コロナ禍前、カレー伝導師として活動する中尾真紀子さんが、地元・都筑区で主宰するカレー教室に参加しました。そこで教えていただいたターメリックライスは、カレーだけでなくほかの料理にも合うので私は定期的に作るようになりました。「カレーの黄色いしみは、カレーに含まれるターメリックの色素なので、紫外線に当てると薄まる」というカレーにまつわる豆知識もたくさん教わり、心に残っています。
コロナ禍にあっても、元々オンラインでの講座を視野に入れていたことから、形式を変えて早々に講座を継続した中尾さん。私が受講した、オンラインスパイス講座は、中尾さんの知識量と、わかりやすい言葉で説明する教え方のうまさに感動しました。
その中尾さんが手がけるのが、レトルトの「横濱野菜のスパイスカレー」です。なぜレトルト?そこに中尾さんの思いがたくさん詰まっていました。
会社員時代の中尾さんは、ソフトウェア開発、社内プログラミング研修講師として活躍されていました。特に研修講師は当時、天職だと思うほど楽しくやりがいを感じていたと言います。私が感じた、現在のカレー教室での教え方のうまさは、天性のものと、この時に培われていたものの両方です。出産を機にキャリアを捨て退職した中尾さん。時代は、「女性は子育てのためには家庭に入るべき」という風潮が残っていました。大学まで出させてもらったのに社会と関わりなく、ひたすらおむつを替えている自分の姿は親に申し訳ないとまで思っていたそうです。子育てのため家庭に入った10年間は、彼女にとって世間から置いていかれやりがいを失った、中尾さん曰く「引きこもりの暗黒の時代」だったそうです。
そんな中でも中尾さんは、家族の健康を考え、出汁はかつお節・昆布からとり、野菜をふんだんに使った食事を心がけていました。しかし、横浜市の食生活等改善推進員(ヘルスメイト)講座を受講中に中尾さんが作っている食事の野菜の摂取量を調べると、一日の摂取量(350g)から明らかに足りていないことにショックを受けます。忙しく働きながら家族の食事を作っている人はもっと足りていないのでは、と思うようになったそうです。このころから、手軽に野菜不足を解消するにはどうしたらいいかを模索し始めました。
中尾さんは子育てがひと段落するのを待ち、調理師免許を取得。その後、野菜ソムリエの資格も取得、さらに、横浜の「食」と「農」をつなぎ地産地消を広める活動を行うはまふぅどコンシェルジュにもなりました。
はまふぅどコンシェルジュになってすぐ、横浜市から「地産地消ビジネス創出支援事業」の募集があることを知ります。横浜市産農産物を活用して地産地消に貢献する事業の計画を立案し、その計画に沿って事業を実施するというものです。その事業に、横浜野菜をふんだんに使ったレトルトカレーを作ることを企画します。
中尾さんは、子育て時代の友人からカレー作りのスパイスセットをもらって以来、スパイスからカレーを作っていました。そこで、「嫌いな人が少ないカレーに野菜をたっぷり使ったら野菜不足が少しでも解消できるのではないか」と思つきます。スパイスは体の不調を調えてくれ、カレーは単品で満足いく 食事メニューなので、忙しい人にも受け入れられると考えました。
その企画を実現するため、株式会社カレー総合研究所のカレー大學へ入学し、カレーの歴史、調理学などを学びカレーの知識を深めます。講座の一環でインドの料理学校にも学びに行きました。
中尾さんの理想とする、家族の健康を担う人の子育てや仕事の負担を軽減しつつ、野菜不足を解消してくれるだろうレトルトカレーの商品化企画は、それまで培ってきたカレーや野菜の知識をすべて盛り込んだものでした。
しかし、実現までには大変な苦労がありました。
商品開発にあたり、試作品を作ってくれる工場探しから始めましたが、小ロットで中尾さんの厳選した材料を使うなどの要求を受け入れてくれるところはそうそう見つかりませんでした。やっと見つかった最初の工場では、個人事業者との製造の実績のないことから信用してもらえず、見積もりもなかなか出してもらえませんでした。これには心理的にもダメージが大きかったそうです。次に見つけた工場で、すぐに話が進み、中尾さんの理想とした商品が出来上がりました。
