「まわしよみ新聞」発案者に聞く、これからのローカルメディアとリテラシー
新聞を持ち寄って好きな記事を切り取り、それについて話しながら記事を貼って壁新聞を作り上げる「まわしよみ新聞」。発案者は、大阪でまち歩きプログラムなどを主宰するコモンズ・デザイナーの陸奥賢さんです。森ノオトでまわしよみ新聞を実践するメンバーで、陸奥さんに色々とお聞きしました。

森ノオトでは2021年から、親子のメディアリテラシー向上に向けた「まわしよみ新聞」ワークショップを実施してきました。2022年度はドコモ市民活動助成を受け、横浜市内の6団体と一緒に計6回開催。合わせて大人32人、子ども34人が参加してくれました。

 

ワークショップでは、冒頭に「子どもがスマホを持つ前に おうちでメディアリテラシー」というオリジナルの動画と、メディアリテラシーに関する簡単な紙芝居も見てもらいました。ジャーナリストの下村健一さんから学んだ、情報に踊らされないための“4つのギモン(「事実かな? 意見・印象かな?」「他の見え方もないかな?」「隠れているものはないかな?」「まだわからないよね?」)”を頭に入れ、みんなで新聞に載っているさまざまなニュースについて話すことで、情報を主体的に読み取ること、親子「横並びで」情報を受け取り対話することの大切さを実感してもらうことがねらいです。

戸塚区のこまちカフェで開催したまわしよみ新聞ワークショップ(認定NPO法人こまちプラス共催)

参加者アンケートでは、「みんなの視点の違いが浮き出て面白かった」「新聞やニュースを親子で一緒に見ていきたいと思った」「家でも新聞に付箋を貼って話してみようと思う」などの感想が寄せられました。

 

そして今年6月には、横浜市中区のニュースパーク(日本新聞博物館)で行われた「全国まわしよみ新聞サミット」で、まわしよみ新聞発案者の陸奥賢さんにお会いすることができました。陸奥さんの気さくな人柄で進行するまわしよみ新聞はとても和気あいあいとして、「自分も新聞なかなか読めていないしな……」と気負う気持ちも吹き飛ぶ楽しさ。学校や介護現場でまわしよみ新聞や新聞を取り入れた活動を実践する方、新聞記者、新聞や教育に関心のある方々と、それぞれの経験や課題について共有することができました。

後日、陸奥さんに改めてインタビューする機会をいただき、森ノオトの北原、島原、齊藤との座談会形式で進めました。

 

 

始めはミックスジュースから

北原:森ノオトでは、ローカルメディアコンパスを作った際にメディアリテラシーを学ぶためのワークショップについて色々と研究する中で、2021年に初めて小中学生を対象にまわしよみ新聞をやらせてもらいました。対話のツールとしてもすごく優れているなと思ったし、ネットで何でも自由に好きな情報を取れる時代にあって、新聞という紙をめくる行為の中で情報が媒介される力ってすごいなと、新聞自体の面白さを知るきっかけにもなりました。他の人がこういう視点でものを見てるんだという発見にもなったし。

 

島原:うちは当時小学3年生の息子と6年生の娘が2月に青葉区で開催したまわしよみ新聞ワークショップに参加したんですが、子どもの情報の選択の仕方って思ったよりちゃんとしているなと思いました。どういう考えで選んだのかを他の人に伝える場面を見ることで、子どもたちのポテンシャルにも気づけたし、他者のモノの見方を体感できるワークショップだなと実感しました。

 

齊藤:森ノオトではメディアリテラシーに関する簡単な紙芝居の後にまわしよみ新聞に入るというやり方でしたが、一部の子が紙芝居で伝えたことをすぐ実践してくれたのには驚きました。記事を読みながら、「これは記者の主観で、これは事実だと思う」と線を引いてみてくれたんです。紙芝居を含めた内容の想定としては小学校高学年以上くらいが対象でしたが、結果的に低学年の子も混ざってやってみると、上級生の子がリードしてくれたのもよかったです。親に連れてこられて最初は消極的だった中学生も、だんだんとリーダーシップを発揮せざるを得なかったんですよね。

