「近くにあったら、子どもを通わせたい!」と森ノオト編集長が絶賛する、なんとも魅力的な環境教育プログラムを提供しているエコエデュ(認定NPO法人しずおか環境教育研究会)。NPO法人化は2000年、前身団体から数えると30年以上の歴史があります。静岡県内の森林関係施設の運営や自然体験の実施などの委託事業のほかに人材育成や毎週子ども達が里山で活動するプログラムを展開し、内閣総理大臣表彰や環境大臣表彰を受けるなど、環境教育界のトップランナーです。
エコエデュと森ノオト。つながる森のNPO
横浜の森ノオトと静岡のエコエデュがつながったきっかけは2016年の(一社) セブン-イレブン記念財団のNPO基盤強化助成の報告会とのこと。前年から助成を受けていたエコエデュ理事長の山本由加さんは環境NPOとして戦友のような気持ちで毎年森ノオトの報告を聞いていたそうです。
2021年にはエコエデュが運営した静岡県での森づくりミーティングに北原まどか理事長が登壇し、森ノオトの取り組みを紹介しています。ちなみにこれが、静岡県在住のフォレスター山田が森ノオトライターになったきっかけです。
2022年度はエコエデュの発信力強化のため、森ノオトの北原、梶田亜由美編集長、宇都宮南海子事務局長が研修講師として2度にわたりエコエデュのスタッフと交流を深めました。
森が日常になる エコエデュの通年プログラム
研修に続いて、放課後のプログラムを取材しました。
エコエデュのプログラムは、森での注意事項などの基本的なルール以外は正解を教えるようなことはなく、子ども達の力で解決するのが基本です。その日に何をするかも子ども達が相談して決めます。エコエデュのプログラムは子どもが失敗をして、それを自ら乗り越えるためにスタッフが丁寧にサポートするという、毎週森に通うからこそできるものです。元教員やインタープリター(自然解説員。さまざまな参加者に響く言葉を選んで解説することで自然の魅力や大切さに気付くきっかけをつくる懸け橋のような役割)がいることで、参加者の発達段階に合わせたきめ細かい目標が設定されており、安全管理が徹底していることも特徴です。
この日は通年プログラムの「里山adventure」(小学1~6年生、定員12名)と「里山QUEST」(小学1~2年生、定員8名)の取材をしました。どちらも、平日の放課後16時〜18時に週に1回開かれていて、仲間と一緒に森で2時間たっぷりと遊びます。
里山adventureの最近のテーマは「焚き火」。2人1組になってバケツコンロで火を起こします。前回の焚き火では、ベテランの上級生がいた1組以外は焼いたお餅が外は黒焦げ、中はカチカチという残念な結果に。里山adventureのスタッフのトッキーと岩瀬満さん(ぶんぶん)は、どんな火だとうまくお餅が焼けるのか子ども達が気づけるように、チーム分けや声掛けについて入念に検討していました。やって来た子ども達は、前回の振り返りと今回の改善点について意見を出し合い、スタッフは教えてしまわないように注意しながら、質問やヒントを出していきます。
要は「太い枝をくべて燃焼時間を延ばす」、「おき火(着火した薪や炭が炎を上げず芯の部分が真っ赤に燃えている状態。煙が少なく安定した火力になる)になってからお餅を焼く」のたった2つのポイントなのですが、子ども達の工夫でここにたどり着くことに意義があります。しかし、指導者が教えたがりだったり、楽しむことが目的のイベントだと、なかなかできないことなのです。
話し合いが済んで、いよいよ焚き火が始まりました。子ども達は2人1組になり、マッチと枝と枯れ葉だけで上手に火を起こしていきます。
炎が収まり網にお餅を乗せると、待ちきれなくてお餅を指でつついて柔らかさをチェックしたり、何度も味見したりと落ち着かず、「冷めちゃうから網の上に置いといて!」と言いたいのをぐっとこらえました。まだ固くて何の味付けもしていないお餅をかじって、「おいしい♡」と笑う姿に、空腹以上の魔法がかかっているのを感じます。
辺りが暗くなり、「火ってきれいだな~」なんて悠長に眺めていると、子ども達には運命の分かれ道が訪れていました。焚き木を多めにすると話し合ったものの、各組で量を決めるので、ちょうどよい組と足りなくてお餅が焼ける前に火が消えてしまう組ができるのです。
残念組にはトッキーが「火の強い所で焼かせてもらって」と声をかけたのですが、相方が欠席して一人でチャレンジしていた女の子は、この誘いを断って、小さくなっていく自分の焚き火でお餅を焼くことにこだわりました。自分で乗り越えようとするこの気概たるや!「自分の火じゃなくてもお餅をおいしく食べる方がいい」とか、「焚き木を足せばいいのに」とか考えていた私の心を事務所の前を流れる小川で洗濯したくなりました。
