横浜市青葉区の寺家ふるさと村(青葉区寺家町)には、横浜市のブランド農産物の「浜なし」を扱う農家が5軒、そのうち「浜ぶどう」も合わせて栽培しているのが2軒。各直売所に「浜なし」「浜ぶどう」と書かれたのぼりが立っていることが直売所がオープンしている目印です。のぼりの立っている日は、どこの直売所も新鮮でおいしい果実を求めて、お客さんが列をなしています。ちょっと出遅れると、「今日の分は売り切れちゃったのよー」と手に入らないことも多々。浜なし・浜ぶどうは「幻」とも言われるほどの人気ぶりです。今年もいよいよ、横浜の果物の旬が来たなぁとワクワクしています。
寺家ふるさと村のテニスコートの裏手の直売所と自宅敷地内での直売を行う大和園さん。
昨夏、私は大和園さんの直売所で、初めて「竜宝(りゅうほう)」という品種の浜ぶどうと出会いました。スーパーなどでよく見かけるような濃い紫色のぶどうではなく、赤褐色の見た目にもみずみずしさを感じる大きな粒の品種は、ジューシーで、豊潤な甘みがとても印象的でした。子どもたちにあっという間に食べられてしまい、また買いに行きたいと思った時にはもう販売終了していたことを思い出します。
「竜宝は甘みが魅力なんですが、脱粒しやすく、日持ちもしないので、ほぼ市場に出回らないんです」と説明してくれたのは、大曽根敏明さん。冗談を交えながら答えてくれる明るくお人柄が印象的です。
横浜市では、高度経済成長期の人口増大によって、宅地化が進み、農地や樹林地が急速に減少。それを受けて、昭和40年から「農業専用地区」の指定などにより、まとまりのある農地の計画的な保全を進めました。さらに高収益化や市民のレクリエーション緑地の確保を目的とした「フルーツパーク設定事業」によって、恩田川、谷本川周辺に梨園の整備を進め、現在の「浜なし」ブランドにつなげてきたと言われています。
大和園は昭和51年、現在の農園主の敏明さんのお父さまの代から梨の栽培を始めたそう。昭和52年には横浜市のフルーツパーク設定事業によって、現在の場所に直売所がつくられました。当時から寺家町内には梨農家が5軒あったそう。大和園では平成8年からは、ぶどうの栽培も始め、現在は梨50アール、ぶどう15アール、柿10アール、その他に1年を通して野菜の販売もしています。
家族で守る果樹の1年
現在、大和園を営むのは、大曽根敏明さん、真由美さんのお二人。
「果樹は1年に1回しか収穫できないから、本当に毎年毎年勉強だよ。何十年やっても、毎年結果が違うから」と敏明さん。つる性のぶどうは雨にとても繊細で、急に大雨が降ると水分を一気に吸ってしまい脱粒したり、粒の大きさが揃わなかったりで、収穫期の一瞬を逃すと売り物にならないことも。ぶどう、続いて梨の販売する時期は約1カ月半ほどですが、おいしい果実ができる裏側には1年をかけて、人の目と手があることを、改めて感じます。お二人によると、今年は今のところ順調とのことで、7月末からの浜ぶどうの「竜宝」の販売がスタートし「藤稔」、そして9月上旬までの浜なしの「新水」「幸水」「豊水」の収穫へと続いていきます。
寺家ふるさと村の農業のこれから
寺家ふるさと村の果樹園は今、転換期を迎えているようです。
農園を始めた当初植えた木が40〜50年を経て老朽化し、梨もぶどうも少しずつ新木を植えています。成木になり収穫できるまでは4〜5年かかり、その間は収量にも少し不安があるそう。一方で、浜なしや浜ぶどうはどんどん知名度が上がって、毎年たくさんのお客さんが直売所に買い求めにきますが、売りたいのに果実が足りない……というジレンマがあるそう。
「販売方法も模索中です。やっぱり対面販売がしたいです。対面だったら、お客さんの反応もすぐに聞けて、来年につなげられると思いますし、どう改良していったらいいかの知識を高めることもできる。せっかく来てくれているお客さんにちゃんと買っていただけるように供給できる量を確保していきたいと思っています」と話すお二人。常連のお客様が高齢化していることもあり、数年前からはSNSを使って、若い世代の顧客向けに直売所情報の発信も始めました。新しくチャレンジしている手入れや栽培方法をSNSで紹介しています。
猛暑日が続き、今年は例年にも増して暑い夏になりそうです。みずみずしい旬の果実がよりおいしく感じられそうですよ。寺家ふるさと村の直売所をぜひのぞいてみてくださいね。
生活マガジン
「森ノオト」
月額500円の寄付で、
あなたのローカルライフが豊かになる
森のなかま募集中!