フードロス対策のその先に。青葉区内で「食」を通じたつながりが広がっています
コロナ禍に入って約3年、食の支援に変化が起きています。「フードシェア」「フードドライブ/フードパントリー」といった言葉を街のあちこちで目にするようになりました。どんな団体がどんな活動をしているのでしょうか。食でつながる地域の現場を訪ねました。

「フードロス対策の観点だけでなく、福祉的な取り組みとして活動しています」

 

友人で青葉フードシェアネットワークの事務局の青木マキさんにフードシェアのお話を聞いていると、そんな言葉をかけられました。

 

街中で食品の寄付を受け付ける「フードドライブ」のボックスを見るたびに、家に寄付できるような食品はあるかなと思っていた私。どちらかというと、余剰食糧を無駄にしない、フードロス対策の視点でフードシェアの活動を捉えていたことに気がつきました。マキさんの言葉を聞いて、「もったいない」を減らすだけでなく、困っている人とつながる、食で支える、という活動なのだとはっとしました。青葉区でもさまざまな団体が活動していることを知り、届いた食をわけあう現場を見てきました。

 

 

地域で集まった食を、身近な地域で届けたい

まず、市ケ尾町を拠点に活動する「フードシェア*いちがお」の、仕分け作業の現場を訪ねました。地域で必要とする人に身近な地域で届けられたら、という思いから、認可保育園などを運営するNPO法人ピッピ・親子サポートネットが2020年7月に活動を始めました。

フードシェア*いちがおでは、月1回集まった食を必要とする人に分け合う日を設けている。前日に、ボランティアさんが受け取る世帯ごとの食品を仕分けする(2021年10月撮影)

まずは、保育園でつながりのある必要とする顔の見える10世帯への食のシェアからスタートし、2年半経た今では、毎月40〜45家族が受け取っているそうです。特に利用の要件はなく、事前にホームページやチラシから申し込んでもらいます。青葉区在住者を中心に、近隣の区からも利用があります。保育園を運営していることから、子どもを育てる家庭、特にひとり親の家庭の申し込みが多いそうです。地域ケアプラザからの紹介もあったり、「困っている方がいるのでお渡しできるものがありますか?」とケアマネージャー(介護支援専門員)さんが取りに来られることもあります。

食品は、ピッピの拠点のフードドライブほか、フードバンクかながわや青葉フードシェアネットワークなどに寄せられた品々です(2021年10月撮影)

「食は生きていく上での基本ですから、フードシェアは、つながるきっかけとして大事なツールだと思っています。相談機関ではないけれど、ちょっとした会話ができて、ちょっとしたつながりができる。接点があることで、なにかのときに役に立てたら。そんな存在があってもいいのかなって思います」(NPO法人ピッピ・親子サポートネット副理事長の友澤ゆみ子さん)

野菜やお米も、計量しながら世帯ごとに仕分けていきます

フードシェア*いちがおのように、寄付で寄せられた食品を必要な人に届ける拠点を「フードパントリー」と言います。

 

横浜市金沢区を拠点に、協同組合、労働福祉団体、市民福祉団体の9団によって、フードバンクかながわが2018年に設立されました。寄贈団体からの寄付品や各地のフードドライブで寄せられた食品を、県内の連携する食支援団体へと提供しています。青葉区内でも、横浜北生活クラブ市が尾デポーや、ピッピの運営する拠点で2019年から「フードドライブ」として余剰食品を集めることを始めました。

 

ところが当時は、横浜北部エリアに、フードバンクかながわと連携する「フードパントリー」がなく、青葉区近隣で寄せられた食品も、いったんフードバンクかながわへと届け、そこから必要とする人に届けてもらう、という流れになっていました。

 

地域で困っている人がいるなら、身近な地域から届けたい。食の支え合いを、もっと身近なエリアで実現していこうという思いから、フードパントリーの活動が青葉区内でも立ち上がっていきました。

 

 

子ども食堂からフードパントリーへと

あざみ野駅から歩いて6分ほどのコミュニティカフェ、スペースナナでは、常設のフードドライブがあり、毎月1回フードパントリーを実施しています。コロナ禍により、2015年から毎月実施していた地域食堂「ナナ食堂」の取り組みができなくなり、2020年9月にこの活動を始めることに。最初は、近くのエリアにある大学にお知らせしたり、つながりのあった外国にルーツをもつ子どもの学習を支援する団体などから声をかけていきました。

