ソーラーシステムはどんな仕組み？

今回ソーラーパネルが設置されたのは、管理組合事務所を兼ねている第2集会所の屋根です。ここで作られた電気は第1・第2集会所の電源として使用されます。また、PCSをとおして蓄電池やV2Hに貯められる仕組みです。ソーラーパネルは、1枚あたり415kW/hの発電で、直流で18枚のパネルがつながっています。

※１Power Conditioning System電力を調整する機器

※２Vehicle to Homeの略で、EV車へ充電とEV車からの放電ができる仕組み

平時は集会所の電源の一部に使用され、停電時は蓄電池とV2Hが自動運転に切り替わり電気を供給する仕組みになっています。停電時は10kw/h、少なくとも一晩は集会所を使えるくらいの発電量です（資料提供；町田市民電力株式会社）

 乾電池を並べて使うのと同じように、パネルのうち1枚でも日当たりが悪いと全体に影響する仕組みのため、パネル全てによく日が当たるよう設置する必要があります。

屋上にアンカーを打つと大規模修繕の際に外す手間がかかるため、風力計算をして飛ばない重さの重りを置いて固定している

共用部に置かれたV2H。V2Hを使って車の充電をすることはもちろん、逆にEV車を動く蓄電池として使用することもできる

ソーラーシステム設置までの道のり

2023年度の管理組合理事長と理事に、ソーラー電源が実際に使用されている集会所でお話を伺いました。

（村上）鶴川6丁目団地の概要について教えてください。

（管理組合）780戸・30棟で、棟によって間取りや戸数が異なります。管理体制は、棟は棟の住民の管理物、その他の共用部は780戸の全体で自主管理をしています。しかし実際は棟ごとの管理は難しく、すべて管理組合全体で行っています。

6丁目団地は植栽や出納関係も含めて完全自主管理を行う全国でも珍しい団地

（村上）これまで管理組合では、ソーラーパネル設置以外にもいろんな取り組みをされてきたと伺いました。どのようなことをされてきたのか教えてください。

（管理組合）団地の建物は築50年を超え、これまで建て替えについて10年ほど議論してきましたが、建て替えをすると1住戸当たり1000～2000万円ほどの費用負担になることが分かりました。2000年ごろに、建て替えではなく、少なくとも100年は住み続けられるような団地を目指す方向へとシフトしました。

まずは、2014年に経産省の補助金を得てサッシの改修工事を実施しました。また、2019年・2020年の大規模修繕工事の際、耐震改修工事、北側の壁に外断熱改修工事を実施しました。

耐震改修工事については、市町村の補助金（町田市1/4、東京都1/4、国1/2）を使用し、借り入れはありましたが、東京都が利子を補填する制度を利用できたので住民負担はなく、通常の修繕積立金の範囲で行うことができました。

その他にも、共用部に防災マンホールトイレ設置や、集会所の一部を和室から洋室に改修するなどの工事を行ってきました。

鶴川6丁目団地の敷地に設置された防災マンホールトイレ

（村上）今回のソーラーパネル設置の経緯を教えてください。

（管理組合）東日本大震災の計画停電の際に、鶴川6丁目団地では夜は真っ暗、避難も難しいという状況でした。そのころから対策を考えており、今回はその延長です。

元々、全ての住戸の電気を賄おうとは考えていません。非常時に集会所で電気が使えれば、住民が涼んだり、暖を取ったり、携帯電話の充電もできると考えました。

また、設置にあたり助成金も利用できたのは、導入の大きな推進力になりました。資金の半分が助成金ということと、管理組合が管理している棟に設置することから総会の議案に反対はでませんでした。

あと、各住棟の屋上に設置することも検討しました。構造計算（管理組合理事に建築士がいる）をしようとしたのですが、設計資料が残っておらず、スラブ（天井）厚も11cmで薄いことから、安全性に不安がある中での設置は断念しました。集会所は上に人が乗ってもいいように作られていたため設置可能と判断しました。

（村上）V2Hを利用した車の充電に関しては、どのようにお考えでしょうか？

（管理組合）今のところV2Hは、平時に住民の車の充電をすることは考えていません。団地の中に電気自動車が増えてきたら検討しようと思っていますが、現在の状況では、充電を有料化するシステム構築の方が予算的にもマイナスになると判断しています。

