子どもたちを真ん中に、循環するエネルギー 。ワクワクの仕掛け人!正淳先生
学校で「きょういく」、「きょうそう」という言葉を耳にすると、「教育」、「競争」という字を思い浮かべるかもしれません。けれども横浜市立山内小学校の掲げるそれは、共に育む、共に創造する、という意味を示す「共育」、「共創」です。地域や家庭と共に、子どもたちの豊かで健やかな学びの創造、そして「誰一人取り残さない学校」を目指す、山内小学校校長・佐藤正淳先生がいます。先生のお話には「描く未来」を叶えるためのヒントがたくさんありました。(写真撮影:梶田亜由美)

佐藤正淳(しょうじゅん)校長は平成元(1989)年、横浜市立あざみ野第二小学校に赴任しました。それから30年後の令和元(2019)年に、横浜市立山内小学校の校長となるまでの間、横浜市立の小学校、ルーマニアのブカレスト日本人学校、そして横浜市教育委員会事務局・教育政策推進課勤務、と教育の現場をひた走って来ました。

「正淳先生」−。そこで出会ってきた子どもたち、保護者、地域の方々に親しみを込めて、そう呼ばれてきたことが、先生の現場での様々なエピソードを通して目に浮かぶようでした。その呼び名は先生の佇まいにとても合う響きに感じられます。ですから、この記事では佐藤校長先生を正淳先生と呼びたいと思います。

「森ノオトってなんだかいい響きですね。いくつか読ませていただいたんですが、森ノオトの記事からは、いい風が吹いてくるようですね」。取材の最初にそのようにニコニコと声をかけてくれた正淳先生。朝、校門に立ち、子どもたちに「お!髪の毛切った?」など、ちょっとした気が付いたことなど声をかけるようにしているとのこと。「校長先生は自分を見てくれている!」先生からの一声は、子どもたちの心をパッと開き、安心と明るさを与えてくれるでしょう

「誰一人取り残さない学校」を目指して

正淳先生が山内小学校の教育目標として掲げている「誰一人取り残さない学校」。その目標に向けて様々な取り組みが行われています。例えば「キラキラルーム」という、苦手分野、つまずいている単元をゆっくり学習するために、取り出し指導を行う教室があります。

また、不登校の子どもが学校の中で安心して登校できる居場所「あったかハートルーム」を校内に設置することで、不登校の子どもも自分の学校に足を運ぶことを叶えられています。

また、教科分担制により、一人の子どもを複数の先生たちで関わり見守ります。その他にも、「Yぷらす」という、地域と学校の連携を促進する組織作りを行うなど、学校だけでなく、保護者、地域の人、地域の企業との連携の中で教育環境を作るために多様なチャレンジを進めています。

「私はモンスターペアレントなんていないと思っています」という正淳先生の言葉は一保護者として、とても印象的でした。「保護者が学校に何か気がついたことや意見、お願いを言ってくれることは、ハードルが高いことだと思います。それを越えて伝えていただけるというのは、ありがたいことです。子どもたちの健やかな成長を誰よりも切実に願う保護者が、様々な迷いを乗り越えて、学校の扉を叩いてくれている、その気持ちを見逃さないように、その声を聞き逃さないように、真摯に受け止めたいと思っています」

必要なのは「KKF」! 

「色々やらせてもらい実現していくうえで、私は『KKF』を大切にしています」と正淳先生。「Kは『感性』、感動する心、人から学ぶ心です。次のKは『覚悟』、最後まで絶対に成し遂げるのだという覚悟です。そしてFは『フットワーク』!これだけカタカナですけどね」と笑います。そして「この三つを持つことで『子どもたちを真ん中に』した新たな挑戦にみんなで進んで行くことができます」。

 

とりわけKKFのF、フットワークは正淳先生の天性のものだと数々のお話から思いました。

例えば、正淳先生が小学5年生の担任をしていたときには、社会の教科書の中に出てきた農家さん、漁師さんに直接会いに行き、仕事を手伝いながらいろいろな話を聞いて来て、授業をしたこと。また、理科の魚の解剖の単元では、板前の保護者にお願いをして魚(当日、保護者が持ってきてくれた魚は鯛だったそう!)をさばいてもらい、魚の身体について説明をしてもらったというエピソードなど、様々あります。

また、校長先生となった現在は、保護者が思っていること、感じていることを直接聞くために、毎日通勤時にはあえて、地元の人たちが多く利用している駅前のスーパーで自らも買い物をしながら、「偶然会った保護者たちと立ち話できる時間を大切にしている」ということを習慣にしています。

「恵方巻きの廃棄をニュースで見て、お花屋さんの花の期限はあるのかな?その花はどうしているのだろう?」と思い、次の日地元のお花屋さんに話を聞きに行ったそうです。その正淳先生の行動により、巡り巡って今、山内小学校には毎週お花屋さんから季節のお花が届けられ飾られています

気になったら、気がついたら、自分の足で会いに行くという正淳先生のフットワークは、日々の中で呼吸のように当たり前にしていることのようです。そしてその足を動かしている原動力は、子どもたちのためにより良い教育と環境づくりを目指していること。その一点にあるのだと思います。

