「花の力」を信じ、子どもたちに「花を愛でる⼒」を育むために―美しが丘⻄の花農家関⼾花園の取り組み
緑の葉に囲まれてスンッと⽴つ鮮やかな⾊のシクラメンを⾒かけると、冬の訪れを感じます。⻘葉区美しが丘⻄にある関⼾花園さんは、シクラメンをはじめとするお花を⽣産するほか、近隣の美しが丘⻄⼩学校の⼦どもたちとお花を通した交流を続けています。花農家のあゆみと地域とのつながりについて、関戸花園で花きを担当している関戸裕一さんにインタビューをしました。

※この記事は、青葉区の花・緑・農の魅力を発信し、2027年国際園芸博覧会(GREEN×EXPO 2027)と区民をつなぐ、横浜市青葉区の取り組み『あおばGREEN DAY』の一環でお届けしています。

 

⻘葉区美しが丘⻄の穏やかな丘陵地に、お花を栽培するビニールハウスが6棟と、ぶどうや梨などを⽣産する果樹園が広がります。関⼾裕⼀さんは、この地で農業を営む関⼾家の16代⽬。果樹栽培を⾏っている弟の健司さんと共に、花・畑担当として農業を営んできました。園地にあるおよそ480坪のハウスでは、シクラメンのほか、パンジー、ビオラ、葉ぼたん、⾦⿂草などを栽培し、花き市場や農協の直売所に出荷しているほか、農園の敷地内でシクラメン、⼿作りリースや野菜の苗も直売しています。

⽣花を使った可愛いらしいリースが並ぶ農園の直売所(写真提供:関戸花園)

シクラメンの品質向上と栽培の難しさ

関⼾家がシクラメンの栽培を始めたのは、1967 年(昭和42年)ごろのこと。関戸さんのお⽗様が、 シクラメン栽培の先駆者の農業者へ出向いて勉強し、温室を建てたのが始まりでした。家のお⼿伝いを⼦どものころから重ねるうちに「⾃然に、⾃分もやってみよう」と思うようになったと関戸さん。「⼤学は農学部で花を専攻し、卒論はシクラメンに関すること」とお花の道へ⼀直線に進みました。⼤学を卒業してから、1 年間シクラメン農家に住み込みで研修を受けた後、関⼾花園でシクラメンの栽培を始めました。

出荷前のシクラメンがビニールハウスいっぱいに並ぶ⾵景は圧巻(写真提供:関戸花園)

シクラメン栽培について関戸さんは、「農協に私も所属する『花き部』というのがあって、若いころは仲間同⼠で講師を呼んでシクラメン栽培の勉強をしたり、シクラメン栽培の先進地に視察に⾏ったりしましたね。その結果、技術が向上して県や市で⾏われる品評会にも横浜北部の若い花農家が上位に⼊るようになりました」と語ります。

 

こうして関⼾花園の質の⾼いシクラメン栽培が⾏われてきましたが、今年の栽培について話が及ぶと「アザミウマと呼ばれる害⾍がなかなか駆除しきれず被害に遭いました。加えて今年の夏は暑く、ダメになってしまったものもあります」と声を落とします。

 

害⾍を駆除するために照明を使った新しい技術を取り⼊れたり、網を張るなどの対策を続けているそうですが、「温室は温度管理が⼤変。エアコンを導⼊して冷房を⼊れている棟もあります。燃料費や肥料は値上がりし、倍近くなっています」と花農家としての悩みも語ります。

シクラメンだけで20種類くらい栽培しています。株の中⼼に陽があたるように葉を広げ、元に戻らないようにプラスチックの輪でおさえる作業は一つひとつ⼿作業で⾏います。11⽉に植えて、出荷は翌年の11⽉下旬から12⽉とのこと

東⽇本⼤震災で感じた「花の⼒」

花農家としてお花の道を歩んできた関戸さんが「花の⼒」を⼀番感じたのは、2011年3月に発生した東⽇本⼤震災の時でした。

 

「震災から3カ⽉後の6⽉末、被災された方に花を寄付するために横浜市内の花の⽣産者有志で仙台市へ向かいました。われわれ⽣産者が作っている花の苗を4トントラック2台に載せたほか、津波の影響で資材もないため、業者など⾊々な⼈の協⼒で手に入れた培養⼟、プランターなども積んで、⼈はワンボックスに乗りこみ出発しました。仮設住宅を何カ所か回って『皆さんで植えましょう』と声をかけました」

