沖縄との架け橋に。沖縄愛あふれる青葉台のセレクトショップ「Saion-おきなわの手しごと-」
澄んだ海のような青色の器に、光のきらめきを閉じ込めたようなガラス。沖縄産の生はちみつや紅茶など、この辺りではなかなか見かけないおいしいものたち。青葉台にあるSaion(サイオン)はそんな沖縄の宝物がたくさんつまったお店です。30年以上沖縄に通いつめ、沖縄を心から愛する店主・長島由実さんにお話を伺いました。

東急田園都市線・青葉台駅から徒歩14分。閑静な住宅街の一角にSaionはあります。大々的な宣伝はしておらず、口コミなどで少しずつお客様の輪が広がってきているということもあり、ご近所なのに私はお店の存在を知りませんでした。たまたま夫が散歩をしている時に発見し、教えてくれたのがお店との出会いです。長く愛用できる器を暮らしに取り入れたいと思っていた私は、お店を訪ねるのをとても楽しみにしていました。

自宅の一室を改装し店舗としているSaion。門扉をくぐり右手に進むとお店の入り口が見えます。店の守り神であるちぶるシーサー(頭だけのシーサー)が目印です

お店で扱っている商品は、沖縄に住む作家たちの手しごと品や沖縄産のおいしい食べ物など、沖縄にこだわってセレクトされた逸品です。すべて長島さんが沖縄に出向いて一つひとつセレクトし、仕入れています。

 

仕入れの際は気になるアイテムがあってもパッと見で飛びつかず、まずは自分で購入し実際に暮らしの中で使ってみるとのこと。そこで、「いい器だなあ」としみじみ実感できれば、工房に出向き作家と直接話をし、その人柄や思いにも共感できれば、仕入れ交渉を行います。

柔らかみのある形で手にすっと馴染む、再生ガラス工房てとてとのガラス。沖縄の環境問題や時事問題にも関心を寄せ活動している作家の思いに共感し、ご縁が生まれました(写真提供:Saion)

「ただ物を売るだけではなく、作り手の思いをのせて、器の裏側にある背景、ストーリーも伝えていきたいんです。食事という大切な時間に使われる器から、沖縄を知る入り口にしてもらえたらいいなと思っています」。沖縄と暮らしをつなぐきっかけを提供したい。そんな思いで選ばれた器からは、日常の暮らしにそっと寄りそうあたたかみのある美しさを感じます。

沖縄で初めて器に青色をのせたといわれる、大嶺工房の器。沖縄の海のように澄んだ青色は、クール過ぎずやわらかさもあるのが印象的です

沖縄に魅了され、今まで沖縄に足を運んだ回数は60回を超えるという長島さん。そんな長島さんが初めて沖縄に行ったのは、今から30年以上前のこと。最初はバカンス的な楽しさを求めての旅行でしたが、そこですっかり沖縄の魅力にはまります。どこまでも澄んだ青い海に青い空、深い緑の森。あたたかな地元の人たちの人柄。そういった豊かな自然や風土、独自の文化にひかれ何度も沖縄に通うようになり、どんどん沖縄が好きになっていきました。

 

とにかく沖縄が好きで、いつでも沖縄を感じていたい!そう思うようになった長島さんは、沖縄に足を運ぶ度にやちむんや琉球ガラスを買って帰るようになります。やちむんとは沖縄のことばで「焼き物」のこと。沖縄がまだ琉球王国時代だった頃に生まれたという長い歴史を持つやちむんは、沖縄の人々の暮らしに根付いた身近な文化の一つです。長島さんは持ち帰ったやちむんやガラスを眺め使うたびに、日々の暮らしのなかで大好きな沖縄を感じることができたといいます。

 

そうやってやちむんや琉球ガラスを集めるなかで、「いつか沖縄の器を扱うお店をしてみたい。そして多くの人に沖縄の魅力を広めたい」というほのかな思いが、長島さんの胸に宿るようになっていきます。

