一つ作ったらもう一つ、隣の誰かのために。よこはま布えほんぐるーぷ
「よこはま布えほんぐるーぷ」は、手作りの布えほんや布おもちゃを子育て支援拠点や図書館、個人の利用者へ貸し出しているボランティアグループです。温かみのある作品はどれも、子どもも大人も楽しめる仕掛けがいっぱい。使い手を優しさで包んでくれるような布えほんは、どんな方に、どうやって作られているのか、代表の松村治美さんに話を伺いました。

JR京浜東北線、横浜市営地下鉄ブルーライン・桜木町駅の目の前に位置する「横浜市健康福祉総合センター」。その中のボランティアルームを拠点に毎週木曜日、よこはま布えほんぐるーぷは、布えほんとおもちゃの貸し出しを行なっています。

 

よこはま布えほんぐるーぷの作品はすべて、ボランティアの方の手で作られています。1981年から横浜での活動をスタートし、初代代表の池上従子(いけがみよりこ)さんの作品が今も受け継がれています。作品は新たに作るほかにも、今あるものを修繕・洗濯しながら大切に扱われ、必要としてくれる子どもたちの手に渡っています。

 

私が松村さんと出会ったのは、西区の区民講座がきっかけでした。区役所に隣接する市民活動支援センターや定期的に開催される展示会で作品を手に取り、布の持つ温かみや手作りの安心感に心惹かれたのです。

 

そして私が一番驚いたのは、布えほんの細やかで楽しい仕掛けの数々!

『ちいさなまじょのキッチン』というえほんでは……

 

ジュースの裏側に紐が付いています。引っ張るとジュースがみるみる飲み干されていく!魔女の人形も動かせるので、ごっこ遊びが楽しいです

 

『たのしいどうぶつえん』の仕掛けは……!?

 

取っ手を引くと、おうちの中からペンギンが大行進で登場!赤ちゃんペンギンが最後尾についてきているのが愛らしい……

布のおもちゃにも工夫がいっぱいです。

布でできたりんごは、皮がマジックテープで留められていて、木のナイフでむくことができます。テープがペリペリとはがれていく音と感触が、まるで本当の皮をむいているみたいと好評だそう。青リンゴバージョンもあって、そちらは左利き用です

 

こちらの的当て。投げるとペタッとくっつくボールをばいきんまんに当てていくと……

 

ボールの重みでばいきんまんの頭が下がって「ごめんなさい!」。的当てのような大きなおもちゃは地域の子ども会や福祉施設などにも貸し出しています。制作にあたっては『アンパンマン』の作者・やなせたかしさんの許可を得て作ったのだそう

ここでご紹介したのは、作品のほんの一部。布えほんは55点、おもちゃは廃番になったものも含めれば100点近くの作品があるそうです。

作品は名前と連絡先を登録し、登録者1人につき2点、2週間無料で借りられます。原則対面での貸し出しで、希望の作品がある場合は、事前に連絡をしておけば貸し出しの場に持ってきてもらえます。

 

「子どもは想像以上の遊び方をするので、安全に配慮しながら制作しています」と話してくれたのは、よこはま布えほんぐるーぷ4代目代表の松村治美さんです。

 

マジックテープの四隅は尖って危ないからと角を丸くしたり、取り外せる小さい部品は子どもが飲み込めないサイズを考えて作っているそうです。

凝った作りは避け、ストーリーも複雑なものはないと言います。子どもが自由に想像力を働かせて遊べるようにと、えほんは作られています。

 

活動当初は障害のある子どもたちに向けて制作していましたが、「障害の有無に関わらず、配慮すべき点や楽しさはみんな同じ」と、今ではすべての子どもたちに向けて制作していて、近年では高齢者福祉施設への貸し出し希望もあったそうです。

代表になって9年目という松村さん。優しくもハキハキとした語り口に頼もしさと芯の強さを感じました

今はえほんの新作は作っていないと松村さんは話します。

「貸し出しという形を取っていることもあり、えほんを利用する子どもたちが、どんどん入れ替わっていく。だからえほんの中身を変えなくても、楽しんでもらえています。子どもは成長していくので、たとえその子にはいらなくなっても、次の子どもへと生かしていけますから」。

 

今あるものを大切に、次の世代につないでいきたいと考えている松村さん。新型コロナ感染が拡大した3年間は貸し出しを休止していたものの、今年度から再開。コロナ以前ほどには利用者の数は戻っていないものの、徐々に貸し出しを希望する人や団体が訪れるようになってきたそうです。