 

その後、10月に同じ場所へ 訪れてみると、花を植えた仮設住宅の雰囲気が、華やかに明るくなっていたと関戸さんは話します。

 

「震災が起きると、⾐⾷住が優先で、それ以外の飾りなんかどうでもいいっていう風に思われがちだけど、彩りがある花が、⼈の⼼を変えると思ったのは確かですね」。被災地での活動はその後、3年続いたそうです。

被災地に持ち寄った草花は、花苗300ケース(6000ポット)。仮設住宅で暮らす⼈たちがヒマワリを持ってニコニコしていたのが印象的だったそう(写真提供:関戸花園)

「愛でる⼒」を育むために―美しが丘⻄⼩学校の⼦どもたちとの交流

こうした、人の心持ち・心を変える「花を『愛でる力』は、若いうちから育てて欲しい」と話す関戸さん。そんな思いもあり、近隣にある小学校との交流を続けています。

 

関戸花園からほど近い横浜市⽴美しが丘⻄⼩学校は、関戸さんのお⽗様が開校準備委員会委員⻑となり、地域の⽅たちの要望により 2013年に開校した⼩学校です。関⼾花園は、開校当初から⼊学式や卒業式の際に校舎を彩るお花を提供してきました。

 

「10ケース200鉢前後お渡ししています。冬に市場に出せなかったパンジーやシクラメンをプランターの⼟に植えておくと、春頃に元気になるので、飾ってもらえるといいなと思って始めたのがきっかけです」

 

また、3年⽣が「農家の仕事」について学ぶ社会科の授業で、11⽉下旬に関⼾花園へ⾒学に⾏くことも恒例⾏事です。授業では、花を育てているシクラメンの種まき、⼟づくり、温度の管理など、花農家の大変さや、やりがいなどを直接学ぶことができ、児童にとって貴重な機会になっています。「⼦どもさんたちが僕のこと覚えていてくれて登下校時に、こんにちは!と声をかけてくれる」と関戸さんは微笑みながら話してくださいました。

関⼾花園前の通学路には、タイヤを使って植えた花々が並びます。捨てられているタイヤを活用しようと関戸さんが考案したもの

今年は5⽉に、授業で使う夏野菜の苗を学校に持っていったことをきっかけに、トマトやオクラ、キュウリの植え⽅を関戸さんが⼦どもたちに教えました。子どもたちには、野菜を自分たちで育ててみて、⾃然のままのすがたを知ってもらいたいという関戸さん。そこには、店頭に並んでいる、傷がなくきれいな見栄えの良い野菜たちを作るため、農家がさまざまな工夫をしていることを学んでほしいという思いがあります。

孫もキュウリは好きではないけれど、⾃分で⽔をやっていたら、⾷べた。やっぱりそういうことが⼤事だよねと関戸さん

横浜の花農家として、2027年国際園芸博覧会への思い

2027年、横浜市で国際園芸博覧会(GREEN×EXPO 2027)が開催されます。1859年の開港以降、横浜は⽇本の花き貿易の先進地として歩み続けてきました。この地で⻑く続く花農家として関戸さんは、「花を植える⼈が増えて、需要が多くなってくれば花農家業界全体が盛り上がるからね。それが正直な話、1番いいです。注⽬度も⾼いからね。ただ、変わったものだけじゃなくて、博覧会では一般的な草花もたくさん使ってもらいたい。一般的な草花も少しでも需要が増せば農家としてはいいと思う」と話します。

 

被災地での活動を行い、地元の小学校との交流を続けている関戸さんが話す「花の⼒」とは、⼈の⼼を豊かにし、⼈との関わり合いを⽣むものなのではないでしょうか。GREEN×EXPO 2027をきっかけに、横浜市で暮らす⼦どもや⼤⼈が、花の⼒を通して豊かな社会を醸成できたらと思いを巡らせました。

Information

関戸花園

横浜市青葉区美しが丘西2-41-9

Facebook:

https://www.facebook.com/sekidokaen/ 

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この記事を書いた人
松井ともこライター
神奈川県出身 ワークショップデザイナー。劇団の養成所を経て俳優のマネージメント、文化施設で事業企画運営などを行う。青葉区の子育て仲間と地域でアート活動(トトリネコ)を始めたところ、子育てとアートの関係に興味がわき、立教大学大学院にて研究中。二児の母。
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