地域で開く、「自主上映会」で感じた息吹。『原発をとめた裁判長 そして原発をとめる農家たち』に参加して
自主上映会は、良いと思った作品を地域の人と共有できる場になっています。今回私が参加した上映会は、原発と再生可能エネルギーをテーマにしていました。福島原発の事故から10年以上が経った今、状況はどのように動いているのか現場の声を聞きたくて、港北区新横浜で開かれた自主上映会とゲストを交えたディスカッションに参加しました。

自主上映会の主催は、横浜北生活クラブ平和環境委員会の大池玲奈さんと山崎秀さん、野瀬かおりさんです。参加費は無料で、2024年1月12日に新横浜駅近くのフリースペース「スペース・オルタ」で行われました。

上映会場のスペース・オルタ。音響も良く、過ごしやすい会場でした

2022年公開のこの映画は、2014年に関西電力大飯(おおい)原発(福井県)の運転停止命令を下した樋口英明元・福井地裁裁判長を追ったドキュメンタリーです。原発の耐震基準問題を指摘し、「大飯発電所3号機及び4号機の原子炉を運転してはならない」と結論付けました。その話と並行して福島での原発事故の後、福島の農家の人たちによって進められた再生可能エネルギー事業立ち上げの経緯を追っています。

上映会当日の会場参加者は130人を超えました。当初「30人くらいは集まるかな」と主催者側では話していたということで、驚くほどの関心が寄せられたということでした。

自主上映会宣伝用のチラシ

 

受付の様子。満席となり、当日来られた方の中にはパンフレットだけ買われた方や、能登半島地震の募金だけされた方もあったといい、多くの気持ちが寄せられているのを感じました

この映画は、小原浩靖監督が自身で取材から製作、そして広告を経て上映まで全て手掛けて、ナレーションも小原監督が行いました。クラウドファンディングで多くの方々に力強く支えられた面も大きかったそうです。

 

小原監督の映画製作における初挑戦は、他にもあります。映画のバリアフリー版を完成させたこと。かねてより作品を見た方から要望があり、映画に日本語字幕と音声ガイドを付けました。パンフレットの売上金や上映費を元に1年かけて実現したそうで、バリアフリー版の上映は今回が初めてでした。字幕のおかげで、聞き取りづらくて映画を見ることを諦めていた高齢者の方を中心に、口頭ではわかりにくい初めて出会う固有名詞、地名や名前などが分かり、より深い内容理解につながります。

パンフレットも小原監督が制作を手がけました。福島の農家の方々の笑顔も載っています。監督は「なんでこんなに笑顔になれるんだろう」と取材時思っていたそう。それも映画が完成する頃には、「前しか見ない。人は自然に希望という光の方に進み、希望を描いていく。描く希望に向けて努力するから」という解を得たと話します。準備された100部は完売でした

原発ゼロとともに再エネ推進の大切さを伝えたい、と自主上映会の主催者はおっしゃいます。

 

映画では、自分たちの地域のエネルギーを、自分たちの手で一から作りだす取り組みにも光を当てています。

福島で新たに動き出しているのが農地でのソーラーシェアリングの取り組みです。農地に太陽光パネルを建てながら、建てた土地で農業もしていくというエネルギー事業と農業を二刀流で行う事業運営です。

 

上映会のゲストとして、福島県二本松市から、映画のもう一人の主役でソーラーシェアリングに携わる農家の近藤恵さんも登壇しました。

土地とともに生きたいと再起に向かった近藤さんたちは今、太陽光パネルを建て、シャインマスカットを植えています。それを軸に常に何かみんなで楽しいことを計画したいと話します。その一つとして、ぶどうの木のサポーター募集を始めました。

近藤恵さんが企画したぶどうの木をサポートするSunshineサポーター募集のパンフレット。すでに定員の半数以上の応募があり、サポーターになると名付けられる木の名前も多種多様だそう。今後はサポーター限定イベントの企画も考えているそうです

