世代を超えて響きあう喜び。横浜都筑太皷が守り、伝えてきたもの
今年(2022年)秋、横浜北部の都筑・青葉・港北の文化芸術に関わる施設の協働で開催された「和の(大)文化祭」。その企画の一つに、親子で参加できる横浜都筑太皷のワークショップがあると聞き、9月23日(金)秋分の日、会場の横浜市民ギャラリーあざみ野3階アトリエ(アートフォーラムあざみ野)を訪ねました。

横浜都筑太皷は1986(昭和61)年の結成から36年。青葉区を代表する和太鼓団体の一つで、地域のお祭りから海外イベントまで、様々な場所で演奏活動をしています。繁忙期にはアイドルグループ並みに各地で引っ張りだこなので、ご存知の方も多いのではないでしょうか。

都筑太鼓のHPには、「都筑とは、古くは万葉集にも記される由緒ある地名である。現在の旭区から川崎市宮前区までの地域を都筑郡と言い、美しい丘陵と谷戸が続いているところから『つづき』となったという。昭和14年に横浜市に合併された。昭和61年の発足にあたり、地域に根付く新しい郷土芸能をめざすとともに、古くから伝わる由緒ある名前にあやかり、末永く続いて行くことを願って都筑太鼓を結成、後には都筑区の誕生で地名が復活した」とあります。

 

1980年代は、各地で和太鼓集団が立ち上がっていて、都筑太鼓も、それ以前になにか土台となる伝統文化が地域にあったわけではなく、全く新しく始めたものだったんですね。

 

私が、最初にその演奏にふれたのは、2018年、青葉区たちばな台の町内会主催で行われる「たちばなどんたく」の会場でした。お祭りの夜の提灯のあかりの下、間近で聴く太鼓の音は迫力満点で、心に深く響くものがありました。土着の芸能や、地域に潜む芸能者たちに興味関心のある私は、これが噂の都筑太鼓かと、その場に居合わせたことに喜びを感じたものです。

たちばなどんたく会場で演奏する都筑太鼓のみなさん。その音に反応して、突如フリースタイルで踊り出すノリノリなお子さんが目の前に現れて、微笑ましく、楽しい気分になったことも思い出しました

和の(大)文化祭の会場では、太鼓を見るのも初めてだという子どもたちも一緒に、都筑太皷のみなさんとのセッションに挑戦します。和太鼓には、ドレミのような音階がないので、一回打つときには、「ドン」とか「ドーン」。両手で続けて打つときには「ドコドコドコドコ……」と、先導する声に合わせて、右手と左手(逆でもよい)で交互にバチを動かします。

ワークショップには、森ノオトのライターの松園智美さんも参加していました。一緒に参加した小学1年生の娘さんが和太鼓を生で聴いたことがなかったと知り、そのことにびっくりしたそうです

日々の暮らしの中では、お腹に響くような、大きな音を出すことはほとんどありません。思いっきり音を出してよいということ自体が非日常なので、最初はみんなちょっとおよび腰です。探るように叩いてみるところから始めて、二つのパートに分かれて交互に同じリズムを叩く練習をひたすら続けます。

 

先生のリードで、少しずつ叩くリズムの難易度があがっていくに従って、ついつい顔がうつむきがちになるところ、「太鼓ではなく前を向いて相手を見てね!相手の音を聴いて、それに応えるように合わせていくのが大事ですよ!」という指導が入ります。

 

言葉はなくとも、感覚を開いてコミュニケーションしながら、息を合わせていくのが和太鼓の醍醐味です。

後半には、笛やチャッパ(シンバルのような金属製の和楽器)も加わりさらに盛りあがっていきます。その場に集まった人々のエネルギーが、ぐるぐると循環しながら、だんだん調和していく様子が目に見えるようでした

 

演奏の最後は「やー!」と声を出します。V字に腕を広げてピタッと止めるポーズも決まりました!

「ほんの30分ほどの練習で汗をかいちゃいました!」

「大きな音を出すって、なかなかできないことだからそれだけで楽しかった!」

 

参加した方々はみなさん(特に大人が!)興奮、高揚気味。初めての和太鼓、しかも初めましての方が集まって一つになれる体験ができて、満足気に帰られたのが印象的でした。

 

普段の都筑太鼓の稽古日は、毎週土曜17時から21時まで(小学生は20時まで)です。最近は、あおば支援学校を会場にすることが多いようです。演奏活動が入ることもあるので、詳しいスケジュールなどは、都筑太鼓のホームページでご確認ください。問い合わせ先リンクなどを、この記事の下のインフォメーション欄に掲載しています。

 

「太鼓は、誰でも叩けば音がなります。シンプルで、でも奥深くて、その人がそのまま現れるから面白い」と語るのは、ワークショップ終了後、インタビューに答えてくれた柴田康弘さんです。28歳からメンバーに加わり活動歴は17年。現在、中堅のリーダー的な存在感のある柴田さんですが、和太鼓を始めたきっかけは、友人の結婚式の余興のために仲間とともに和太鼓をやろう!という軽い気持ちからでした。小・中学生の頃から、その存在を知っていた都筑太鼓の門を叩いた柴田さんは、とにかく和太鼓ってかっこいい、代表の白井拡幸さんがまたかっこよくて、と、太鼓の魅力にどんどんはまっていったそうです。