 

北原:私たちがまわしよみ新聞ワークショップを開催していた2022年はじめの頃はちょうどロシアのウクライナ侵攻が始まったばかりで、ロシア人の立場、ウクライナ人の立場、また日本人の立場、いろんな視点で子どもたちが記事を選んでいて、新聞を読みながら自分の考えを深めていったり、自分の立ち位置を知るきっかけをつくったりすることこそがまさにメディアリテラシー、主体的に情報を読み解いて判断することになるんだというのをすごく感じました。

 

まわしよみ新聞は全国の教育現場などで実施されていますが、陸奥さんが考案された時点で、こうした展開はある程度予見されていましたか?それとも、いろんな方が実践する中で独自に発展していったものなのでしょうか。

金沢区の並木ラボで開催したまわしよみ新聞ワークショップ(一般社団法人金沢シーサイドあしたタウン/あすなみPJ共催)

陸奥:新聞使ったらどうなるのかなー、みたいな軽い思いつきだったので、本当に棚からぼたもちでした。

 

初めて思いついたのが2012年の9月頃なんですが、その頃ハマって実施していたのが「ミックスジュースナイトフィーバー」というイベントでした。大阪の釜ヶ崎で、「ジューサーを持って夜8時にカフェバーにいますので、皆さんミックスジュースにしたい食材を持ってきてください」と呼びかけて。ミックスジュースって、果物もいけるし野菜もいけるし、闇鍋みたいなことができるんですよね。みかんを持ってくる人もいれば、大阪人はギリギリを攻めるので、みたらし団子とかを持ってくる人もいました。1分くらいでできるので、みんなで一斉に飲むっていう遊びです。来た人がなんでその食材を持ってきたのかとか、話しながら作る過程も面白いし、同じ体験をすることで一気に仲良くなるので、毎日いろんな人が来て大盛り上がりしました。

 

そこで、みんなが食材の代わりに新聞を持ってきて、面白いなと思った部分をお話して、一緒に飲む代わりに壁新聞を作るっていう共通体験を織り込んでみたら面白い場づくりになるんちゃうかなと。人と人をくっつける接着剤で何かないかな、新聞はどうかなといった感じで、本当に何気なく「まわしよみ新聞」を思いつきました。

 

やってみると、ミックスジュースよりもいろんなネタが出てくるし、世の中の出来事に対して自分たちがどう思っているか、世界観が話の中ににじみ出て。

港北区の大倉山おへそで開催したまわしよみ新聞ワークショップ(大倉山おへそ共催)

まわしよみ新聞は、社会的な場づくりツール

北原:お話を聞いていると、陸奥さんがある意味新聞業界の人ではなく門外漢だからこそ、こういう面白いことができたんだろうなと思います。

 

陸奥:始めたときは、新聞社さんにこの企画が見つかったら怒られると思っていたんです。新聞のよさを伝えるというより、むしろ新聞へのちゃちゃ入れという感じでした。

 

釜ヶ崎は労働者のまちで、持ってくるのも競馬新聞やスポーツ新聞。それを切り取って話してくれと言っても、これがくるから買えって大穴の馬の話とか、芸能ゴシップ面の下ネタみたいな話ばかりで盛り上がっていました。徐々にやり方を整備し学びの時間になっていって、社会性を獲得していったんです。僕はワークショップとも呼んでいなくて、新聞遊びと言っています。

 

簡単だし、オープンソースで誰でも自由にやれるように広めようと思って、ホームページを作りました。新聞社の取材も、一社が来ると他社もどんどん来て。西日本新聞の方が、これはすごいと持ち帰ってくれたんです。そうして日本新聞協会さんもいらっしゃって、新聞業界にも受け入れられたのが、飛躍的に広まった一因ですかね。

中区のニュースパーク(日本新聞博物館)で開催したまわしよみ新聞ワークショップ(株式会社ピクニックルーム共催)

