田んぼと畑が居場所になる!通える里山コミュ二ティ「野良の暮らし」を訪ねて
横浜市青葉区寺家町で、1年を通じて自分たちの手で育てた大豆とお米で味噌造りをする「野良の暮らし」プロジェクト。そこは、味噌造りにとどまらない、だれもが自分のままでいられる居場所として、たくさんの人たちが通う場所。代表の井熊理恵さんと米川真代さんに、この活動を始めたきっかけを伺いました。(ライター養成講座2024修了レポート:中尾聡志)

野良の暮らしは、横浜市青葉区寺家町にある里のengawaの畑と田んぼの一部を借りて、2021年の3月から井熊理恵さんと米川真代さんが始めました。3月から翌年1月までの通年のプロジェクトで、メインの目的は味噌造り。その材料となる大豆を自分たちで畑で育て、さらに発酵に使う米麹のお米も田んぼで育てて、1年を通じて味噌造りをします。私は、2021年の最初の年から妻と当時1歳の娘と3人で参加しました。

「野良の暮らし」のメンバーの皆さん。この日は、これから田んぼに水を入れる前の下準備。なかなか重労働なのにみんなニコニコ楽しそう

今年(2024年)のメンバーは12組。一人で参加している人もいれば、家族で参加している人たちも多いです。活動日は毎週月曜日と金曜日。週に2日も畑仕事や田んぼ仕事があると思うと、なんて大変なプロジェクトだろうと思うかもしれませんが、井熊さんと米川さんの「野良の暮らし」は、いつ来ても、いつ帰ってもいい。そして、畑に来ても、農作業をしてくれてもいいし、しないで別のことをしていてもいい。守らなきゃいけないルールがほとんどない。とにかく、二人の参加者を受け入れる懐の広さにびっくり!私も小さな娘を抱っこして、みんなが農作業をしている姿を見ているだけの時もあって、そしてみんなでそれぞれが持ってきたお弁当を食べて、またみんなが畑にじゃがいもを植えているところに娘がかけよって、手伝ってるんだか、邪魔をしてるんだか。でも、井熊さんや米川さんは娘が何をしても笑顔で受け入れてくれて、他の参加者も一緒に笑って、みんなで見守ってくれる。野良の暮らしのその懐の広さに感動し、家族が一人増えた今も4人で参加し続けています。お二人はどんなきっかけがあって野良の暮らしを始めたのか聞いてみました。

6月の田んぼ。みんなで植えた苗が土に根付いて元気に伸び出している

(井熊さん)「ずっと自然の中に身を置いた暮らしをしてみたいと思っていました。ある時『お米を作る会』というのを知り、そこでは農家ではない普通の人たちが週末だけ田んぼに通ってお米を作ってると聞いて。えー!って、お米って作れるんだ!ってもうびっくりして。すぐに申し込んで私もその会に参加することにしたんです。1年の研修を受けたあと、家の近くで借りられる畑と田んぼをネットで探していた時に、今お借りしているアレックス農園を見つけました」。

研修といっても、メンバーが持っている田んぼに週末遊びに行ってみんなでおしゃべりしながら作業して、ご飯を食べるというサークル活動みたいだったと井熊さんは言います。私が今、野良の暮らしで感じている居心地の良さに通じているなとお聞きしていて思いました。

 

アレックス農園がどんなところか見学に行く時に、同じく「お米を作る会」に同期で参加していた米川さんを誘ったそうです。

 

(米川さん)「私も理恵さんと同じで、自然の中に身を置きながら、無駄のないシンプルな暮らしがしたいなと思っていました。でもどうすればそれが叶うのか分からなかった。モヤモヤしながらOLをしていた時に体調を崩して。食の大切さも切実に感じました。とにかく好きなことを何でもやってみようと思ってボーカルレッスンに通うようになって。そこである時『自然が好きなんです。土に触れたい』って先生に話したら、田んぼやってる生徒さんがいると教えてもらって。その方から『お米を作る会』を紹介してもらいました」

たわわに実った稲穂

 

地元の方から譲り受けた足踏み脱穀機。みんなで手間暇かけてする野良仕事がとても楽しい

実際に田んぼを自分でやってみて「お米ってこんなに獲れるんだ!」とその収穫の量にびっくりしたそうです。しかも、大きな機械も使わずに人力で。自分が食べるものを自分で作る、それをみんなで分かち合うことがとても楽しいとのこと。米川さんも研修が終わり、自分の田んぼをやろうと思ってた時に井熊さんに声をかけてもらいアレックス農園を二人で訪れました。

 

オーナーのアレックスに相談したところ、3人でお米も作って、大豆も作って味噌を造ってみようということになり、1年を通じてやってみたところそれがすごく楽しかった。そして、この楽しい味噌造りをぜひいろんな人にもシェアしたい。この喜びをもっとたくさんの人と分かち合いながらみんなで「暮らし」を作れることがしたい。そんな思いから始まったのが「野良の暮らし」です。コミュニティを維持するために大切にしていることをお二人に聞いてみました。

お正月はみんなで餅つき

(井熊さん)「そもそもコミュニティにするなんて思ってなかったし、先生になるつもりもなかったし、ただただ楽しいからやろうよ!っていう気持ちだけで。7人ぐらい来てくれたらいいかなと思っていたら、20人も申し込みがあってびっくり!スタートの1回目はまよちゃん(米川さん)と1日のプログラムとかしっかり決めて臨んだんだけど、もう二人ともヘトヘトに疲れちゃって!これは無理だ!って二人で話して。それからもうプログラムとかなしで、その日その日にできることを来てくれた人とマイベースにやっていくスタイルにしました。やっぱり楽しいを大切にしたいから」

