リビングラボのヒントを探る、 三菱ケミカルの青葉台リビングラボ開設
リビングラボってご存じですか? 三菱ケミカル株式会社(以下、三菱ケミカル)の青葉台リビングラボ初のイベントとなる「横浜美術大学の研究実験発表会」を取材しました。リビングラボとは、「企業と市民や大学が一緒になって地域の課題を共有し、その解決につながる新たなモノやサービスを生み出す場所」です。今回の取材では、企業の研究者が入り込んだリビングラボの在り方や、次世代を担う若者目線でのまちづくりなど、リビングラボを地域でうまく活用するためのヒントを考えました。(2022年ライター養成講座修了レポート:衛藤知彦)

■近隣大学との交流をきっかけに

2022年6月10日から3日間、東急田園都市線・青葉台駅前にある三菱ケミカルの青葉台リビングラボプラザ(2022年4月開設、青葉台郵便局3階)で、同社のテキスタイル素材「ソアロン®︎」を使った横浜美術大学のクリエーションによる研究実験発表会が行われました。三菱ケミカルと横浜美術大学は、同じ青葉区鴨志田町で地理的にすぐそばにありますが、いままで交流はありませんでした。今後の地域連携事業の取り組みについて2021年5月に両者で相談をしたそうです。手はじめとしては、三菱ケミカルの木質素材を活用した素材「ソアロン」をテキスタイルとして応用するコラボレーションをアイデアとして出し、テキスタイル授業のクリエーション課題で扱うことになりました。

 

会場で、横浜美術大学の加藤良次副学長に今回発表の研究内容についてお聞きしました。「学生は素材であるソアロンを知るところから始まり、思いつく加工を色々と試して、新しい表情をつくり出していく、学生にとって非常にワクワクする実験です。テキスタイルデザインは、繊りや染めで布をつくり出す仕事ですから、あらゆる素材を糸や繊維状にして、どんなテキスタイルができるのか?そこに面白さがあります。茹でたパスタで布を織るという発想もできるんですよ!」ということをお聞きして、あ、なるほど、テキスタイルデザインってそういう面白さもあるのかということを知りました。

左から横浜美術大学の加藤良次副学長、クラフトデザイン研究室の高瀬ゆり准教授 青葉台リビングラボの高橋マナブさん

 

●リビングラボのヒント1:多様な地域パートナーと考える社会課題

指導を担当されたクラフトデザイン研究室テキスタイルデザインコースの高瀬ゆり准教授は、大学の地域連携センターのセンター主任も兼任されており、「大学の地域連携の目的は、学生の社会との接点を増やし、地域の皆様から大学が信頼してもらえるようにすることです。普段、学生は、学内だけに閉じた活動が多い中、このように社会との接点を持つ機会を企業から提供していただけることはありがたく、地域の皆様に大学でどんなことをしているかを知ってもらうよい機会となりました」とのお話がありました。

横浜美術大学の研究実験発表会に参加された学生の皆さん

これは大学だけではなく、企業にとっても同じことが言えるのかもしれません。企業が社会課題に対応した事業化を目指す場合、社員が社会課題に接する機会を増やし、社会課題を持つ地域との信頼感の醸成が必要です。そのために三菱ケミカルは、青葉台にリビングラボを開設されたのではないでしょうか。

 

なお、横浜美術大学については、「地域とつながる横浜美術大学 地元密着の活動も広げています!」というタイトルで松園智美さんから森ノオトを通じて情報発信されていますので、そちらもご覧下さい。(リンクは、最後のInformation にあります。)

 

 

■今後のリビングラボ運営を考える

地域課題をどう探っていったらよいかという悩みは、青葉台リビングラボだけではなく、企業の地域連携の共通課題であるかもしれません。研究発表会に来場された外部有識者も交えてお話しする中で、そのヒントになるものを探りました。

 

 