中尾さんのカレーには様々なこだわりがあり、工場のやり取りの中で取り入れてもらえるところと妥協するところがありました。出汁をしっかり取る食生活をする中尾さんにとって、カレーのスープは鶏ガラから作るところは重要で、お願いしてやってもらえることになりました。一方で、大量の玉ねぎを皮からむくのは時間がかかりすぎると相談され、皮をむいた国産玉ねぎを使うということで妥協したそうです。
横浜産の野菜の調達からスパイスの配合まで中尾さんが担っています。横浜野菜が揃う季節しか製造ができないため、工場の日程と野菜の時季の調整はいつも緊張するそうです。しかも、春と冬では同じ野菜でも違いがあり、その季節に合わせスパイスの配合を変えるというこだわりぶりです。スパイスは、コリアンダー、クミン、ターメリックなどお馴染みのものからアジョワンという、あまり聞かないスパイスまで多数使われています。野菜は、横浜の代表野菜である小松菜とキャベツ、その他人参、大根、トマトを使っています。根菜以外はほぼ溶け込んだ感じになっています。
こうして、一食で半日分の野菜(175g)が取れるレトルトカレーが完成し、2018年に「マサラモア」パキスタン風スパイスカレーとして販売を始めます。2019年には神奈川なでしこブランドに認定され、2020年に横浜らしさを前面に出そうと商品名を「横濱野菜のスパイスカレー」とし、現在のパッケージにしました。
「横濱野菜のスパイスカレー」は、一食で半日分の野菜を摂れることが大きな特徴です。さらに、ふたり分の商品もあります。これは、家族の食事になるものとして、親子や夫婦で食べることを考えてのことです。そして、辛さ調整のスパイスを別袋にして辛味をおさえ、子どもにも安心して食べさせることができるようにしています。
時間をかけずに安心して食べることができ、野菜不足解消の一助になる「横濱野菜のスパイスカレー」には、手間を省いても手抜き食ではない、お手軽だけど特別感のあるものという中尾さんの思いが詰まったカレーです。
実際、カレー教室で教えていただいたターメリックライスに添えてこのレトルトカレーをいただいてみました。野菜をたっぷりかつ十分煮込んでいることが見た目で分かります。欧風カレーのようにドロッとした感じはありません。刺激の強いカレーを食べ慣れている口からすると、なんともやさしい味です。別添えのスパイスを使ってみると、香りが増し、よりスパイシーになりました。
「横濱野菜のスパイスカレー」は、横浜地産地消マルシェやマサラモアのホームページなどで販売しています。はまふぅどコンシェルジュの仲間たちと始めた地産地消マルシェを運営する「横浜おいしんぼエンジェル」活動や、イベントへの出店など、中尾さんは積極的に活動しています。
レトルトカレー開発後、中尾さんは地元都筑区で、カレー教室を開きます。スパイスの基本を座学で学び、そのスパイスを使ったカレーや副菜を作ります。家に帰ってすぐ再現できるよう、そのメニューで使ったスパイス類は持ち帰ることができるよう配慮されていました。
今、中尾さんは子育てに専念していた時の自分に「こんな明るい未来が待っているよ」と言いたいそうです。天職だと思えるほどの仕事から離れ、子育てに奮闘した中尾さん。「暗黒の10年間」という言葉は、中尾さん自身が現在、ご自身が描いた「明るい未来」の真っただ中にいるからこそ出た表現だと私は感じました。今、かつての中尾さんのように暗闇の中で悩んでいる方、子育てに奮闘している人たちに「明るい未来が待っているから、今は子育てを楽しむことが大切だよ」と声を大にして言いたいと何度もおっしゃっていました。そんな中でも、家族の健康を考えながら、自分の得意なことを見つけ生かせば、ステキなセカンドキャリアになることを中尾さん自身が実証しているようでした。
マサラモア
URL:http://masalamore.yokohama/
中尾真紀子さんのFacebook: https://www.facebook.com/profile.php?id=100011695237574
「横濱野菜のスパイスカレー」が購入できる場所:
JA直売所の一部店舗、かながわ屋そごう横浜店、ラクシスフロントTSUBAKI食堂・ヨコハマメモリーズ、ファームドゥ地産マルシェ一部店舗、マサラモアのネットショップ
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