外国人在住者と子育て〜多言語での子育て 都筑区在住・Chan Yean Mayさん
横浜市の外国人人口総数は、令和4年3月31日現在、98,752人。国籍で一番多いのは、中国が38,639人。次いで韓国が12,185人とアジア圏の出身者が半数以上です。中国にルーツを持つマレーシア出身のチャン・ヤン・メイさんにお話を伺いました。

文・写真/NPO法人Sharing Caring Culture 代表理事 三坂慶子

※このシリーズでは、「子どもを育てる」現場の専門家の声を、毎月リレー方式でお送りしていきます。

 

■多文化のマレーシアから日本へ

メイが初めて私たちの活動に参加したのは、3年前。2019年4月にNPO法人Sharing Caring CultureがNPOとして組織化することになり、あざみ野のスペースナナで設立記念パーティーを開催したときでした。参加者は一人一品料理を持ち寄り、メイはスパイスの効いた手作りのエビ料理を持参して、2人の娘と夫の4人で参加しました。私は、初対面でしたが、彼女の料理がとても美味しくて、「これは誰が作ったのだろう」と気になり、すぐに名前を覚えました。

 

それから、半年後。ちょうど子ども多文化交流事業のプロジェクトメンバー募集を始めたところ、母国の文化を子どもたちに伝える活動に興味があると話していたメイとキックオフミーティングで再会。メイは、YMCAで英語講師を務めていた経験もあり、タイ出身のイブ、インド出身のアキラとともに子ども多文化交流事業の中心的なメンバーとして、数々の企画に関わるようになりました。マレーシアの国民食「ナシ・レマク」を作る親子クッキングのほかに、母語を活かした中国語の多言語読み聞かせや中国の春節をテーマにしたイベントなど、参加型で子どもたちがひき込まれる企画は、毎回好評で、次第に団体のプログラムデザイナーとして活躍するようになりました。

都筑民家園で主催した「ちらりとアジア」のイベントでは、メイは、中国の春節の読み聞かせの中で、中国文化で大切にされている龍について説明をし、メイが作ったドラゴン(龍)を使って、子どもたちとドラゴンダンスを楽しみました

 

メイが講師を務め、マレーシア親子クッキングを開催。アシスタントを務めたのは、インド出身のアキラ。コロナが始まる前だったので、マスクもしていませんでした

 

親子クッキングでは、ナシ・レマクのほかに、薔薇の香りと濃いピンク色が目を惹く甘いマレーシアのドリンク、ローズシロップもいただきました

 

メイが生まれ育ったマレーシアは、多民族、多文化、多宗教の国。マレー系のほかに中華系、インド系、そして少数民族が共存しています。前回のコラムで取材をしたファラは、マレー系のイスラム教信者で、同じ国であっても、大切にしている行事やお祝いの仕方は異なります。

 

中華系マレーシア人のメイは、香港にルーツをもつ家庭で標準中国語(北京語)と広東語を母語として育ち、中華系の学校へ進学しました。家庭でも、学校でも中国語と中国文化を拠り所にしていますが、マレーシアは、公用語のマレー語のほかに、各民族の共通の言語として英語が使われるため、多様な言語を使う多言語環境が日常的だと言います。

 

高校を卒業してからは、オーストラリアのメルボルンにある大学へ進学。ビジネス系の学部でファイナンス(財務)を学びました。卒業後は、クアラルンプールの香港上海銀行やカナダロイヤル銀行に勤務し、金融投資・財務サービス部門に配属されました。父親の知り合いを介して、日本人の夫に出会い、2013年に結婚を機に日本へ移住。日本語は、高校生の頃、冬休みに1週間の集中クラスを取ったくらいで学習歴がなく、結婚を機に勉強し始めたそうです。

 

 

■見た目は日本人に似ているけれど……

メイは、黒い髪、黒い瞳など、外見だけを見ると日本人と似ています。ところが、話をすると、とても早いスピードで英語をスラスラと話します。日本語の勉強もしていますが、英語の方が日本語よりも堪能なこともあり、情報収集などは、生活で苦労しない英語を使用しています。また、日本人の夫との夫婦間の会話も英語。現在7歳の長女と5歳の次女がいますが、子どもには、多言語環境で育ってほしいという思いから、中国語と英語を話し、夫は、子どもたちと日本語を話しています。夫だけでなく、自分も子どもたちと日本語を話した方がよいのかと迷ったこともあるそうですが、日本語を母語としていないので、中途半端な日本語を話すよりも、日本語は夫に任せた方がよいと考えて、母語の中国語と英語で子育てをすることにしたそうです。