 

私も3年間通っていて、二人から何かを無理にお願いされたり、義務やプレッシャーを感じたことが一度もないことに気づきました。なので、メンバーの人たちもみんな思い思いに過ごしていて、それがまたとても楽しいんですね。例えば、お昼に来て、みんなでお弁当を食べてそのまま畑仕事せずに帰っちゃう人や、畑に来て毎回とてもおいしい珈琲を入れてくれる人がいたりとか(この方は、2023年に本当にカフェを始めてしまいました!)。とにかく野良の暮らしは、誰もが好きなように、居たいように居られる。これこそが「暮らし」の本質なんだなと思いました。

みんなで山から採った山菜をその場で天ぷらに。思いついたら即行動!

でも、そんな野良の暮らしも、2年目の2022年はとても苦労したそうです。

 

(米川さん)「縁あって本当にすごく魅力的な人たちが集まってくれて、そんなタイミングで空き家があるから野良の暮らしのみんなで使ってみないか?とアレックスから提案がありました。これも流れだし乗ってみようと思い、みんなで空き家の改修をしたり、そこでそれぞれの特技を活かしてイベントを開くなどのアイデアがたくさん生まれたんです。でも、そもそもの畑や田んぼの作業がおざなりになってきて。軸がブレてしまったんですね。何を大事にしてるのか途中で分からなくなってしまって」

 

そこで、改めて私たちの活動の軸は「田んぼと畑だ」と思い直し、進めていた空き家のプロジェクトは一旦すべて手放したそうです。

 

(井熊さん)「とにかく私は田んぼをみんなとシェアしたいんだってことを思い出して。田んぼに水を入れると命がワー!っと動き出すのが大好きで。かえるが鳴き出して、カモやサギやたくさんの虫がやってきて。田んぼが命であふれかえる。そんな田んぼの姿に私は何度も元気をもらって癒やされてきました」

 

二人が楽しむ田んぼの景色は、そのまま野良の暮らしの景色と重なります。いろんな人たちがいて、いろんな役割があって、みんなが自由に居たいように居られる場所。米川さんは「“違い”が愛おしい」と言います。そんな二人の眼差しの中で、野良の暮らしに通うメンバーは、気を使わず、誰に合わせるでもなく、自分のままで居られるこの場所を心地よく思い、みんな毎週の活動日に生き生きとやってくるのでしょう。

11月、お米の収穫を祝ってみんなで収穫祭

取材の日に参加していたメンバーの方にも「野良の暮らしの魅力」についてお聞きしました」

 

「みんなに会いに来てるんだなってやっぱり思いますね。疲れてる時こそ、素のままになれる野良に行きたいなって。目的も出会った経緯もみんな違うけど、根本のところでつながってるなって感じます」。

 

「何かを生み出そうとしてないところが好きですね。知識がある人もない人もまったくその差を感じずに気持ちよくいられる場所です。あといろいろ実験できるのがいい。二人がなんでも『やろうやろう!』って言ってくれる」。

 

(米川さん)「畑や田んぼで土いじりして、ふと一息ついて空を見上げると、遠くで鳴っている鳥のさえずりが聞こえたり、草花の香りが風に乗ってやってきたのが感じられたり。自分が空っぽになったようにも感じるけど、そんな時ほど、自分の気持ちが素直に感じられたりもするんですよね」

 

人は、素の自分になれる時に癒やしを感じるのだなと思いました。井熊さんが「田んぼに癒やされる」と話されたこととも重なります。素のままの自然に癒やされ、素のままの人に癒やされる。ふと気づけばすぐそこにある命の循環が巡りながら、自然を人を一つにつなげてくれているように感じられました。

 

また、先に目的や目標があるのではなく、集まった人たちがただその人それぞれの個性のままいる。そして出会って、語り合って、そこで生まれてくるものを大切にしている。「野良の暮らし」の皆さんが、いつも生き生きしているのは、常にその日、その瞬間の新しさに心を開いているからなのだろうと思いました。

 

「野良の暮らし」が作り出してるもの。時間や義務に縛られがちな今の生活では得られない何かを求めて、田舎に憧れる人も多い中、移住はできなくても、都会に住みながらでも暮らしの中に「自然と人がひとつながりの昔ながらの営みと喜び」を作り出せることを教えてくれました。人と自然の優しさにふれられる「野良の暮らし」の思いがもっとたくさんの人に届くことを願っています。

Information

住所:横浜市青葉区寺家町522

Mail:norano.engawa@gmail.com

URL:https://satonoengawa.com/noranokurashi

作業日:毎週の月曜日と金曜日(祭日除く)

3月~1月(11カ月) 全88回

時間 9:30~17:00頃を予定

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この記事を書いた人
中尾聡志ライター
『寄生獣』という漫画が好き。インタビューの講座に参加し、人の話を聞くことの難しさと面白さを知る。子どもの頃はゲーム少年。プログラマーから対話とワークショップの世界へ。趣味はマラソン、ピアノ、カラオケ。筆ペンで絵を描きます。ファシリテーター。傾聴講師。埼玉生まれ。2女の父。
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