自主上映会では、主催者が、映画上映のほかにディスカッション、講演会、展示や物産展などのイベントを組み合わせて行っています。今回はサプライズゲストとのディスカッションの場が設けられました。映画監督の小原浩靖さん、福島県二本松市の近藤恵さん、山形県遊佐町の開発で再エネ等を手がける池田恒紀さんを迎え実際の詳しい状況や感じていること、再エネの未来について伺いました。

 

「ソーラー発電事業に関してどう思いますか?」という近藤さんへの問いに対して「全ての業界において言えることだと思いますが、玉石混交の状況があると思います。そして、エネルギー問題も含めさまざまなことが過渡期だと感じる今、今までと同じことを継続するのか、それとも何か自分たちでやれることを清濁併せ呑みながらチャレンジしていくのかということだと思います。みんなで進んでいきたい」と語られました。あちこちで見かけるようになったソーラーパネルですが、運営主体はさまざまです。地元の人が関わっているかどうかも見てほしいそうです。

 

他に、原発をゼロにし再エネ事業を進めているドイツに視察に行ったばかりの池田さんのお話もありました。

質問をする前に10分ほど、周りの人と一緒に質問内容を考える時間も設けられました。「人と話すことで、自分が何を感じたかしっかり落とし込める時間があると、ディスカッションがより有意義な時間になると思って、話し合う機会を設けました」と主催者の一人、大池玲奈さん

上映会終了後、主催者の一人である山崎秀さんが読んでくれた手紙がありました。手紙は、福井地裁元裁判長の樋口英明さんから届いた今回の能登半島地震と原発に関わる内容でした。今回震源の一つとなった石川県珠洲(すず)市。その近くに過去に原発の建設計画があったということでした。28年間に及ぶ住民による根強い反対運動があり、その建設計画は2003年に白紙に戻っています。震源に近い石川県の志賀町での地震の揺れは震度7でした。そこにある志賀原発は今年、運転停止から再開に向けて動こうとしていた途中だったといいます。自然が何かを必死に伝えようとしているのではないでしょうかと樋口元裁判長は締めくくります。

今回の自主上映会では生活クラブのお野菜販売も行っていました

今回の上映会は、原発が自分の住む町に建てられていたら……という問いを私自身に投げかける機会となりました。

 

上映会後の懇親会では、ゲストの方と主催者で上映会を振り返りました。その中で、来て下さった方々の思いを受けとめ、次回上映やDVDの販路開拓の話し合いになるなど新たな企画へと向かう流れができました。足を運んで下さった地域の方々の小さな一歩一歩が、次の大きな流れを作っているようにも感じました。

小原監督が今取り組んでいる次回作、近藤恵さんが手がける再エネ事業の取り組み、池田恒紀さんの再エネ事業を含めた町開発の始動、樋口元裁判長や弁護士の方々の活動の広がりなど、更なるチャレンジを試みています。トライアンドエラーを繰り返す中で、偶然とも必然とも思えるようなタイミングでお互いが連携し活動する様子は、力強く吹くいくつもの風が扉を押し開けるようにもみえました。今、この作品は各地で相次いで自主上映されています。近く東京都内でも上映が予定され、広がりをみせています。

パンフレットに掲載されている主題歌「素速き戦士」の歌詞より一部抜粋(作詞:小原浩靖):夜明けの風よ 凍てつく風よ この闇を押しのけ 空を ひらけ ・・・ わたしの駆ける 光と風の 道を ひらけ ひらけ

Information

映画「原発をとめた裁判長 そして原発をとめる農家たち」

HP

https://saibancho-movie.com/index.html

上映会スケジュール

https://saibancho-movie.com/wp/#schedule

(各地で自主上映会開催中。2024年3月は東京都内での上映会も)

 

二本松営農ソーラー & Sunshine株式会社HP

https://re100sunshine.jp/

 

横浜北生活クラブ生活協同組合 公式ブログ

https://yokohamakita-sclub.blogspot.com/

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この記事を書いた人
田中ゆうきライター
横浜に越してきて、たくさんの緑に囲まれて過ごし、季節の移り変わりをいっそう感じるようになりました。わが子たちも、自然とともに育ちあっていてます。最近の興味は、キャンプ、食育、バトミントン、畑での野菜作りなど。家庭菜園も始めてみたいと思っています。
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