 

ただ、日本人に似ている風貌であっても、日本語を話さないため、驚かれたり、周りの人たちにジロジロと見られたりすることも。特に地方都市では、日本人のようでありながら日本語を話さないことが奇異に映るのか、じっと見られることもありました。

 

こうしたメイの体験を聞いて、私は外国出身の人たちを受け入れるホスト側の市民として、国籍、宗教、性別などに対して単純化されたイメージを持って判断するのではなく(ステレオタイプ)、外見や風貌だけではわからない多様な側面に気づき、想像する視点を持つことが大切だと考えます。横浜市の“外国人”と聞いて、思い浮かぶ外国出身者の顔ぶれは、欧米系ばかりではありません。むしろ、本文冒頭で市内の外国人の人口総数における国籍別の割合を示した通り、中国や韓国をはじめとするアジア圏の人たちが半数以上を占めており、横浜市の“外国人”は、アジア圏の人たちで構成されています。そうした日本人と似た風貌のアジア圏の外国出身者が日本人に似ているために日本語を話すと期待されてしまうこと、そこにバイアス(偏り)がかかっていることに気づく優しさが、多様性を尊重する社会には必要だと感じています。

メイ(左から3人目)がマレーシアの両親、妹、メイの二人の娘とオーストラリアで撮影した家族写真

 

■日本での多言語子育て

さて、メイの日本での子育ては、2015年にマレーシアで里帰り出産をした後、夫の仕事の関係で、大阪で過ごし、2016年に長女が1歳の時に横浜へ引っ越しをして本格的に始まりました。地元の子育て情報が欲しかったので、ママ友と情報交換ができる子育てサークルを探しに都筑区役所へ行ったところ、子育て支援拠点ポポラを紹介され、足を運ぶと、徐々にママ友ができました。大阪では、英語を話す人が周りにあまりいませんでしたが、横浜に住み始めてから英語を話す人に多く出会い、外国人への視線も厳しくないと感じたそうです。

 

また、ママ友が増えると、長女は日本語で話し始めるようになったとか。幼稚園に入園するまで、家庭では英語を主に使用していましたが、入園後、最初の3カ月は黙っていたものの、徐々に日本語の語彙が増え、やがて家庭でも幼稚園でも爆発的に日本語を話すようになりました。マレーシアに住む祖父母とは、中国語で話をし、日本人の義母とは日本語で話をするというように、まだ幼い子どもであっても、話す相手によって使い分けができているそうです。小学生になった今、長女は英語、日本語、中国語の3言語を相手に合わせて、切り替えながら話をしていて、私も団体の活動で会った時に感心しました。

 

このように、子どもは、家族間の言語とは異なる言葉を話すグループに投げ込まれても、幼稚園の友だちや先生との対話の中で自然に日本語を習得していきますが、一方で、母親の自分は、子どもの様子など、不安に思っていることや聞きたいことを幼稚園の先生に伝えられずに困ったと言います。「たくさん聞きたいことがあっても、聞き過ぎなのではないか、どこまで質問をしてよいのか、その加減がわからない」、「自分は、外国人なので、日本人の暗黙のルールがわからず、時には失礼にあたるのかもしれない」と考えて質問をためらうこともあったそうです。

 

メイに限らず、日本人の男性と国際結婚をした外国人女性の場合、幼稚園の先生たちも父親が日本人だからわかるだろうと、詳しい説明が得られないことが時にあると聞きます。実際には、仕事で夫の帰宅が遅い時などはすぐに手紙類を読んでもらえないこともあり、提出期限の短いお知らせについては、日本語が苦手な外国出身のお母さんたちは翻訳アプリを使って翻訳を試みます。それでも、手書きの手紙類などは読み取りができないので、紙媒体での連絡ではなく、メールでお知らせや案内等をもらえると翻訳アプリを使うことができて、負担が減ると話していました。

 