「フードドライブ実施中」ののぼり旗が目印。スペースナナでのフードドライブは定休日の月火以外、11~16時の開店時間中に受付中

現在は、毎月30組前後が利用しているのだそう。ひとり親家庭の方、就労が困難な単身者、障害のある方など、利用する方は多岐に渡ると言います。

こちらも、利用の要件は設けていません。「コロナの影響は確実にあると感じています。毎月、2、3組ずつ申し込みをする方が増えています。この活動をすることで、一人でも困っている人に届けられたら」とNPO法人スペースナナの柴田暁子さんは話します。

 

なるべく必要とする食品を届けられるように、アレルギーのことやお子さんの有無など、世帯ごとに少しずつ内容を変えて仕分ける細やかさが印象的でした。訪れた方とは、ほどよい距離感を保つような気配りがありつつ、穏やかな雑談があったりと、ゆるやかな関係性が育まれているのを感じました。

フードパントリーの日の準備の様子。この日は近隣農家さんから届けられた野菜もありました(2022年12月撮影)

スペースナナでは、フードドライブ品やスペースナナのサポーターさんからの寄付、青葉フードシェアネットワーク、フードバンクかながわからの食品を必要とする人にお配りしているそうですが、食品を毎月買って寄付してくださる方や、贈答品を寄付してくださる近くの病院の方もいらっしゃるそうです。

フードバンクかながわの拠点は、最寄りでは麻生区にあり、毎月拠点まで車で出かけて重いお米などを運ぶのが大変なのだそう。力仕事、車を出せる人が足りていないのが悩みの種、とのことです。

 

 

つながることの力

こうしたフードドライブやフードパントリーの活動をする団体が、お互いに食品を生かしあったり、情報交換をしていこうと、2020年に7団体が参加して青葉フードシェアネットワークを設立しました。(2023年1月時点では9団体に)

青葉フードシェアネットワークのチラシ。チラシの中面や、ホームページでフードドライブ、フードパントリーのマップが見られる。個人だけでなく、企業や農家さんからの食品提供も受け付けています

食品の寄付を受け付ける「ドライブ」は、市が尾デポー、WEショップ(青葉台店、あざみ野店)、ワーカーズ・コレクティブパレットの8施設、スペースナナ、ピッピ・親子サポートネットの6拠点、アートフォーラムあざみ野の合計18カ所。食品が必要な人が受け取れるパントリーは、パレット家庭保育室なないろ、スペースナナ、フードシェア*いちがおの3カ所です。

青葉区内では、2022年12月からアートフォーラムあざみ野でも常設でフードドライブを実施中

2021年に開設したホームページは「地域で集めて地域で配るためのコミュニケーションツール」と位置付けているのだそう。「青葉フードシェアガイドマップ」では、地図上に横浜市内だけでなく神奈川県近郊のフードドライブやフードパントリーの実施場所をマッピングし、各場所の詳細が掲載されています。問い合わせフォームには「仕事が見つからない」「住む家を失った」などと、生活に困窮する方からの緊急性の高い依頼が入ることも。各パントリーと連携して、すみやかに支援を実施したとのことです。

 

ネットワークができたことにより、寄贈の問い合わせにも対応することができるようになりました。また、地域の拠点が連携することで、余ったものを融通しあえるように。ドライブが増えたことで寄付をしたい人の選択肢が増え、食品の寄付は増加しているそうです。2021年度はネッワーク団体内でのドライブ品が3.3トン、提供数はのべ766組。2022年度は前年を上回る見込みだそうです。

フードドライブに提供できる商品は、(1)新品未開封のもの (2)賞味期限が2カ月以上のもの(3)常温保存が可能な食品及び食材。お米や乾物乾麺、調味料、レトルトカレー、調味料、缶詰、お菓子、ベビーフード、ミルク、飲料などが喜ばれるのだそう

森ノオトでは、ノヴィーニェ子ども食堂・フードパントリーの活動を取材し、昨年12月に記事にしています。そこでも言及していますが、日本は、貧困が見えにくい国と言われています。私自身、生きる基盤である食に困っている人とつながる機会はなかなかありません。手探りでも活動をおこしていく方々がいることで、支援したい人も、支援を必要とする人も、声をあげやすくなる。ネットワークが地域に広がっていくことで、接点が増えていく。そんなゆるやかな巡りが草の根から生まれています。

 

今自分ができることをすることが、いつか困ったときに頼れる先に。そんな安心の“もと”が「食」を通して、この街のあちこちで育まれているのを感じました。

Information

青葉フードシェアネットワーク

https://foodshare.jp/

 

フードバンクかながわ

https://www.fb-kanagawa.com/

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この記事を書いた人
梶田亜由美ライター
2016年から森ノオト事務局に加わり、AppliQuéの立ち上げに携わる。産休、育休を経て復帰し、森ノオトやAppliQuéの広報、編集業務を担当。富山出身の元新聞記者。素朴な自然と本のある場所が好き。一男一女の母。
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