困っている今に手を差しのべる。横浜市あざみ野病児保育室・長浜医院
東急田園都市線・あざみ野駅から徒歩15分。すすき野方面へ向かう、なだらかな坂の上に建つ茶色いレンガづくりの建物は、2010年から地域の親子を支える病児保育室を運営する長浜医院です。自身も子育て中の院長・長浜隆明先生に、病児保育室の様子や子育て観について取材しました。

横浜市こども青年局が実施する、「病児保育事業」をご存じでしょうか?2004年から始まったこの事業は、養育者が病気の子どもをやむを得ない理由で看ることができない時、医療機関併設の保育室で看護師や保育士が一時的にその子を保育する事業です。

横浜市から委託された医療機関により運営される保育室は、現在市内25カ所。青葉区では長浜医院(あざみ野)の運営する「横浜市あざみ野病児保育室」とはるの木こどもクリニック(藤が丘)の運営する「横浜病児保育室はるぞら」の2カ所あり、2021年度は青葉区で707人の子どもたちに利用されています。

 

やむを得ない理由で病気の子どもを預ける……。一体病児保育室とはどんな様子なのでしょうか。

「病気やケガで安静にしておく必要がある場合、広くたくさんの親子が利用してほしいと考えています」と院長の長浜隆明先生(以下、長浜先生)は明るく話してくれました。

長浜医院院長・長浜隆明先生。海の動物たちが描かれた、かわいらしい待合室にて

あざみ野病児保育室の定員は6人。生後6カ月から小学6年生までの子どもを、8:30~18:00の間預けられます。利用者の8割以上が0〜2歳児だそうで、事前申し込みすれば前後30分の時間外にも対応できます。利用には横浜市あざみ野病児保育室への事前登録が必要ですが、同院で受診したことがなくても預かってもらえるそうです。

 

保育園や幼稚園では、37.5℃以上の熱のある子どもは預かってもらえないところが多いと思います。子どもの体調はもちろん予測できませんし、その日にどうしても休めない仕事や出席しなければならない集まりがあっても、代わりに預かってくれる場所がなければ親は予定をキャンセルせざるを得なくなります。そんな親子の、「予定をキャンセルする」以外の選択肢となるのが、病児保育室です。

 

「利用者は9割以上が共働きの親で、発熱した子どもを仕事が理由で預けます。でも実は利用の仕方はもっと幅があって、例えば骨折の子どもでも預かりますし、(下の子が病気の時に)上の子の面談がある、など仕事以外の理由でもいいんですよ」と長浜先生は話します。どうしても看れない時間帯だけピンポイントで預ける人もいれば、仕事の都合で時間外まで預ける人もいる。保育室の利用スタイルは、各家庭さまざまだそうです。

長浜医院の入るビルの中央には階段が吹き抜け、4階建ての建物の2階に病児保育室があります

病児保育室を利用するには「横浜市病児・病後児保育事業利用連絡書(第4号様式)」が必要で、これは事前にかかりつけ医に記入してもらう必要があります。そのほか必要な書類や持ち物を揃えて来院した子どもたちは、小児科のすぐ上にある病児保育室の個室で過ごします。保育室では保育士が子どもの調子に合わせて寝かしつけたり、簡単な遊びをしたりして様子を見守ります。

 

*参考

長浜医院ホームページ「病児保育室」(利用方法や当日の持ち物の詳細はこちらに記載されています。)
https://nagahamaiin.com/hoiku

 

向かって左側に4部屋、右側に2部屋の計6部屋。起きられないほど具合の悪い子どもは少ないこともあり、コロナ禍前はその日集まった子どもたちで静かに遊ぶこともあったのだとか

 

病児保育室の個室。布団を敷いて安静に過ごします

子どもの体調は刻一刻と変わります。予約が入っても、当日の子どもたちの調子によってはその4割弱がキャンセルすることもあるそうです。そんな環境に加えて新型コロナウィルスの流行が始まってからは、それまで満床が珍しくなかった保育室が1日の利用者平均が1〜2人と、半分ほどに減ったそうで、病児保育室の運営はままならないものだと話します。

 

そんな中、なぜ病児保育室を続けるのかと聞くと、「必要とされているんじゃないかと思う」と長浜先生は答えてくれました。

「子どもに熱が出てどこも誰も預かってくれないと、どうしても親が休むしかない。本当はそんな時に親が問題なく休める社会になるのが一番なのかもしれないけど、今困っている親子がいる。そんな人たちのツールが必要だと思うんです」。

「子どもを育てるということは、トライ&エラー。叱る、ということ一つ取ってもどこまでが正解?と行ったり来たりしてる。少しでも正しい方向に向かっていけたら」とご自身の子育て観についても話していただきました(写真撮影:宇都宮南海子)

