恩返しがしたい! 地域のお母さんたちが立ち上げた一時預かり保育室「まんまるーむ」
2021年10月。横浜市青葉区奈良町にある多世代交流型コミュニティーハウス「街の家族」より生まれた認可外保育施設「まんまるーむ」は、保育場所を「こどもの国」駅前の学童クラブと「街の家族」の2カ所展開でスタートしました。子育て中のお母さんたちの気持ちに寄り添い応援してくれる、頼れる地域の子育てサポーターです。

もわんとした夏の空気を含んだ夏至の日の朝。奈良保育園前の交差点から、奈良北団地に向かう坂道をのぼり、淡い緑色をした岩崎ビルの角で自転車を右に走らせると、一軒家が立ち並ぶ静かな住宅街に入ります。そのまま道なりに進んでいくと、入り口に優しい色合いののぼりが立った白い一軒家が見えてきます。入り口を挟んだ反対側の郵便受け前には、カラフルな色使いが目を引く可愛いロゴが描かれた一時預かり保育まんまるーむの看板が出ています。

小さい子どもにもお母さんにも親しみやすい平仮名で書かれた「まんまるーむ」という名前には、サービスを提供する側と受ける側という関係性ではなく、地域一丸まーるくなって一緒に子どもを見守っていきましょうという子育てへの思いが込められているそう

「今日は街の家族のオープンデーと重なっている日なので、一般の方もいらっしゃってとても賑やかな感じですけど、そうでない日は静かな保育室なんですよ」。

優しい笑顔で出迎えてくださったのは、磯島弥生さん。NPO法人街の家族の理事を務め、一時預かり保育「まんまるーむ」事業の中心として活躍されています。磯島さん自身、小学校5年生のお子さんを奈良の町で子育て中のお母さんであり、子どもがまだ小さい頃は街の家族の見守りあい相互保育でお世話になっていた利用者の一人だったといいます。

 

「恩返しがしたいと思って」。

 

まんまるーむ立ち上げの経緯について尋ねると、真っ先に口をついて出てきたのがこの言葉でした。保育士としての長年のキャリアがある磯島さん、まんまるーむの事業立ち上げ以前より、本の読み聞かせなど自身にできることから街の家族での活動に携わってきました。子どもが小学校の高学年に上がり子育てのステージがまた一つ落ち着いてきた中「一時預かり保育をやりたい」という気持ちが次第に大きく膨らんでいきます。

 

きっかけは同じ利用者のお母さんの声だったと言います。「場所柄と言いますか、ここは青葉区の外れに位置するのでどうしても行政のサービスが届きにくいエリアなんですよね。一番近くても青葉台駅近くまで出ないと子どもを預けられない。そしていざ予約を入れようとすると今度はなかなか予約が取れない、そんな声もたくさんありました。本当はこの日に予定を入れたいんだけど、その日に預かりの予約が取れないから仕方なく予約が取れた日に合わせてお母さんの方のスケジュールを変えなきゃいけない。それではなぁ……と思って」

 

一時預かりにこだわったのにも理由がありました。

「ただリフレッシュしたい時、自分に時間をかけたいって時もあると思うんです。子どもとは一緒に長くいたいから、本当は週に1、2回預かってもらえるだけでいいのにというお母さんもいるんです。今の制度だとフルタイムで働いて保育園に子どもを預けるか、24時間自分で面倒をみるかの10か0かの選択肢しかなくて」。自分を保つためには仕事しかないのかー。そんな疑問への新たな道を見つけるかのように、磯島さんを中心とした地域のお母さんたちは一歩を踏み出しました。

街の家族のスタッフのみなさん。「街はね、取材だからってじゃらじゃら飾り付けたり特別なことはしないの!」なんて言いながらの1枚。「まんまるーむ」だけにありのまんまの笑顔が素敵です

「行政の支援が届いていない分、可能性のある地域。ここなら何かできるかも!」。早速動き始めると、保育士7名を含む地域のお母さんたちによる有志の保育スタッフがすぐに集まりました。また街の家族の理事長である押久保美佐子さんが以前指導員をしていたという縁から、「こどもの国」駅前にある「こどもの国学童クラブ」を日中の保育場所として使用できることになりました。「当時はコロナ禍ということも、もしかしたら影響していたのかもしれません。それぞれの団体が自分たちだけで活動を進めていくだけでなく、地域として協力していかなければいけないというつながりを再認識した時期でしたから」。学童の運営委員会で思いを語った日のことを、そう振り返ります。

