自然あそび塾は、横浜市旭区「こども自然公園」で毎月1回土曜日に年間通じて開かれている連続講座です。講師を務めるのは、30年間自然を深く探究し続け自然の神秘を知る「五感教育研究所」室長の高橋良寿さん。
講座では、説明を聞きながら高橋さんと歩く距離は長くありません。しかしその短い中に、たくさんの自然の魅力が詰まっていることを教えてくれます。
「『ヌルデ』のフシには、タンニンを含み、お歯黒などに使われたり、おなかが痛いときに利用しました」「『クヌギ』の生え方で里山が昔あった場所がわかります!」などなど自然にまつわるお話が盛りだくさんです。
講座では、回を重ねるごとに自然への親しみが増してきました。参加者同士も気軽に話しながら、また高橋さんの気さくな人柄もあり、いろんな質問が飛び交い、私にとっては知らないことだらけで興味深いです。時には「それ、調べてわかったら、教えてちょうだい♪」と高橋さんから言われることも。植物の名前や構造や昔の用途などを聞いたり工作をしたりと過ごす楽しい2時間。参加者の方々も、講義の内容や工作の様子をメモや写真、ビデオに収めています。高橋さんは子どもの教育にも造詣が深く、自然の奥深さと魅力を感じるとともに、子どもの発達期の自然との関わりの重要性を学ぶことができます。
この講座は大人が対象です。なぜ対象が、大人である私たちなのか。ここには高橋さんの自然を通して行う教育への熱く深い思いが込められていました。高橋さんは話します。「ここ数十年の間の子どもを取り巻く問題や、身の回りでも自律神経失調症に悩む人たちが多くいたりと、こんなにも子どもから大人までが問題を抱えて生きている。こうしたいろいろな社会問題の解決は、子ども期の自然の中で過ごす体験の中にあります」。まずは大人が自然に魅了され感動すること、子ども期の発達段階に自然が重要な役割を果たしていることを深く知ること。また実際に工作やあそびを通じて五感で体験、体感していくこと。その上でそれらを未来の子どもに継承していってほしいそう。そして、たくさんの大人たちが地域にあそびを根付かせながら、人が元気を取り戻せるよう、日本という国を地域から再生していきたいと語ってくれました。
参加者は保育士や幼稚園教諭、学校の教員といった子どもの育ちに関わる方も多く、毎回15人前後が参加しています。子どもも参加でき、小学生以下は無料で参加できるようになっています。月1回年間通じての連続講座ですが、単発でも参加できます。12回通うと、子どもたちに自然遊びを伝えるインストラクターに認定されます。
大人が熱心に聞いている間、子どもたちは手持ち無沙汰な様子も見せていましたが、工作が始まると、見たことのない工作の数々や工作に使うナタ、ナイフなどを目の前にし目をキラッキラさせています。高橋さんは言います。「幼稚園の子にもナイフ持たせるときは、大人がちゃんと見ていて、やり方を教えてあげればいいんだよ。鉛筆の芯を削るときなんかはナイフを動かすんじゃないんだよ。鉛筆の方を動かすの、こうやってね」。手先を器用に使えるようにする術を教えています。使いこなすコツを聞いてうれしくなったのか、わが子も真剣。ナイフを使いこなし仕上げた作品“イヌツゲのペンダント”は、すてきでした。
同時に、大人も熱中しています。自然に触れながら行う工作やあそびには、自然と対峙した時に引き出される「何か」があるのを感じます。そんなことを考えていたら、高橋さんが「自然はほんとうに、奥が深い。自然には人間が正常に作動し自由になれる工程がプログラミングされています。だから子ども期に自然の中で遊ばせるのがとても大事」と教えてくれました。子どもの発達段階は「必ず森の中」を提唱する高橋さん。子どもの正常な発達はそこでこそ築かれると言います。
自然の中にある、起伏を越えたり、水に飛び込んだり、木に登ったり。そこで「怖い!」と感じたり、冬の雪の冷たさに震えたり、松脂のざらざらといった感触を体験する中で、手先や指や足、体を複雑に動かしたりする。人工物では作りえない、自然が備える複雑さと多様さは無限。それが、人の動作を引き出し、脳神経を育てていくそうです。
自然の中で思い切り興奮して遊んで、暴走して、汗をかく。その経験によって、脳の中で、すぐにキレずに自分を抑制する神経が作られるなど、自分をコントロールしていく力につながるといいます。子どもがブロック塀の上を歩きたがるのも生物の本能的に自立神経や他の脳神経を作っていくためだとか。横浜市大の研究所で働いていた爬虫類学者の権威、リチャード・ゴリス氏に脳生理学などを教わった高橋さんの興味深いお話は他にもたくさんありました。