今に困る親子に寄り添う長浜先生は、ご自身も3歳、5歳、7歳の子育ての最中です。先生の父の代から続く長浜医院を引き継いだのは、一番下の子が生まれた2018年だったそう。

 

「今は私自身が小さい子の親そのものなので、親御さんが必ず考える『これはどうやるんだろう?』『こうだったらいいのに?』『これは面白い!』『週末こどもを連れてどこ行こう?(笑)』など現在進行形で同じく思っています。そういう一つひとつを拾い上げ、診療やSNSで少しずつ情報提供できればと考えています。

例えば私も子育てしている上で、子どもがどうしたらごはんをしっかり食べるのか、悩むことがあるんですよ。そういう親御さんの気持ちが分かるし、だからこそ長浜医院では、子どもの食事について悩む親に栄養士を紹介して専門家に相談できる場をつくっています」と長浜先生。

さらに先生はこう続けます。「そのように専門家に質問できる場所をつくっていますが、その返事は“答え”ではないと思っています。私も患者さんとのやりとりの中でアドバイスするときに、『僕はこうしているけど、それが正解ではないからね』と伝えるようにしています。さまざまな意見を聞くことで、家庭の中で問題が発生した時に親御さんが取れる選択肢が増えていけば」と長浜先生は気さくな笑顔で話します。

 

今後はコロナ前まで開いていた親御さん向けの勉強会も、感染状況が落ち着けば少しずつ再開していきたいと画策しているそうです。「病児保育もそうだけど、家庭で解決できる環境があればそれが一番。受診する前に質問できる場所があれば、どこかのタイミングで親子の助けになる。そう思うんですよね」と長浜先生は話してくれました。

長浜医院の公式インスタグラムは先生自ら更新。病院の情報のほか、先生の子育ての様子が垣間見える投稿もあり、頬を緩めながら読んでしまいます

「病児保育は、一度使うまではハードルが高いと感じるかもしれません。でも使ってみれば、普通の保育と様子は同じ。預かってもらえなくて困っている親子を助けるツールとして、今後も役目を果たしていければ」と長浜先生は最後に話してくれました。

 

横浜市こども青少年局によると、横浜市では「第2期横浜市子ども・子育て支援事業計画」の中で、病児保育室を併設した医療機関の数を令和6(2024)年度末までに区毎に1~3カ所、市内では合計で29カ所設置する目標を掲げて整備を進めているそうです。しかし新型コロナウィルスの蔓延による迅速検査の必要性や、流行の波による利用状況の変動など、「ただ場所を増やすだけでは解決できない課題もある」と先生は話します。

 

子どもの不調に対して、障害なく家庭で解決できる環境が理想かもしれません。だけど今この時に困る親子へは、現状に合わせて手を差し伸べる必要があります。地域の親子と同じ目線に立ちながら、必要な支援を届けてくれる長浜医院の存在は、そこに住む人たちにとって頼もしい存在です。そしてその存在や制度がもっと広く浸透して、家庭だけで抱え込まなくてもいいと思える人が、少しでも増えればいいなと私は強く感じます。

 

今回の取材で先生の気さくなお人柄や保育室の様子に触れ、病児保育という場が自分の想像よりも広く門戸が開かれていて、頼っていい場所なんだと実感を持つことができました。

私は今、出産・育児を考えるタイミングに差し掛かっていますが、夫婦でこれからも仕事を続けていきたいと考える中で、子どもの病気などの予測のできない事態を自分が抱える怖さを漠然と感じていました。しかし先が見通せず、不安だけが先行して足がすくんでしまっても、「質問できる」「頼れる」場所が地域にあって、それを知ることが一歩を踏み出す勇気をくれる。子どもを育てることについて、そんな気づきを得た時間となりました。

 

*本記事は、独立行政法人福祉医療機構の<WAM助成2022>として実施した取材記事です。

Information

長浜医院

神奈川県横浜市青葉区あざみ野4-2-4

https://nagahamaiin.com/

長浜医院病児保育室
https://nagahamaiin.com/hoiku

 

長浜医院公式インスタグラム:https://www.instagram.com/nagahama.child.clinic/

横浜市あざみ野病児保育室公式インスタグラム:

https://www.instagram.com/azaminobyouji/?hl=ja

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この記事を書いた人
佐藤沙織ライター
横浜市泉区生まれ、西区在住。そこに住む人の等身大の言葉でつくられた森ノオトの記事に魅せられてライターへ。身近な人の気持ちや様子をそっと書き残していけたら。読書と犬が好き。趣味のゴルフは毎回大乱闘。
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