


「ショコラ房」があるのは、横浜市営地下鉄線・センター南駅南口から徒歩7分の大通り沿いです。チョコ色の看板におしゃれなロゴが目印で、こじんまりした店内には丹精込めて作られたチョコ菓子がいっぱい。たった一つ買うだけでも贅沢で豊かな気持ちになれる、そんなお店です。ちょうど駅からわが家へ向かう途中のところにあるので、私も、自分へのごほうびをしたいときやお世話になった人へのお礼を求めたい時に立ち寄っています。

センター南の中心エリアの大通りに立地するショコラ房。通りからは、ガラス張りのチョコレート工房もよく見え、オープンな雰囲気

こちらは私が贈り物にイチ推しするショコラ房の「スティックマンディアン」。厳選されたドライフルーツがこだわりのチョコレートに埋もれている夢のようなコラボ……。見た目もなんとも美しい(紹介する商品は取材時販売されていたもの。以下同じ)

ミルクチョコ、ホワイトチョコ、抹茶チョコにさまざまなナッツやドライフルーツが入ったクランチチョコの「ショコラキューブ」は、色々な味が楽しめてこれまたおすすめ。わが家の小中学生の子どもたちも大好き
ここショコラ房は、2015年に森ノオトでも取材記事が掲載された福祉事業所のチョコレート工房「ショコラボ」の新たな拠点です。工房名のショコラボは「ショコラ・コラボ・ラボラトリー」の意味。健常者と障がい者、チョコレート作りに関わるプロフェッショナルがコラボレーションすることを理念に、高品質のチョコレート作りを始めた経緯が2015年の記事では紹介されています。創業者の伊藤紀幸さんは、ご自身の息子さんも障がいがあり、持続性のある環境で障がい者も働ける場所をつくりたいと、畑違いの金融の世界から2012年にショコラボを始めたのだそうです。

手前は2015年の記事にも登場する「パンダチョコ」。一つひとつ表情が違い、催事に出店すると売り切れになることが多いほど人気なのだとか。アイスキャンディのように棒がついているのは、カカオ豆を砕いた「カカオニブ」のクランチを包んだチョコ菓子「スティックニブクランチ」。食べごたえある王道のおいしさ
前回の記事から7年経った現在、ショコラボはグループ企業となり、大きく成長していました。
このセンター南の「ショコラ房」本店を2019年にオープン、みなとみらいのランドマークプラザ(中区)、そして相鉄線・いずみ野駅前(泉区)にも店舗を構え、市内外の各地の催事へも出店しています。さらに、障がい者が多様な働き方ができるようにと、チョコレートの世界を飛び出し、2022年には古民家をリノベしたフレンチレストランも戸塚区名瀬町にオープンしたそうです。
どんな人でも働く喜びを感じられるよう、社会へのチャレンジをくり広げているショコラボの姿勢に、私は頭が下がるような、応援したい気持ちが膨らんでいきます。そして、その応援したい気持ちは、一人のお客さんとして「チョコレートを食べる」ことで実現できるというのが、うれしくもあります。何しろ、ショコラ房のチョコレートは一口食べれば素材の良さまでよくわかる、幸せなおいしさなんですよ……!
ショコラ房のチョコレート作りをもっと知りたいと思い、私は2023年1月に、ショコラ房の川村茜さんをたずねました。

川村さん。ショコラ房店内にて。川村さんは、入社後福祉事業所のショコラボに通所する障がい者への支援員の業務を経て、今ではさまざまな仕事を広く担う業務統括部長の任に就いている方です
ショコラ房のチョコレートについては、ホームページにBean to Bar(ビーントゥバー)と書かれています。どんな手法なのでしょう……?
「Bean to Bar(ビーン・トゥ・バー)というのは、十数年ほど前にアメリカで生まれた手法で、カカオ豆(ビーン)を仕入れるところから板チョコ(バー)を作るところまでを一貫して行うチョコレート作りのことです。ショコラ房でも、このセンター南の工房にBean to Bar専用の機械を導入してチョコレートを作り、そのまま板チョコや生チョコにしたり、焼き菓子に入れたりして使っているんですよ」と川村さん。
前の森ノオトの記事に登場した当時はクーベルチュールチョコレートという高品質のチョコレート原料を使っていたそうですが、創業者で代表の伊藤さんもBean to Barをもともとやりたいと思っており、チョコレートのことが少しわかってきたタイミングで、指南してくれる専門家に指導を受けて実現させたのだといいます。
店内のBean to Barの板チョココーナーには、かわいらしいカラフルな手描きイラストのカカオ豆のパッケージに、ガーナやハイチ、ドミニカ共和国、トリニダード・トバゴ、ベトナムといった世界各地の産地が表示されています。
カカオ豆は、同じ地域で同じ品種の豆だったとしても、発酵の方法で味や香りが変わるとのこと。
確かに、ショコラ房のBean to Barのチョコレートを何種類か食べ比べてみたのですが、洋酒っぽかったりフルーツっぽかったり、酸味や香り、苦味が全く違うんです。カカオ豆という素材そのものを味わっている感じが強いというか。自分好みの酸味や香りを選ぶ楽しさは、コーヒー豆を選ぶのにも似ているなあと感じました。

