2022年3月27日に、私が暮らす逗子市で市議会議員選挙が行われます。逗子市の人口は、約5.5万人(2020年)。ちなみに、森ノオトの拠点がある横浜市青葉区の人口は約31万人(2021年)です。逗子は、市内を歩いていれば、知った顔を見ることはよくありますし、初めて会った人でも知り合いの知り合い、というような規模感のまちです。
2018年3月に行われた市議会議員選挙が、私にとって逗子で初めて経験する選挙でした。選挙前日の夜、仕事帰りに逗子駅に降り立った時に、多くの立候補者が駅前に立って最後の訴えをしていたことをよく覚えています。
また、2018年12月に行われた市長選では、身近な人々が選挙に関わっていて、私自身も立候補者の討論会に参加して投票の参考にしていました。
それ以前は、大きな都市に住んでいて、選挙はポスターの中の人になんとなく一票を入れる、という感覚……。その行為が自分の暮らす場所、自分の生活に影響するなんてまったく思っていなかったです。
今、逗子で暮らし、家族ができ、生活を営むようになった私にとって、政治に紐づくことが、とても身近なことになってきました。いつも遊ぶ公園にあるカフェ、月イチで運営されている遊び場、ベビーカーをおして歩きやすい道、大切な海や山で過ごす時間……。これらは、当たり前に用意されているものではなく、その場所・時間を成立させるために、多くの想いと行動が費やされているのだ、ということ。そして、それに政治が関わっているのだということを肌身で感じるようになりました。
そんな風に考えるようになった今、3月に行われる最も身近な選挙である、市議会議員選挙に向けて、理解を深めたい、私なりに政治に対して行動したい、と思うようになりました。
まずは、市議会とはどのようなものであるか、あらためて自分で調べました。
市議会は、地方の政治の機能のひとつです。地方の政治は、普段ニュースなどで目にする国の政治とは少々異なる仕組みで運営されています。地方の政治は「地方自治」とも表現されるように、生活に身近なことは自分たちで決めていこう、という考え方で仕組みができています。
とはいえ、すべての市民が集まって、物事を決めていくことはできないので、市民の代表を選挙で選んで、市民に代わって仕事をしてもらいます。その代表が、市長と市議会議員です。
市議会は、市議会議員が集まって、市民全体の幸福のために、どんな仕事をしたらいいのか話し合って、決めているところです。
主な仕事は、条例を決めること、予算を決めること、市のお金が正しく使われているのか・仕事が正しく行われているのかを調べ意見することです。どの自治体でも4年に一度、選挙があります。
市議会議員の役割や活動について、具体的に知りたいと思っていたところ、2010年まで3期12年にわたって逗子市議会議員をされていた森典子さんを友人から紹介していただき、インタビューすることができました。
森さんは、どうして市議会議員になったのか、議員としての仕事が今の逗子の暮らしにどんな風に影響しているのか、今一市民として選挙の時にどうやって選んでいるのかなど、お話を聞きました。
声を聞き、声を届けるという役割
食や海外支援の分野で活動をしてきた森さんは、1995年に藤沢市から逗子市の団地へ移り住みます。当時逗子の市議会議員をしていた方から、市議会議員をしてみないか、と声をかけられます。「それまで議会や行政にかかわる知識が少なく、不安だった。 “市民” という言葉の本当の意味すら知らなかった」と言います。仲間からは、「あなたが生活してきたことをまとめて、そのまま政策として訴えたらいい」と言われたそうです。
現役の市議やその仲間たちから政治について教わり、「市民参加の政治ってこうなんだ!」と立候補を決意したそうです。逗子市議会議員に当選し、1998年~2010年、3期12年の任期を務めました。
お話のなかで、市議会議員の仕事について、ひとつの事例を紹介してくれました。
森さんから何度も出ていた言葉が「市民自治」。住民と議員が一緒になってまちづくりをする、ということでした。森さんは議員時代、年に4回の議会が終わるたびに、街中で議会レポートを配布し、市内6カ所で定期的に議会報告会を開いてきました。自身の活動を知ってもらい、そして、市民の「声」を聞くことに力を注いだのです。「毎回、地元の問題を、膝を付き合わせて話し合ってきました。市民からいろんなことを教わり、宿題も出してもらいました。そうすると、次の議会の後に報告できますし、議会に傍聴にも来てくださいました」。
その結果、実現したのが今も逗子の団地付近を走るミニバスです。議員である森さんが、住民の困りごとを聞き、議会で発言をし、住民も一緒に調査をし、企業にも働きかけ……。そうして、実現にいたりました。
