立春をすぎても、まだ冬の寒さを感じさせる2月の取材当日。少し緊張しながらキャンパス内の事務所を訪れると、健志台統括心得(けんしだいとうかつこころえ)、社会貢献推進機構スポーツプロモーション・オフィス、アシスタントオフィスディレクターの湯田平 幸男(ゆだひら ゆきお)さんが朗らかに出迎えて下さいました。
同キャンパスで防災訓練がスタートしたきっかけ、それはご近所の団地「グリーンヒル鴨志田西団地」自治会から、「防災訓練をやりたい」との声かけがあったことが始まりだと話す湯田平さん。
その声かけを機に、2015年10月近隣の6自治会(鴨志田町内会、鴨志田緑自治会、グリーンヒル鴨志田東団地、グリーンヒル鴨志田西団地、横浜市営鴨志田住宅、寺家町内会)と大規模地震発生時の減災応援協力に関する覚書を締結します。この覚書は近隣自治会等と日本体育大学が相互に協力し、消火、救助、応急手当等を効率的に行うことにより、地域全体の被害の軽減を図ることを目的としているのです。
また、同年12月には日本体育大学と横浜市青葉区との災害対策に関する協定を締結しました。こちらの協定は大規模な災害等を想定し、災害に強いまちづくりを進めるとともに、発生時に相互協力し、区民・学生の生命維持を守り、地域社会の発展に寄与することを目的としています。地域の声が「防災」をテーマに大学と各自治会、さらには青葉区とも手をつないだ取り組みへと発展していったなんて!驚きとともに、協力体制が既にできていること、これがどれほど周辺住民にとって心強く災害時に重要なことであるか計り知れないと感じました。
避難所生活を想定した訓練って?
こうして始まった防災訓練ですが、実施1年目は避難所生活を体験しようという目的で、同キャンパス内の教室でじか寝での寝泊まりをすることからスタートしたそうです。
その際、2泊3日避難することを想定して必要なものをリュックに詰めてきてもらい、その中身を消防隊員に、どれが必要でどれが不要なのか、確認してもらったのだとか。
「避難所に何があるか分からないから、何が自分にとって必要なのか考えることが大切で、加えてそれをプロ(消防隊員)の目で見てもらうことが重要です」と話す湯田平さん。
防災訓練実施2年目は、段ボールを敷いて就寝、3年目はエアーマットに変更したそうで、回を重ねるごとに少しずつ改善されていった様子が窺えました。
参加者を何チームかに分け、各チームでカレーを作る炊き出し訓練も行ったそう。
食材や薪などは大学側で用意しており、「カレーなら簡単に作れるはず」と予想しての選択だったのですが、実は家庭ごとでずいぶん作り方が異なり、チーム内で意見が分かれるところも。すると、自然とリーダーとなる方がうまれチームをまとめる姿が見られたのだとか。
このカレー作りから湯田平さんは、「避難所はただ集まる場所を作るのではなく、リーダーや避難所のルールを決めることが大切なのだと体感した」と教えて下さいました。
話を聞いていて、私は2018年の防災訓練に参加した時のことを思い出していました。
日本体育大学横浜・健志台キャンパスで1泊2日の防災訓練体験
2018年10月、私は「日本体育大学横浜・健志台キャンパス」の1泊2日防災訓練に参加していました。「一人で子ども二人の面倒見ながら防災訓練参加できるかな?」そんな不安が頭をかすめつつ、「消防ヘリコプターやはしご車を間近で見られたら息子が喜ぶはず!」と子どもを喜ばせたい一心で同キャンパスの門をくぐったわけです。
今思うと少し不純な動機かもしれないですね……。
キャンパス内を少し歩くと、地震発生時の状況を体験できる起震車や、はしご先端のバスケットに人を乗せたはしご車が見えてきました。息子は大興奮!結局はしご車には乗れなかったものの、起震車体験や一面煙だらけのテント内を口元にハンカチを当て壁伝いに歩く火災訓練体験に参加をしたり、グラウンドで離着陸する消防ヘリコプターを見たりなど子どもは大喜びしていました。
他にも炊き出し訓練や仮設トイレの設置体験から、キャンパス内にさまざまな防災設備が備わっていることを知りました。夜は配布されたエアーマットを教室床に敷いての就寝。朝目を覚ますと体は痛いし、乾燥からなのか親子そろって喉も痛めておりどれも想定外で体験しなければ分からないことばかりでした。
