東急さんに聞いてみた!前編〜nexusチャレンジパーク早野の“生活者起点”のまちづくり、を紐とく。
東急株式会社が、新しいまちの実現に向けて、“生活者起点”でのまちづくりを掲げた「nexus構想」。その第一弾の取り組みである「nexusチャレンジパーク早野」が今年4月に、川崎市と横浜市の市境にほど近い、虹ヶ丘団地に隣接した空き地に誕生しました。同プロジェクトがキーワードに置く、“生活者起点”とは?プロジェクトに関わる人たちの言葉から読み解いていくシリーズを2回にわたってお届けします。

私の住む横浜市青葉区は東急田園都市線沿線の各駅前を中心に、商業施設や商店街、住宅地が広がる、いわゆる郊外住宅地です。一方で、駅から少し離れると、寺家ふるさと村に代表されるような田園風景や里山が残る、自然環境に恵まれた地域でもあります。私自身、こうした環境で子育てがしたい思い、8年ほど前に都内から青葉区に越してきました。最寄り駅からはバスで15分以上かかる駅遠エリアに住んでいますが、車があればどこへでも、バスも頻繁に走っている。ちょっと歩けば子どもたちがのびのび遊べる里山にもほど近く、町内会などの地域コミュニティもちょうど良い距離感でつながっている。コロナ禍でリモートワークの可能性が広がった今、私のように「あえて駅遠で豊かに暮らす」という選択肢が、子育て世代を中心に密かに広がってきているのではないか、と感じていました。 

 

そんな折、昨年頃からまちづくり関係者の間で、東急株式会社が東急沿線郊外を舞台に掲げた新しいまちづくり「nexus構想」がよく話題に上がり、「これまでの駅前型ではないまちづくりに、東急さんが乗り出した?!」と森ノオトとしても、ここに暮らす、いち生活者としても気になっていました。 

nexus構想が目指す、新たな郊外沿線の街の姿。多世代にわたる地域住民が、身近な自然の中で循環を実感できる暮らしや、交流、公共交通の充実などが表現されている(提供:東急株式会社)

 nexus(ネクサス)は日本語で置き換えると、「連鎖」や「つながり」などを意味します。 

青葉区でも高齢化が加速し、社会構造が急速に変化していく中で、このまちをつくってきた東急株式会社が、今度どんなまちづくりを考え、地域にどんなつながりを生み出そうとしているのか。そんな疑問を、東急社員さんの生の言葉で聞いてみたいと思い、インタビューする機会をいただきました。 

チャレンジパークの拠点。黒板として使えるドアには子どもたちの自由なイラストが。同地の施工は青葉区にも拠点を構える「桃山建設株式会社」が手がけた

ここは、あざみ野駅からバスで15分ほど。すすき野団地と虹ヶ丘団地が並ぶ郊外エリアに、この4月にオープンした「nexusチャレンジパーク早野」。同社のnexus構想の第1弾としての取り組みです。 

これまでほぼ空き地となっていた郊外地を利用した約8,000平米の敷地には「農と食」をテーマに、地産地消マルシェなどさまざまなチャレンジの拠点「ラボエリア」、遊びながら防災を学ぶ「ファイヤープレイスエリア」、コミュニティ農園で持続可能なライフスタイルの実験をする「ニジファームエリア」、養蜂やカブトムシの育成などを通じて自然の生態系を学ぶ「生き物の森エリア」の4エリアが設けられています。周辺住民が自由に活用、実験できる場として誕生しました。 

 

今回、nexusチャレンジパーク早野のプロジェクトメンバー(三渕卓さん・清水寛之さん・清水健太郎さん・中上慎哉さん・金井純平さん)と、森ノオトメンバー(理事長・北原まどか、編集長・梶田亜由美、事務局長・宇都宮南海子)が膝を付き合わせて、根掘り葉掘りのインタビュー企画を行いました。初夏のじっとりとした暑さの中でしたが、この場の空気を感じたく、キャンプテーブルと椅子で丸くなり、みなさんの熱い(!)思いを聞きました。 

ラボ前のスペースで円になって取材。後ろに見えるのが虹ヶ丘団地

 人がまちを歩き、活動する。Walkableなまちづくり 

森ノオト: まずは、ネクサスチャレンジパーク早野が誕生した背景を教えてください。私たちはいち生活者として、東急さんのまちづくりの受益者でもあります。これまでのまちづくりの観点で見ると、駅から遠いエリアの開発に手をのばしたのかな、と感じている住民も少なからずいるのではないかと思います。 

 

