学校にマイ花壇を!「花壇の里親制度」を始めた横浜市立川和中学校を訪ねました
横浜市都筑区にある市立川和中学校でコロナ禍に始まった「花壇の里親制度」。子どもたちが笑顔になる活動をしたいと始まった、このユニークな取り組みについて、中心となって活動するキーパーソンたちに話を聞きました。

昨秋のある日、スマホを開いてSNSをチェックしていると、ある投稿が目に止まりました。全国のPTAに関わる人たちが情報交換をするコミュニティグループでの内容です。

 

「花壇の里親(Adopt a-Flowerbed)。Adopt-a 活動ってご存知ですか。公共の花壇や樹木などの公共の資源を住民に対して里子に出してお世話してもらう活動だそうで、米国では一般的らしいです。今回、学校花壇をAdoptする事にしました」

 

花壇の里親?学校の花壇で?しかも、私たちの活動する青葉区のお隣、都筑区の川和中学校での取り組みと知り、くわしくお話を伺いたいと思い取材を申し込みました。

 

川和中の正門。後ろに見えるのが体育館。最寄り駅は横浜市営地下鉄グリーンラインの都筑ふれあいの丘駅で、都田公園と緑道を挟んで隣接する

 

取材日、出迎えてくれたのは岩田和也副校長先生とPTA副会長の村上メアリーリーさん。お二人について校内を歩いていくと、授業中の生徒たちの声が聞こえてきます。

案内された先の花壇には、ありました、ありました。「花壇の里親募集中!」と書かれたプレート。その上に「貸出中」という言葉も添えられ、隣には水やりのジョウロが置かれていたり、里親さんのお世話の様子がうかがえます。よく見ると校内のあちこちに「里親募集中!」のプレートがあります。

 

現在7つほどの花壇が貸出中。花の少ない寒い季節の取材でしたが、お手入れされた花壇を見ると心が和みます。春を迎えるこれからの季節が楽しみ

 

シンボルツリーが立っている中庭、レンガ造りのような体育館、天窓のついた廊下、普通教室のある校舎もカーブ状になっていて、一般的な四角四面の校舎とは違う、まるで大学のキャンパスのような個性的な校舎に目がいきます。思わず、歩きながらキョロキョロしてしまいました。それもそのはず、「東京体育館なども設計した槇文彦さんという著名な建築家の方が設計されたんです」と岩田副校長先生。昭和55年の開校時、港北ニュータウン最初の中学校として、個性あるデザインをと設計されたのだとか。

 

岩田副校長先生(左)と村上メアリーリーさん。村上さんはPTA副会長のほか、川和中と都田西小の学校・地域コーディーネーターやその他、地域のさまざまなボランティア活動も務める地域をつなぐ人

 

花壇の里親プロジェクトは、コロナ禍で同校が休校だった時に、当時PTA会長だった増田智秀さんが校門前のプランターのお世話をするようになったことから始まったそう。希望する保護者にプランターを貸し出してみてはどうか、という増田さんのアイデアをベースに村上さんが、「私の出身でもあるアメリカでは、“adopt a ○○といって、日本語にすると○○の里親という取り組みがあるという話をしたら、その名称いいね、と話が進んだんです」。

 

増田さんのアイデアは、PTAや、学校地域コーディーネーター、学校への提案を通して2020年に小さくスタートしました。これまでは学校の用務員さんが管理していたという校内の花壇を、30ほどPTAに貸し出してもらうことに。また花壇の里親として手をあげてくれる方にはPTAから1,000円の奨励金を出して、苗などの購入にあててもらうことにしました。参加できるのは、大人でも子どもでも、ひとりでも親子でも、友だち同士や部活仲間でも、保護者もOBも地域の方でも、つまりだれでもウェルカム。マイ花壇に植える植物を自分で選び、植え付け、水やり、切り戻しなど、学校が開いていれば好きな時間に自由にお世話できる仕組みです。

