末吉里花さんと考える 私たちにできるエシカルな行動とは?
最近、聞かれるようになった“エシカル”という言葉。2021年に中学、2022年には高校の家庭科の教科書に掲載され、メディアでも時々目にするようになりましたが、詳しくはわからないという方もいるのではないでしょうか。そこで、一般社団法人エシカル協会(以下エシカル協会)の代表理事である末吉里花さんにお話を伺いました。(写真提供:エシカル協会)

エシカルとの出会い

私が末吉さんに初めてお会いしたのは、今から約10年前です。末吉さんが、フェアトレード・コンシェルジュの養成講座をスタートして間もない頃でした。当時の日本では、“オーガニック”という言葉がようやく定着し始めていたころ。

そんな時期に、末吉さんは「私は“エシカル”という考えを広げたい」と語っていました。私も当時、海外のメディアで以前より頻繁に“ethical(エシカル)”という言葉を目にするようになったと感じていました。“本来の”という意味を持つ“オーガニック”や“フェアトレード”といった、当時日本でも浸透してきた言葉だけでは表現しきれないことが出てきたと認識しつつも、既存の日本語に置き換えるのではなく、英語のethicalを“エシカル”という言葉として、この概念を定着させたいと願う末吉さんの熱意に、ただただ圧倒されました。

 

それからわずか10年。末吉さんがメディアなどで積極的に語ることで、“エシカル”は広く知られる言葉となりました。これほどまでに、末吉さんを突き動かしたエシカルとはどういうものなのでしょう。また、この活動を続けてきた原動力は何だったのでしょうか。

 

実は末吉さんは、以前から社会問題に興味があったわけではないと言います。

関心を持つきっかけとなったのは、なんとTBSテレビの番組『世界ふしぎ発見!』。過去に末吉さんはミステリーハンターとして番組に出演していました。

2004年、番組で末吉さんはアフリカ最高峰のキリマンジャロに登頂します。当時、標高約6,000メートル地点にある氷河が、温暖化の影響で近い将来に消滅するのではないかと指摘が出ていました。そこで、氷河の状態を実際に見て確かめる、というのが番組の企画でした。

 

登り始めの1,900メートルの地点にあった小学校で、末吉さんは子どもたちに出会います。村の生活用水の一部は、氷河の雪解け水であったため、氷河の消滅は村の存続に関わります。子どもたちは「氷河が再び大きくなりますように」と願いを込めながら植林活動をしていたそうです。その子どもたちに背中を押されるように登った先にあった氷河は、元の1〜2割程度の大きさしかありませんでした。

当時を振り返り、末吉さんは言います。「温暖化の影響がこれほどまでに大きい、とはじめて実感しました。そして、植林活動する子どもたちの顔が思い浮かんで、私も何かしなくてはいけない、と思いました」

キリマンジャロ登頂時の写真。ここでの体験が末吉さんの活動の原点となった

その後、末吉さんは、環境保護の活動に関わる中で「フェアトレード」に出会います。私たちが何気なく買っているものの中には、消費者が安さを求めるあまり、正当な対価が生産者に支払われていないものや、生産性を上げるため大量の農薬が使用されるなど劣悪な労働環境で作られているものがあります。フェアトレードとは、生産者の労働環境が保証され、環境にも配慮された持続可能な取引を意味します。

フェアトレードとの出会いを、末吉さんはこう語ります。「自分たちが日常的に選ぶものの視点を変えるだけで、世界が抱えている問題の一部を解決できる。このことは大きな衝撃でした。何かを変えようとするとハードルを感じて行動に移しにくいこともありますが、当たり前にしている消費行動を変えるだけなら、ハードルが低いと感じました」

 

そして、フェアトレードブランド「ピープル・ツリー」のアンバサダーを務めるなどフェアトレード の活動を続ける中で、末吉さんは「エシカル」という考え方を知ります。フェアトレードの商品は、コーヒーや生鮮食品などの食品とコットンなど、国際機関が認証する品目が限定されていますが、エシカルはフェアトレードを含む言葉で、幅広い意味を持ちます。間口が広い方が多くの人に届くのではないかと考え、2015年に末吉さんは、末吉さんの活動を支援してきた仲間とともに、社団法人エシカル協会を設立しました。

