ただいま進行中。柿生の家 JINEN-DOで森のようなコミュニティづくり
里山資源を生かしながらありのままの自分で生きられる“森のようなコミュニティ”づくりを、2021年から新たにスタートさせた「柿生の家 JINEN-DO」。新宿から30分の川崎市麻生区という都市近郊にありながら、田舎の大家族のようなつながりを目指しています。これまで培ってきた経験を生かして、どう進化していこうとしているのか追いました。(2022年森ノオトライター養成講座修了レポート:古谷玲子)

白い漆喰壁と三角屋根の平屋建ての民家が目印。地元工務店の先代社長が自ら住むために設計されただけに、随所に丁寧なものづくりの心が光る

私が「JINEN-DO」の存在を知ったのは、2年ほど前のこと。気になってはいたものの、日常に忙殺されて、なかなか足を運べずにいました。やっぱり訪れてみたいと思ったのは、新型コロナでリモートワークが増えて、足元の地域に目が向き始めたから。自分が地域コミュニティのつながりがないことを痛感しました。コミュニティを感じるのは、月一回通い続けている山梨の山奥の集落。そこには人と自然、人と人とのつながりのなかで、地域資源(ヒト・モノ・コト)を循環させ、手間暇かけたていねいな暮らしがあります。10年以上通うなかでいつしか大きな家族のような第二の故郷になっていました。「こういうコミュニティは田舎でしか実現できないものだろう」と決めつけていた私に、うれしい驚きを与えてくれたのが、JINEN-DOでした。じつはすぐ足元に求めていたコミュニティがあったのです。

 

 

最初の出会い

「よかったら、中に入ってお茶でもどうぞ」。とある5月の夕方、初めて「柿生の家 JINEN-DO」をふらりと訪れた私は、この言葉で緊張の糸が一気にほぐれました。その平屋建ての民家は、小田急線・柿生駅から歩いて7分ほど住宅街の坂道を上がった高台にあります。人の気配がしなかったので、もう誰もいないだろうと帰ろうした矢先。庭先から物音がしたので庭に回ってみると、一人の女性が作業の手を止めて「こんにちは~」と、にこやかに迎え入れてくれたのです。何だろう、この感じ。まるで田舎のご近所さんがお茶飲みに誘ってくれているかのような懐かしさ。突然の来訪者にもかかわらず、怪しむこともなければ、慌てることもない。そのさりげない温かさに誘われ、お言葉に甘えることにしました。

 

庭と部屋をつなぐ縁側を上がり、室内に足を踏み入れると、無垢材が使われた高い天井、白い漆喰の壁、意匠を凝らした梁……。そこには開放感とぬくもりあふれる空間が広がっていました。差し出された座布団に座り、採れたてハーブで入れていただいたお茶をすすっていると、開け放たれた窓から時折心地よい風が通り抜けます。まるでここだけ別の時間が流れているようでした。

約50種類の野菜・ハーブ・果樹が植えられたエディブル(食べられる)ガーデン。庭には燻製やピザが作れる耐火煉瓦も窯もある

“不自然”は続かない

「一人ひとりが輝いて、与えられた自分の命を自分らしく生かし切れる、そんな育ち合いの場をつくりたいという思いが原動力になっています!」と、力強く語るのは、JINEN-DOを運営する一般社団法人働く幸せプロジェクト代表の石田和之さん。そのときの石田さんの目の輝きが、やりたかったことに向かっている充実感を物語っているようでした。

 

コンサルタント会社に勤務の後、重度の知的障害を持った息子さんの将来を考え、2012年にこの場所で就労移行支援事業所を開所。7年を経て、企業就労にとらわれずに「本来の自分を生きられる」ことを目指し自立訓練事業所にリニューアル。2021年からは、里山資源を生かしながら、「命と命が響き合う“森のようなコミュニティ”づくり」という新たなフェーズへと動き出しました。

 

「社会システムの中でのこれまでの支援のあり方にどこか“不自然さ”を感じていて。地域をうまく耕すためにも、社会の枠を飛び越えて今のカタチに方針を変えました。“不自然”なことは続きませんから」。

“自然の摂理に従う”という会社員時代の創業者の言葉は、いまでも石田さんの行動指針になっているといいます。

毎月発行の「JINEN-DO」だよりには、団体の思いがいっぱい綴られている

「自然に」。「自ずから」。

そんなJINEN-DOのエッセンスを私自身が実感したのは「ゆらゆらワーク」というプログラムに参加したときです。最初に訪れたときに、コアメンバーの大塚葉子さんからお誘いを受けました。

 

ゆらゆらワークでは、ペアになって背中を合わせて相手の身体を感じながら自分の身体を揺らしていきます。初対面の方とのボディタッチに最初は戸惑っていたものの、ワークを重ねるうちに「人に身体を委ねるって温かくて安心感があるものだなぁ」という気づきに変化していきました。約1時間半のワークが終わると、「顔の表情が変わった」「何か生き生きしてる!」と周りから言われるほど。いつしか、心が解きほぐされ、本来の自分に戻っていたように感じたのです。ワークの前と後で皆さんへの印象も全く違ったものに変わり、穏やかで優しい気持ちに包まれていました。

