応急処置ってどうするの? その時何ができるだろう?横浜市救命講習を体験して
「応急手当と救命処置」家庭内や職場でできる手当のことを「応急手当」と言い、何らかの原因で心臓や呼吸が止まってしまった場合の対応を「救命処置(一次救命処置)」と言います。自分がその場にいたらとっさに何ができるのか?そんな思いを持ち、横浜市消防局の一般向け救命講習を取材してきました

「その時何ができるだろう?」。タイトルのこの言葉は救命講習のご案内のパンフレットの表紙です。誰もが、いつ、どこで突然の怪我や病気になるかわかりません。それに、日本は自然災害が多い国です。

災害グッズや災害に備えることは定着してきているように思います。AEDも駅や学校・大型スーパーなどの目に付きやすいところに設置されています。

備えあれば憂なしと言いますが、AEDを実際に使ったことのある人はほとんどいないのではないでしょうか。あるのに「その時使えない」ことがないように日頃からの意識や体験(学習)が必要だと思います。

横浜市消防局救急部救急課の澤田直弥さん

横浜市の救命講習会って?

横浜市で、一般の方向けの救命講習会はいつから始まったのでしょうか?今回、横浜市消防局救急部救急課の澤田直弥さんにお話しを伺いました。

救命講習会は30年ほど前の1993年、国からの指針として総務省消防庁から発せられたそうです。「急病や交通事故をはじめとする救急の事故が起こった場合、救急隊員が現場に到着する以前に、現場や近くに居合わせた方が適切な応急手当を行うことで、救命の可能性が高くなることは明らかである」と。当時より欧米諸国では一般の方への普及が広がっていることから日本でもこのような講習会を広める動きとなったそうです。

 

私は、2022年の11月に横浜市の救命講習を受講しています。その時に習ったことですが、救急車の到着までにかかる時間は全国平均で約9分(横浜市では7分とのこと)。テキストの内容ではありますが、心臓が止まると時間とともに、命が助かったり、社会復帰できる可能性は減っていきます。そばに居合わせた人が心肺蘇生や電気ショック(AED)を行った場合減り方が穏やかになり、救急隊が到着するまでに電気ショックを行った場合の1カ月後の社会復帰率が43.9%。行っていない場合は18.6%と約2.4倍もの差が出てきます。

 

※心臓が止まると10秒あまりで意識がなくなり3〜4分で脳の回復が困難になります。心臓がもし止まっていても胸椎圧迫などで脳や心臓に酸素や血液を送り続けることがとても大切なのです。(公益社団法人横浜市防火防災協会、応急手当講習テキストより)

救命講習修了証。実際に講習を受けると修了証が発行されます。三角巾や必要な備品も配布されます

地域の自治会や親子サークル向けに消防署が講習会を開いた初年度の平成6年度から7年度に横浜市で講習を受講した人数は19,030人。また、コロナ直前の令和元年では20,382人が受講されています。

講習会のタイプは2通りあり、地域からの依頼で依頼場所に出向く方法と、講習日程が決まっていて一般の方が申し込む方法があります。

地域からの依頼では、消防署が地域の自治会や親子サークルなどの希望に応じて30分〜90分の救急指導会という名称で行い、依頼内容によってAEDを使用します。

 

市町村ごとに講習会場や日程が決まっていて一般からの申し込みでの講習内容は概ね以下の通りです。

・普通救命講習Ⅰ–成人に対して必要な応急処置

・普通救命講習Ⅲ – 小児・乳児・新生児に対して必要な応急処置

・上級救命講習–普通救命講習Ⅰ・Ⅲに加えさらに詳しい応急手当方を取得

それに加え、指導技術の講習もあるそうです。

講習会の様子

応急手当が必要な場面は??

実際に応急手当が必要となるのはどんな時でしょう?

突然の事故に巻き込まれたり、地震などの自然災害に見舞われたりする可能性は大いにあります。目の前の人に危機が訪れる場面にも、自分や家族が困る状況にも直面するかもしれません。そのような事態に対して、日頃から備えの意識をもつことは大切です。

どういった場面で必要か?と聞かれると、心臓発作などを例に挙げる方は多いかもしれません。

ほかには口や鼻に何かが詰まって息ができなくなる、いわゆる窒息です。小さい子ども(乳幼児)や高齢者に多く見られます。5歳以下の子どもは何でも口に入れてみたがる傾向があります。ビー玉や小さいブロック、ツルッとしたぶどうやミニトマト、飴玉やこんにゃく等、私も子どもが小さい時にはかなり気を使っていました。親子サークルなどに救命指導法が受講されるのはきちんと訳があるようです。

 

※小さな子どもがいる家庭では、標準的なトイレットペーパーの芯を通過するような大きさのものは注意が必要です。(テキストより)

 

「高齢者はお餅に注意」は毎年お正月のニュースとなっています。

小さい子どもにしても高齢者にしても、咳をして吐き出すことができるとよいのですが、万が一の時に「気道異物除去法」(背中を叩いたりすることで喉に詰まった異物を吐き出せること)ができたら安心です。「もちろん119番通報は必須です。119番通報が自分でできない場合は必ず周りの人に依頼してください」と澤田さん。

気道除去法の図解(図解提供:澤田直弥さん)

