触れ合うことで知る。お菓子からつながる地域の輪「あしたば工芸」
目移りするほど種類のあるお菓子たち。横浜市緑区内の限られた場所でしか売っていないクッキーを作っているのは、障害者地域活動支援センター「あしたば工芸」。施設長をされている小川美夏さんを訪ねました。

東急田園都市線・田奈駅から徒歩8分。恩田川沿いの道を歩いて行くと障害者地域活動支援センターあしたば工芸があります。ここでは横浜市より補助金を受けて、精神障害のある利用者さんがお菓子作りに取り組んでいます。

恩田川沿いの緑の窓枠が素敵な建物があしたば工芸。以前は緑区内数カ所で作業所を移して活動していました。現在は安全を重視したこの場所で、28名の利用者さんが活動中

私がこのお菓子に出会ったのは、緑区役所でした。クッキーやサブレ、ケーキなど幅広いラインナップのお菓子に目を奪われ、買ってみたら値段もリーズナブルでおいしくてすっかりファンになりました。「どんなところで作っているのだろう」「こだわりを知りたい!」と思い、あしたば工芸の施設長である小川さんにお話を伺いました。

 

作業所に入ると、ほんのり甘い香りが。この日は午後から包装作業をするようで「どの作業にする?」と利用者さんの役割を決めていました。いつもその日の利用者さんが話し合い担当を決めるようです。役割決めが終わり、調理場に案内してもらいました。そこには焼き立てのクッキーが勢揃い。

右がココナッツクッキー。サクサクとしたココナッツの食感がクセになる味です。左がコーヒークッキー。コーヒーのほろ苦い味が特徴的。クッキーは全部200円で発売中

ココナッツクッキーとコーヒークッキー。大きさは似ていますが形はさまざま。この形を作る担当も利用者さんの好みや得意に合わせて決めているそうです。

クッキーに使われている地元養蜂家さん手作りの「長津田ハチミツ」。あしたば工芸でも一瓶1000円で販売しています

材料には、地元の養蜂家さんのハチミツを加えたクッキーもあり、私が好きなオーツビスケットもその一つ。好きなことを伝えたら「このクッキーはね、少し手間がかかって利用者さんは作るのが大変なの」と小川さんは言います。改めて、作っていただけることに感謝したくなりました。

私のいちおし「オーツビスケット」。ザクザク食感の中に粗糖とハチミツの甘さが広がります。人気商品の一つなのだそう

期間限定で養蜂家さんのところでとれた梅を梅酢にし、それをジャムにした梅サブレとケーキがあります。この梅ジャムも利用者さんの手作り。梅酢につけた梅を取り出し、長時間煮詰めてジャムにします。

梅を酢に漬けて梅酢(写真左)と梅ジャム(写真右)に。梅サブレとケーキになります。なくなったら終わりの期間限定商品です。甘酸っぱい梅サブレは緑茶にも合います

あしたば工芸は、特定非営利活動法人あしたばの森により1988年に開設されました。当初はお菓子作りではなく、企業の請負作業をしていました。しかし、企業からのノルマが厳しく、開設当初から携わっていた小川さんは頭を抱えることも多かったと言います。バブル期が終わったのを境に、企業の仕事が減り始めました。一時は牛乳パックをリサイクルしたはがき作りも始めますが、なかなか軌道に乗らなかったそうです。

 

そんな中、緑区内のイベントで出店のお誘いを受けます。出店内容を悩んだ末、利用者さんの中にマドレーヌ作りが得意な方がいて、みんなでお菓子作りを挑戦したのが始まりでした。そのときに利用者さんが受け入れて作る姿をみて「やってみよう」と思ったそうです。そこで1993年にともしび生産振興協会(現在は解散)が行っていた専門指導員派遣事業を利用し講師を派遣してもらい、みんなでお菓子作りを学ぶことに。今あるお菓子はこのときに生まれたり、お菓子の本を参考にしながらできあがったと言います。