沖縄愛に満ちた店主の長島さん。ほがらかなあたたかい人柄で、お話しているとほっと肩の力が抜けてリラックスできます

その思いが徐々に夢として形作られるようになったのは、結婚後のことでした。自分で料理をし、やちむんを使う機会がぐんと増えたことで、食卓を彩り豊かにしてくれるやちむんの魅力をますます体感します。またママ友が自宅に来た際、おもてなしに器やグラスを出すと、「これ、すごくいいね!」と褒められたり喜ばれたりすることが多々あったようです。

 

そういった経験を重ねるなかで、徐々にお店をやってみたいという思いが強くなっていきます。ただ、出産・子育てなどライフスタイルの変化があるなか、「なかなかタイミングがつかめなかった」と長島さんは語ります。

 

機をみながら、じっくりと夢をあたため続けた長島さんが動き出したのが2016年。マーケティングや流通に関する知識や経験は全くなかったため、まずは横浜市の女性起業セミナーや、民間の雑貨屋開業セミナーに参加したりなどしながら、基盤を固めていきました。

 

ゼロからのスタートで全く不安がないわけではありませんでしたが、「沖縄が好きという気持ちは誰にも負けない!沖縄のために何かしたい!沖縄の魅力を伝えたい!そんな確固たる熱い思いはあったので、頑張れました」。そうして少しずつ準備を進め、2019年11月30日Saionがオープンしました。

天然の無垢材や漆喰の壁で作られた店内は、ぬくもりを感じるあたたかな空間。ゆるやかな時間が流れ、やさしい気持ちになれます(写真提供:Saion)

ご自宅でお店をするとなると、ご家族の理解と協力がないと難しいと思いますが、お話を聞いた時のご家族の反応はどうたったのでしょうか?

「夫には結婚当時から、いつか沖縄の器を扱うお店をやってみたい、多くの人に沖縄を広めていきたいという思いは伝えていて、その頃から応援してくれていました」。実は夫の一浩さんも独身の頃から、大の沖縄好き。お二人は沖縄好きが縁となって知り合い、仲人も沖縄出身の知人の方がされたと言います。

 

働き方を変えた一浩さんが、この春からお店のサポートにも入ってくれるようになったということで、取材中挨拶に顔を出してくれました。沖縄好きは共通ですが、好きな分野は異なり、一浩さんは主に歴史関連に深い関心を寄せているとのこと。

「若いころは器には全く関心がなくてね。どんな器で食べても味は一緒だろなんて思っていました。でもね、今じゃ器で味わいも変わってくるよなぁって思うようになりました」と、笑う一浩さん。いい刺激を与えあっているご夫婦のエピソードに、ほっこりしました。

自宅での沖縄料理は一浩さんの担当。なんと取材中沖縄そばをふるまってくれました。沖縄の器でいただく沖縄そばは、とてもおいしく至福のひとときでした!

Saionでは伝統的なやちむんは取り扱っていません。長島さん自身は魚紋や刷毛目模様などがダイナミックに描かれた伝統的なやちむんも好きですが、個性が強い分「買ったもののどう使っていいか分からない」、「使いこなすのが難しい」といった声を聞くことが多かったといいます。

 

そこでSaionでは、“ネオやちむん”ともいえる作品を取り揃えています。ネオやちむんは、今の新しい風を取り入れながらも、伝統的なやちむんからインスピレーションを受け、それを昇華させた形で作品が作られています。

「伝統的なものと今の時代背景、そして沖縄の豊かな自然。それらがミックスされて作品が作られています。まさにチャンプルーですよね。その分今の暮らしになじみやすく、使いやすいように感じます」。

店名のSaionは、琉球王国の歴史に大きな影響を与えたと言われる政治家、葬温(サイ・オン)からとったもの。葬温のように人の記憶に残るお店となりたい、沖縄をみつめていきたいという思いを込め店名としました

また、Saionで取り扱われている器や小物は、量産品ではなくすべて沖縄在住の作家たちの手から生みだされた手しごと品です。長島さんが手しごとのものに惹かれるのはなぜなんでしょうか?

