おもちゃと子育て 第1回〜いいおもちゃってどんなおもちゃ?〜
「あおばおもちゃのひろば」は、子どもたちが自由におもちゃで遊びながら、障がいの有無をこえて豊かなコミュニケ-ションを育むインクルーシブひろばになることを願って活動しています。ひろばで出会った親子、おもちゃ遊びの様子を、ひろばのおもちゃのご紹介をしながらお伝えします。

文=あおばおもちゃのひろば代表・池上信江/写真=あおばおもちゃのひろば 

*このシリーズでは、「子どもを育てる」現場の専門家の声を、毎月リレー方式でお送りしていきます。 

 

あおばおもちゃのひろばには約500点を越えるおもちゃがあります。その中で約200点貸出しができるようになっています。 

 

「いいおもちゃってどんなおもちゃですか?」と聞かれることがあります。 

う~ん。ひろばのおもちゃはどれも大好きだし……。「媚びないおもちゃ!かなあ~」と答えているように思います。 

「えっ媚びないおもちゃって?」。そんなふうに思われるかもしれませんね。逆に媚びているってどんなふうかとお伝えするとしたら、宣伝に引きつられて何かを買ってしまうように、おもちゃの魅力よりおもちゃについている付加価値が前面に出ているようなといったらいいのかしら。例えばキャラクターデザインがついているとキャラクターに引きつられてしまうような……。 

 

それでは、そこにあっても、あまり引き付けられないようなおもちゃがいいの?っていうことになってしまいますよね。確かに自己主張をしないおもちゃもひろばには多いかもしれません。だからまずは手に取ってもらえるように、お子さんをイメージしながらおもちゃを出していきます。私たちからも「このおもちゃはね」とお話をすることもあります。自分で触ってみて、動かしてみて、気づくとお子さん自ら遊んでいるおもちゃがあると、やっぱりいいおもちゃって、主体的に遊べるおもちゃなのかな?と思います。ひろばに来てくれた親子が「おもちゃで遊んだ!」という気持ちになって帰ってもらえたらと願って活動しています。 

 

このコラムでは、あおばおもちゃのひろばにあるおもちゃを通して、みなさんとおもちゃあれこれ、子育てあれこれをお話できたらと思っています。 

 

 

1.ハンドインハンド 〜つながるいろいろあっていいよね。 ゲームするって楽しいよ。〜 

 木製のカードに世界中の子どもたちが描かれています。その手と手をつないでカードをつなげていきます。おもちゃのジャンルとしては、「ゲーム」になっていますが、ただただつなげていくことだけなので、小さいお子さんとはゲームとしてではなく絵本を読み進めていくようにお話をしながら楽しむことができます。 

また、帽子の絵が描かれたサイコロと、女の子と男の子の絵が描かれた2種類のサイコロがついています。 

それを振ることで、指示されたカードを見つけていくことができます。帽子のかぶった女の子はどこだろう?帽子のかぶっていない男の子はどこだろう?お子さんといっしょに探すのも楽しいですよ。 

ドイツのセクレタ社のハンドインハンド。6センチ四方の木のカードが36枚、サイコロが2つ入っています

ゲームに発展させるときは、カードを配り持ちカードの中からサイコロを振って指示が出た絵のカードを、場に出していき、手をつなげて一番長く子どもたちが手をつなげられた(カードを出せた)人が勝ち!というルールにすることもできます。 

 

こう書くと、えっゲームのルールってそんなのでいいの?と言われてしまいそうですね。 

そうなんです、このカードゲームは遊ぶお子さんのできそうなルールにして楽しんでもらえるのです。 

「ゲームを始めたいと思うのですが、どんなゲームがいいですか?」と聞かれるとお勧めしたくなっちゃうのがこの「ハンドインハンド」です。 

 

ゲームってルールを理解したり、順番を待ったり……。子どもたちにとっては大変なことなんです。 

難しかったらいやになっちゃうのは当然。だから、初めはサイコロなしでもいいですし、1つだけサイコロを使ってもいい。持ちカードをするのもまだわからないというお子さんには、神経衰弱のようにひっくり返してめくってもいい、なんでもルールでゲームとしても成り立ちます。小さいお子さんには「ゲームができた!」という思いが大事です。「ゲームをするって楽しい~」と思ってもらいたいです。 

