次の世代へつなぐため、地域を豊かにする場所に。
駄菓子の木村屋を訪れると、よくある駄菓子屋のつくりとは少し違います。ガラス扉の駄菓子屋を基点にたくさんのシェアスペースが。併設する飲食店との間にも中庭があって、なにやら興味深い空間です。ご両親が始めた駄菓子屋を木村さんが引き継いだ時、こう考えたそうです。「プラスにして息子の世代へ引き継ぐにはどうしたらよいか?自分たちだけがよければいいのではなく、地域の価値を豊かにするような場所にしていこう」と。そこで人が集える場所をたくさん取り入れた今の形に改装しました。シェアスペースでは、ミニ四駆大会や、台湾まつりなど、さまざまなイベントが開催されています。その原点となるのが、野菜マルシェだそうです。
「駄菓子屋で野菜マルシェ」のはじまり
木村さんが駄菓子屋を改装した頃、知り合ったばかりの小泉農園(川崎市宮前区)を訪れると、「自分の地域にはないものが、ここにはある」と同じ市内と思えない緑豊かな光景に感動して、何か一緒にやりたいと思ったそうです。普段、小泉農園が出荷しているセレサモス宮前店(JAが運営する農産物直売所)が水曜定休だと知り、休みと関係なく成長する野菜の受け皿になれればと、駄菓子屋での販売を検討。単に野菜を仕入れるのではなく、give and takeの関係でありたいと木村さんは思い、小泉農園のイベントを自ら一週間手伝い、一緒に汗を流したそうです。木村さんのこの行動で熱意とその人柄が伝わったのでしょう。そこから野菜の仕入れが始まり、6年たった今でもよい関係が継続しています。野菜はロスも含めてすべて仕入れるのが木村さん流です。
マルシェのもう一つの主役。マルシェガールズ
そんなマルシェを盛り上げている陰の立役者が通称「マルシェガールズ」のボランティアのお母さんたち。それぞれのきっかけで集まり、マルシェをはじめその他のイベントの運営や、駄菓子屋の店番まで行っています。私がここを通うようになったのは、新鮮野菜が買えることはもちろん、このマルシェガールズのみなさんの気さくなおしゃべりといきいきとした笑顔でした。初めて訪れたのが産後間もない頃だったので、声をかけてもらって本当にうれしかったのを思い出します。
ムードメーカーの種澤祥代さんは、お子さんが幼稚園の頃、とても内向的であったこともあり、自分がここに関わることでお子さんの世界も広がれば、と考えたそうです。そのうちお子さんも駄菓子屋さんを一緒に手伝うようになると、社交性や責任感も出てきて、駄菓子屋の身内の子、と思われるほどなじんでいったそうです。「この場所を通じて、いろいろな人に出会えたおかげで私も助けられたから、あなたにも声をかけたんだよ」。私を救ったさりげない声かけには、こんな思いがあったのでした。
働きものの工藤ひろみさんも、日中も一緒にいることが多い家族といつも同じ時間を過ごす中で、自分の気分転換になればと手伝い始めたそうです。「ここでは、言いたいことを言えるので気持ちもリフレッシュできます。そのおかげか帰って家族にも笑顔で接することができるので、みんなハッピーです」と笑顔で語ります。
一番落ち着いて見える大竹知美さんは、じつは一番新しいスタッフさん。友人の紹介で初めてここを訪れた時のことを語ってくれました。「マルシェガールズの皆さんがエネルギッシュに働く姿が本当に魅力的で、優しく声もかけてもらいました。家に帰ると、自分まで元気になっていることに気づきました」。それからここの仲間になりたいと、スタッフになったそうです。
そんなマルシェガールズの皆さんが口を揃えて言うのは、「ここは居心地の良い、自分の居場所です」。スタッフとして一緒に動くうちに、なんでも好きなことが言えて、子育ての情報交換もできるように。気づくと、いいこともつらいことも分かちあえる家族のような間柄になっていました。皆さんのこのチームワークの良さが、立ち寄りたくなる雰囲気をつくっているのだと思います。
町に居場所をつくるには?
再び木村さんのお話に戻すと、今興味があるのは「居場所づくり」。特に、自身と同じ50代男性が定年を迎えた後、町に居場所がない人が増えるのではないかと気になっているそうです。居場所をつくるには、「まずは自分が当事者になってみることが大切なんです」と木村さんは力説します。「スタッフ側になって、イベントやお祭りに参加すると、最初は大変でも充実感が得られて、一緒に汗を流した仲間もできる。そのつながりが町への愛着となり、自分の居場所ができていくのです」。
マルシェガールズの皆さんのお話ともぴたりとリンクしていました。木村さん自身も、この野菜マルシェがきっかけで、いろいろなイベントを行うようになり、仲間が増えていったそうです。そして今では、町に関わる人を増やすための取り組みを積極的に行っています。
駄菓子屋さんは子どもの笑顔が集まる場所。駄菓子の木村屋さんには、たくさんの大人の笑顔もありました。昔からの仲間のような息の合ったやりとりと、楽しそうな笑顔。町のために動くと、自分にも笑顔として返ってくる。そんな循環が広がっていけば、いつまでも活気のある町でいられるのだと思います。駄菓子の木村屋さんは町と人をつなぐ入口の場所でした。
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