みんなが食べられるケーキを作りたい。青葉台の神戸珈琲物語 斎藤裕樹さん
東急田園都市線・青葉台駅から徒歩1分にある神戸珈琲物語 青葉台東急スクエア店は、2002年から続く喫茶店です。老舗喫茶店のゆったりとした雰囲気に加えて、コーヒーとグルテンフリーケーキやヴィーガンケーキが味わえるのが醍醐味です。同店のパティシエである斎藤裕樹さんを取材しました。(2022年ライター養成講座修了レポート・岡島知美)

*神戸珈琲物語 青葉台東急スクエア店は2024年1月28日をもって閉店となります。

 

私が本格的にヴィーガンになろうと決意したのは、2020年の秋のことでした。もともと動物を大切にしたい気持ちが強く、動物実験の実態やペット業界・畜産業・漁業で行われる動物の扱いを知ってからは、さらに動物を食べない・犠牲にしない選択をしたい気持ちが高まりました。

 

その頃、仕事帰りに偶然に訪れた神戸珈琲物語の青葉台東急スクエア店で普通のケーキと並んでグルテンフリーのケーキやヴィーガンケーキを販売しているのを目にして、とても驚きました。というのも、2020年は今に比べるとまだヴィーガン対応の食事が街中にある喫茶店やレストランで食べられることが少なかったからです。

 

当時お店で提供されていたヴィーガン対応のケーキ「サンマルク」やフルーツが乗ったタルトの「ヴィーガン・タルト・フリュイ」、季節限定のタルトは全種類とも食べてみると普通のケーキと変わらずとてもおいしいケーキでした。

 

身近で気軽にヴィーガンケーキを食べられることにうれしさを感じ、何度もお店に足を運ぶうちに、私はなぜ神戸珈琲物語にヴィーガンケーキがあるのかが気になりだしました。

 

調べてみると、神戸珈琲物語 青葉台東急スクエア店では2018年ごろからグルテンフリーのケーキやヴィーガンケーキを販売していて、お店のオリジナルのケーキと知り、再度驚きました。今回、同店でグルテンフリーケーキやヴィーガンケーキを作っている斎藤さんを取材しました。

 

グルテンフリーとは、一般的に小麦に含まれている「グルテン」を抜いた食事のことを指します。ヴィーガンは、動物由来の食材を全く摂らない人のことを言います。厳格なヴィーガンはそれに加えて、生活用品においても動物由来のものをできるだけ避けて生活をしている場合があります。

店舗にはたくさんのコーヒー豆が並びます。喫茶店ではコーヒーがポットで提供され、カップ2杯分相当のコーヒーが飲めます

神戸珈琲物語は、1970年4月に喫茶タカハシとして神戸市長田区西山町で創業しました。その後、神戸を中心に小売店や喫茶店を出店し、現在は12店舗を展開しており、 関東唯一の店舗が青葉台東急スクエア店です。

 

神戸珈琲物語が力を入れているのがフェアトレードです。2021年秋に国際フェアトレード認証を取得し、2022年10月時点では国際フェアトレード認証の4種類のコーヒーを販売しています。今後はコーヒー豆のほかにも、チョコレートや紅茶などのフェアトレード商品も検討しているそうです。

2021年に神戸珈琲物語で販売を開始したフェアトレード認証のコーヒー豆です(2022年10月時点)

 

「野生動物をコーヒーで守る」というパッケージのフェアトレードコーヒーは2種類あり、12月31日までの期間限定品となっています(2022年10月時点)

取材に訪れたのは、開店1時間前の朝9時。パティシエさんの朝は早く、朝6時から開店準備やケーキの仕上げ作業が始まります。 お邪魔した頃には、すでに多くのケーキがショーケースに並べられていました。

 

ショーケースに並ぶグルテンフリーケーキやヴィーガンケーキの見た目は、普通のケーキと全く変わらず、グルテンフリーやヴィーガンの表記がないと区別がつかないほどです。

 

初めてお会いした斎藤さんは職人気質の真面目さの中にどこか温かみのある方で、「まだ朝なので出し始めで全然多くないんですが  」と言ってショーケースのケーキを見せてくれました。

グルテンフリーのケーキには「GLUTEN FREE」の札が貼られています

全12店舗あるうち、神戸珈琲物語の青葉台東急スクエア店ではお店のオリジナルケーキが販売されています。なぜこのお店だけが独自のケーキの販売があるのかを尋ねたところ、「ほかの神戸珈琲物語の直営店は神戸市を中心に集結しているため、一括してケーキやパンを工房で作ることができています。けれども、青葉台東急スクエア店は本社から遠く配送が難しいため、個別で作ることになったんです」とのことでした。

お店では、青葉台の地名にちなんだ「あおばプリン」や「あおばロール」 、そしてグルテンフリーケーキやヴィーガンケーキなどの販売があり、これらは全て斎藤さんが、同店のオリジナルスイーツとして作っています。