上記は応急手当の一例で、そのほかにどんな事例があるのか澤田さんに伺ってみました。

AEDと心肺蘇生の効果がある事例として水の事故と運動中の事例を挙げていただきました。

運動中ということでは周りに人がいることが多く慌てずに対応すれば後遺症を残すことが少ないとおっしゃいます。

こちらもテキストで習ったことですが、野球やサッカーの運動時、ボールや拳、肘などが胸に当たった衝撃でAEDを利用した例もあるそうです。また、マラソンやジョギング、サイクリングなどの運動は身体に良いことではありますが、心臓に負担がかかる一因になります。

こういった運動をするときには寝不足や体調不良時は避けることも大事です。

これからの季節は「熱中症」にも注意が必要です。子どもたちの炎天下や蒸し暑い体育館での活動にも注意が必要ですし、高齢の方は普段から水分やミネラルを補給して熱中症への対策も必要です。そして、もし熱中症の症状があるなら、首や脇の下を冷やすなど適切な対応を取れるようにしたいものです。

こういった応急手当のやり方は講習会で習うことができるのです。

なるほど、予防するという考え方も大切なのですね。

青葉台駅設置のAED

実際に、澤田さんの体験談をお聞きしました。

新人の救急隊員だった頃、男性がテニス中に突然倒れたという事案に出動したそうです。その際、偶然に隣で、医師と看護師のテニスサークルが活動していて119番通報をして胸骨圧迫とAEDを使用したとのこと。倒れた方は、救急隊到着までに意識は戻り会話ができるまで回復していたそうです。その時は偶然医師でしたが、早い段階の適切な処置によって回復に差が出ることを目の当たりにした澤田さん。誰がいても同じことができる環境をつくることが「応急手当普及」の目的であると実感したそうです。

 

空港や駅、催し物ホール、公共施設や民間企業、デパートなど色々な場所にAEDが備え付けてあります。全国AEDマップなどもありますので事前に把握するのもよいと思います。

 

※全国AEDマップ設置場所 https://aedm.jp

青葉台駅近辺のAED設置場所。身近な場所を把握しておくと、いざという時に安心

また、コロナ禍で応急処置や救命活動にはどういった変化が起こったか伺いました。

コロナ禍では対面の講習会が一時的に中止となりました。その後も感染症対策で講習定員を半分にして開催しました。1989年度は2万人の受講者がいたのに対して2020年度には約6,000人と、4割程度に減ってしまったそうです。講習定員数が減り、市民は受講したくても受講できないという状況でした。

実は私もその一人で、受けようと申し込んでいた講習会がコロナで中止になり、2022年11月に長津田消防局で講習を受けることができました。

また、2022年度からWEBで事前に学習することで講習時間を1時間短縮することができる制度を、団体講習から導入を始めたとのこと。今年度からは団体以外でも事前学習を導入するそうです。

特に、コロナ禍の影響で小学校・中学校での救命講習の実施数が大幅に減っているため、アフターコロナに向けて、教育機関と連携して実施していきたいとのことでした。

応急手当て講習会のテキスト表紙

自分や家族の身を守ることは何より大切。あらかじめ、有事の際の集合場所をハザードマップを見ながら決めておくなどの対策も必要でしょうし、困っている他人に手を差し伸べることも大切だと私は思うのです。

もし、善意の気持ちでもうまくいかなかった場合に責任を問われることを恐れてためらうこともあるかもしれない。国の規定で、善意の応急手当は刑事上も民事上も責任を問われることはありません(1994年に総務庁(現・総務省)より見解が出ています)。

「少しの勇気を持ってほしい」。これは、私が講習を受けた先生の言葉です。無理にとは思いません。だけど、勇気を出したことで誰かのこれからが少し変わる可能性があるなら、勇気を持ちたいです。

 

そして、記憶に新しい3.11 や阪神淡路、西日本豪雨や台風、毎年たくさんの人が災害に遭っていて、教訓として残っていることはたくさんあります。災害時の備え等についても毎回話題となります。こういったことは、何となく聞き流しているだけではなく、居合わせた人が何かできることがあるということを意識し、聞いたり、習ったり、覚えておいて、もしもの時が来たら実行し、「他人事とは思わない」で実行することができたらよいと思いました。

 

傷病者の命を救い、社会復帰に導くために必要となる行動と一連のつながりを「救命の連鎖」と言い、その場に居合わせた人の行動が大きな鍵となるそうです。

応急手当や救命処置(一次救命処置)は「いざと言うときに、記憶の片隅にでも対応方法があって、咄嗟に動ける」ことが大切であり、早く対応することで、社会復帰率が全然変わってくるということを知ってほしいと思います。

 

コロナ禍で人間関係も少し距離を置くようになってしまったように思います。救命救急講習がきっかけとなって、そのとき「何かができるはず」そんな気持ちを持って生活できる、優しい世界を望みます。

私が講習を受けた長津田消防所の陳列棚の消防車。可愛くてつい紹介したくなりました

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この記事を書いた人
塚原敬子ライター
2000年に青葉区に引っ越してから早20年、長男は藤が丘で産まれました。 その頃、これからは介護だ!と介護福祉士やアロマ、ヨガの資格を取りました。「健康は自分で作るもの」がモットー。月や星、石や植物が大好きで山や海での拾い物多し。
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