また、言葉の不自由さを解消すべく日本語学習をしていても、緊急時のパニック状態では、やさしい日本語でも情報を理解することは難しく、特に防災など命に関わる緊急性の高い情報については、母語または英語での情報を頼りにしていると言います。日本人の夫が不在の時に災害が起きたら、子どもが怪我や病気をしたら、どう対応してよいのかと不安になる外国出身のお母さんも少なくありません。

 

こうした言葉の問題だけでなく、文化的な習慣やしつけについても、外国出身のお母さんは、日本の生活習慣やマナー、挨拶の仕方などがわからないため、それを子どもに伝えられない歯がゆさを感じています。メイの家庭では、玄関で靴を脱ぐときに靴を揃えて、向きを変えるといったことを夫が子どもたちに教えているそうです。

コロナ禍でも子どもたちに楽しい体験をさせたいという思いから2021年10月31日に都筑中央公園でハロウィンイベントを実施。メイは、エレナ、アキラとともにイベント準備に力を尽くしました

 

■自分を大切にしながら、相手を受け止める

 

私たちNPO法人Sharing Caring Cultureは、2021年に保育士を目指す東洋大学生活支援学専攻子ども支援学コースの学生に向けて、外国人メンバーが日本での子育てについて語る講義にオンラインで登壇し、母親、または父親としての思いや体験を語る時間を持ちました。この時に国際結婚をした外国出身のお母さんを代表して、メイは将来、学生が外国につながる乳幼児を保育することも視野に入れて、自らの子育て体験を共有し、思いを伝えました。

 

メイが用意したスライドの最後には、私の願いということで三つのことが書かれていました。一つ目は、区役所、学校、病院など地域で翻訳サービスをはじめとする外国人の受け入れ体制が整うこと。二つ目は、違いが尊重され、一人ひとりの見えない多様な面にも目配りできる社会になること。三つ目は、誰でも気軽に意見を言い合えるオープンなコミュニケーションが取れるようになること。この点に関しては、国際結婚の夫婦だからこそ、自分と相手の母文化、価値観、大切にしていることを子どもにバランスよく伝えていくために、「なんでも丸ごと相手を受け止めるのは疲れてしまう。自分を大切にしながら、相手を受け止めるようにしている」という言葉が印象に残りました。一つの国で多様な民族が互いの文化を尊重しながら暮らすマレーシアで育ったメイだからこそ、同化ではない共存のヒントを示すことができるのかもしれないと感じました。

都筑区内で学童を運営する認定NPO法人あっとほーむに通う児童向けにハロウィンイベントを開催。「おばけ」をテーマに、タイ、インド、中国の出身者がおばけを紹介しました。SCCでは、子どもたちが多様な文化的な背景を持つ人たちとの出会いを通して、違いを意識する場をつくっています

 

初版はブルーの表紙でしたが、改訂版は、春の発行に合わせて桜色です。コロナ禍もあ り、求められている情報を見直しました。

Information

2022年4月より横浜市国際局の補助金で改訂した子育て情報冊子『OYACO』の配布を始めました。子育て中の外国人へのオンラインアンケートや子育て座談会でのヒアリングをもとに、外国人の子育て調査を実施し、必要としている情報を外国人メンバーが主体となって横浜市北部地域(都筑区、青葉区、緑区、港北区)の子育て情報を集め、英語版とやさしい日本語版で出版しました。北部4区の子育て支援拠点をはじめ、区役所のこども家庭支援課、国際交流ラウンジで配架をしています。お知り合いの外国人がいましたら、教えてあげてください。また、ホームページでもダウンロードできます。

https://sharingcaringculture.org/publication-oyaco-reference-booklet

<Profile>

三坂慶子

NPO法人Sharing Caring Culture 代表理事 / 川崎市立小学校外国語活動講師

幼少期をアメリカで過ごす。現地校に通い、小学校3年生で日本に帰国、公立小学校へ編入。大学院修了後、民間の英会話スクールにて児童英語講師を10年間務めた後、川崎市立小学校教諭となる。出産を機に退職、2014年に任意団体Sharing Caring Cultureを立ち上げ、日本人と外国人が文化的な活動を通じて交流を深める場をつくる。2019年にNPO法人となり、在住外国人とともに地域づくりを進めることを目的とした活動を展開する。

団体ホームページ:https://sharingcaringculture.org/

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