東急田園都市線・田奈駅から徒歩8分。恩田川沿いの道を歩いて行くと障害者地域活動支援センターあしたば工芸があります。ここでは横浜市より補助金を受けて、精神障害のある利用者さんがお菓子作りに取り組んでいます。
私がこのお菓子に出会ったのは、緑区役所でした。クッキーやサブレ、ケーキなど幅広いラインナップのお菓子に目を奪われ、買ってみたら値段もリーズナブルでおいしくてすっかりファンになりました。「どんなところで作っているのだろう」「こだわりを知りたい!」と思い、あしたば工芸の施設長である小川さんにお話を伺いました。
作業所に入ると、ほんのり甘い香りが。この日は午後から包装作業をするようで「どの作業にする?」と利用者さんの役割を決めていました。いつもその日の利用者さんが話し合い担当を決めるようです。役割決めが終わり、調理場に案内してもらいました。そこには焼き立てのクッキーが勢揃い。
ココナッツクッキーとコーヒークッキー。大きさは似ていますが形はさまざま。この形を作る担当も利用者さんの好みや得意に合わせて決めているそうです。
材料には、地元の養蜂家さんのハチミツを加えたクッキーもあり、私が好きなオーツビスケットもその一つ。好きなことを伝えたら「このクッキーはね、少し手間がかかって利用者さんは作るのが大変なの」と小川さんは言います。改めて、作っていただけることに感謝したくなりました。
期間限定で養蜂家さんのところでとれた梅を梅酢にし、それをジャムにした梅サブレとケーキがあります。この梅ジャムも利用者さんの手作り。梅酢につけた梅を取り出し、長時間煮詰めてジャムにします。
あしたば工芸は、特定非営利活動法人あしたばの森により1988年に開設されました。当初はお菓子作りではなく、企業の請負作業をしていました。しかし、企業からのノルマが厳しく、開設当初から携わっていた小川さんは頭を抱えることも多かったと言います。バブル期が終わったのを境に、企業の仕事が減り始めました。一時は牛乳パックをリサイクルしたはがき作りも始めますが、なかなか軌道に乗らなかったそうです。
そんな中、緑区内のイベントで出店のお誘いを受けます。出店内容を悩んだ末、利用者さんの中にマドレーヌ作りが得意な方がいて、みんなでお菓子作りを挑戦したのが始まりでした。そのときに利用者さんが受け入れて作る姿をみて「やってみよう」と思ったそうです。そこで1993年にともしび生産振興協会(現在は解散)が行っていた専門指導員派遣事業を利用し講師を派遣してもらい、みんなでお菓子作りを学ぶことに。今あるお菓子はこのときに生まれたり、お菓子の本を参考にしながらできあがったと言います。
最初はキッチンもなく、地区センターのキッチンを借りながら作り、緑区役所だけで販売をしていました。地域の方の紹介により、長津田地区センター、長津田地域ケアプラザ、横浜市営地下鉄・中山駅グリーンラインコンコースでの販売の場を広げていきました。
現在、田奈の作業所を使えるのも「地域の民生委員さんのおかげ」と小川さんは言います。2011年東日本大震災が起きたとき、あしたば工芸の利用者と職員は長津田駅前のビルの3階でお菓子作りをしていました。火を使う作業をしていなかったとはいえ、このビルには非常階段もなく、小川さんは恐怖に感じたそうです。「安全な場所を作業所にしたい!」という思いが強くなり、民生委員さんの紹介で今の場所に移ることができました。
あしたば工芸の今後を伺うと小川さんは「継続」と言います。その言葉の意味をよく聞いてみると「補助金を受けて活動することを前向きに捉えない人もいる。それを強く感じたのが津久井やまゆり園事件。事件で耳にしたのは、障害者に対する世間の厳しい言葉でした。だからこそ、生の姿を見てほしい」と小川さんは言います。
あしたば工芸は利用者さんが直接販売をしています。「利用者さんのやっていることを見てほしい。お菓子作りも利用者さんは手間を惜しまないから」。その言葉を聞いて、私もこのお菓子と出会い、興味を持ったことはあしたば工芸さんのお菓子作りへの思いを受け取っていたのだなとうれしくなりました。
先日は販売担当の利用者さんが、いつも来てくれている常連さんのために、好みのお菓子を取り置きしていたそうです。すると常連さんが来てくれて、取っておいたお菓子を渡すと大変喜んでくれたそうです。その姿を見て小川さんは「認めてもらえたようでとてもうれしかった」とお話しされました。
認めてもらうことについて、障害児の子を持つ私も同じように感じることがありました。私の息子は昔から日産の車が好きでした。学校で日産の工場見学に行くことになり、当日は日産の服や帽子を身につけていきました。すると、日産の社員さんは大変喜んで下さり、車の前で記念に写真を撮ってくれました。社内の広報にその写真を載せてもらうことになったときは、ずっと好きだった息子の一途な思いが通じて、認められた気がしてとてもうれしかったことを思い出しました。
そのため小川さんの、障害がある方の側で見守るからこそ感じる思いを聞いた時に目頭が熱くなりました。
直接見て触れて言葉を交わして、商品を買う。
ぜひあしたば工芸のたくさんあるお菓子の中からお気に入りを探してください。通販では得られない温もりがあるかもしれません。
特定非営利活動法人あしたばの森
障害者地域活動支援センター あしたば工芸
住所:〒226-0027横浜市緑区長津田2-46-4 リバーサイドⅡ
Tel&fax:045-988-1080
(販売場所)
緑区役所 毎週木曜日 10:00~12:00
長津田地域ケアプラザ 毎週金曜日 10:30~12:00
長津田地区センター 第1・3水曜日10:00~12:00
横浜市営地下鉄・中山駅グリーンラインコンコース第2・4水曜日10:00~12:30
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