北原:私たちは横浜北部でローカルメディアとして活動しているので、まわしよみ新聞をおこなう際には、神奈川新聞を必ず入れていたんですが、やっぱりローカル面が多いと、見たことのあるものや知ってるものが発見できるというのも地方紙ならではの面白さだなと思いました。

 

陸奥:自衛隊の新聞とか木材新聞とか、業界新聞はやっぱり面白かったですね。交通新聞は、タクシー運転手の平均年齢が高いので、高齢者問題についても載ってるなとか。みんなの場づくりによって、いろんな方法論を編み出してくれたらいい。カスタマイズしてほしいってことなんですね。

 

 

ローカルメディアの可能性

北原:これからの時代、私たちは新聞をどう捉えてどう付き合っていくといいのか、陸奥さんはどう考えていらっしゃいますか。

 

陸奥:あんまり全国紙っていうのは成り立たなくなっていくんじゃないかなとは思っていますね。中央集権的な新聞よりも、僕がある意味可能性を感じて注目しているのは地方新聞。地域の顔が見えて、記者さんと人間関係ができている、そういうメディアは強いだろうなと思っています。

 

北原:実際大手3紙の購読者数の激減ぶりに比べて、地方紙のほうは減少のカーブがそこまでではないですもんね。森ノオトも市民ライターを育成していく中で、自分を主語に語ることで記者の顔・心・温度感が見える、さらに近いから行ったら会える、そんなメディアにしていきたいなと思っています。顔見知りが増えることって、人によっては居心地悪い場合もあるかもしれないけれど、それが安心感や温かさ、生きやすさにつながるだろうなと。

「全国まわしよみ新聞サミット」では、参加者から「若者にとってはむしろ新聞がニューメディア」との言葉も

陸奥:地方新聞だと新しいお店ができました、というようなニュースもちゃんと取材に来てくれて、自分が取り上げられることもある。敷居が低いということですよね。

 

北海道の別海町というところで、「新聞を読む日」があるんですよ。町内の全小中学生に、自治体が地方新聞を買うんです。そのときにまわしよみ新聞をやってるんですよ。終わった後の新聞を家に持って帰って、お父さんお母さんも読んでねと。健全な自治体は、インフラとしてそういうことも仕掛けていくと思います。

 

地方の販売店も面白いですよね。一軒一軒の家に毎日新聞を届けるシステムを活かして御用聞きになっているんですよね。おじいちゃんおばあちゃんから「あれが欲しい」「あれがない」と要望を聞いて、新聞と一緒に届けている。出張の福祉的な役割もぜんぶ合体しているようなスーパー販売店があるんですよね。地方に行けば行くほど新聞が果たしてる役割って多義的で、いろんな可能性を秘めてるなあと。

 

北原:私は新聞に折り込みで入っているタウン紙の出身なんですが、同じ地域の新聞販売店はすごく面白いところで。このまま同じことやってたらダメだと、Amazonやヤクルト、回覧板の配達もしてくれるし、見守りや認知症サポーターもやって、まちのインフラになっているんです。そこが出しているフリーペーパーの新聞を、今度月に一回分森ノオトで作ることになって。私たちはウェブだけで発信してきましたが、これからの時代あえてやっぱり紙だよなと、原点回帰のつもりでいます。

 

島原:販売店さんもそうですけど、私たちローカルメディアも地域を網の目のように見守る役割だなと思います。

森ノオトはウェブメディアではあるが、紙媒体にもこだわり、これまでにさまざまな冊子やチラシをデザインしてきた(写真:梶田亜由美)

特性の違うメディアを活用して補完し合う

北原:情報の交通量がものすごく多い中、猛スピードの無免許運転状態でスマホデビューしていく子どもたちの状況を見て、すごく危機意識を抱いています。ただネガティブなことばかりでもなく、子どもってスマホを上手に使ってクリエイティブに絵を描いたり、動画を作ったり、可能性に満ちあふれた媒体でもあるなと思っています。

 

子どもたちはどういうふうにメディアと付き合っていったらいいのか、大人はそれをどう見守っていったらいいのかということについて、陸奥さんから何かヒントをいただけるとありがたいです。