三渕さん(以下、敬称略): ご存知のように、東急田園都市沿線は日本最大級の区画整理をして弊社がつくってきたエリアです。高級住宅区街、駅前ショッピングセンターなど、わかりやすいブランディングでまちがつくられてきました。一方で、高級がゆえに、若年層が入りづらく、初期に住宅を購入した世代が高齢化し、まちがそのまま古くなってきている。まちの持続性を考えたうえで、「このままでいいのか」という課題意識が自分の中にずっとありました。 

 

大きなきっかけは新型コロナウィルスによるパンデミックでした。通勤や通学を控えるようになり、電車に乗る人が3割減り、その人たちが家にいることも増えた。だけど、在宅している人は家の中でオンラインで仕事して、まちに出てこない。ふとまわりを見てみると、自然は近くにある。地域に暮らす多くの人が、そうした、身近な自然や心地よい空間を知らないだけなのでは?という思いがあり、「Walkableなまち」(歩きたくなるまち)というのが一つのキーワードとして僕の中に出てきました。人がまちを歩き、活動する。活動量の総量をあげるようなまちづくりを目指して、このnexus構想がスタートしたという感じです。 

左から、清水健太郎さん、三渕卓さん、清水寛之さん

森ノオト: これまでの駅前型の開発と、チャレンジパークはどう違うのでしょう? 

 

三渕: 駅前のプロセスとは全く違いましたね。この拠点をつくるにあたり、当然ながら近隣との合意形成は必要です。ここはめちゃめちゃ静かな場所なので、ここに場をつくることに対しては、特にお隣の虹ヶ丘団地にお住まいの方からも、当初は心配の声がありました。プライバシーの問題だったり、ファイヤープレイスがあることで煙への不安もありました。内覧会などを通して徐々に地域のみなさんにご説明して、ご理解いただいてきた、というところがあります。 

 

「ここは駅からも遠く、市街化調整区域という制約がありますが、挑戦できることはたくさんある。駅前だけでなく、駅から遠いところに暮らす価値を享受できるような、こういう場所を増やしていきたい」(三渕さん)

多世代が集う、地域の「共空間」に 

森ノオト: 先日伺った時に、放課後の小学生たちが遊びに来ていましたね。 

 

三渕: そうなんです。毎日のように夕方、小学生が1020人くらい遊びに来てくれます。ほんと自由に遊んでて。このような「共空間」を求めている人は多いと感じていて、子どもたちの反応が一番わかりやすい答えですよね。子どもは本当に、自分たちの居たい場所、遊びたい場所を選ぶ。それが一つの答えかなと思うんです。 

 

ここで焚き火ができるファイヤープレイスを設けたことも、バーベキューをやりたいからつくったわけじゃなく、子どもたちに火を使うことを経験してもらいたい。今の時代、公園に行くとあれやっちゃダメ、これやっちゃダメという禁止事項の看板がある。子どもにとって、昔のように自由に居られる場所が必要だと思います。元々、この場所の利用され方のイメージとして「子ども」にフォーカスしていたわけじゃないけど、結果的に、子どもたちの存在が地域の方からの理解につながっていると感じています。ここはルールがないので、子どもたちが自由にのびのび過ごす。そして、防災などの教育の場にもなる。その様子に反対する人は少ないのではと思います。 

ニジファームでは会員制のコミュニティファーム。会員同士で話し合って、野菜を育てていく。プランティオ株式会社が提供する「grow」という野菜栽培システムを導入して、IoTを活用した野菜栽培を行っている

 清水(健): また、「農」も共空間の一つと捉えています。「ニジファーム」は利用会員みんなで野菜を育てるコミュニティファームです。「農」は多世代コミュニケーションのツールの一つになるだろうと思っています。SDGsという言葉をみんな使うようになったけど、自分とは距離があるというか、なかなか我が事になりにくいですよね。でも、楽しみながらみんなで種をまき、土をいじり、水撒きをすれば、「野菜って買わずに自分で育てることもできるんだね」というレベルのところから、「持続可能な環境には何が必要なのか?」を実際に体感できる。 

また、ファイヤープレイスエリアでの焚き火の薪材は、隣の早野聖地公園で里山ボランティアの活動をされている方々からいただいています。おじいさんたちが自転車のカゴに、薪を積んで持ってきてくれているんです。木材の地域循環というコンセプトに共感していただき「地域の子どもたちのため」と、いろんな方々が参加しチャレンジパークが多世代が集う場になってきている。長い目で見ると、そういう原体験があることで、子どもたちが成長して一度この地域を離れたとしても、また地元に戻って暮らしたいと思うような、選ばれるまちになっていくことにつながるのではないかと思っています。 

 

森ノオト: nexus構想では「生活者起点でのまちづくり」を中心におき、地域の人たちがチャレンジしたいことに活用できるということで、養蜂だったり、ヤギの放牧やカブトムシを育てる企画が早速行われていましたね。今はどんな企画が動いているのでしょうか? 