Bean to Barの板チョコは左下のカカオ豆のイラストのパッケージ。右はBean to Barのチョコを使ってこの工房内で作られた「アーモンドチョコ」、手前は「プチチョコ」。プチチョコはブロック状のチョコで、フルーツやコーヒー、きなこやしょうゆといったユニークなものまで掛け合わせの種類が多数あり、パッケージは障がい者の方によるアート作品
どうやってカカオ豆を選んでいるのですか?
「まずは、味がおいしいこと。そして、豆の農家さんが有機無農薬であることや適正賃金であるかどうかも考えて選ぶようになっています。今は、ベトナム、タンザニアの産地ではそれを実現している農家さんから仕入れられるようになりました」(川村さん)

店内に展示されている手書きの解説。カカオ豆は収穫後「カカオポット」と呼ばれる殻から取り出し、現地で発酵、乾燥します。その乾燥した状態で仕入れた豆を、工房内で焙煎し、殻を剥いて「カカオニブ」と呼ばれるナッツのような粒にします。カカオニブを長時間かけてすり潰し、きび砂糖やグラニュー糖などを加えるとチョコレートの完成。カカオニブを使ったお菓子もショコラ房ならではだそう
「例えばタンザニアでは、カカオ豆自体は品質がいいのに発酵がうまくできている農家さんがいなくて高く売れていなかったんですよね。もったいないと思った日本人の方が、その品質のいい豆を適正価格で買い取り、発酵させて販売するという取り組みをされていたり、ベトナムでは、農家さんへ豆を高く買ってもらえるよう品質を上げるための指導をしてくれる日本人もいるんですよ。
おいしいカカオ豆を使いたいのに、安く買い叩いてどうするの、ということなんです」(川村さん)
それは、フェアトレードと呼ばれるものでしょうか?
「そうなんです。認証などをとっているわけではありませんが、まごうことなきフェアトレードですね。
ショコラ房のチョコレートは、材料のフェアトレードも反映された価格なんです」と柔和な雰囲気ながら力強く話す川村さんのお話に、このショコラ房のチョコのおいしさや個性が腑に落ちていく私でした。

ショップから見えるチョコレート工房の様子。今グループ全体で支援員なども含めた全スタッフ約100名中、障がい者手帳を持っている人の割合は6割程度だとのこと。ショコラ房は、就労支援の福祉事業所ではなく一般的な雇用による製造・販売所という位置付けだそう。近くにある福祉事業所の旧ショコラボの工房は販売の役割を終え製造メインに、そして大通りを挟んだところにはパッケージング業務を担うグループ事業所があり、いずれも障がいのある人や高齢者、外国籍の人などが働いているそう
素材にもこだわり、プロとのコラボで作り方も探求する。作る人、食べる人、生産者や地域、みんなが共生し幸せであるようにというショコラボの姿勢を、取材を通して実感することができました。
そうそう、チョコレートというと夏は溶けやすくて避けられがちというイメージなんですが、ショコラ房の冷たいチョコレートドリンクとジェラートも、私はめっちゃおすすめしたいです。ジェラートは、青葉区藤が丘にある手作りジェラート店「クアットロ・パンキーネ」さんが製作しているそう!森ノオトでもおなじみのパンキーネさん、私も大ファンです。
ショコラ房本店は都筑区役所にも近い場所にあるので、ついでがあるときぜひ寄ってみていただけたらうれしいです。

ショコラボグループ

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