部屋に戻って、その日の振り返りと記録をつけて終了です。その後のスタッフミーティングでは、トッキーが子ども達の成長を喜びつつ、目配りや声掛けについて猛省していていました。その中で「今日お餅が焼けなかったことを失敗と言ってしまったけれど、次につながるからこれは失敗じゃないんだ!」という言葉を聞いたときに、「笑顔で挑戦し続ける社会」という、大きくて遠い、どこかの大企業のもののように聞こえていたエコエデュのビジョンが、すっと腹に落ちました。
同時に実施されていたもう一つの通年プログラム、小学1・2年生対象の「里山QUEST」、はその名の通り「QUEST=探求」を大切にしていて、「ハテナ」に気づき、共有して考え、確かめることを繰り返しているそうです。送迎が難しい保護者のために地域のタクシー会社と連携して、お迎えポイントを巡るジャンボタクシーに乗って子ども達はやってきました。部屋に入って、まずは今日の活動の話し合いから。相談の結果、この日は裏の竹林の探検をすることになりました。
子ども達が裏山の急な道をすいすい登っていく中で、ちょっと遅れる男の子がいました。山歩きはそれまでの野外活動の経験や体の使い方の上手い下手が如実に表れるもので、特に山の斜面の道なき道を歩くときにはコース取りが重要です。彼は前を行く子のあとに続こうとするものの、うまく踏ん張れず、足を置いてみては引っ込めて、自分が登れるルートを探していきます。「自分だけできないから嫌だ!」とか「行きたくない」なんて言わず、ゆっくり黙々と進んでいく彼の根気、何とかしてそこに行きたいと思わせる自然の魅力、刺激を受ける年の近いメンバー、手を出さずに見守るスタッフの姿から、彼はこれまでに「やればできる!」という自信をつけてきたことが伺えました。
森遊びに慣れていない子どもは、おもちゃやゲームがないと間が持たないものですが、手作りの竹のすべり台があること以外は特に何でもない竹やぶで、QUESTの子ども達は自由に遊び続けます。縦に割れた竹の節に葉っぱを飾る新しい遊び「おしゃれにしなしゃれ」が生まれたり、1メートルくらいの高さで切り詰めた竹を棒でぶったたいて中にたまった水を噴水にしたり、クリエイティブです。さらには、日が暮れて足元があやしくなっても子ども達はヘッドライトをつけて駆け回っていて、森のプロとして敗北感を味わいました。
17時半を過ぎる頃には部屋に戻って、その日に発見したことを絵や文章で記録に残していきます。周りのみんなが書いていて、スタッフからのメッセージがもらえるので、書くタイプの課題の苦手意識がなくなる子もいるそうです。担当スタッフの東山浩子さん(ゆいまーる)は子どもの記録に目を通しながら、春から参加した1年生と継続している2年生にどんな変化があったのか、あれもこれもとうれしそうに話してくれます。8人の参加者を一人で担当するので、やりたいことがかみ合わない日もあるけれど、チーム感があった日は「やったー!」という達成感があるそうです。ここだけの仲間と過ごすことも、小さな成長も見逃さずに喜んでくれるスタッフに見守ってもらえることも、こんなふうに子どもと関わることも、どれも素敵だなと思いました。
理事長の山本由加さんにインタビュー
山本さんがエコエデュに勤め始めたのはNPO法人化からしばらく後の2007年。簿記の資格を取り立てで、経理に誘われたのがきっかけだそうです。当時は行政が市民活動を積極的にバックアップしていたため、エコエデュの事業の9.9割が受託事業で潤沢な資金があったけれど、徐々に減少して、自主事業を増やすようになったとのこと。富士山のように、それだけでお客さんを呼べる地の利はなく、ほかのまねではないものとして、森を日常にする塾のような形に行きつき、丁寧に人を育てるプログラムができたそうです。
エコエデュは目指すものやプログラムの理念をしっかり定義しています。
VISION‐目指す社会のすがた-
『 笑顔で挑戦し続ける社会 』
MISSION ‐私たちの使命-
『 自然の中での教育を通じて、失敗・変化の中から
自分の答えを追求する人を育てる 』
こんなにすっきりまとめている団体は少ないと思い、その理由を聞いてみました。すると、価値観の違いが明らかになったときに、バラバラでもまとまれる言葉をつくろうとたくさんの話し合いの中でできたものなのだと教えてくれました。続けていく難しさを乗り越えてできた言葉はすっきりと道を示しています。
もう子どもだけで、森で遊べないのか?