柴田さんは青葉区みたけ台で育ち、一度みなとみらいエリアで暮らした後、地元に戻ってきました。建設業界で働く傍らで、都筑太鼓の稽古に励み、各地を巡って演奏を届けています

現在、日本中に多くの和太鼓集団、和太鼓奏者がいる中で、都筑太鼓の演奏は「地味で渋い」部類なのだとか。言われてみれば、確かに、派手なパフォーマンスや衣装で魅せるタイプのものとは違います。そこには、代表の白井さんの美学が色濃く反映されているようで、地球上の他の土地にはない、日本独特の感覚、陰陽の陰や虚実の虚の部分にも美を見出すような意識と紐づいているように感じられます。

 

「時々、『こんな演奏を聴きたかった。聴けてよかった』と涙を流すような人もいるんですよね。自分たちの演奏で、こんなに喜んでもらえるんだ、人を感動させることができるのかって、それはやっぱり嬉しいです」。そんな得難い経験が、また次へと進む原動力になっていると言う、柴田さんの言葉を聞いて、地域に根ざして連綿と太鼓文化の灯火をつないできた人たちの、愛情と情熱を思いました。

 

都筑太鼓のスタイルと自身の音楽性やレベルが合わずに、他のグループに移ったり、プロになった人も多いそうですが、「太鼓の前では年齢や経験関係なく、誰もが同じ仲間として尊重されるんです。大人と子どもが一緒になって何か一つのものを作り上げることって、普段はなかなか経験できないじゃないですか」と柴田さん。

 

話を聞きながら、都筑太鼓は、地域のサードプレイス的な居場所、地域コミュニティなんだなと感じていました。みんなで「稽古」をする場であり、舞台を作りあげるプロセスを大事にしているという点でも、太鼓「教室」とは違います。2002年に、NPO法人化したというのも、太鼓を通した青少年の育成を第一に考えていることの表れといえるでしょう。

 

都筑太鼓では、活動を維持するために、演奏活動や寄付、会費による収入はきちんと得ていますが、それは、団体の収益として、太鼓やばちなどをはじめとして必要な経費を賄うためで、演奏者個人には経費以外のお金が入らない仕組みにしています。「太鼓で食べていくということに憧れを感じることも正直ありますけど、お金をもらったら仕事になってしまう。演奏回数はプロよりも多いくらいだけど、仕事とは別の活動だから楽しいし、気持ちよく続けられるんだと思います」。他のメンバーも医療関係だったり、公務員だったり。自分で、ある程度シフトを調整できる仕事を持って、演奏活動との両立をさせている人が多いのだそうです。

横浜市民ギャラリーあざみ野3階アトリエ(アートフォーラムあざみ野)でのワークショップに集まったメンバーの集合写真。後列右から2番目に立つのが、創設者で理事長の白井拡幸さん。左から2番目が柴田さん。みなさん、ハチマキやはっぴ姿がきりりとキマっています

活動を継続するには、途中、大波小波様々にあったのではと想像するのですが、代表の白井さんは「これまで関わった人数えたら250人いてね。36年なんてあっという間よ」と、さらっとおっしゃっていました。今後は、都筑太鼓草創期のメンバーが立ち上げた青葉区のプロ太鼓集団「鼓粋(こすい)」との、初の共演企画も考えられているのだと、太鼓にかける情熱は若いメンバーに全く負けていません。

 

コロナ禍を経て、各地でのお祭りやイベントへのオファーがまた増えてきたという都筑太鼓の歩みは、その名の由来—地域に根ざした新しい郷土芸能が、末長く続いていくようにという願い—の通り、まだまだ続きます!

 

*本記事は横浜市歴史博物館主催<都筑・青葉・港北 和の(大)文化祭>として実施した取材記事です。

Information

特定非営利活動法人横浜都筑太鼓(よこはまつづきだいこ)

〒225-0023 横浜市青葉区大場町358-3

TEL : 045-971-3181 FAX:045-972-4833

MAIL:info@tsuduki-taiko.com

HP:http://tsuduki-taiko.com

※稽古の見学を希望の方は代表の白井拡幸さんに必ずご連絡ください。

045-971-3181 / 090-3313-6494

 

横浜市民ギャラリーあざみ野
https://artazamino.jp/

 

 

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横浜市歴史博物館〈「和の(大)文化祭」主催〉

https://www.rekihaku.city.yokohama.jp/

 

横浜北部(港北区、緑区、青葉区、都筑区)では、地域文化遺産と市民をつなぐ「よこはま縁むすび講中」という取り組みが始まっています。

よこはま縁むすび講中 http://yokohama-enmusubi.jp/

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この記事を書いた人
梅原昭子コミュニティデザイン事業部マネージャー/ライター
引き算の編集が好きです。できないこと、やりたくないことが多過ぎて消去法で生きています。徒歩半径2キロ圏内くらいでほぼ満ち足りる暮らしへの憧れと、地球上の面白い所どこでもぶらりと行ける軽さとに憧れます。人間よりも植物や動物など異種から好かれる方が格上と思っている節があります。
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