●リビングラボのヒント2:研究者が街の課題を自分ごととして考えられる活動

青葉台リビングラボの代表窓口をされている、三菱ケミカルの小野祐樹さんは、「まずは三菱ケミカルの循環型素材の紹介を通して、リビングラボの活動に取り組んでいます。青葉区にある三菱ケミカルの施設は研究所であるため、多くの社員は研究者です。まだまだ多くの社員(=研究者)を巻き込めている状況ではないので、今後は研究者達も多く巻き込んで、街の課題を研究開発の種として科学的に考えられるようになればよいと思っています」と語っていました。

青葉台リビングラボの運営を担当されている(左から)マナブデザインの高橋マナブさん、中里茉弥さん、三菱ケミカルの小野祐樹さん(顔を覚えていただくため、マスクをはずした撮影をさせていただきました。)

理系の研究者と地域住民の関係にはギャップがありますが、お互いの考えやギャップをうまく翻訳して共感するポイントを取り出すために、デザイナー(マナブデザイン)の方がリビングラボのプロデュースをされているそうです。街の課題を科学的に解析して、解決していくことで三菱ケミカルらしい科学的なリビングラボができるといいなあと思いました。

 

●リビングラボのヒント3:次世代を担う若者目線でのまちづくり

「まちづくりは大人だけのものではない。次世代を担う若者にとって、まちはどう見えるのだろうか?」。そう語ったのは、会場を訪れたファッションデザイナー コシノジュンコさんのところでディレクターをされている青山通法さんでした。三菱ケミカルはコシノジュンコさんに作業服のデザインを依頼されたことがあるそうです。

青山さんは、若者を中心にデザイン指導をされていることもあり、大人とは違う目線があることを実感していて、「中高大学生の目線で、まちの課題を抽出していくことも必要ではないでしょうか?高齢化が課題となる中で、若者目線の課題は異なる部分があるかもしれませんね。まずはその違いを明確にしていくこともリビングラボの役割ではないでしょうか?」と語っていました。

右がJUNKO KOSHINO ディレクター青山通法さん。左は横浜美術大学 高瀬准教授

若者といえば、以前、青葉区にあるFMサルースの志村美幸ディレクターより、「青葉区には、高校生による地域活性化番組があります。高校性が自分達で課題を想定し、自分達で取材し、自分達で放送する番組で、取材対象は、若者だけに限らず、商店会や地域活動などにも目を向けています。青葉区はそういう放送ができる地域なんです」というお話をお聞きしたことを思い出しました。

 

FMサルースの同番組は、YouTubeに過去分を含めて一般公開されていますのでご覧下さい。高校生の目線から見た地域活動に触れることができる番組です。(リンクは、最後のInformation にあります。)

 

このような若者との活動を一歩進め、三菱ケミカルには、脱炭素に関連した研究者も多く在籍する中、社員の方と中高大学生が、青葉台リビングラボという普段とは雰囲気が違う場を借りて(教えるという学校の教室とは違った場所で)一緒になって、青葉区の脱炭素まちづくりを考えるというワークショップをつくり、研究者主体のリビングラボの特徴を生かしたデータに基づく議論をしていけるのではないでしょうか。

 

 

■三菱ケミカル「Science & Innovation Center」 とは

青葉台リビングラボを開設した三菱ケミカルの「Science & Innovation Center」は、鴨志田町にある同社の敷地で新研究棟を建設中です。こちらにも訪れてみました。

 

都内に本社を持つ三菱ケミカルは、国内トップ、世界8位の化学企業で、横浜市青葉区鴨志田町にある「Science & Innovation Center」は、サイエンスに近い基礎研究を担当する同社の中心的な研究所です。敷地面積は、21万平方メートル、東京ドームの4.5倍の広さで、その4割は横浜市の指定緑地となっている森の中の研究所です。その「Science & Innovation Center」について、田畑祥生 研究推進部長と岡田佳之 総務部長に話をお聞きしました。

左:岡田佳之 総務部長 右:田畑祥生 研究推進部長(以下、撮影:梶田亜由美)