森ノオトでは親子のメディアリテラシー啓発のための提案として、「子どもがスマホを持つ前に」という動画を作成 ▷https://www.youtube.com/watch?v=d_TawRI6mgE

陸奥:テレビは臨場感があるし、ラジオはパーソナリティとリスナーとの親密性、スマホは検索性に優れているし、それぞれメディアの特性みたいなものがありますよね。

 

新聞の場合は総覧性に優れていて、キーワードを獲得していくということにいちばん適しているんじゃないかなと思うんです。何が載っているかわからないというのが新聞の面白さで、福袋型メディアって言ってるんですけど、若い人にはガチャって言ったほうがわかりやすいかもしれないですね。

 

インターネットはまず検索窓からスタートするわけですが、検索するワードの語彙を獲得しないと、情報化社会をサバイブできないんです。ネットは深掘りするメディアで、新聞は横滑りするメディア、いろんなことを鳥瞰していくためのものだと思っています。双方を使って補完し合うことで、情報を駆使する人になれるんじゃないかなと。

 

北原:語彙を獲得していくという視点は素晴らしいですね。

 

 

リアルな場も“メディア”

齊藤:デジタルでの発信だとしても、メディアをコミュニケーションに使ってほしいなと思うんですが、その辺りは可能性としてどのように感じていらっしゃいますか。

 

陸奥:ネットの特性の一つが、やっぱり匿名性なんですよね。顔が見えない匿名の空間の中で言葉を交わすのは、どうしてもリスキーな部分がある。ウェブで書いている記事も年鑑やタブロイドみたいな形でアナログに落とすことができれば、まわし読み新聞的な顔が見える関係性の中での本当のコミュニケーションになるし、実際に記事を書いたライターさんもいればこれどういうことなんですかと質問もできるし、良いフィードバックが生まれるんじゃないかなと思います。

森ノオトの編集会議では、お互いの興味関心や普段感じていることをしっかりと語り合う

北原:森ノオトでは、編集会議のときに記事の感想をシェアする時間を設けて、ライターさんが取材の裏側を話すといったことをやっていますが、やってよかったな、また書きたいなと次につながっていますね。書き手と読み手の相互作用が生まれると。

 

陸奥:ZOOMなどを活用して顔を見ながらやり取りするような場なら、いい出会いの場にもなるんじゃないかなと思います。会員制とかサロン化するようなやり方もありますし。ただデジタルでできることは限られていますし、万能なメディアはないということだと思うんですよね。人と会うということもそうだし、それらを組み合わせていって、自分たちの届けたいもの、受け止めたいものが描けたら、面白いことになっていくんやないかなと思いますね。

 

北原:まさにリアルな場もメディアって言えるんだなと今お聞きして思いました。

 

陸奥:僕はリアルな場をずっとつくってきたので、それが一番おもしろいんじゃないかなと思っていますね。

 

島原:私たちのメディアリテラシー事業で、わざわざまわしよみ新聞をやる意味がクリアになりました。今の子どもたちが接しているメディアとの対極にある新聞を使うからこそ、気づきが得られるのだなと分かりました。

陸奥さんのインタビューはとても密度濃く充実した時間になった

現代では、ネットの検索性の恩恵を受けているからこそ、フィルターバブルにこもらないよう新聞を活用するメリットがあるのだなと改めて気付かされるインタビューでした。記事には入りきりませんでしたが、子どもたち個人個人の成績にとらわれず、協働作業することの大切さも強調されていた陸奥さん。情報からキーワードを身に付けていく力、人と対話する力が大事な今、まわしよみ新聞をますます活用し、その特性を参考にしながら、さまざまなメディアとの向き合い方も工夫していきたいと思います。

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この記事を書いた人
齊藤真菜ライター
アートやデザイン、まちづくり等に関する記事をフリーライターとして執筆する傍ら、西区・藤棚商店街で間借り本屋「Arcade Books」を営業。食や地域、デザイン、映画、植物等に関する本をセレクト・販売する。将来の目標は泊まれる本屋を開きながら自分のウェブメディアを運営すること。
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