 

私が「ハンドインハンド」が好きな理由がもう1つ。 

世界のいろいろな地域の子どもを想像できる絵で、お洋服の色も髪型もさまざまになっています。みんな仲良くしましょう、なんて大人の思惑なんて何もいりません。子どもであるということだけがいっしょ、あとはいろいろあっていいね、そういう環境がそこにあるのが好きです。 

でも残念なのがおもちゃとしては廃番のようです…。ひろばには、貸し出し用もありますので、ぜひ「ハンドインハンド」を見にきてください。 

 

 

2.ケルンボール 〜笑顔を見たい 泣く子も泣き止む〜 

 ひろばにはお座りがこれからのお子さんとお母さんも来られます。お子さんがゴロンとなってから、おもちゃのお話を始めます。  

そのときに登場するのが「ケルンボール」です。10色の虹色のボールが円盤についています。 

虹色のボールがまわると、子どもたちはみんな、ボールの方に吸い込まれるように見ます。 

そして赤ちゃんの顔はフワッと柔らかいお顔になります。 

ひろばでは、赤ちゃんが泣いてしまってお母さんが困っているところへ、ケルンボールを持って行き、くるくるとまわしてみます。あら不思議。今泣いていた赤ちゃんが、やっぱり笑顔に。 

 

お母さん、お父さんにとって、最高の幸せはお子さんの笑顔ですよね、一生懸命にお子さんをあやしている姿を見かけると、私たちも微笑ましく思います。でも子育てって本当に大変ですよね。この前までは大人だけの生活、言葉で通じることも赤ちゃんには通用しません。あやしたって泣き止まない。 

子育てをしっかりしなくては、だから赤ちゃんの時からいいおもちゃで遊んであげなくては…という焦りもあるのか、親御さんはいろいろなおもちゃを選んでは、赤ちゃんに差し出す、でもおもちゃに反応してくれない…。逆に不安が募るだけ……。 

 

そういう時にはやっぱり私はケルンボールをお勧めします。ゆっくり回るケルンボール。まわるケルンボールを見ていた赤ちゃんは、ボールを「触りた~い」「つかみた~い」と、いろいろな気持ちが自然と出てくるようなおもちゃです。ゆったり流れる時間とお子さんのケルンボールを見る姿は、頑張るお母さんに「慌てなくても大丈夫よ、お子さんはしっかり成長していくから…」と知ってもらえるのでは…と私は願っています。 

童具館(日本)のケルンボール。赤ちゃんが手を伸ばしてきて…

赤ちゃんが初めて出会うおもちゃは、ケルンボールのような球形がいいそうです。赤ちゃんがフワッと触れる形ですよね。ケルンボールは1つずつボールを外せるので、ボールが握れるようになった赤ちゃんには、ひも側をお母さんが引っ張って、1つのおもちゃでやりとりをすることもできますよ。言葉がなくたってできる親子のコミュニケーション、私はとっても大事な営みだと思います。おもちゃにお手伝いしてもらってできます。  

 

 

3.転がるおもちゃ 〜子どもの成長に気づく〜 

 ひろばにはいろいろな転がるおもちゃがあります。 

くるくるチャイム・シロフォン付き玉の塔・ニックスロープ・クーゲルバーン・トレインカースロープ……。 

 

この中で、「トレインカースロープ」のお話をしましょう。 

 

トレインカースロープは、単車や連結車がスロープを滑っていくおもちゃです。このおもちゃはひろばにはほぼ毎回出していますので、ひろばに来ていただいた親子はきっと一度は遊んだことがあるのではないでしょうか?そしておもちゃ屋さんでも目にすることの多いおもちゃだと思います。 

 