 

「人の手から生まれた器は心がこもっており、エネルギーが宿っているように感じます。私が沖縄好きだからかもしれませんが、特に沖縄の器はおおらかで明るく、ぬくもりがあるように思います。沖縄の自然と一体となったパワーで、使う人に元気をくれる気がするんです」。

 

人の手から生みだされた、同じものは一つとしてないオリジナルな器や小物たち。お店を訪れた時に、どんな出会いが待っているのかも楽しみの一つです。

沖縄の伝統工芸、紅型(びんがた)染めの小物。色鮮やかで繊細なグラデーションに目を奪われます。塩を入れたお守り、「まーす(塩)袋」なんていう珍しいものも

お店をオープンし、4年目に突入したSaion。今後の夢についても伺いました。

「器屋ではありますが、ただ器を売って終わりではなく、人と人を結ぶサロンのような場にしていきたいんです。つながりを大切にし、沖縄をみんなで語れるような場をつくっていきたいですね」。そして、「いつ叶うかは分からないし、まだどこにも公言はしていないんですが……」と、ひそやかにあたためている夢についても教えてくれました。

 

一つは、ご夫婦それぞれの好きを組み合わせた、少人数制の沖縄ツアーをやってみたいとのこと。楽しみながら、沖縄を知って・感じて・学んで満喫するツアー!聞いているだけでわくわくしてきます。

「自分たちから出向く以外にも、お店で取り扱っている作家さんをこちらに招いて、お客さんたちと交流するような場もいつかつくりたいですね」と、夢は広がります。

光を受けきらめく琉球ガラス。沖縄の自然の色をのせたような鮮やかな色彩に、少し厚みがあるぽってりした形が愛らしい。たくさん入った気泡は海のあぶくのようです

そしてもう一つの夢が、ある沖縄映画を近隣地域で上映してみたいというもの。沖縄の戦争を扱った作品で、当時の凄惨な様子も描かれています。ただ、悲しいだけでなく希望も持てる内容で、ご夫婦ともにとても好きな映画だそうです。DVDなどのデータ化がされておらず、見られる機会がかなり限られてるため、自分たちでいつか上映し多くの方に知ってもらいたいという思いをあたためています。

「戦争の話は苦手だと思う方もいるとは思うんですが、沖縄が好きならそこは切り離せない話だと私は思っています。陽の部分だけでなく、負の遺産ともいわれる歴史的に痛みがある側面、そんな陰の部分も含めて私は沖縄が好きなんです」。

 

長島さんは沖縄と出会い、人生が変わったと言います。「沖縄と出会ったことで知らなかった世界を知り、自分の人生に深みが出たんです。沖縄からはたくさんの恩恵を受けたと感じていて、これからは沖縄に恩返しをしたいと思っています」。そう語る長島さんの言葉に、沖縄への深い思いを感じ胸が熱くなりました。

夏におすすめの「バタフライピーティー」。濃い藍色が目にも涼やか!お店の食品はすべて長島さんが味見をし「おいしい!」と思ったものたち。珍しいものも多くプレゼントにも喜ばれそうです(写真提供:Saion)

私にとって沖縄は、いつか訪ねてみたい場所の一つではありましたが、ぼんやりとしたイメージしかなく少し遠い存在でした。しかし今回沖縄で生まれた器たちと出会い、長島さんのお話を聞くうちに、ぐんと沖縄を身近に感じるようになりました。そんな風にSaionはお客様に沖縄への招待状をそっと手渡し、沖縄と暮らしをつなぐ架け橋となってくれているのかもしれません。

 

太陽の輝きがぐんぐん増すこれからの季節。暑さが苦手な私にとっては、例年ちょっぴり憂鬱な時期です。でも今年は、沖縄のおおらかなエネルギーをたくさんもらったお陰か、なんだか夏が楽しくなりそうな予感です。

Information

Saion-おきなわの手しごと-

住所:〒227-0067横浜市青葉区松風台44-20

アクセス:東急田園都市線・青葉台駅より徒歩14分

電話番号:045-482-4599

営業時間:木・金・土+第1、3水曜日 11:00~18:00(不定休あり)

Instagram:https://www.instagram.com/saion3535/

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この記事を書いた人
岸真由美ライター
兵庫県生まれ、兵庫県育ち。数年前より横浜に在住。なじみのない街を知るべく色々調べる中で、森ノオトに出会う。食べること、カフェでのんびりすることが至福のひととき。最近は発酵食や手仕事に興味があり、日々の暮らしに取り入れたいと思っている。
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