というのも、今回使用した東京都の助成金ではV2Hの設置は必須でした。現在のV2Hは6kwの出力で、急速充電（出力50kw）に対応しておらず、例えば、日産のリーフだと今の出力では満充電に真夏の昼間の太陽光で10時間かかってしまうのです。

ただ、管理組合で電気自動車があれば、それ自体が蓄電池になるし、商店街が無くなった時に商業施設や医療機関などへの送迎で使うようになるかもしれません。今後、電気自動車の導入は検討の余地はあるかと思います。

当日は町田市民電力株式会社の入澤滋さんが、実際にレンタカーを借りてきてV2Hを使って充電するところを見せてくださいました

（村上）ソーラーパネルを設置した感想と、設置のポイントについて教えてください。

（管理組合）まだ設置後間もない（2カ月弱）ので、どのくらい電気代が安くなったか未検証ではありますが、集会所の電気は現在月に1万円くらいで、そのくらいは賄えると考えています。

今回は補助金があったので、7年くらいで回収ができる見込みですが、設置のコストを電気代で回収しようと思ってるわけではありません。もしかしたら、商業電源を買った方が安いかもしれません。今回は災害時の電力を目的として設置しました。何が目的で設置するのかを十分に議論して明確にしないと、実現は難しいかもしれません。

今回の助成金では、売電が不可なので検討はしませんでしたが、近くの企業などに電気を売れれば、収益があるので、また話は変わってくると思います。ただし、売電するには新たな設備が必要になることもあるようです。

今回は集会所の上にソーラーパネル、その近くの共用部にＶ2Ｈの設置できる場所がありました。新たな場所を作ってから設置したらとても大変だったと思います。

——今回の見学会を企画した町田市民電力の入澤さんに、今回のプロジェクトについてお話をうかがいました。

（入澤さん）マンション管理組合から設置の相談があるのですが、マンション全ての電力をソーラーで賄えると思っているところが多いようです。全てを賄えないなら設置はやめるという、0か100かで判断をされることが多く、とても残念に思っています。

今回の６丁目団地は、コンセント一つひとつに対して、これはソーラーで賄えるか？というように段階的に設置の検討ができたので、実現にこぎつけられたのではないかと考えています。

今回のプロジェクト全体像

今回のプロジェクトは、上の図のように、コンサルタントとして地元の町田市民電力株式会社やまちだ自然エネルギー協議会と連携し、団地の管理組合が主体となって行われたのが特徴的です（資料提供；町田市民電力株式会社）

最後に管理組合の理事長さんの次のようなお話がとても素敵でしたので、共有したいと思います。

「当初から住んでいる人たちの高年齢化が進み、一時期は子どもの声があまり聞こえない状況でした。しかし、最近では次の世代が徐々に入ってきて、子どもの声が聞こえるようになってきました。

古いままでなく、快適に生活できるように改修、維持管理をしていくと若い世代に『入居してもいいのかな』と思ってもらえるのではないだろうかと思います。例えば、集会所を和室から洋室に改修し、住民が無料で使用できるように変更したり、ペットが飼えるように規約を変えたり。

ハードだけでなく、ソフトの希望もすくい上げて、住んでいる人が気持ちよく挨拶する、そんな人間関係ができるような住環境にしていきたいと思っています」。

ソーラー発電が導入されているマンションや団地はまだ少数です。地震や台風、洪水など自然災害が発生した時に、あんしんできるような設備が増えていく一助になればいいなと思い文章に起こすことにしました。

ちなみに私は千葉に住んでおり、5年前に台風の被害で5日間の停電を経験しました。その中でも一番苦労したのが、最新情報を得ることです。停電により携帯電話の基地局の電源が非常用に切り替わったことによって電波が入りづらくなり、携帯電話の電池の消耗が激しくなりました。残暑の中の被災で、暑さや停電がいつまでなのかの見通しがたたないのが不安でした。モバイルバッテリーの電池もすぐなくなってしまい、携帯電話の充電が非常に大事だと痛感しました。今回取材をして、あの時にソーラーパネルがあればよかったのだと思い慌てて購入しました。