店内は落ち着いた内装が印象的で、ゆったりとくつろげます

斎藤さんがグルテンフリーのケーキやヴィーガンケーキを作るようになったのは、 家族の主治医の方から小麦と牛乳を摂らないよう勧められたことがきっかけだったそうです。

それからはグルテンフリーに関する情報を集めたり、家庭内では小麦・牛乳・白砂糖抜きの食事を実践するようになり、徐々に健康に配慮した「ヴィーガンの食事」というものにも興味を持つようになったそうです。

 

また、世の中には、グルテンフリーやヴィーガンなどの志向とは関係なく、アレルギーを理由にケーキが食べられない人がいます。「自分が子どもの頃は、アレルギーなんて聞いたことがなかったんですが、最近はアレルギーの子どもも多いですよね」と斎藤さん。

グルテンフリー、アレルギー。そのような健康問題について触れる機会を持った斎藤さんは「アレルギーを持っている人も、そうでない人も、誰もが食べられるケーキを作りたい」と考えるようになります。

 

しかし斎藤さんが実際にグルテンフリーケーキやヴィーガンケーキを作り始めた2018年当時は、まだほとんどのケーキ専門店や喫茶店でそのようなケーキを見かけることはありませんでした。

そのため、「みんなで平等に楽しめるケーキ」を作るべく 、 動物由来の食材を含まないタカキビ粉や玄米粉、豆乳などのヴィーガン素材だけで作れる、「味、見た目、品質性の高い本格的なケーキ」を目指し、積極的にアレルギー対応のスイーツを販売するお店などを訪ねたり、自身で試作を重ねてきました。

現在、青葉台東急スクエア店で食べられるヴィーガンケーキは、小麦・卵・乳・白砂糖不使用となっており、期間限定の季節のタルトと通年で販売している「ヴィーガン・タルト・フリュイ」があります。

お店では、ヴィーガン以外にもグルテンフリーのケーキは9種類ほどあり、イートイン・テイクアウトのどちらも可能となっています。(2022年10月時点)

 

また、喫茶店に並ぶケーキだけでなくアニバーサリーケーキの予約が可能で、要望があれば、ヴィーガンやグルテンフリー仕様のデコレーションケーキでの対応も行なっているそうです。

フルーツがふんだんに乗ったヴィーガン・タルト・フリュイ。フルーツは季節によって変わる場合があります

お話をしているうちに、そもそもなぜパティシエになろうと思ったのかが気になり、斎藤さんに尋ねてみたところ、「なぜか魚が嫌いなんですよ」という意外な答えが返ってきました。

 

もともと料理に興味があり、細かい作業が好きで料理人を目指そうと思ったものの、魚が嫌いなことや甘党なことも加わり「ケーキを作る人」を目指したそうです。またケーキは、お祝い事などの特別な時に喜ばれる食べ物であるため、節目の日を飾るお手伝いになることが、パティシエとしてのやりがいに感じているそうです。

 

最後に、斎藤さんの今後の抱負を尋ねてみたところ、「みんなで食べられるケーキが増えていくこと」だと言います。

 

アレルギーのある人もアレルギーのない人も、誰もが食べられるスイーツやケーキを作り手が積極的に創作することで、ケーキは「誰でも平等にみんなで楽しめる食べ物」になります。

 

「どんなカフェやパティスリーでも、平等に食べられるケーキがあたりまえに存在していることが、一番の理想ですよね」と言います。

 

最近はヴィーガン仕様の食べ物を求める人も増え、実際にヴィーガン仕様の材料も前に比べると、だいぶ手に入りやすくなりました。斎藤さんは、今後もそのような材料を積極的に取り入れ、「どんな材料でもケーキが作れるように対応していきたいですね。いずれ、ケーキ作りがSDGsにつながるような活動として貢献できればうれしいです」と話してくれました。

 

私自身のヴィーガン志向の好奇心から始まった取材ではありましたが、アレルギーや健康に配慮したスイーツを考案し、今後も積極的に作っていきたいという斎藤さんの前向きな思いを聞くことができました。今後も一人ひとりの思いによって「みんなで囲める楽しい食」の輪が広がれば素敵だと感じます。

Information

*2024年1月28日をもって閉店となります。

神戸珈琲物語 青葉台東急スクエア店

住所:〒227-8555 神奈川県横浜市青葉区青葉台2-1-1 青葉台東急スクエア North-3 1F

電話番号:045-985-8081

営業時間:10:00~19:00

定休日:不定休

公式サイト:https://www.kobecoffee.co.jp/aobadai.html
Instagram:http://www.instagram.com/kobecoffeestory/

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この記事を書いた人
岡島知美ライター
2020年からヴィーガン生活を志す。動物にも地球にも優しい暮らしを送りたいという願いのもと、森ノオトでもヴィーガンをテーマにライターとして活動中。取材を通して人々の思いや活動を知ることで、これからのことを考えていきたいと思っている。
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