 

東急・金井(以下、金井): 近所に住む主婦の方から、「夏祭りをやりたい」とアイデアが出たんです。企画から仲間集め、チラシの作成など、我々はほとんど運営に関与していないんですが、どんどん進めていっていて。地域に活躍の場があると、これだけのことができるんだと目の当たりにしています。そういうポテンシャルを引き出せる場って、ここなら安心してチャレンジできるんだって思える、心理的安全性が担保されているからこそだろうなと思っています。 

73日に開催した夏祭りの様子の動画。なんと800人が来場し、多くの人出でにぎわった(提供:東急株式会社) 

 

森ノオト: 「生活者起点」いう言葉の「生活者」というと、私たち森ノオトの場合、女性を真っ先に思い浮かべます。一方で、ここはなんとなく「男子校の部室」のような雰囲気もある(笑)。そのあたり、みなさんはどう感じますか? 

 

金井: 夏祭りを企画し開催した方々のように、仕事ではないけど、地域での活躍の場がほしい。特に、子どもたちのために何かしたいという意識が強く、前向きな方が多いように感じました。やっぱりちょっと今、(運営側の)男性感が強いですよね(笑)。僕が今感じている課題を言うならば、場の運営に女性が必要だと思っています。心理的安全性や多様性の意味でも、年齢も性別も多岐に渡ることが重要だなと。バディとして、住民、行政、企業、NPOのみなさんに積極的に関わってもらいともに新しいことをしていきたいと思っています。  

イベント時、ラボ横には「ネクストチャレンジ」を書き込める模造紙が。この中から次のチャレンジが生まれていくのが楽しみ

 三渕: こういう場をつくる時にやりがちなのが、これまでのディベロッパーの発想だと、運営を外部の会社に委託して、イベントをいくつも起こしてもらって、地域との接点をつくっていく、というやり方です。でもここではそれをせず、現場にいるのは東急の社員。地域の生活者と、毎日直接向き合っています。あくまで周りに住んでいる生活者が中心になって、我々も一緒にチャレンジパーク=試行錯誤をする場、としていきたいと思っています。 

左から中上慎哉さん、金井純平さん。中上さんは、ヤギ担当(!?)。放課後に立ち寄る子どもたちから「じゅんさん」と親しまれる金井さん

4月にオープンしてから、わずか3カ月ほどの間にも、いくつものチャレンジが動いているチャレンジパーク早野。プロジェクトメンバーのみなさんのお話を聞いていて、「動き出しとては順調なのでしょうか?」という事前に考えていた問いを引っ込めました。ややもすると、こうした場は、イベントの集客のみでその価値を図られてしまうことも多いと思います。でも、この場所の価値はそこには置いていない。目の前の一つひとつのチャレンジのプロセス、そしてそこから生まれる波紋。それがまちに小さな変化をおこしていくことに、焦らず向き合うどっしりとした覚悟を感じました。 

 

後編は、そんなプロジェクトメンバーの横顔を紹介します。 

 

(撮影:齋藤由美子) 

 

▼(後編)東急さんに聞いてみた!後編〜nexusチャレンジパーク早野、まちをつくる人、その横顔。

 https://morinooto.jp/2022/07/30/nexushayano02/ 

 

Information

<Nexusチャレンジパーク早野 >

https://ncp-hayano.studio.site/

https://www.instagram.com/ncp_hayano/

https://www.facebook.com/ncphayano

神奈川県川崎市麻生区早野1150-2

OPEN :10:00-18:00(冬季17:00)

東急社員の運営メンバーが常駐。営業時間内はいつでも訪問可能です。

「気軽に雑談や、チャレンジパークでやってみたいこと、やってほしいことを教えてください!」とのこと。

この記事を書いた人
宇都宮南海子事務局長/ライター
元地域新聞記者。エコツーリズムの先進地域である沖縄本島のやんばるエリア出身で、総勢14人の大家族の中で育つ。田園風景が残る横浜市青葉区寺家町へ都会移住し、森ノオトの事務局スタッフとして主に編集部と子育て事業を担当。ワークショップデザイナー、2児の母。
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