 

 

消費だけに留まらない、広い意味を持つエシカル

エシカルというと、教科書でも「エシカル消費」と取り上げられているように、消費とつなげて考える方も多いと思います。でも、エシカルはお金を使う消費行動だけではありません。

そもそも、エシカルとはどういうことなのでしょう。辞書で調べると「倫理的な」「道徳的に正しい」と書かれています。ちょっと難しい言葉ですが、エシカル協会では、「エシカルとは人・社会・地球環境・地域に配慮した考え方や行動」だと解説しています。

「自分にとって心地よく、そしてそれが周りの人や生産者、そして地球にとっていいものといえます。また、“おかげさまで” “もったいない” “おたがいさま” こういった私たち日本人に馴染みがある価値観は、エシカルそのものです」と末吉さんは話します。

 

 

まずは減らすこと=Reduce(リデュース)から

森ノオトでも、度々取り上げてきた「3R」(Reduse、Reuse、Recycle)もエシカルな考え方です。最近は、3RにRefuseとRepairを加えた5Rも耳にしますが、末吉さんのエシカル行動はなんと7R。そして、この順番も大事なのだとか。

 

Rethink(リシンク:暮らしを見つめ直す)

Refuse(リフューズ:必要のないものは断る)

Reduce(リデュース:持ち物やゴミを減らす)

Repair(リペア:修理して使う)

Reuse(リユーズ:繰り返し使う)

Repurpose(リパーパス:目的を変えて使う)

Recycle(リサイクル:資源として再生利用する)

 

そこでこの7つのRを、暮らしの中でどう実践しているのか聞いてみました。

 

(末吉さん): エシカルを知ったきっかけがファッション業界だったこともあり、最初にしたことはクローゼットの中身を全て出すということでした。出した衣類を全て並べたら、着なくなったものがありました。そこでまずは、それを人に譲るなど整理しました。クローゼットの見直しは、誰にでもできるエシカルな行動なので、最初の一歩としてオススメです。環境にいいことをしようと思うと、例えばオーガニックの食品を買うなど、プラスなことを考えてしまいがちです。でも、まずは減らすことReduce(リデュース)が重要です。そのために、まずは暮らしの現状を知るRethink(リシンク)に取り組むのです。私たちはダイエットをする時にまずは体重を測って、目標設定をします。それと同じことだといえます。

 

ー 現状を知り、暮らしを見つめ直したからこそ、次のエシカルな行動につながるのだと実感します。わが家もこの数年は、季節ごとに子どもの衣服を整理しています。以前は頻繁に整理していなくて、いただいた時に大きすぎた服が着ない間に小さくなっていたことがありました。でも、季節ごとに整理するようになってからは、サイズアウトしたものをいつでもバザーに出せるよう準備するようになりました。バザーは、ゴミを減らすReduce(リデュース)であり、Reuse(リユーズ)にもつながります。

末吉さんの御曾祖母様さまの帯留めをブローチにリフォームしたもの。世代を超えて使い続けているのは素敵

(末吉さん): エシカルと聞くと身構えがちかもしれませんが、実はすでに浸透しているものもありますし、ちょっとした工夫でできそうなことがたくさんあります。エシカルは必ずしもお金を使うことばかりではないということを、知っていただきたいです。

 

ー Repurpose(リパーパス)は馴染みがない言葉ですが、森ノオトの活動から例を挙げれば、アップサイクルブランド「AppliQué」がそれにあたります。使われず家で眠っていた布を森ノオトに寄付いただき、それを使って新たな製品を作る。布を無駄にしないことはゴミの削減にも繋がりますし、製品づくりは、地域で暮らす方たちの仕事にもなっています。こうやって一つ一つ考えてみると、すでに実践していることもあり、エシカルは実は身近な存在なのだと感じます。

 

(末吉さん): リサイクルが7Rの中で最後に来ているということもポイントです。日本では、何かとリサイクルという方向に行きがちですが、資源として再利用する場面では、エネルギーなど他の資源も使います。地球が生産するスピードより消費が上回れば持続可能ではありません。木を1本切るなら、その木を植えてから育つまでの年月を考慮しなければならないということです。今は、消費が生産のスピードを上回っているので様々な問題が起きています。だからまずはReduce(リデュース)、減らすことが必要なのです。