そして、たくさん蓄えられた自然の中での体験は、将来の創造性につながり、次のものづくりの大切なベースになるといいます。石油、鉄鉱石がない日本で、かつての創業者たちが、遊びながら、昔のいろんな自然の体験を通して新しい商品を作り出せたように、発想や創造を開いていくベースは、緻密で巧みな自然のつくりにみる法則性と神秘性に触れる自然体験なのだそう。
「子どもの時期に、本当にやらなきゃいけないことっていうのは、机に向かうことだけではなく自然の中でのさまざまな体験。それが将来会社で生きていくことにつながるし、ひいては日本を発展させる」と高橋さん。
そして、子どもたちが将来本当にハッピーになるために、子どもの身体の動きを本気で心配することが大切、と高橋さんは言います。例えば、高い所で遊んでいても降りられなかったり、ずるずる引きづられて体勢が戻せないという動き、他にも池や、水たまりのようなところでの動きの様子や、仲間との相撲や取っ組み合いとか、自然の中で遊べば今何が足りないのかに気づくことができるそう。
20年前から神奈川県内の小学校の野外学習などに呼ばれ、指導者として子どもと関わったり、自然体験が少ない現代の教員に向けての指導者養成として教員向け研修を行ってきた高橋さん。今、活動の範囲を広げ、自然あそび塾をベースに公立小学校での横浜市の放課後の居場所づくり「放課後キッズクラブ」の指導者養成に関わり始めました。「自然と関わることをベースに、手や指を複雑に使って遊び、同時に歌や訓話など心に響く話を取り入れたい」と語ります。
例えば、歌。「うみだよ、やまだよ、あおいなみずは、ふねこげばさかながおよぐ……」は、みんなで手をつなぎ動きながら歌うそうで、その様子は幻想的だと言います。「いかとかい」の指遊び、歌「まわれまわれと みずぐるま おそくまわれ せきでとまるな せきでとまるな……」。教えてくれるものが、どれも耳に心地よいのです。「自然は表現の自己開示をする力があるんだよ、素直な自分を取り戻せるようなね」。自然は、素直な自分に戻れる場所でもあります。
高橋さんの活動は企業においても注目されつつあり、「自然を知ろう」という試みが、企業研修にも取り入れはじめられ、高橋さんは、社会の活動にも、周りを巻き込みながら積極的に関わっています。
高橋さん自身の体験として、自然を体感していくことで、本物とは?生きるとは?人間自身とは?と考えるきっかけになったそう。「植物や花の生き方に感じ取れるものがある」といいます。そして、「自然の中での五感を通じたさまざまな体験を通して、人として真に自由になれる」という高橋さんの言葉が、とても印象的でした。
時には千葉、山梨と神奈川県外にも呼ばれての講演会や指導。八ヶ岳まで朝、車で出て、その日に帰ってくるという日々の中で、「できる限り、人々に尽くしていく」と語ります。「世の中めちゃくちゃになったら困るでしょ。地域で困っている人がいたり、社会に問題があったら、そこに分け入る。これが生き方。傍観しないで、気になるところに入って、そこを何とかしようという同じ思いの仲間と一緒に解決していきたい。みんなの人生を明るくできるような良い社会を作っていきたいよね。家族、地域で育ててよかったねってみんなが思えるようなね」。時には、ユーモアを交えながら、いろいろな高橋さんの温かい思いをお聞きすることができました。
五感を育む自然あそび塾
会場:こども自然公園(横浜市旭区大池町65-1)※来年度は四季の森公園(横浜市緑区寺山町291)の予定
最寄駅:相鉄いずみ野線・南万騎が原駅
主催:問合せ NPO法人フォーラム・アソシエ
045-472-7093
開催日:11/26(土)、12/10(土)、1/21(土)、2/25(土)
時間:10:00~12:00
参加費:大人1名各回3000円(小学生以下の子どもの同伴OK)、追加の家族各回2000円(中学生以上)
HP:
https://forum-associa.jimdo.com/%E6%B4%BB%E5%8B%95%E5%A0%B1%E5%91%8A/
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