キャンパス内の「防災広場」と今後の取り組み
ここ「防災広場」には、災害時に4.5ℓの大鍋とその大鍋2つ設置できる「防災かまどベンチ」と6つのマンホールが下水口を利用した和式、洋式災害トイレになる「防災トイレベンチ」があり、普段はどちらも普通のベンチとして利用されています。
「防災かまどベンチ」は、炭置が地面から浮く設計の為、熱が地面に直接伝わらず地面や床を傷めない安心設計に。また、脚部のボルトを外せばかまど利用に適した場所へ移動することもできるのです。
「防災トイレベンチ」は、和式、洋式災害トイレにした後、トイレの周囲を囲むテントを設置して使用します。
広場内のマンホールには「災害用トイレ」の文字が。「防災広場」の近くにはプールがあり、非常時にはそこから水をもってきて汚水へ流れるようにするそうです。
この防災設備ができた経緯は、青葉区役所や青葉警察署、青葉消防署、東急バス株式会社、イッツ・コミュニケーションズ株式会社、近隣6自治会などと地域連携した防災訓練を重ねながら、防災設備も同時に整えていったのだと答える湯田平さん。
また、同キャンパスは「横浜市消防団協力事業所」にも登録されていて、月1~2回消防隊員による放水訓練等の他、在学生の中には消防団に入団している方も複数いるのだとか。
「今後も覚書と協定にもとづき周辺地域と年1回の防災訓練を継続していきます」と湯田平さんは話して下さいました。
体験したからこそ気付けたこととは?
2018年以降、残念ながら宿泊を伴う防災訓練は開催されていません(2019年は台風の影響により、2020年以降は新型コロナウイルス感染症の影響により中止)が、
私は2018年10月に宿泊もしたからこそ気付けた災害時の問題がありました。
1つは、初めての場所で「子どもがなかなか寝付けなかったこと」と、同時に「周りにうるさい思いをさせているのではないか?」という不安や勝手なプレッシャー。
2つは、「トイレ問題」でした。
夜の薄暗いトイレはどことなく怖くて大人でも行きづらさを感じましたし、子どもなら一層怖くて我慢してしまうのではないか?
また、私自身や子どもが行く場合でも、子どもを置いていくのか、連れていくのか、子ども一人だけ行きたがった場合、もう一人も起こして連れていくのか?
子どもだけ置いていくことは、子どもの身の危険も考えられる一方、誰もいない状況を作ることで「自分たちの荷物がなくなるかも」という問題も想像できました。
「避難所で配給があった場合も似たような状況が起きるかも」と夜の間は色々考えを巡らせ、「非常時は自分自身の安全を確保することで手一杯」ましてや「私一人で子どもの安全を守ることはできない」と痛感していたことを覚えています。
この防災訓練後から、私はそれまで取り組んできた減災(家の物を減らす・家具を固定する・水は家族14日間分など)に加え、「顔の見える近所づきあい・関係づくり」を意識するようになりました。
普段も災害時も、困ったときは近くにいる信頼できる人へ頼れるように。それが子どもの安全にもつながっていると私は思っています。
宿泊を伴う防災訓練は開催していないものの、2022年の11月4日~6日に行われた「日体フェスティバル」では防災に関する講義を実施。
2023年は6月24日(土)横浜・健志台キャンパスにて「救命救急士・防災士から学ぶ災害への備えと対応」を開催予定です。
徐々にでも以前のような防災訓練が再開されることを期待し、また同キャンパスが行う6自治会や周辺地域と連携した防災訓練が、今後も参加する方それぞれに新しい減災への気づきを与える場となってほしいと願っています。
住所:横浜市青葉区鴨志田町1221-1
東急田園都市線・青葉台駅からバスで15分、「青61系統 日体大」行(乗り場4)、「日体大」にて下車
TEL:045-963-7900
FAX:045-963-7903
「救命救急士・防災士から学ぶ災害への備えと対応」
2023年6月24日(土)9:00~12:30
日本体育大学横浜・健志台キャンパス
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