 

「コロナ禍で学校行事もできないことが多くて、何か子どもたちの笑顔につながるようなことはないかとPTAのみなさんにも相談していました。こうした新しい取り組みを通して、保護者のみなさんにとっても、学校に足を運ぶ理由になるといいのではないかと思います」と岩田副校長先生。

 

2020年から始まったこの取り組みは、学校の広報などで保護者にPRしつつもまだまだ里親のなり手が多くないのが現状。里親を絶賛募集中です。

「花壇はまだまだ空いてます!日あたりが良い場所や目立つ場所も空いているので、みなさんにもっと使ってもらいたいですね」と村上さん。保護者にとっては、花壇のお世話をしながら、学校の雰囲気を感じたり、授業の様子をちょっと離れたところから見ることもできたり、わが子の普段の学校生活をのぞけるのも、いい機会として思ってもらえたら、とお二人は話されていました。

 

岩田副校長先生からはこんなエピソードも教えてもらいました。

「保護者の皆さまだけでなく、この制度に賛同して参加している生徒もいて、学校に来る楽しみの一つにもなっているようです。卒業してからも引き続き参加したいという声も聞こえてきて嬉しいです」。単に校内の美化・緑化だけではなく、じんわりとあたたかな芽が出てきているのかもしれません。

 

岩田副校長先生。赴任してきて2年目、物腰やわらかな語り口からは、柔軟な学校運営の印象を受けた。ぐるっとカーブする普通教室の棟を背景に中庭で撮影。PTA活動で参加される保護者には岩田先生による、このステキな校舎のツアーが特典として付いているそう。とてもうらやましい…

 

突然ですが、読者の皆さんはPTA活動にどのような印象をもっているでしょうか?

私自身も息子の通う小学校で、PTA副会長を経験して、学校に関わることにとても関心があります。やってみてわかるのは、PTA活動は基本的には前年踏襲のスタイルで、今までにない取り組みにチャレンジする、何かを変えるにはとてもエネルギーが必要です。

 

なので、川和中のこのユニークな取り組みにチャレンジできた背景には、きっと大きな熱量を持った人たちが関わっているのではないか。その背景を知りたくて、花壇の里親プロジェクトの仕掛け人たちにも改めて話を聞くべく再び同校を訪ねました。

 

右から増田さん、村上さん、藤田さん、土居さん

 

この日集合したのは、2020年度のPTA会長の増田智秀(ますだともひで)さん、2021年度のPTA会長の土居聖和(どいまさかず)さん、両年でPTA副会長をしている村上メアリーリーさん、学校地域コーディネーターの藤田信子さんの4名。この里親プロジェクトの立役者のみなさんであり、それぞれがPTA、学校地域コーディネーター、親児の会(おやじのかい)のメンバーとしても活躍しています。

 

私がSNSで偶然見つけた、花壇の里親制度の投稿をしていた増田さんは、「元々は地域や学校に関わるような暮らしをしていなかったので、10年前の自分と全然違う。すべてのきっかけは親児の会でした」と学校への関わりのきっかけを振り返ります。川和中では、元々「親児の会」(おやじのかい)の活動が活発なのだそう。名前の通り、父親だけでなく母親も参加できて、子どもたちの学校生活を支える保護者、地域の方々、学校とのコミュニケーションを深めるための活動で、PTAとは独立した活動です。

 

親児の会主催の校舎内のペンキ塗り「ペイントスクール」の様子(写真提供:川和中学校親児の会)

 

一方、PTA活動はこのコロナ禍で大きな変化が。本部役員と主要な役割だけを残して、常任の委員会を解散。活動単位で参加者を募集する「エントリー式」を導入しました。くじびきで委員を決めるようなやり方ではなく、保護者が主体的に関わってくれる方向に舵を切ったのです。その中で、学校の美化活動を「グリーンキーパーズ」と名付けて、その都度参加者を募集して活動しています。