こどもの国学童クラブでの保育の様子。都合により保育場所を選択できるのが嬉しいところ(写真提供:まんまるーむ)

しかし何もかもが初めてのこと、すべてとんとん拍子で進んだことばかりではありません。横浜市認可外保育施設として登録するための必要書類を揃えるのも一苦労でした。参考にできる先行事例が見つからないまま、手探り状態で膨大な量の書類を準備し、再度提出し直したりの繰り返し。また、設備監査では「正直、学童クラブの会場は普段から子どもが使用している場所ということもあって、大丈夫だろうという気持ちがあったんです。でも実際に監査を受けてみると、学童で過ごす小学生にとっては問題のないところでも乳幼児の保育場所として気を遣わないといけない部分が見つかって。実際、街の家族よりも多くの改善指摘を受けてしまいました」。その改善対応にも追われます。

 

借りているスペースという手前、大幅な設備変更などは難しく、保育開始前に当日スタッフで片づけをするなど一つ一つ丁寧に対応することにしています。料金設定など運営面の問題や広報活動の進め方など悩みは尽きませんが、「それでも思いの部分で踏み切ったのが大きかったですね」と笑いながら、立ち上げ当初の苦労を語ってくれました。

週に3回ある街の家族のオープンデーと重なったこの日は賑やかな雰囲気の保育室。6月より再開した美味しいと評判のワンコインランチ目当てに続々と人がやってきました。いろんな世代と交流ができるのもまた街の家族での保育の魅力です

自然光の優しい光が差し込む、緑豊かな開放的な庭に面した街の家族1階のフロアでは、ちょうど預かり保育の真っ最中。泣いたり、走り回ったり、昼寝したり。伸び伸びと過ごす子どもたちに注がれる大人達の優しい視線に、地域のみんなに見守られての子育てはなんて豊かな体験なんだろうと感じさせられました。

 

いい意味で「おせっかいの集まり」という街の家族で子育てを経験したお母さんたちは、街の家族が大好き。ここで上の世代から上手に人に頼ること、素直に援助を受け取ることを覚えたお母さんたちは、今度は自分たちの番。次の世代のお母さんたちにも同じことをしてあげたいとエネルギッシュに活動を始めています。

 

「地域の有り難いつながり」とは取材中よく耳にした言葉ですが、街の家族にあるのは長年培われてきた地域のつながりそのもの。そこにあふれる愛や優しさにふれた時、人は本来のありのままの自分を取り戻しエネルギーに満たされ、やがてそれが他人への優しさとして自然に循環していくのかもしれません。そんな温かさで満ちたまんまるーむが、地域のお母さんたちに愛され、もっと大きなまるを描きながらこれからも循環していくのを間近で見られることがとても楽しみです。

子どもの成長とともに子育ての大変さのステージは変わっていくから。妊婦向けの体操教室や、不登校児をもつ親の悩みを相談する会など、街の家族では幅広くイベントを開催しています(写真提供:まんまるーむ)

*本記事は、独立行政法人福祉医療機構の<WAM助成2022>として実施した取材記事です。

Information

施設名:認可外保育施設 まんまるーむ

対象: 0歳6か月~6歳児(就学前)

登録料:500円

利用料:1時間800円(保険料含む)

 

住所:①こどもの国保育室 「こどもの国学童クラブ」

横浜市青葉区奈良1-3-2 ビクトリア奈良301

(耳鼻咽喉科むつみクリニックの3階)

 

月~金 8:30~12:30

 

②奈良町保育室「NPO法人 街の家族」

横浜市青葉区奈良1566-332

 

月~金 9:00~15:00

 

電話:080-2270-6310

メール:mammaroom2021@gmail.com

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この記事を書いた人
河原木裕美ライター卒業生
生まれも育ちも横浜市青葉区。息子の幼稚園逆留学のため、バリ島より一時帰国中。まだ見ぬ世界が見たくて、北はノルウェイから南はウガンダ共和国まで旅を続けてきたが、改めて地元の魅力を再発見。日々の暮らしの中での小さな発見と大きな喜びを形に残したいとライターを志望する。
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