 

しかし、ボランティアメンバーの減少には頭を悩ませていると言います。コロナ禍で、年齢などの理由から思うように活動に参加できず、やむなく会を去った方もあったようで、現在50代から80代を中心にしたボランティア20名で、会は運営されています。

取材当日は貸し出しと合わせて、制作もその場で行われていました。メンバーは会の運営をする方、制作を主とする方などそれぞれの役割を持ち、少ない人数の中で協力して活動されています。「新しいメンバーも募集中」と松村さんは話してくれました

松村さんがよこはま布えほんぐるーぷに参加したきっかけはなんだったのでしょうか。

 

「息子が未熟児で生まれてきて、六ツ川にある『こども医療センター』(横浜市南区)に通っていたのね。そこで布えほんと出会いました。看護師さんに個人でも借りられるよ、と教えてもらって。それがきっかけで会に足を運んだ時に、初代代表の池上さんに声をかけられたんですね」と松村さん。

それは息子さんが4歳の時。そこから29年、布えほんぐるーぷの活動に参加してきたそうです。

「その時は港南区に住んでいて、家が特別近かった訳でもなかったんですよね。今思うと、どうして自分がわざわざ子どもを連れて、えほんを借りに行ったのか思い出せない(笑)。ビビッときたのかもしれません」と松村さんは笑顔で話します。

 

「池上さんに声をかけられた時、『ああ……作ってみたいな、やってみたいな』って思ったんですよね。特別手芸やお裁縫が得意という訳でもなかったんだけど、惹かれるものがあったのか、運命的なものだったのか……」。

 

そんな松村さんは、よこはま布えほんぐるーぷに参加して、“自分”としてつながる仲間にめぐり会えたと話します。

「いいつながり、いい仲間に出会えたのが一番の財産です。たどっていけば、池上さんとの出会いが自分にとってはすごくよかった」。

自分の子どものために一つ作ったらもう一つ隣の誰かのために作りましょう、と教えてもらったと言います。

 

「ここで出会った仲間は、“自分”としてのつながり。子どもを通してとか夫を通してとかではなく……そんな仲間を見つけるって、大人になるとすごく難しいと思うのね」。

すてきですねと私が伝えると、楽しいですよね、と松村さんは穏やかに笑って話してくれました。

定期的に開催されるミニ販売会では、布小物やおもちゃ、えほんの登場人物たちのマスコットが購入できます。私のカメラのかわいいうさぎさんも、えほんの中から出てきたのだと思うとうれしい

「布って生まれた時から亡くなるまでいつも身近にあるもの。そういう素材でおもちゃを作るのは、自然なことのように感じています。でも、何でも布で作ればいいって訳ではない。紙や木で作るすばらしいえほんもあるし、今はハイテクなおもちゃもたくさんある。だから、やわらかくて温かみがある“布”のよさが生きるものを、作っていけたらと思っています。

 

布えほんのよさは、一言でこれ、と表すのは難しい。見てもらって、触ってもらって、感じるものがあると思います」。

 

布えほんを手に取った時に私が感じた温かな感覚は、自由に遊べるようにと込められた優しい思いと、それを大切に考えつないできた方々の手仕事のぬくもりだったのだと気づきます。

かつて松村さんがお子さんと布えほんを手に取ったように。これからも必要とするさまざまな人の元へ、布えほんがめぐっていくでしょう。そしてそんな布えほんを挟んだつながりは、制作者と使い手に留まらず、横へ横へと広がっています。

Information

よこはま布えほんぐるーぷ

https://yokohamanunoehon-group.jimdofree.com/

 

貸し出し場所:横浜健康福祉センター内、9階ボランティアルーム(部屋が変更になる場合あり。1階受付横の掲示板参照)

時間:毎週木曜日10:30〜15:30(12:00〜12:30休憩)(第5木曜日、年末年始、休館日は除く)

問い合わせ先:yokohamanunoehon2016@yahoo.co.jp

 

年に4回ほど、京浜急行線・戸部駅にある藤棚デパートメント(横浜市西区中央2-13-2 伊勢新ビル1F)でミニ展示、販売を行なっています。次回開催は2023年10月19日(木)を予定しています。

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この記事を書いた人
佐藤沙織ライター
横浜市泉区生まれ、西区在住。そこに住む人の等身大の言葉でつくられた森ノオトの記事に魅せられてライターへ。身近な人の気持ちや様子をそっと書き残していけたら。読書と犬が好き。趣味のゴルフは毎回大乱闘。
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