なんだと思います。この現実をどう受け止めているのか、どう認識しているのか、ただそれを聞きたいだけなのに。

心に残る箇所ばかりで、付箋がいっぱいです。手前:『よかれと思ってやったのに 男たちの「失敗学」入門』(清田隆之著、晶文社、2019年)、奥:『さよなら、俺たち』(清田隆之著、スタンド・ブックス、2020年)

手つかずの問題がある、という感覚

ー男性がジェンダーを語る難しさがある中で、それでも向き合ってらっしゃるのは、どういった思いがあってでしょうか?

 

清田:いや、そんな立派な理由があるわけでは本当にないんですが…ジェンダーの問題を考えるの自分自身について考えることと同義で、それは社会の問題にも接続されていく。そのプロセスが発見と学びに満ちているというのも大きいかもしれません。自分はシスジェンダー(割り当てられた性別と性自認が一致)かつヘテロセクシュアル(異性愛者)で、いわゆる「マジョリティ男性」に属していると思うのですが、いわゆる“普通の男性”ってわかるようで実はよくわからない…みたいな存在だと感じます。普通とされてるものは特別言語化する必要がないから、自分自身とは何者か、男性であることをどう思ってるか、考える必要性に直面しなかったりする。社会人として健康で働いていて、結婚して子どももいて…という人生であったらなおさら、なぜあなたは子どもを持つのですか?なぜあなたは会社に行くんですか?などと聞かれることはまずない。で、聞かれないから考えなくていい、っていう状態が続いていき、自分の発する言葉やとった行動の意味や原理などを説明することができない。このことがいろんな問題をストップさせてしまっているように感じます。そこの部分のメカニズムやなんやを言語化していくことが少しでも何かの役に立てたらいいなとは思っています。

 

―今回アートフォーラムあざみ野でのトークイベントは事前に質問を募集されているそうですが、どんなお話をされるのですか?

 

清田:何を話すのかっていうのは、今集めていただいているエピソード次第っていうところもあります。集まったエピソードに対してどう掘り下げていくかがメインになるので、あらかじめこのことを伝えようっていうのがあるわけではないんです。むしろそのエピソードの方が主役だったりするんで。ちょっとびくっとするようなことが多いかもしれないけど、他者の事例として、少し安全地帯から眺めることができるので、他山の石として参考にしつつ、これはあとでそっと改めよう…とかそういうこともできるかなと思っています(笑)。
世の中にはいろんな問題事件が起きているし、それは個々の性質やキャラクターによるものも多いけれども、同じような問題がいろんなところで同時多発的に起きている。それを生み出す構造の問題があるし、それに関しては社会の問題として考えていく視点も大事だと思います。
個人の生活に具体的に役立つ何かを持って帰ってもらえたらいいなと、思うのと同時にそれらを作り出している社会背景についてみんなと一緒に考えられたらいいなと。それは多分政治とか経済とか関わってくる問題だから、そうなってくると今後皆さんの投票に対する考え方に何か影響していくかもしれないし、政府とか自治体との関わり方とか、何か声を上げていくっていうことにも変わっていくかもしれないし、SNSで発信することにつながるかもしれない。社会とか公共に対する意識とかとも接続していけばいいなと思っています。そんな大それた話ができるかはわかりませんが…(笑)。

 

(インタビユーを終えて)

インタビューの数日前、夫から「これまで『存在そのもの』を認めるという考え方がなかった。」という衝撃発言がありました。パートナーである私の「存在そのもの」を認めることはもちろん、自分自身の「存在そのもの」についても考えたことがなかったそうです。この話を聞いたときに、違う惑星の生き物なんじゃないかと思うぐらい衝撃を受けたんですが、清田さんの著書を読んだり、インタビューを通してお話を伺うなかで、「普通」の男性にとってよくあることなのではないかと気づかされました。
そして、それに気づいた彼は、新しい世界の扉を開けたかのような、清々しい表情をしていました。そんな彼を見て私は、「素直な人だなぁ…」と苦笑してしまいました。

 

パートナーそれぞれが自分の人生を歩んできていて、なかなか自分が考えるように変わってもらうことは難しいと思います。だからといって、どちらか一方が我慢したり、あきらめたりするのも、せっかく人生をともに生きる人としてつまらない、と思います。それぞれを変えることはできなくても、「関係性」をお互いで歩み寄りながら変えていくことはできる。
皆さんのエピソードと、清田さんの豊かでユニークな言葉が、お互いの「関係性」を発展させる、そんなきっかけを気軽な感じでつくってくれると思います。
「関係性」を発展させたい私は、夫と一緒に参加します。

 

Information

清田隆之さんトークイベント
よかれと思ってやったのに~リモート時代の俺たちの子育て

日時:2021年6月26日(土)13:30~15:30(13:10開場)
会場:アートフォーラムあざみ野2階 セミナールーム
参加費:1,200円
定員:60人(新型コロナウィルス感染症拡大防止対策として間隔をあけて座っていただけるよう定員数を調整させていただいています。)
申し込み:電話・来館・HPにて先着順
電話:045-910-5700
HP:https://www.women.city.yokohama.jp/a/event/18030/

※ご来場の際は必ずマスクの着用をお願いいたします。
※新型コロナウィルス感染症の拡大状況や、荒天・天災などによって本イベントは中止・延期する場合があります。

 

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この記事を書いた人
松田朋子ライター
神奈川県逗子市在住。約12年間、猛烈サラリーマンを経験。出産を機に仕事以外への視野が広がり縁あって森ノオトライターに。ワークライフバランス、子どもの教育、食や健康に興味あり。趣味はヨガと海。
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