 

 

エシカルへのさらなるチャレンジ

ー では、もうワンランク上のチャレンジをするなら、どのようなことができるでしょう。

 

(末吉さん): スーパーなど自分が普段買い物するところに要望を出すことです。“お客様の声”として希望を伝える用紙が置いてあります。そこに記入をすれば、私たちの願いを販売店と生産者に知ってもらうことができます。

エシカル協会が主催する「エシカル・コンシェルジュ」の養成講座では動物福祉(アニマルウェルフェア)の講座があります。スーパーで売られている精肉や卵、乳製品の多くは、消費者に安く販売するため集約的に畜産(工場畜産)されています。動物たちは小さなケージの中で飼われ、短期間に身体を大きくするようなエサを与えられています。鶏の多くは、ケージの中で動き回ることもできずに一生を終えます。この問題を知った受講生が、スーパーに平飼い(地面の上で放し飼いにする育て方)の鶏の卵を置いて欲しいと要望を書いたところ、販売されるようになったのだとか。その成功事例を聞いた他の受講生も自分の行く店で要望を書いたそうです。

 

ー NPO法人アニマルライツセンターによると、放牧又は平飼いの卵を置くスーパーマーケットの割合は、2015年の22%に対し、2019年は51%に増加したとのこと。言われてみると、以前よりも平飼いの卵を目にする機会が増えたように感じます。(出典:NPO法人アニマルライツセンター

エシカル・コンシェルジュ講座の様子。現在は全てオンラインで開催されており、リアルタイムでの受講だけでなく、講座内容は後日、録画が配信される。地方だけでなく、海外からの参加者もいるそう

(末吉さん): 要望を書くことによって、販売店や生産者も問題を知ってもらうことができます。たった数分でできる小さな行動ですが、周りが変わるきっかけに繋がります。エシカルが、自分のしあわせだけでなく、社会や環境のしあわせへとつながるというのはそういうことでもあります

 

ー 例えば、日本では、諸外国に比べて食料が安く手に入りやすい。それは様々な犠牲の上に成り立っているからです。生産者の賃金が低いなど労働環境もいいとは言えません。また、畜産が起源の地球温室効果ガスは、世界全体の温室効果ガス排出量の14.5%を占めています。そして、家畜のエサを栽培する農地を増やすために、森林伐採も行われています。

 

(末吉さん): 私たちが何気なく日々口や手にしているものは、実は、社会、環境、人権、動物福祉と様々なことに関わっています。そのためホリスティック(全体的・包括的)な視点で考えることが重要です。安いものを追い求めた結果、様々な問題を引き起こし、負のサイクルになっています。低賃金や格差などいつの間にか、自分たちもそのサイクルの一部になり、苦しんでいます。でもつながっているからこそ、問題のうち一つが改善されれば、他の問題の解決にもつながります。

北海道下川町立下川中学校で特別授業をしたときの様子(2018年11月)

どこから情報を仕入れる?

ー ホリスティックに考えるためには、多角的に世界の状況を知ることが重要と末吉さんは言いますが、自身はどのように情報収集されているのでしょう。

 

(末吉さん): 日々の情報源として、新聞は必ず紙で目を通すようにしています。ネットニュースは目立つ項目に目が行きがちですが、紙の新聞では、自分が普段は目にしないような情報や小さな記事を逃さず、目を通すことができます。海外のメディアもチェックしています。言葉の問題でハードルが高いかもしれませんが、お勧めしたい情報源です。日本のメディアとは、社会問題の報道の量も内容もかなり違います。大事なことは普段自分が付き合っていない情報にアクセスするということです。『エシカル白書2022−2023』(一般社団法人エシカル協会編、山川出版、2022)のなかで、ジャーナリストの国谷裕子さんが“確証バイアス”について指摘しています。

日本初の『エシカル白書』。エシカル消費についての動向や統計調査、専門家によるコラムなども収録している

ー 『エシカル白書2022−2023』の中で、国谷さんは、“確証バイアス”についてこう語っています。「本や雑誌、新聞を読まなくなり、ネット上でお友だちからの「いいね!」の情報を見て安心している傾向があると思います。(中略)自分が信じていることが正しいということを補強してくれる情報だけ選択し、受け入れる。そのことで自分が思っていることは正しいのだと思ってしまう傾向があります。」