同社が青葉区に研究所を設立したのが1976年。2022年4月1日現在で1114名が働いています。今までは専門特化した研究が中心のため社内外の情報交流が少なかったが、「脱炭素」や「資源循環」などの「社会課題」に取り組むには、社内外の異なる研究分野でのコミュニケーションが重要であり、それを促進するため、2022年10月にむけて「Science & Innovation Center」内に「新研究棟」を建設しています。

三菱ケミカル Science & Innovation Center 新研究棟

「Science & Innovation Center」の研究対象のほとんどが「脱炭素」に関連していて、CO2排出を抑えるだけでなく、CO2そのものを吸収する「人工光合成」の分野で、国や関連企業が共同で研究を進める中、同社は主導的な役割を担っています。

 

 

●リビングラボのヒント4:本当に脱炭素なの?

脱炭素について、田畑祥生 部長から「脱炭素は製造から廃棄までの全体の量を見ないといけないんですよ。製品の利用だけでなく、製品に使われている材料をつくる過程での排出量や製品の廃棄やそれを資源循環させる過程での排出量などをトータルで見ていく必要があります。その上で、どの部分が多いのか? どの部分をどう減らせられるのか?を見て、本当に脱炭素と言えるのか?を調べていく必要があります」という解説がありました。

 

利用だけ見ると、自動車なども化石燃料より電気の方が脱炭素だよね!となっていますが、自動車の製造や廃棄・循環に必要な排出量まで見ると、どの部分が本当は多いのか? 全体を見る三菱ケミカルの脱炭素の取り組み姿勢は、さすが研究所という気がしました。

 

三菱ケミカルの事業内容を詳しく知りたい方は、「3分でわかる三菱ケミカル」をご覧下さい。身近なところにある製品が多く、その幅の広さを実感できます。(リンクは、最後のInformation にあります。)

化学式をモチーフにした案内ボード

 

地域性も大事にしており、こちらは青葉区にある寺家のホタルをイメージしたオブジェ

また岡田部長からは、「青葉台リビングラボで、地域課題に対して技術を生かしたい。青葉台エリアで連携ができないかと、2年前から地域との接点づくりを模索してきた。三菱ケミカルの商品は企業向けがほとんど。これからの研究は、生活、社会課題に向いていかなといけない。地域にどんなテーマがあるのか、ふれていくことを研究者の感性として大事にしたい。リビングラボの開設前から、青葉区内の小学校へ社員が出前授業をしたり、すすき野団地で堆肥づくりのアドバイスをしたり、自社で開発したバイオPBS紙コップを移動販売『萬駄屋』で使ってもらったりと、さまざまな地域連携に動き出しています」とのお話がありました。

 

取材を通じて、青葉区には、三菱ケミカルのScience & Innovation Centerや青葉台リビングラボがあり、大学も多く、放送局もある。農地面積も横浜市の中では多く、直売や美食に関するつながりも多様で、それらを連結する鉄道もある。青葉区にくらす三菱ケミカルの従業員の方も多く、それらの「人と場をつなぐ」ことが青葉台リビングラボに期待されていると感じました。

Information

<青葉台リビングラボの連絡先>

〒227-0062 横浜市青葉区青葉台1-31-1 青葉台郵便局3階(SPRAS青葉台)

三菱ケミカル株式会社 社内外交流推進プロジェクト 小野祐樹 さん

ono.yuuki.mh@m-chemical.co.jp

 

<関連リンク>

1)「地域とつながる横浜美術大学 地元密着の活動も広げています!」

https://morinooto.jp/2022/02/03/yokobi/

 

2)「Moreぷら(元石川高校による地域活性化ラジオ)」

https://www.youtube.com/playlist?list=PL3p3UBZ0okIDRaUTxpTIAN6voS35WfjAT

 

3)「3分でわかる三菱ケミカル」

https://www.m-chemical.co.jp/company/3min_profile.html

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