エコエデュのプログラムを見て感じた「もう子どもだけで、森で遊べないのか?」という疑問を山本さんにぶつけてみたところ、「遊べないよ~、時代が変わったからね」と。親世代が森で遊んでないから教えられないし、子どもの数も減っていて親が連絡を取り合って送迎して家の中で遊ぶご時世になっている。自然体験が大切だとわかる保護者が決して安くはないお金を出してエコエデュに通わせるけれど、それができる家庭ばかりではない。だからエコエデュは幼児教育の人材育成として安全講習や野外保育の支援をしているとのことでした。
都会育ちのわが母は田舎に引っ越してきて自然に興味津々だったものの森遊びは知らず、田舎育ちの父はごくたまに自然薯掘りや山菜の見分け方を教えてくれたけれど、遊んだ記憶はありません。一緒に森で遊んで私に椎の実が食べられることを教えてくれたのは同級生でした。自転車でどこまでも遠くの友達の家に遊びに行き、近所の子どもだけで森を探検していた私の子ども時代のようなことは、もうないのでしょうか。
時間が経って変わったことはほかにもありました。エコエデュで育った子どもがボランティアスタッフとして参加してくれるようになったことです。
そしてもう一つ。エコエデュの中核メンバーが子ども達の親世代から祖父母世代になってきたこと。世代の違う者同士で価値観を共有するのが難しくなったため、今回の研修ではインタビューを記事にすることで、思いを共有するという狙いもあるのだそうです。日常業務の中でどう落とし込むかは今後の課題として、森ノオトとエコエデュの交流は続いていくことでしょう。
「研修で発信力がつき、エコエデュの活動がメディアとして季節の花のように咲き続けたら面白い」と、組織のピンチに挑戦の場をつくる山本理事長のしなやかさこそ、市民活動を続けていく秘訣なのかもしれません。
(取材を終えて)
森林の環境教育というと、エコエデュの通年プログラムのように定期的に実施されるものは少なく、ネイチャーツアーや木や森に関するイベントなど、単発で行われることが多いです。しかし、エコエデュの活動は今回取材したプログラム以外にも里山整備、対象年齢や活動場所の違う環境教育のプログラムがいくつもあり、驚異的でした。
フォレスター山田も森でのイベントを毎年企画していますが、参加者の皆さんに「林業や地域の木に興味を持ってほしい」、「森を好きになってほしい」といった下心から、全力でおもてなしをしてしまいます。参加者に失敗をさせるというのはなかなかに度胸が必要です。
今回3つのプログラムに参加して実感したのは、森の中で丁寧に目を掛けられて遊んで育った子どもの心と体の発達は別格だということです。
最近注目されている非認知能力についても、試行錯誤して目標を達成することや、自分のやりたいことを主張するだけでなく、周りの意見を調整して協力することなど、生きるのに必要な力が自然の中で育まれていました。小さな自然を活かし、子どもの力を伸ばすエコエデュの思いや手法に、子育て世代や教育者などのたくさんの人が触れて、少しずつでも取り入れていけたら、世の中が変わるかも。静岡だけでなく、森ノオトからも発信したいと力の入るフォレスター山田でした。
エコエデュのおかげで森ノオトにつながり、今回は森ノオトライターとしてエコエデュの取材をする機会をいただきました。ご縁に感謝しています。
静岡の里山で森の持つ教育の場としてのポテンシャルを最大限に生かして、人を育てているエコエデュ。メディアの力で大都会の横浜から身近な森や土、水、人の記事を発信して地域にエコの種を育てる森ノオト。活動は違えども森でつながる二つのNPOが今後も響き合うようなコラボがあることを楽しみにしています。
最後に、「うちの子、森で勝手に遊んでいます」という森ノオトの読者がいらっしゃったら、ご一報をお願いします。
認定NPO法人 しずおか環境教育研究会(略称:エコエデュ)
事務所所在地:〒422-8002 静岡県静岡市駿河区谷田1170-2
メールアドレス:e-info@ecoedu.or.jp
TEL:054-263-2866
自然体験のサポート事例
https://www.ecoedu.or.jp/lp/research/youji2021/
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