お菓子の包装作業をする小川さん。10月は地域のイベントにも出店するため、売れ筋を見ながらどのお菓子を作るか利用者さんとお話をし作業をしていました

最初はキッチンもなく、地区センターのキッチンを借りながら作り、緑区役所だけで販売をしていました。地域の方の紹介により、長津田地区センター、長津田地域ケアプラザ、横浜市営地下鉄・中山駅グリーンラインコンコースでの販売の場を広げていきました。

現在、田奈の作業所を使えるのも「地域の民生委員さんのおかげ」と小川さんは言います。2011年東日本大震災が起きたとき、あしたば工芸の利用者と職員は長津田駅前のビルの3階でお菓子作りをしていました。火を使う作業をしていなかったとはいえ、このビルには非常階段もなく、小川さんは恐怖に感じたそうです。「安全な場所を作業所にしたい!」という思いが強くなり、民生委員さんの紹介で今の場所に移ることができました。

お菓子作りをしている調理場。午前はお菓子作り、午後は包装作業を行っています。壁にはお菓子を焼く細かい温度設定と時間が貼ってありました。お菓子作りにはそれぞれ得意なことを担当します。計量、クッキーの形作り、絞り器を使うもの、ひとまとめにするもの(ドロップ形)など、担当が分かれています。

あしたば工芸の今後を伺うと小川さんは「継続」と言います。その言葉の意味をよく聞いてみると「補助金を受けて活動することを前向きに捉えない人もいる。それを強く感じたのが津久井やまゆり園事件。事件で耳にしたのは、障害者に対する世間の厳しい言葉でした。だからこそ、生の姿を見てほしい」と小川さんは言います。

 

あしたば工芸は利用者さんが直接販売をしています。「利用者さんのやっていることを見てほしい。お菓子作りも利用者さんは手間を惜しまないから」。その言葉を聞いて、私もこのお菓子と出会い、興味を持ったことはあしたば工芸さんのお菓子作りへの思いを受け取っていたのだなとうれしくなりました。

 

先日は販売担当の利用者さんが、いつも来てくれている常連さんのために、好みのお菓子を取り置きしていたそうです。すると常連さんが来てくれて、取っておいたお菓子を渡すと大変喜んでくれたそうです。その姿を見て小川さんは「認めてもらえたようでとてもうれしかった」とお話しされました。

 

認めてもらうことについて、障害児の子を持つ私も同じように感じることがありました。私の息子は昔から日産の車が好きでした。学校で日産の工場見学に行くことになり、当日は日産の服や帽子を身につけていきました。すると、日産の社員さんは大変喜んで下さり、車の前で記念に写真を撮ってくれました。社内の広報にその写真を載せてもらうことになったときは、ずっと好きだった息子の一途な思いが通じて、認められた気がしてとてもうれしかったことを思い出しました。

そのため小川さんの、障害がある方の側で見守るからこそ感じる思いを聞いた時に目頭が熱くなりました。

利用者さんのそのままの姿を受けとめながら、あしたば工芸の運営に力を注ぐ小川さん。マスクを外して素敵な笑顔を見せてくれました

直接見て触れて言葉を交わして、商品を買う。

ぜひあしたば工芸のたくさんあるお菓子の中からお気に入りを探してください。通販では得られない温もりがあるかもしれません。

Information

特定非営利活動法人あしたばの森

障害者地域活動支援センター あしたば工芸

住所:〒226-0027横浜市緑区長津田2-46-4 リバーサイドⅡ

Tel&fax:045-988-1080

 

(販売場所)

緑区役所 毎週木曜日 10:00~12:00

長津田地域ケアプラザ 毎週金曜日 10:30~12:00

長津田地区センター 第1・3水曜日10:00~12:00

横浜市営地下鉄・中山駅グリーンラインコンコース第2・4水曜日10:00~12:30

 

メール:ashitaba@chive.ocn.ne.jp

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この記事を書いた人
石﨑絵美ライター
滋賀県出身。夫の転勤をきっかけで横浜へ。食べることとボディメイクが趣味。無理なくできることを実践しながら、身体の変化を楽しんでいる。障害児二人の子育てに奮闘しながら成長中。神社参拝も好き。
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