ワークの最後は横になってリラックス。壁には2022年2月に実施したクラウドファンディングのサポーターから寄せられたメッセージが。集まった資金は拠点の維持のために使われる

その後、参加者間の雑談は和気あいあいと続きます。「みんなの本棚」というメンバーが持ち寄った本を誰でも自由に貸し借りできる棚を巡って、「昔、図書委員だったんだ、私。ここでも図書委員やってみようかな」「読書会もやってみたいね」と、“自ら”がやりたいこと、できることが、“自然に”話題になっていました。この場に参加する人たちのフラットな関係が築かれているのも話しやすくしているのかもしれません。ここでは参加者同士、名字のさん付けや、○○ちゃんのママとかではなく、自分が呼んでもらいたい名前で呼び合っています。教える側VS教えられる側、支援する側VS支援される側といった垣根もありません。あくまでも一人の人間として認め合っているのです。

 

たった3時間の滞在でしたが、JINEN-DOのエッセンスを垣間見たような気がしました。すっかりJINEN-DOマジックにかかったのか、その日は人に優しくなっている自分がいました。

ワークの後のふりかえりで丸テーブルを囲んで思いをシェア。自身の心と向き合った話に静かに耳を傾ける

子どもも大人も育つ、“共育ち”の場を目指して

現在、新生JINEN-DOの活動について、岩長真理子さんをはじめとするコアメンバーでミーティングを重ねています。「大人も子どもも共に育ち合う場」を事業の柱とすることが見えてきました。

「具体的には、預け合いができる自主保育とか寺子屋的な放課後教室などを考えています。いろいろな世代、多様な関わりのなかで、子どもも育ち、大人も育つ。そんな“共育ち”ができる場を作りたいですね」と岩長さん。それを受けて「ベビー&キッズシッター講座」も生まれました。子育てのサポーター(みんなのママ)になるための実践的な学びができる講座です。

他にもそれぞれの「やりたい」「こんな場があったらいいな」という思いから、サークル活動が次々と立ち上がっています。定番サークルは、野菜や果樹、植物を暮らしに生かす「草花木果」、子どもと大人が一緒に遊び、学び、育ち合う場をつくる「コトナ企画室」、材料の“ひご”から作る「竹細工教室」、歌うことで身体と心を整える「歌のあるくらし」などがあります。利用方法の詳細はこれから決めていくそうです。

その日のお知らせは外の黒板に手書きで紹介。「みんなの本棚」の本は誰でも自由にとって読むことができる

歩いてすぐ近くのところには畑があり、自転車で15分の横浜市青葉区の寺家町には田んぼがあり、と地域資源にも恵まれています。次のフェーズへ向かって、さまざまな可能性が広がります。

「子どもたちが遊び回っている傍らで大人たちがサークル活動を楽しんでいる。それぞれが思い思いに過ごしているけれど、どこかでつながっている。そんな田舎の大家族のようなコミュニティができれば」と、岩長さんは期待を込めます。

徒歩1分のところにある畑では根菜類を中心に栽培する。梅、杏子、柿などの果樹も豊富

 

思い思いに過ごしていてもどこかつながっている安心感が漂う

さりげなく誰かに関心を寄せ、誰かがそっと誰かに手を差し伸べる。そんな“人の本来ある姿”に自然に立ち返ることができるのが、JINEN-DOの持つ力なのかもしれません。「これまで足踏みしていたことをスタートさせることができるかもしれない」「自分らしく自分ができることで輝けるかもしれない」。そんなふうに感じられるような懐の深い居場所がここにはあります。人は誰でもただいまと帰ることができる「第二の故郷」をいくつか持っておくと、安心して過ごすことができるのではないかと思っていました。自分の足下にあるとなれば、尚更です。私にとってJINEN-DOは、これから大きな安心感を与えてくれる存在になりそうです。まずは一度訪れて、JINEN-DOの心地よさを五感で味わってみてください!

Information

柿生の家 JINEN-DO

215-0021川崎市麻生区上麻生5-10-11

044-819-8491

https://hatarakushiawase.net/
小田急線・柿生駅から徒歩7分

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この記事を書いた人
古谷玲子ライター
移住者向け雑誌『TURNS』のほか、海外旅行ガイドブック『地球の歩き方』で台湾編、東アフリカ編、モンゴル編の編集・ライティングを手掛ける。6年前にモンゴルの遊牧民の男の子に恋して以来、毎年モンゴルを訪れていたがここ3年間はコロナで叶わず。「人の営み・暮らし」をライフワークのひとつとして、文化と伝統の継承の一端を担いたいと思っている。
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