団地の本屋が向かう先。BOOK STAND 若葉台 三田修平さんを訪ねて
新しいまちの本屋として、2022年8月に横浜市旭区の若葉台団地内に誕生した「BOOK STAND 若葉台」。店主は、10年以上移動本屋「BOOK TRUCK」を営む三田修平さんです。団地の本屋がオープンして1年が過ぎたころ、三田さんにまちの本屋の今とこれからをお聞きしてきました。

東急田園都市線・青葉台駅あたりから十日市場方面に車を走らせ、20分ほど。1万3千人余りが暮らす、若葉台団地のショッピングタウンにBOOK STAND 若葉台はあります。敷地内にはスーパー、コンビニ、各種店舗のほか、保育園・幼稚園から小中学校、高校まであり、地区センターに郵便局、銀行、医療機関も備えて、ここで暮らしが成り立つ小さなまちのような規模感です。

1979年から入居開始した若葉台団地。まちづくりセンターもある

ショッピングタウンには、かつて有隣堂があり、その後は福家書店が入っていましたが、数年前に閉店して書店が姿を消したそうです。書店を求める声が住民から上がり、まちづくりセンターと住宅公社から声がかかったのが、車に本を載せて各地を移動する書店「BOOK TRUCK」の店主、三田さんでした。

緑がまぶしい2020年6月に森ノオトに来てくれたBOOK TRUCK

コロナ禍真っ最中の2020年、森ノオトにもBOOK TRUCKに来てもらったことがあります。水色のバンに絵本や暮らしの本、アートブックなどを積んだBOOK TRUCKは、楽しいことが制限された日々の中でワクワクを運んできてくれました。「どんな本なんだろう」と佇まいから惹かれるような本との出会い。普段の暮らしではなかなか接しないアートやカルチャーを感じられる、心が上向く本選びの時間でした。そんなBOOK TRUCKの三田さんが、駅遠の団地にお店を開くというのは、本屋閉店の知らせが相次ぐ中でのとびきりホットなニュースでした。

 

 

団地で本屋、難しいんじゃないですかね……。からの出発

2022年8月にBOOK STAND 若葉台はオープンするのですが、打診があった当初は現実的には考えていなかったと言います。「書店がなくなるということは、当然成り立たない理由があるんだなと。なかなか厳しそうだなというのが最初の印象です」と三田さん。ただ、少しずつ開店に向けて考え始めます。

 

「団地で本屋は無理っしょ、というのが普通だと思うんです。まちの本屋のあり方として、そこを掘っていく流れが今までなかった。ぼくが勤めていた渋谷、六本木みたいな都市部の本屋のかたちは模索されてきたけど、住宅地におけるまちの本屋の生き残り方は模索されるまでもなく消えていったのではと。そういう場だから成り立つ本屋としてできることがないかな……と考え始めると、やりがいがあるかもと思ったんです」

このロゴが目印。お店の外にも気になる古本が並ぶ

団地生まれの三田さんは、「きっかけがあれば、もっと本が好きになる人が増えるのかもしれない」という思いから大学卒業後に本屋の道に入ります。2012年に「もっとこういうのがあったらいいのに」と移動本屋を始めたように、住宅地の新しい本屋のかたちへのトライも、根本にあるものは変わっていないのだと言います。

本選びをよりよい時間にと、お店ではクラフトビールやコーヒーも提供している

まちの書店の新しいかたち

チェーン書店が撤退した団地での開店ですから、三田さんは新しい本屋のあり方を模索します。それでも、団地の方から求められるような普通のチェーン書店ができることを当たり前にやろうと頑張り過ぎたと、1年目を振り返って言います。例えば話題の新刊が発売日に店頭に並ぶこと。営業時間が長く、年中無休であること。「そういうのは、ある程度の商圏があって初めてできること。ぼくができる本屋のかたちと、求められる本屋のかたちにギャップがあるなあと、この1年、その難しさを感じていました。人の規模でいえば4〜5倍の商圏でないと難しいというのが体感ですね」

 

ただ、決して悲観しているわけではなく、「現状を正しく把握できたという意味で、ポジティブな1年だった」と言葉を続けます。

店内には子ども向けのコーナーからカウンターには雑誌も充実。週刊誌を買い求める高齢の方も多いのだそう

フルスペックの本屋ではなくても

旭区だけでなく緑区や青葉区など周辺地域の本好きの方たちに足を運んでもらう努力をしつつ、これからの方向性として、利幅の高い古本の割合を上げていくことを考えています。

 

「新刊の書店が団地に入るのは、奇跡のようなことだと自分でやってて思います。今までのようなフルスペックな本屋はおそろしくハードルが高いけれども、古本を中心にしたかたちであれば、本の買える場を限定的でも取り戻すことはできると思います。それも、わりとカジュアルに取り戻せると思いますよ。そこに今は可能性を感じています」。古本を活用しながら、BOOK STAND分店をつくっていきたいとも考えているそうです。

 

だれかが頑張りすぎないかたちで、と三田さんは言います。「誰かが無理をすると続けるのは難しいですから。みんなが頑張りすぎなくてもできる場をつくりたいです」

本棚には手を伸ばしたくなる本がいっぱい。店内には新刊本と古本とが混ざり合う

スマホであらゆるものが買える時代にあって、私の住むまちの書店は、マンションになり、100円ショップになり。本屋は当たり前には持続しないという光景を目の当たりにしてきました。

本と出会える場を私たちはどう維持していくのか。新刊本と古本とが同居する店内で、静かな、確信を突いていく三田さんの言葉を聞いて、新しいまちの本屋のかたちに思い巡らせています。

店内の本棚。「アートブックにもふれられる場であることも大事にしたい」と三田さん

本との心揺さぶられる出会いに、新刊も古書も、境界線はないのだろうと思います。大事なのは、未知のものに出会う場があること。BOOK TRUCKが私たちの日常を潤してくれたように、これからもいろんなまちで、本との出会いが生まれ続けますように。

Information

BOOK STAND 若葉台

横浜市旭区若葉台3-5-1

070-8532-3643

営業時間 10:00〜18:00(火曜定休)

https://x.com/BOOKSTANDWAKABA

https://www.instagram.com/bookstand_wakabadai/

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この記事を書いた人
梶田亜由美ライター
2016年から森ノオト事務局に加わり、AppliQuéの立ち上げに携わる。産休、育休を経て復帰し、森ノオトやAppliQuéの広報、編集業務を担当。富山出身の元新聞記者。素朴な自然と本のある場所が好き。一男一女の母。
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