 

 

〜未来志向の学校へ〜ワクワク、キラキラする授業づくり

正淳先生の「KKF」力によって学校だけでなく、地域や保護者を含めた新しい風が吹いているようです。「風は待っていたら向かい風、自分から起こせば追い風です」という正淳先生が起こす新しい風の一つに、「Y-NEXT〜未来志向の学校へ〜」、未来をつくっていく子どもたちのために、ワクワク、キラキラするような授業を創っていこうという取り組みがあります。

 

まだ誰もコロナの気配さえ感じていなかった2019年6月、山内小学校の校長となって3カ月目の正淳先生は、「これからの子どもたちが生きていく時代は、あらゆることが予測困難な時代だろう」という前提で「Y-NEXT」宣言をしました。

その宣言のもと、「学校というフィールド、公教育というフレームを越えて、学校と社会のつながりの中で、子どもたちが様々な本物から学び、それぞれの将来へとつながる体験をしてほしい」と、保護者や地域の企業などとのコラボレーション授業を展開しています。

企業などと連携して行う取り組みや、学校の中での新しい場づくりは、様々なメディアに取り上げられています。それらの記事は「学校での学びを社会や自らの将来につなげます!」という言葉を添えて廊下に貼られていています。協力した人たちも、参加した子どもたちも、それらの記事を目にすることは、嬉しく誇らしく感じられることでしょう。その手応えは次の風を起こす原動力にもなると正淳先生は前向き捉え、マスメディアからの取材を受けています

例えば、コロナの感染が広がる前には、シェフである保護者による味覚の授業や、バイオリニストである保護者による鑑賞の授業など、保護者の様々な持ち込み企画による授業が行われました。そして、2020年、コロナ禍においては、先ほどの授業を行った保護者たちが、リモート授業のために調理実習動画を作成したり、北海道の旭山動物園とのリモート遠足を実現したりと、力を貸してくれました。

 

これらの取り組みはコロナという負の状況の中で、学校だけではなく、保護者や地域の力を合わせて、新たな形で子どもたちの学びを支えることができることを発見し、次の学びの形へつなげられる機会を作ることになりました。

 

 

子どもたちの胸に残したい「原風景」

「私は原風景という言葉が好きです」と正淳先生。「Y-NEXT〜未来志向の学校へ〜」や「Yぷらす」など、山内小学校の活動には大人たちの協力や支援が散りばめられています。それらは、子どもたちにとって「大人が一緒に何かをしてくれる、力を貸してくれる」という体験になります。身近に感じられる大人の暖かい手、たのもしい背中は、子どもたちの記憶に残るでしょう。当たり前のようにさりげなく支えてくれる、大人と過ごした時間の重なりは原風景として心に残り、やがて子どもたちが大人になったとき、人のために自然に力を貸せる、支えられる力を彼らに与えてくれると正淳先生は確信しています。

写真は二つ星シェフである保護者、入江シェフの持ち込み企画「味覚の授業」です。 正淳先生は「公立の学校でできることとできないということ、その間には、まだ前例のないグレーゾーンと言われる部分があります。僕に言わせるとそれは『カラフルゾーン』なんです」と言います。前例のないこと、でも子どもたちをよく見ていると見えてくる「今」必要なこと。それに気が付いたら走り出すファーストランナーとしての正淳先生の気概とエネルギーを感じる言葉でした(写真提供:山内小学校)

このような体験は、以前の暮らしの中にあった「お祭り」や季節の行事の中で、地域の大人が子どもに見せていた背中に近い意味を持っているのではないでしょうか。新しく作られた街で核家族化が進む今、学校というどの街にもあるコミュニティが、そういった原風景を再現できる場としての可能性を感じます。

そして、たとえ街の姿が変わっていっても、未来の彼らがいつでも戻ってくることができる、温もりを感じられる、勇気や力をもらえる原風景として在り続けるでしょう。

 

 

子どもたちに伝えたい「失敗したっていい、またチャレンジすればいい!」

大人との関わりを作っている取り組みには、「様々な生き方をしている大人にたくさん出会うことで、色々な将来のビジョンを子どもたちが持てるようになって欲しい」という願いもあります。

 

それは正淳先生の初任の時代にまで遡ります。1990年代は中学受験が加熱していく時代でもありました。その風潮の中では、中学受験の合否で、その後の人生が決まってしまったかのような表情をする子どもたちを目の当たりにしました。そんな子どもたちに、チャレンジがあるから失敗があり、失敗したのなら、またチャレンジすればいいんだということを「いろんな人生を生きるかっこいい大人にどれだけ子どもの頃に出会えるか」ということで伝えたいと考えました。その出会いは、子どもたちに様々な未来を描く力を与えてくれるだろうと。

このような活動の中で、ふと大人たちが、失敗談やそこからの挑戦を話してくれることがあります。その実感のこもった話のなかに子どもたちとってのかけがえのない学びがあるのでしょう。

 

 