お座りができるようになると、お母さんがお子さんの前に持ってきてあげるのを見かけます。  

このおもちゃは、私たちがお子さんの成長を感じさせていただけるおもちゃの1つです。特につかまり立ちをする頃からしっかり歩くようになる頃は、手先の器用さや心の成長もよくわかるおもちゃです。 

車がカタカタと言いながら降りていくのは、みんなの目をひきます。でも小さなお子さんにとっては、車がスロープを滑って下まで行くには結構な時間がかかっています。始めから最後まで追えるってかなりの集中力です。「うちの子すぐ飽きちゃって!」というお母さん、いえいえできなくて当たり前です。 

 

少しずつ長い間を追えるようになると、今度は転がってくる車に手を出して取りたくなっちゃう、大きな反応ですよね。でも転がる車をキャッチできなくて悔しがるお子さん、それも微笑ましく見ています。今度は自分でスロープに車を乗せたい!でもしっかりスロープに乗せてスタートすることは、もうちょっと時間がかかります。そこで少し手を貸してあげましょう。スロープに乗せる感覚がわかると、子どもたちは誇らしそうな顔をします。自分で頑張りましょう!も大事ですが、遊ぶ前にその楽しさがわからないで嫌になってしまうのはもったいないです。 

ベック社(ドイツ)のトレインカースロープ。車の動きは子どもたちの興味の的

だいぶできるようになると、やっぱり連結車を自由に扱いたいという気持ちになります。長い連結車をスロープに乗せるのは、両手を器用に使う必要があります。自分でこうしたい!という心の成長もしっかり見せてくれるおもちゃです。 

 

何気ないお子さんの成長も、しっかりしたプロセスがあります。お母さんにはお子さんの「できた・できない」という端的なことではなく、この前できなかったことができるようになったことや、「今こんなことができるんだ!」っていったお子さんの今を気づいてもらいたくって、お子さんの成長を言葉でお伝えします。お子さんのことを知るって大事ですよね、おもちゃ遊びの中にもお子さんのことを知ることができます。私たちにとってトレインカースロープは、親御さんとお子さんの成長のお話を共有できるおもちゃです。 

 

 

4.    プラステン 〜自由に子どもの発想で遊ぶこと〜 

プラステンは、木製の5本の棒と5色のリングが各10枚、サイコロやひもが付いたシンプルなおもちゃです。このおもちゃと私が出会ったのは、娘が通っていた療育センターのお部屋でした。娘には知的障害があり小さい頃は定期的に発達の相談や子育てのサポートをしてもらっていました。プラステンは、様々な発達の状態を知ることができるからか、その頃はよく療育の場面で使われていました。棒にリングを入れられるか、色の概念ができているか、正しく指示通りにできるか…。その時その時の娘のでき具合に一喜一憂していたことを思い出します。娘は指示通りにしないことを指摘されたり、もっと遊びたいという時に「もう終わりね」と下げられてしまいちょっと不機嫌になったこともありました。 

NICE社(ドイツ)のプラステン。だれかがデザインしたのですね。ひろばではあっと驚かされる素敵な作品が残っています

ところが当時よく行っていた横浜ラポールのおもちゃ図書館でプラステンを手に取った娘は、色とりどりのリングを好きなようにはめ込み、ストーンと入った感覚が楽しかったのか、思い通りに遊べたからうれしかったのか、まったく違った表情を見せてくれました。そこには療育センターでわが子が評価されているのを見ている不安げな私と違って、どんな遊び方をしてもいいよという心のゆとりがあったのかもしれませんね。 

 

こんなに1つのおもちゃで楽しめたことはこのころはあまりなかったので、親としてもとてもうれしかったことをついこの前のように思い出します。 

プラステンは、子どもにとっていいおもちゃと出会うこと、同時に心豊かな時間が必要なことを教えられたおもちゃといえると思います。同じおもちゃでも、子どもにとっては全く違ったおもちゃのように思ったのではないでしょうか?  