 

グリーンキーパーズの活動の様子。ウェブの受付フォームで参加者を募る工夫も(写真提供:川和中学校PTA)

 

「今まではPTAPTA、親児の会は親児の会って感じで、それぞれ別の活動をしている感じだったんです。目的は子どもたちの学校生活が少しでもよくなるようにって同じもの目指しているので、バラバラなのはもったいないと思って」(村上さん)

 

ここ数年は、学校、PTA、学校地域コーディネーター、親児の会が情報交換をしながら、お互いの活動に分野をこえて参加したり、予算に余裕があれば他の活動に充てるなど、それぞれの守備範囲だけにとどまらない活動の広がりが出てきているのだそう。みなさんのお話を聞いていても「うちの花壇にさ、大きいかぼちゃ植えたいんだよね」と増田さんがつぶやくと、「クラス単位で大きさ競うとかもいいんじゃない?」とまわりもおもしろがって答える様子は、シンプルにこの活動を楽しんでいるのが伝わってきます。それぞれの役割がうまいバランスで機能している一つのチームのようにも見えます。

 

増田さんの里親プランター。各花壇はオーナーが自由に名前や看板を付けられる(写真提供:増田智秀さん)

 

地域活動のアイデアが尽きないといった増田さん。

「もちろんやりたいことが全部通るわけではないんですが、いろんな意見もふまえつつ、おとしどころも見つけていく。どんなに小さなことでも、自分がやりたい!と思ったことが実現すると、うれしいですよね。大人たちにも自己肯定感って大事だと思うんですよ」と増田さんが話すと、そこにいる残りの3人が「そうそう!自己肯定感って大人にこそ、だよね」と強く頷いていました。気負いのないみなさんの軽やかな活動の捉え方に、聞いているこちらまで「次はどんなアイデアが出てくるんだろう?」とワクワクしました。

 

みんなで花壇の様子をチェック

 

新しい取り組みをスタートできる背景。それは変化を柔軟に楽しむ姿勢と、思いを同じくする人たちがゆるやかに横につながることがポイントなのではないか、今回の取材を通して感じたことです。

 

森ノオトではこれまでに、フラワーダイアログあおばという青葉区との協働事業を通して、青葉区内の公園愛護会活動や自治会・町内会での活動を数多く紹介してきました。取材をしていく中で一番多く感じている課題感は、子育て世代にとってそうした地域への活動に関わりを持つことは、時間的にも気持ち的にもハードルが高いということ。関心があったとしても、一歩を踏み出すのに躊躇してしまうという話をよく耳にします。

そうした中で、子育て世代にとって、PTAや、親児の会といった保護者同士のつながりの中で生まれる活動が、地域活動のデビューの場として位置付けられたとしたら、将来的にほかの地域活動にも踏み出していけるのではないか、とヒントをもらったような気がしました。

 

お隣の都筑区で、学校や地域での活動を可能性の広がる場として捉え、新しいチャレンジをしている方々に、刺激を受けた取材となりました。まだまだ始まったばかりの川和中学校の「花壇の里親制度」。学校花壇を自分ごとにしていくこのプロジェクトが、今後どんな花を咲かせていくのか、とても楽しみです。

Information

横浜市立川和中学校

https://www.edu.city.yokohama.lg.jp/school/jhs/kawawa/

この記事は、横浜市青葉区とNPO法人森ノオトとの協働事業「フラワーダイアログあおば」の一環で制作しています。フラワーダイアログあおばの関連記事はこちらから。

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この記事を書いた人
宇都宮南海子事務局長/ライター
元地域新聞記者。エコツーリズムの先進地域である沖縄本島のやんばるエリア出身で、総勢14人の大家族の中で育つ。田園風景が残る横浜市青葉区寺家町へ都会移住し、森ノオトの事務局スタッフとして主に編集部と子育て事業を担当。ワークショップデザイナー、2児の母。
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