今は、ネットニュースやSNS、また検索機能を情報源としている人が大多数です。でも、これらの情報は、使う側の“いいね”や“シェア”の傾向から、表示する順序が決められていて、情報に偏りが生まれます。

 

(末吉さん): 国谷さんが指摘されているように、自分が普段からアクセスしている情報だけで、考えを作ってしまうのは危険だと思います。私は専門の調査機関の情報も確認するようにしています。例えば、環境問題は国立環境研究所、動物福祉はNPO法人アニマルライツセンターから入手します。全ての情報を各機関で入手するのは大変なので、まずは自分の興味があるところからはじめてみるのはどうでしょう。

 

ー エシカル協会は、エシカルの本質について自ら考え、 行動し、変化を起こす人々を育むために、年に2回「エシカル・コンシェルジュ講座」を主催しています。講師の数はその時々で変わるとのことですが、2022年開催の講座では、気候変動、水、動物福祉、エネルギー、環境再生型農業などそれぞれの専門家11名の講師が登壇しています。そして驚くことに、このうち半数は、期ごとに入れ替わるのだとか。

私は、この講座全11回を、先日初めて受講しました。講座がスタートした当初から知っていたものの、仕事や子育てに追われる中で、連続講座を受講するのは無理があるように感じていました。そんな中で、受講に踏み切ったのは、気候変動をはじめとする社会問題の深刻さを増すスピードが急激に加速しているような気がしたからです。国連などの国際機関がたびたび警鐘を鳴らしているのに、日本国内では危機感を持つ人が少ない。そんな思いもありました。私の中にあるモヤモヤとした気持ちは現実のものか確認するためにも、オンライン講座になった今、学び直しをしようと思いました。また、情報の発信源である専門家のお話を直接伺う機会は滅多にないので、学ぶ側としてメリットを感じました。

 

(末吉): より多くの方にエシカルについて知っていただきたいと思っています。自分にとって心地よいことは、社会や世界にとっても、善いことにつながります。そのような善い循環の未来にしたいのです。

森ノオトの読者にぜひおすすめしたい『じゅんびはいいかい?』(文・末吉里花、絵・中川学、山川出版、2020)。絵本でありながら、私たちに身近な食や衣類における社会問題が網羅されている。わかりやすく、家族でエシカルについて考えるのにピッタリ

エピローグ

このインタビュー記事を、観測史上で最も早く梅雨明けした翌日に書いています。この数日、北関東の最高気温は40度に迫っていて、気候の危機的状況を肌で感じています。

気候変動の主な原因は、化石燃料(石油、石炭、天然ガス)を燃焼し、CO2を空気中に排出させていることにあります。夏の気温は年々上がり、熱中症を防ぐためにエアコンの使用は増えています。そして、電力消費量の増加に伴い、自然エネルギーの普及が追いついていない日本では、化石燃料の使用がさらに増え、気温は高まるばかりです。これは、まさに負のサイクル。末吉さんがお話ししてくださったように、全ては繋がっています。そして、忘れてならないのは、原因をつくったのも私たちであれば、解決するのも私たちであるということです。誰かに解決を委ねるのではなく、一人一人が生活を見直し、自分にできる範囲でエシカルな考えを取り入れれば、身の周りで起きている問題を少しでも解決へと向かわせることができるのではないでしょうか。

Information

一般社団法人エシカル協会

協会の活動やエシカル・コンシェルジュ講座、書籍の情報などが紹介されている

https://ethicaljapan.org

 

『エシカル白書(2022-2023)』(出版社サイト)

https://www.yamakawa.co.jp/product/15215

 

末吉里花さんFacebook

https://www.facebook.com/profile.php?id=100009839886459

 

末吉里花さんInstagram

https://www.instagram.com/rikasueyoshi/

この記事を書いた人
藤本エリライター
外食産業と広告制作会社でマーケティングを担当した後、有機的な食や暮らしに関わりたいと、ドキュメンタリーの世界へ。惚れ込む作品に出会い、自身で配給したくなり「たんぽぽフィルムズ」を設立。2021年に長野県東御市に移住し、映像の世界観を自身でも実践すべく奮闘中。
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