実はプラステンはひろばのロゴのもとになっています。プラステンのリングのうちの赤、緑、黄色、青でちょこっと跳ねることでaobaと形作っています。みんないろいろあっていいよね、というメッセージが入っています。あおばおもちゃのひろばの活動の思いです。 

 

 

ここでもう少しプラステンの遊び方をご紹介しておきます。リングだけで、おままごとの具材にしたり、おはじきのようにして遊ぶこともできます。付属のひもでリングの穴を通してつなげたり、色サイコロの出た色だけリングを差し込んでいったり、自由自在です。棒への差し込み次第ではかなりのアート作品も出来上がります。 

遊び方が指示されていない「自由に」というおもちゃは、大人としては難しさがあります。ここではお子さんが自由に遊ぶことを見守る機会、ある意味大人側の心のゆとりも感じてみては? 

はっきりした色、子どもが手に取りやすいサイズです 

今回寄稿をというお話を頂きました。そこの中に、子育てにまつわる現場の専門家という言葉があって、私でいいのかしら?という思いがありました。 

「あおばおもちゃのひろば」のスタートは、わが子が育っていく中で、自分が子育てをしていく中で、「あったらいいなあ~」「ないなら始めてしまおう!」という思いからでした。 

いっしょに立ち上げたメンバーも、子育て中の母親であり、子育てに関わる仕事をしているメンバーもいませんでした。その後、子育て支援という言葉が世の中で言われ始めるようになりました。でもやっぱり、私たちの活動は支援という言葉にはなじめないように思います。それは活動しているメンバーそれぞれが、自分の生活や大事にしている家族に向けてすることを、ひとまわり外側の人へ、それは自分といっしょに子育てをしている仲間たちであり、ひろばでは来てくれる親子へ(コロナ禍ではWEBひろばを見てくれる親子へも)、子育ち子育ての楽しさ、ある時は大変さを共有する活動だからかもしれません。 

 

そういった意味で私は専門家ではありませんが、ひろばを20年間続けてきて、ひろばで親子と過ごす時間、いっしょにひろばを作っているボランティアスタッフとともに考えてきたこと、活動を通して出会った方々と話題を共有してきたことを、おもちゃの紹介とともに少しでもお伝えできればと思っています。 

 

今年はひろば20周年yearでロゴもにぎやかです。

 

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<ボランティアグループ あおばおもちゃのひろば> 

活動拠点:横浜市青葉区市ヶ尾町1169-22 、青葉区福祉保健活動拠点「ふれあい青葉」内 

HP:https://sites.google.com/site/aobatoy/ 

Facebook:https://www.facebook.com/aobatoy 

Instagram:https://www.instagram.com/aobatoy/ 

20周年year Instagram: https://www.instagram.com/aobatoy20th/ 

ひろば通信:あおばおもちゃのひろば – おもちゃのひろば通信(new) 2021.12月号 (google.com)

 

 

<20周年イベント~みんなでつながろう!あおばおもちゃのひろば> 

日時:2022年1月29日(土)・30日(日) 

*20周年企画・大好きなおもちゃ投稿フォーム 

https://forms.gle/iQUfVQzMpm3Yefgr6 

  

森ノオト記事 

「おもちゃがくれる豊かな時間。ともに育ち、ともに育てる場 20年|あおばおもちゃのひろば」
https://morinooto.jp/2020/07/30/omochanohiroba/

 

 

<プロフィール> 

池上信江

———— 

次女が2歳の時、東京都大田区から横浜市に引っ越してくる。東京都の児童館のように子育て支援ひろばが横浜市にまだない時代、親子で遊び場を求めていたときに出会った親子サークル「青葉子育てのびのび広場」の仲間たちと2001年に「あおばおもちゃのひろば」を立ち上げる。障がいの有無を超えてさまざまな親子とふれあいながら、おもちゃの魅力と奥深さを知る。 

夫の海外転勤先で長女と経験した子育てひろば、帰国後誕生した障がいのある次女を育てることがきっかけで「さまざまな課題をもつ子どもたちとマンツーマンで学ぶ」、「障がいのある方たちの自立生活を考えるセミナー(障がい当事者セミナー)、就労を支える」など、子育てを通して経験し学び考えてきたことを、仕事や市民活動として行っている。 

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