森さんは議員である自分一人ではなく、住民とともに歩めたからこそ成し得たことだと教えてくれました。
「住民の声でしか、政治は動かない」と森さんは言います。「議員は市民の代表です。一番声を出せない人の声を市政に反映させたいと思ってきました」とも。
でも、私はどこで、誰に、どうやって「声」を届けたらいいのかわかりません。
森さんは、当時、議会報告会という場で声を聞いたり、志を同じくする議員とミニフォーラムを行ったりして声を聞いていたそうです。
自分の暮らすエリアでもアンテナを立ててみると、身近な議員の方々のなかにも、そういった場を開いている方がいるのではないかと思います。
また、市民にできることとして、議会の見学を通して議員の生の声、質問内容などを実際に見聞きすることで、その議員への理解が深まる、と言います。
「いち市民となって、選挙のときはどのように応援する人を選んでいますか?」と森さんに聞いたところ、「自分にとっての大切なキーワードを持っておく」ということを教えてくれました。「政策を読んで、そのキーワードがあるか探してみる。選挙を通してその人を応援したら、その政策を行っているかチェックをする」。
政治は選挙で終わらない。
今の私にとっては、子育て・遊び場・医療などがキーワードになってきます。自分自身の大切なことを基準にして、街頭で配布している議員報告を聞いたり立候補者のチラシを見てみると、これまではあまり興味を持たなかったものが、興味深いものになりました。この人は、私の大切にしたいことを、言っているのか、いないのか。言っているならば、どれぐらい具体的なのか、実行されていくイメージができるのか……。また、議員の活動すべてを追いかけるほどのエネルギーはないけれど、「この人の、この政策を応援する!」と決まれば、自分にとっての関心ごとでもありますので、SNSでフォローする、議会を見にいくなどその政策が実行まで至ったのか、見届けることができるのではないかと感じています。
政治は、選挙で終わりではありません。森さんは、「応援とチェック」といいます。できていれば「いいね」と。できていなかったら、「だめだよ、頑張って」と議員に対して意思表示する。声をかけたり、SNSを通じてメッセージを送ったり。任せただけで終わりではなく、小さな行動でもいいから自分も一緒に行動することが大切だと教えてくれました。
「森さん、一市民から議員への転換ポイントは?」と聞いたところ、「ずっと一市民でした。転換していないし、政治だと思わなかった」また、「市民運動と思ってやったからこそ、市民の目線で意見が言えた」とも言います。
そんな森さんは今、山梨県北杜市に移住し、議員活動を通じて大切だと感じた「人間の最後の暮らし方を考える」ということをテーマにして活動しています。10人が集って暮らせるケア付きのおうち「わがままハウス山吹」を仲間とつくり、そこで働いています。「わたしの茶の間」というサロンをリアル、オンラインで開いて、60代~90代の方々が集ってきています。
「これをしたい」と声を上げ、仲間を募り、それを実現していく、ということを変わらずに実践している森さん。 森さんは、議員であっても一市民であっても、同じ、でした。
私は、森さんの話を聞く以前は、議員というとは特別な人、私とは関係のない人、という印象でした。森さんの話をお聞きしながら、議員は議員である以前に市民であって、ともに暮らしをつくる仲間だと、思うようになりました。
生活と政治はつながっています。
政治からの発信を受け取るだけでは、私が大切にしたい暮らしにつながらない。私たちも声を出す。小さいことだし、ささいなことだし、私だけだし、と思わずに声にすることで、目の前にある大切な暮らしを守っていく、つくっていく、受け継いでいくことにつながっていくのだと思います。
また、自分に合った議員を見つけるための、少しの努力も必要かと思います。公報を読み込む、政策討論会に行ってみる、SNSをフォローして見比べる……。一人でするのが大変だったら、家族やまわりの友人たちと、一緒に取り組んでみるのもいいと思います。まず、この場所で生活する自分にとって大事なことは何かを考え、100%じゃなくても共鳴できる議員を探していくこと。
私、家族、地域、社会……。私の大切な日常は、地域の在り方によって変わってきます。それぞれの地域によって、予算や環境が異なるなか、何をつくって、何をけずるのか。それは、そこに集まってくる人、暮らす人の感性に影響してくる。そして、その地域の在り方は私の行動で変わってくる。
少しだけ能動的になることで、その日々を大切に守り、受け継いでいくことができるのではないかと、考えています。
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