「学校では毎日、キラキラした奇跡のようなことが起こっています」

こう話す正淳先生は、クラスで起こる日々の出来事を保護者と分かち合いたいという思いから、初任のクラスでは、「雑感」というクラス通信を毎日書いたそうです。

この「キラキラした奇跡のようなこと」とはどんなことかしらと思ったら、ぜひ正淳先生が投稿している山内小学校のInstagramを見てください。

写真には、子どもたちのタブレットを操作する手、図工の作品を作る手、校庭で捕まえたトカゲを見せる手、黒板の前に立ち発表している仲間を見つめるまっすぐな背中、家庭科で初めて縫ったフェルトの作品、給食室の調理前の新鮮な野菜などが写っています。それらを見ると、正淳先生が何に心を動かされ、何を奇跡と言っているのかが伝わってきます。

 

また、Instagramには、保護者、地域の人々、そして企業などの子どもたちへの協力の様子が「感謝」という言葉と共に度々アップされています。

それらの投稿は、力を貸した人たちに対しても、その協力の先にある活き活きとした子どもたちの姿と、感謝を伝える役割もあると思いました。「ああ、協力してよかったなあ!」と、関わる人たちをも元気にし、また何かできることがあればぜひ力になりたいというを気持ち生み出しています。この正淳先生の見逃さない視線と、当たり前のように差し出された協力を当たり前とはとしない、他者への感謝の心が、子どもたちを中心に循環しているエネルギーの要なのではないでしょうか。

正淳先生がアップする山内小学校のInstagram。直接には山内小学校との関わりのない私が見ても、何か自分もできることが見つかりそうな、ワクワクする気持ちになり、エネルギーをもらえます。この循環は山内小学校だけにとど止まるものではなく、様々な形で地域や他の学校にも広がっていくきっかけや可能性を含んでいると感じられます

校長先生がInstagramをしているというのは、意外なことに感じられました。けれども、投稿を一つひとつ見ていると、学校だからこそ見られるこの子どもたちの自然な姿、それをサポートする人たちの温もりや、学校の新たな取り組みや挑戦、まさに日常にある小さな奇跡…。それらを誰もが気軽に見ることのできるこのツールの意義が理解できます。

創立130周年の記念に、児童により作られた山内小学校のシンボルキャラクター「ケヤリーフ」。現在、保護者の協力を得て、子どもたちが新たに考えた「あったかことば」を添えたケヤリーフがLINEスタンプになったり、グッズとなって販売も行われています。その収益は子どもたちが「みんなの役に立つこと。誰かのためになること」を考え使われています

「苦手や不得意な部分は、誰かの力を借りられる余地だと思います」

山内小学校での活動を紹介しながら、正淳先生はそのように言いました。

様々な新しいことを実現している正淳先生は、「一人で」「自分が」というのではなく、様々な人が力を寄せ合うことで何かを成すことができると考え、他者の力を信頼しているのだということを新鮮な気持ちで聞きました。

学校の中には様々な言葉が掲げられていました。例えば「SDGs=S少しずつ、Dできることから、Gがんばろう、sぜ!」や「あいさつ=あ・あかるく、い・いつでも、さ・さきに、つ・伝える」など、小学校1年生から6年生まで、誰にも伝わりやすい言葉がさり気なく貼られています。日常生活の中でそれらを言葉(文字)として目にすることで、大切なメッセージが自然と身につきそうです

「子どもたちは未来」

取材の最後に正淳先生は「教員になり、日々子どもたちを前にして、一層『子どもたちは未来だな』と実感しています。そしてその未来は明るい!と私は確信しています!」

正淳先生が描く明るい未来は、日々、子どもたちを真摯に見つめ、見守る眼差しが導きだすものです。

 

取材を終えて、廊下に出ると、ボランティア活動に来られた高齢の方や、保護者が話をしながら朗らかに歩いていました。明るい風が、子どもたちと子どもたちを巡る人々から、学校というフレームを越えて街にも吹いていくようです。

山内小学校の目指す「共育、共創」は、学校と保護者と地域が手を取り合い、子どもたちを育み、子どもたちの未来を創ると同時に、子どもたちと共に街の未来を創っていく「共創」なのだなと思いました。

 

*本記事は、独立行政法人福祉医療機構の<WAM助成2022>として実施した取材記事です。

Information

横浜市立山内小学校

所在地:横浜市青葉区新石川 1-20-1

電話:045-911-0003

FAX:045-913-1372

メールアドレス:sy00-sato@city.yokohama.jp

ホームページ:https://www.edu.city.yokohama.lg.jp/school/es/yamauchi/

Instagram:https://www.instagram.com/yamauchi.e.s/?hl=ja

この記事を書いた人
南部聡子ライター
富士山麓、朝霧高原で生まれ、横浜市青葉区で育つ。劇場と古典文学に憧れ、役者と高校教師の二足の草鞋を経て、高校生の感性に痺れ教師に。地域に根ざして暮らす楽しさ、四季折々の寺家のふるさと村の風景を子どもと歩く時間に魅了されている。森ノオト屈指の書き手で、精力的に取材を展開。
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